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続・樹の散歩道
  ナナミノキが陥った悲惨な地獄絵図


 都内で緑化木として植栽されたナナミノキの赤い果実を鑑賞していたところ、複数ある個体の過半がすす病にひどくやられていて、その薄汚れた葉の主脈(中肋)に沿って点々とイボ状の突起があることに気づいた。一見虫こぶかと思ったものの、よく見れば驚くことに、すべての細い枝の表面もこのイボ状の突起でびっしりと覆われていて、さらに気の毒なことに果実にまで同じ突起があるという何とも薄気味悪い状態となっていることがわかった。こうした形態は明らかに虫こぶとは違っており、樹木にとっては全く迷惑なロウムシの類による一斉攻撃の風景であろうことがわかってきた。 【2019.2】 


 白いカイガラムシの仲間はしばしば見かけていたが、この色のこの形態のものは初対面であったため、早速ながら調べてみると、正体はルビーロウムシ(ルビーロウカイガラムシ)の名のカイガラムシ類とわかった。  
 
   ルビーロウムシが取り付いたナナミノキの葉
 ルビーロウムシはカタカイガラムシ科ロウムシ属のカイガラムシ(ロウムシ)の1種 Ceroplastes rubens で、樹木にとっては樹液を吸汁する吸汁性害虫となっている。
   ルビーロウムシが取り付いたナナミノキの小枝
 攻撃のターゲットは吸汁しやすさから選んでいる模様で、葉の主脈と樹皮の薄い小枝はほとんどが被害に遭っていた。 
 
     
 
   ルビーロウムシの様子 1
 不思議なことに頂端部は小さく凹んだ中心が尖っている。白いアクセントの入った庇つきの帽子のように見える。 
   ルビーロウムシの様子 2
 この中味は無翅の雌成虫とされる。
 白い部分はムシにとっての通気口の機能を有しているようである。 
   ルビーロウムシの様子 3
 このロウムシにとって、果実に取り付いたのが正解であったのか否かはよくわからない。これも痛ましい。 
 
     
 外観の白い模様が何なのかは気になるところであるが、図鑑によれば「腹面の気門から背面に向かって4本のひも状白色分泌物を出す。」としていて、この粉状の白いロウ物質の空隙を通して呼吸しているものと考えられている。

 ロウ物質で覆われた虫を刃物で削いで剥がしてみても葉に密着していた側にこの虫のものと思われる赤い体液が確認できるだけで、ロウ物質と一体となった虫体の形態はさっぱりわからない。
 
 
 「ルビー」とは随分おしゃれな名前で、虫体を覆うロウ物質があずき色(赤紫色)であることに由来するといわれるが、今回目にしたものはくすんだ暗褐色で、すす病の菌が付着しているのかも知れない。このすす病は吸汁性害虫たるこのロウムシの排泄物に菌が取り付いて増えるといわれている。

 ルビーロウムシインド原産とされ、明治初期にミカン苗について日本へ浸入した害虫(原色日本昆虫図鑑)で、クスノキ科、モチノキ科、ツバキ科、ミカン科等の多くの樹木でしばしば見られるといわれる。天敵のルビーアカヤドリコバチの増殖、放飼事業によって、現在では発生が抑制されているといわれるが、ときに大繁殖がみられ,すす病を誘発して大被害をもたらす(世界大百科事典)という。

 こうした害虫に寄生された樹木は痛ましい。自ら払い落とすこともできず、ただ樹液を吸汁されることに耐えているだけである。こうしたひどい目に遭いながらも、よく赤い果実をちゃんと付けたものと感心する。

 ロウムシの駆除はこの成虫自体が厚いロウ物質でガードされていることに加えて、農薬規制に硬直的な面があって、緑化木や庭木に対して堂々と使用できる農薬が極めて限られていることも制約要因となっていて、なかなか困難なようである。大量のロウムシが樹体をびっしりと覆われていたら、へらで削ぎ落とすのも難儀であり、薬剤を使うにしても、夏期に幼虫が外に出た状態でないと効果が期待できないとされる。

