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刃物あそび
 
 「からばさみ」はいけません!?
             


 都内の刃物屋で、「からばさみ」の語を耳にした。「唐鋏(とうばさみ)」の別の読み方というわけでもない。ネット検索でも限られた分野でわずかにヒットするだけである。日常生活では忘れられていた言葉をここに紹介。【2007.5】 


 浅草橋刃物。浅草橋駅のすぐ近く。巨大な鋏が目印である。うれしいことに、ステンレス・黒打ち両方のタイプの三つ葉ハサミも置いていた。店の歴史はこの地で80年ほどになるそうである。 


 都内の刃物屋でいろいろある鋏を物色しながら、そのうちの一つを手に取り、価格的にはステンレスではなく、鋼鍛造のクロムメッキと見て、念のために退屈そうにしていた若い店員さん(たぶん、跡継ぎであろう。)に聞いてみたが、困ったような表情をして答えられない。そこに80歳くらいになろうかと思われるじい様が店内巡回に来た。長きにわたり店を担ってきた年輪を感じさせる風貌である。質問はこのじい様が引き取って、クロムメッキであることが確認できた。ついでに、産地とメーカーを知りたくなって聞いたところ、関のオクダだという。やはり、刃物は年季の入った年寄りでないとダメである。どこの刃物屋でも、若い店員はまるで勉強していない。と、昔もいわれたりしたのであろうか。
 引き続き、すり合わせの感触を見極めるため、はさみの刃を空でパクパクさせてたところ、くだんのじい様がそれをみて、「からばさみはやめて!」と、悲痛な声を上げた。
 はて、「からばさみ」? 「唐鋏」ではないし、「空鋏(からばさみ)」かと、すぐにわかった。さらにじい様曰く。「空鋏がいちばんいけないんだ。刃を痛める。」ということであった。そして、小さな試し切り用の布きれを渡された。

 空鋏(からばさみ):物を切らずに、ただ鋏を動かし鳴らすこと。【広辞苑】 とある。
 実は刃物屋でこういわれたのは初めてであった。普通はそこまで神経質になっていないものと思われる。 あるは、高額の鋏の場合にだけ、付きっきりの監視体制で臨むのであろうか。

 帰宅して、空鋏を検索すると、次のような俳句が見られ、迷い、思案するときの行為として情緒ある単語として、この世界でしばしば登場していた。(以下は事例))

 ぶどう狩り迷えるときの空鋏

 盆梅を前に思案の空鋏

 松手入れときどき鳴らす空鋏

 よろしくない行為として使われていたのは1例だけで、ワン君の美容室のトリマーが掲示板で「あまり練習で空鋏すると切れなくなるので注意して下さい。」とアドバイスしていたのが唯一であった。理美容師の鋏は高額で数万円級は当たり前とされるが、お犬様でもいい鋏が使われているのであろうか。

 ところで、空鋏の問題は理屈では少々わかりにくい。切断するものが介在しないと両の刃が直接的に強く接触して、鋭さが失われてくるということであろうか。モノがあってもなくても接触自体に違いはないような気もするのだが・・・・・・よく分からないが、経験則の知恵は大切にしなきゃならない。

 じい様には伝統的な教育をしてもらったので、感謝の気持ちを込めて次の1点だけ購入させてもらった。

有限会社浅草橋刃物
東京都台東区浅草橋1丁目9-11
 


   着鋼鍛造でクロムメッキ仕上げである。かたちは種子鋏(たねばさみ))に似ている。 
   スリムな仕上げで、見かけよりもさらに軽く感じる。ひょっとして持ち手に軽い素材を使っているのだろうか。
    持ち手の部分は、こうした鋏には珍しく、梨地仕上げとなっている。○の中に OKU の文字の刻印があるが、岐阜県でこの製作所は確認できず、素性は不明である。 2,780円也。

【追記 2010.1】
たまたまネット通販でお世話になった以下の会社の商標であることがわかった。

株式会社 オクダ
   関の刃物屋さん
   MARUOKUネット
  岐阜県関市神明町2-3-1