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続々・樹の散歩道
  ミニドラゴンフルーツ栽培記


 ある知り合いから種名のはっきりしない茎がうねったサボテン類の小さな苗をもらった。平たい茎の縁がくねくねと波打ち、全く直立する気はないようで、鉢の周りでとぐろを巻くために取り扱いに窮し、窓際の棚で懸崖仕立てとして下方に垂れるがままにして、しばらく様子を見ることにした。2年ほど経過したであろうか、ある日突然、花冠筒らしきものが垂直に長く伸び出て、何と翌日の夜にきれいな花を咲かせたことにはビックリであった。さらに花後にどうなるのかを経過観察していたところ、やがてきれいなピンク色の果実をつけたのにはまたビックリであった。 【2020.9】


 ネット上でいろいろ調べてみると、一般に国内で「ミニドラゴンフルーツ」の名前で観賞用として流通しているサボテン類のひとつらしいことがわかった。  
 
        ミニドラゴンフルーツの形態
 茎はとぐろを巻いたり、少し立ち上がったりと、勝手な方向に伸びて、暴れ放題である。後で素性を検討する。
    ミニドラゴンフルーツの長いつぼみ
 下垂した茎の先端部で花が開き、子房はこの長い柄状のものの基部にあるから、この変に長いものは花冠筒と思われる。
 
 
     ミニドラゴンフルーツの花 1
 花の形態は小型の月下美人といった風情で、同様に一夜だけ開花する。ということは、原産地ではスズメガが花粉を運ぶのであろうか。花は開花すると花冠筒が軟弱なため横〜下向きとなってしまう。
     ミニドラゴンフルーツの花 2
 室内でも受粉の心配は不要で、自家受粉した。多数の房状の雄しべが見られる。 
 
 
 ミニドラゴンフルーツの果実 1
果実が色づく様子である。果実基部の褐色粒状のものについては後述する。 
 ミニドラゴンフルーツの果実 2
 次第に赤みが増してくる。 
 ミニドラゴンフルーツの果実 3
 果実の表面にも褐色の不審なものが付着している。 
 
     
1  このサボテンの本当の素性は一体何なのか?   
 
 このサボテンのおおよそについて知りたく、流通しているもので販売業者が学名を付して紹介しているケースをチェックすると、情報は多くはないが、どうも単一の種というわけでもなさそうで、以下の3種の学名が掲げられているのを確認した。  
 
 Epiphyllum phyllanthus エピフィルム・フィランサス
中南米原産のサボテン科クジャクサボテン属(エピフィルム属)のサボテン類である。
園芸上は「セッカゲッカビジン (石化月下美人)」の名も見かける。
画像検索した限りでは、栽培したものとは茎の形状が異なってくねりがない。果実は長楕円形である。
 なお、知名度が高い「ゲッカビジン(月下美人)」はこれと同属の中南米原産のサボテン類(Epiphyllum oxypetalum)で、同じく夜間に美しい大きな花をつけることからこの名がある。
A Epiphyllum guatemalense エピフィルム・グアテマレンセ
The Plant List によれば、この学名は Epiphyllum hookeri subsp. guatemalense (エピフィルム・フッケリ・ガテマレンセ(亜種))のシノニムとされる。南米グアテマラ原産のサボテン科クジャクサボテン属のサボテン類である。
今回栽培したものは、茎や果実の形状からは本種である可能性が高いと思われる。ただし、国内にどれだけの種類が導入されているのかは確認できない。
なお、Epiphyllum hookeri (Syn. E. stenopetalum)自体は、園芸上は「待宵孔雀(まつよいくじゃく)」の名を見る。  
B Hylocereus undatus ヒロケレウス・ウンダツス
サボテン科ヒモサボテン属(ヒロケレウス属)のサボテン類。原産地は不明。
この学名は大きな果実をつける食用のドラゴンフルーツのうちの白肉種(white-fleshed pitaya)そのものを指すから、ミニドラゴンフルーツの学名としてこれを掲げるのは明らかに誤りである。これは、事業者がミニドラゴンフルーツはドラゴンフルーツの矮性品種であると誤解していることに起因するものであるが、両者は別属とされている。 園芸上は「白蓮閣」の名がある。
 
 
 ミニドラゴンフルーツの生産・販売事業者の情報は、必ずしも厳密に種を同定した上での正確なものとは限らず、やや混乱が見られることから、参考程度にとどめた方がよいと思われる。

 さらに、複数の属間、種間のサボテン類の交雑園芸品種群に対して、クジャクサボテン(流通名。Epiphyllum hybrid、orchid cacti、蘭サボテン)の名が与えられていて、多くの種類が導入されている模様である。花色の多様性や昼咲きが多いのが特徴で、扁平な茎を多数伸ばす点ではミニドラゴンフルーツとやや似た印象もあるが、事業者によってはこれについてもミニドラゴンフルーツの名を使っているケースもある。そもそも、ニョロニョロ伸びたサボテン類は極めて多様であり、個々にその素性・来歴を見極めることなどほとんど困難になっている可能性がある。
 
