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風流江戸小咄 その1 江戸小咄は,シンプルで間抜けなものが一番です。精選?18話。 |
1 |
【小便】 雪の夜中,小便つまりて目ざめ,起きて立ち出で,雨戸開けにかかったところ,凍りついて,いかなこと明かず。しかたなければ,敷居へかがんで小便をたれかけ,さて明けてみれば,氷とけて,がらりと明いたり。「よし」と言いて出でたところが,何も用なし。【明和九年刊「鹿の子餅」】 |
2 |
【粋】 「いきだね。」「いや,帰りだ。」 |
3 |
【疝気(せんき)】 疝気持遊びに行きしが,あまり冷えるから火鉢できん玉をあぶって居る。女郎見てみて「スカヤ疝気でありんすの」客「インニャする気きサ」 〔柱〕「スカヤ」は,好かない,嫌の遊里語。 |
4 |
【バカ貝売り】 行商人「バカァ,バカァ,バカはいかが」 客「おい,ばか,おい,ばか」 行商人「バカはどちらさま」 客「バカはおれだ,おれだ」 |
5 |
【だるま】 ダルマが銭湯に行き,ゆっくり暖まってから帰ろうとすると,番台から「湯銭をお忘れでは」の声。するとダルマ「ダルマにお足(銭アシ)があるものか」 |
6 |
【四本足】 「ああ,四本足結構,何でも食うよ。だが,コタツだけはいけないよ」「どうしてコタツだけ食えないんだ」「あれはアタル(中毒)もんだから」 【落語ネタより】 |
7 |
【葛西】 (女中たち,それぞれの出身地の話になり,)・・・・「おみわどのの在所は」「アイ私は」といひかねる。「ハテ,どこでござんす」「アイ,わたしは,尾篭(尾籠ビロウ)ながら葛西」 |
8 |
【大角力】 釈迦獄に仁王堂と来ては近年にない大角力。札を買っても入れないほどに木戸が混んでいる。仕方がないから、囲いの筵(むしろ)の隙間から入ろうとしたら、中で番をしていた男に「そこは入るところじゃごわせん」と追い出された。それで、今度はお尻の方から入ろうとしたら、「そこは出るところじゃごわせん」、中へ引っ張り込まれた。【鹿子餅】 |
9 |
【幽霊】 八五郎が昼飯を食べていると,お膳の向こうに三年前に死んだ女房の幽霊が薄ぼんやりとでている。「やい,てめえ,お勝じゃねえか,気がきかねえやつだ。昼間出てくるからぼんやりしているんだ。幽霊なんてものは,昼間でるもんじゃあねえ。夜出てこい」と怒ると,お勝の幽霊が涙ぐんで,「だってお前さん,夜はこわいもの。」 |
10 |
【貧乏神】 貧乏神が来て,家にずうっといるのでくらしが楽にならない。説教をきかせたら退屈して出ていくだろうと思って,説教語りを連れてきて『安寿姫と厨子王』をながながとやらせたら,貧乏神が家から涙を流して出ていく。「貧乏神さん,お帰りか」と聞いたら,「いや,あまりいい説教なので,ひとりできくのはもったいないから仲間を連れてくる。」【仕形噺口拍子】 |
11 | 【好物】 新参男,一両が薪を半日に割ってしまふ。旦那様,男を呼び,「でかした。そふ甲斐甲斐しくなければ,おれが気には入らぬ。冷たい時分に大儀大儀。傍輩どもへの能き手本。褒美を取らそふが,一番におのしが好きは何だ」「はい」「はて,言へよ」「はい」「はて言やれよ」「ハイ,二番目に酒でござります」 |
12 | 【壺】 骨董屋で伏せた壺を手に客「なんでえ,この壺には口がねえじゃないか」といってひっくり返して,「口ばかりか底もない」 <類>茶釜バージョンもあり |
13 | 【無筆】 「頼もう」「どーれ」「北佐野佐五右衛門,ご挨拶に上がりました」「若旦那はお留守でござる」「では,御玄関のお帳面にお書き下され,お帰りになったら,よろしくお伝えくだされ」「わたしは無筆でござる。あなた,ご自分でお書き下され」「拙者も無筆」「それは困りましたなア」「ならばこうしましょう。拙者,来なかったことにしていただきたい」 〔注〕無筆:読み書きのできないこと |
14 | 【土左衛門】 川に納涼に行くと,人間らしいものが流されてくる。「泳いでるにしては様子がおかしい。見てまいれ」下男が帰ってくる。「土左衛門であろう,どうじゃ」「申しわけありませぬ。名前を聞くのを忘れました・・・・」 |
15 | 【後家】 寄り集まって,女の品定め。「うぶな振袖がいい」「なんといっても年増にかぎる」「比丘尼もいいな」「いやいや,後家さ。後家がいちばん」後家が一番と意見一致。「アーア。俺の女房め,はやく後家にならんかなア」 |
16 | 【仙人】なかなかの御殿女中,下女をつれて町を行く。子供の揚げていた凧が,風に吹かれて女中の足元に落ちてきた。「これは」「子供の凧でございます」「つまらない。あたしゃ仙人かと思った」 〔注〕仙人:飛行中,若い女の脛(ハギ)を見て通力を失って墜落した久米の仙人の話から。 |
17 | 【嫁の乳】 嫁があって,至極器用でよく働き,親父の月代(サカヤキ)を剃ってやる時,美しき肌(ハダエ)の乳が,親父の唇へさわった。親父我を忘れて嘗める所を,息子見て大きに腹を立てて,「さてさて親人にはあるまじきなされ方。女房が乳を嘗めての戯れ,ご所存の程が承りたい」と,きめ付くれば,親父,開き直って,「おのれは,おれが女房の乳を,五年というもの,食らつたではないか」 【口拍子】 |
18 | 【大黒】 寺に立派な大黒があると聞いた檀家の者,「ぜひ拝見を・・・・」「とんでもない。それは先代の住職のときのこと,いまはありませぬ」「わしは長いあいだの檀家じゃ。決して他へは話さぬ」「それほど申されるならば・・・・」奥から美女を一人連れてきた。「いや,それではなくて,本当の大黒さまを」「ははあ,なにもかもご存じですな」もう一人,まるで天人みたいな美女をつれてきた。 〔注〕大黒は隠語で僧侶の妻も意味した。 |