 被害に遭っていたナナミノキは、総じて樹勢が衰弱している印象で、枯れ枝が目立つほか、かつて枯れたと思われる太い枝の切断の痕跡も多く、一部にはキノコが出ている個体も見られ、先行きは厳しい印象である。結果としてみると、都市部のこの環境には適合できなかったのかも知れない。付近にはクスノキが多数植栽されているが、何れも生き生きしているのが対照的であった。
 
 
   【追記 2019.3: ルビーロウムシの雌成虫はどんな姿をしているのか?】   
    すす病が同居した状態でルビーロウムシが取り付いた樹木は、何とも薄汚く、ルビーロウムシ自体の観察は少々勇気を要する。先にロウに包まれた虫体を剥がした際に、虫がつぶれて赤い汁を出したのにはウンザリしたところであるが、別項で観察したクスノキの葉裏のカイガラムシで、雌の成虫(こちらを参照)を観察したことから、改めてルビーロウムシを観察することにした。

 できることなら、虫体を覆ったロウ物質を取り除いて、全身の姿を確認したいところであるが、虫体はロウ質と一体化していてどうにもならない。そこで、ロウのヘルメットをそっと剥がして、雌成虫の腹側を観察してみることにした。
 2月下旬時点の様子で、この昆虫は成虫で越冬するとされるから、雌成虫と理解される。 
 
     
 
         ルビーロウムシの付着面 1
 以下はいずれもゲッケイジュの葉裏又は葉表で見られたルビーロウムシを剥がした腹側の様子である。
 ピクリとも動かない。
        ルビーロウムシの付着面 2
 いずれも4本の白線が確認できるが、細部はわかりにくく、まるで三葉虫かエイリアンの化石のようである。貧相で小さな退化した脚が2対だけ確認できる。
   
        ルビーロウムシの付着面 3
 三段腹風のしわ腹節と思われる。
 口針は剥がした際に抜け落ちるのか、確認しにくい。
        ルビーロウムシの付着面 4
 ろう成分を有機溶剤で溶かすことができれば全身が現れるかも知れない。
 
     
 
 ルビーロウムシの本当の姿をみたい思いで、とりあえずは剥がしたこの虫をランカーシンナーに浸漬してみた。しかし蝋の鎧(よろい)はびくともしない。そこで、今度はへードライアーで暖めて、強引に蝋を溶かす作戦を遂行した。

 これにより、蝋はきれいに溶けたが、ロウのヘルメットの中からまたひとまわり小さい赤褐色の表面がツルッとしたロウのヘルメットのようなものが登場した。

 表面は薄く蝋がコーティングされた状態であるのは仕方ないが、背側の形態は確認できる。しかし腹側はきれいに蝋が除去できずに、虫体の構造は全く確認できなかった。 
  蝋を溶かして除去したルビーロウムシの姿(背側)
 虫体はやわらかく、押しつぶすと、ブチュッと赤い汁を出した。 
 
     
  <参考: しばしば見かけるカイガラムシ(ロウムシ)>   
           イセリアカイガラムシ
 トベラがイセリアカイガラムシの猛攻撃を受けていたもので、何とも痛ましく、またこれだけ大量に取り付いているとぞっとする。ワタフキカイガラムシ科ワタフキカイガラムシ属のカイガラムシの一種で、ワタフキカイガラムシとも。オーストラリア原産とされる。Icerya purchasi
 筋のある白い部分はロウ物質に覆われた卵嚢(らんのう)で、内部に卵を抱えている。  
            カメノコロウムシ
 よく目にするカメノコロウムシがハマヒサカキの枝葉に取り付いていた。やはり枝葉ともすす病にもやられていた。カタカイガラムシ科ロウムシ属のカイガラムシ(ロウムシ)の1種で、カメノコロウカイガラムシとも。 Ceroplastes japonicus
 ルビーロウムシと同様に厚いロウ物質で覆われていて、まるでヘルメットで自身をガードしているように見える。