 
  【メモ】    
 
 ミニドラゴンフルーツの名は和製英語と思われ、複数のクジャクサボテン属(エピフィルム属)のサボテンその他を大雑把に指した国内での市場の呼称として定着しているようである。 
 本家 dragon fruit (ドラゴンフルート Honolulu queen とも)の名は、英語では食用となるヒモサボテン属(ヒロケレウス属))の複数種の大型の果実を指した呼称で、これらを含め、さらに幅広に複数種の果実を包含した一般名としては pitaya (ピタヤ)又は pitahaya (ピタハヤ) の名を見る。 
 国内では、ドラゴンフルーツの名は果実を指すとともに、成り行きでこの植物の一般名としても定着してしまっている。 
 国内での流通上の呼称としての「クジャクサボテン(類)」の名は、英語では Epiphyllum hybrid , orchid cacti の名を見る。

 Epiphyllum hybrid (エピフィルム・ハイブリッド)は文字上はクジャクサボテン属の交配種の意で、国内では Epiphyllum の属名の和名をそのまま使って「クジャクサボテン(類)」としている。

 英語版の Wikipedia に面白い話が紹介(文献引用)されていている。Epiphyllum hybridHylocereeae(クジャクサボテン連)の特にDisocactus(ディソカクタス属), Pseudorhipsalis(プセウドリプサリス属) , Selenicereus(セレニケレウス属)の種の人工交配によるものであるが、Epiphyllum(クジャクサボテン属)の名前を使っているにもかかわらず、Epiphyllum属は交配親であることは少ないとしている。 

 なお、orchid cacti(orchid cactus) の名は「蘭サボテン」の意で、蘭のように豪華な花をつけることによる。
 
     
 このミニドラゴンフルーツは室内栽培には向かないことが判明!!  
 
 このサボテンは、平たい茎の両縁から、微細な蜜滴をタラタラと下に落とすため、周囲がひどくベタベタとなるのにはうんざりであった。さらに、うんざりする問題が判明した。よーく見ると、植物体の全面にカタカイガラムシ類がびっしりと付着していたのである。さらに目を凝らして見ると、このカイガラムシの孵化幼虫が大繁殖している風景まで見てしまった。このため、一度は水を流しながらこすり落としたものの、繁殖は抑えられず、ついには我慢ができなくなって廃棄してしまった。なお、確認はできていないが、蜜滴をタラタラ落とすのは、カイガラムシが取り付いていることによって促進されている可能性を感じた。

 カイガラムシ類は公園や庭園で被害に遭っている樹木に遭遇すると、非常によい教材となり、既に何種類かを別項で採り上げたところであるが、自分が栽培している植物が餌食となると、植物が薄汚くなるわ、排出される蜜滴で植物体と周辺がベタベタになるわで、本当に腹が立つ。
 
     
 
    カタカイガラムシ類の成虫と幼虫
 成虫の左側に2個ある黒点が目である。よく似たカイガラムシが多くて、種類は未確認である。   
      カタカイガラムシ類の幼虫
 この時点では、既にミニドラゴンフルーツに取り付いていて、全く動かない。たぶん、水分が豊かなサボテン類は吸汁するには都合がいいのであろう。 
   
 カタカイガラムシ類の成虫(産卵後のミイラ?)
 
     カタカイガラムシ類の成虫(腹側)
 写真では見にくいが、よーく見れば脚を確認できる。
   
    カタカイガラムシ類の成虫(腹側)
 透けて見える粒状のものは多数の卵と思われる。 
   カタカイガラムシ類の産卵後の腹側の様子
 成虫は既にミイラ状体で、拡散段階の孵化幼虫が見られる。
 
     
 
     ミニドラドンフルーツに取り付いたカタカイガラムシ類の孵化幼虫
 産卵後にミイラとなった成虫を剥ぎ取ると、まだ残っていた孵化幼虫がチョロチョトト歩き回っていた。白いものは薄い卵の殻である。孵化直後の幼虫の姿は他のカイガラムシ類と同様の姿である。
 なお、調べてみると、ミニドラゴンフルーツと同属のゲッカビジン(月下美人)でもカイガラムシによる被害がふつうに見られるようである。あーいやだいやだ! 
ルビーロウムシ孵化幼虫についてはこちらを参照
カメノコロウムシ孵化幼虫についてはこちらを参照 
 
     
 採取したピンク色の果実を割ってみると・・・   
     
   ピンク色の小さな果実は、噂によれば食べることもできるというが、カイガラムシが果実にまで取り付いているのを見てしまったため、気持ちが悪くて試食はしていない。

果実内にはドラゴンフルーツのように黒い種子が多数見られ、試験的に割ったみた果実では、何と果実内でほとんどの種子が初期の発芽状体となっていた。このため、この発芽種子を植木鉢に播いて、芽生えの様子を観察してみることにした。 
 
     
 
   果実内で発芽した種子
 果実から取り出した種子の様子で、ほとんどが写真のように茎を伸ばし始めていた。 
 ミニドラゴンフルーツの芽生え 1 
 ドラゴンフルーツは感覚的には分かりにくいが双子葉植物で、芽生えの時にだけやや肉厚の双葉を展開している。双葉の中心部からが伸び出る。
 ミニドラゴンフルーツの芽生え 2
 扁平な茎が伸び出た様子で、縁の凹んだ部分にわずかに短い毛が見られる。 
     
ミニドラゴンフルーツの芽生え 3A  ミニドラゴンフルーツの芽生え 3B  ミニドラゴンフルーツの芽生え 3C 
 
     
 
  ミニドラゴンフルーツの芽生え 4A 
  やっと分枝が見られた。
   ミニドラゴンフルーツの芽生え 4B 
   こちらも同様の風景である。
 
     
   芽生えの初期の様子は以上のとおりで、くねくねと扁平な茎を伸ばすだけである。ちゃんと双葉を出したのは面白かったが、それ以降は何とも退屈である。   
     
4   参考比較:本家のドラゴンフルーツの実生栽培試験   
     
   ふつうに販売されているゲンコツほどの大きさのあるドラゴンフルーツの果実内に見られるゴマ粒のように微小な黒い種子を面白半分で植木鉢に播いておいたところ、驚くほど発芽率が良好であった。そこで室内の植木鉢での結実を目指してしばらくの間栽培してみた。

 上方への生長、分枝はたくましいが、自立は困難で、本来は他の植物や岩に寄りかかる性質のものらしく、支柱が必要である。茎から長い気根(他の木に絡みつく機能があるらしい。)を多数だらしないほどに多数出すため、見た目には汚く、家族からはひどく嫌われてしまった。鉢の大きさに合わせて、バシバシ剪定しながら、数年間我慢したが、花をつける気配が全く見られないため、とうとう捨ててしまった。
 
     
 
       ドラゴンフルーツの芽生え 1
 ドラゴンフルーツも双子葉植物で、芽生えの時にだけ肉厚の双葉を展開している。双葉の基部からとげのある茎が伸び始めている。
      ドラゴンフルーツの芽生え 2
 まだ小さいが、三角形の断面を持った茎がサボテンらしくなってきている。サボテンのとげは葉が変化したものとか、たく葉が変化したものとか、茎が変化したものとか諸説ある。 
 
     
 
          植木鉢のドラゴンフルーツ
 生長が旺盛で、上方にすさまじく伸びるほか、寝際からも新たな茎を次々と出し、さらに多数の分枝を出す。他の植物に気根を絡ませて生長するとされ、小さな植木鉢では支柱の設置が難しい。写真の姿は、伸びる茎や分枝をビシバシ切って押さえている状態で、たぶんこの環境では開花、結実は難しいと思われる。

 サボテン科ヒモサボテン属(ヒロケレウス属)のサボテン類で、茎の断面は三角状で、多数の気根を長く出し、稜部にとげがある。
 
 
      ドラゴンフルーツの販売品
 試食用に購入したもので、味はまあまあであった。例えとして,キウウィ 
     ドラゴンフルーツの縦断面 
 前出の芽生えは、この黒ごまのような種子を播いたものである。ミニドラゴンフルーツの種子より小さ印象で、食べるときにまったく気にならない。
   
 
        ドラゴンフルーツのつぼみ 
 以下は都内某所の温室で見られたものである。ミニドラゴンフルーツの花とは異なり、長い花冠筒を持たずに大きな花をつけるようである。
     ドラゴンフルーツの花後の様子
 夜間に巨大な白い花を展開したことがわかる。夜間にはここに侵入できないため、残念ながら開いた花は見たことがない。 
   
 
       花殻をつけたドラゴンフルーツ
 しばらくは果実の先端に巨大な花殻をぶら下げている。
     ドラゴンフルーツの成熟果実
 市販品の果実と遜色がない立派な出来である。 
 
 
 ドラゴンフルーツは国内でも経済的な栽培が見られ、沖縄県が主たる産地で、鹿児島県千葉県がこれに次いでいる。
 たまたまテレビで千葉県内の栽培農家の様子が報道されているのを見たが、温室栽培であることから、小筆を使って人工授粉を行っている風景を拝見できたのは参考になった。