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続々・樹の散歩道
  マンゴー種子の芽生えの様子


 マンゴーの甘い果肉の中にある頑なまでに硬い内果皮に包まれた種子は腹が立つほどに大きく、別項で採り上げたアボカドの種子の場合と同様に是非ともその芽生えの様子をいつか実際に見てみたいものと考えていた。
 たまたま、マンゴー果実の販売時期が終了する頃に、メキシコ産のやや完熟時期を過ぎた大きなマンゴーが激安の百円で販売されている店の前を通りかかり、これ幸いと残っていた8個を買い占め、完熟マンゴーの味を十分堪能するとともに、発芽試験に挑戦することにした。具体的なノウハウについては海外、国内のお遊び実生栽培の情報も豊富で参考になった。 【2021.3】


 マンゴーの実生栽培試験に当たり、事前に基本的なことだけを学習したが、概要は以下のとおりである。  
 
・   マンゴーウルシ科マンゴー属の常緑高木 Mangifera indica で、樹高は30mに及び、枝先に付ける複総状花序は完全花と雄花からなる雑性花で、果実は熱帯果実の王女と称される。北インドからマレー半島にわたる地域が原産地と推定されている。【世界大百科事典】  
・   インド系は単胚性系統(単胚性種子)が多く、多数の品種があり、東南アジア、西インド諸島系は多胚性系統(多胚性種子)が多く、品種数が少ない。【世界大百科事典】  
・   単胚性種子は一般に多胚性種子よりも小さいため、より多くの果肉がえられるというひとつの利点がある。 
・   栽培用の苗木は接ぎ木又は挿し木で増殖されていて、国内では台湾在来種とされる多胚性の実生が台木とされる。 
・   お遊びの実生栽培の手順として紹介されている例をおおよそ集約すると、

硬い内果皮の端を切って種子を取り出す。 
種子の褐色の種皮を完全に剥ぎ取る。 
種子を水の入った容器に半身浴状態で浸け、発根、発芽を待つ。
(胚を傷つけないように複数の爪楊枝を子葉に突き刺して、種子を浮かせる方法がある。) 
D  適度に茎が伸びたら鉢に植え替える。   
 といった程度で、実際に発芽するか否かは別にして、特別の技術は要求していない。
・   また、西オーストラリア州政府のHPには比較的詳しい実生繁殖方法が紹介されていて、その概要は以下のとおりである。

 実生で増殖する場合は、多胚性の種子に限り奨励できる。
多胚性の種子は多くのシュートを出し、そのうちのひとつだけは受精したものであるが、これはしばしば発育が不良であるため、取り除く必要がある。ただし、接ぎ木の台木生産をするのであれば、どんな種子でも使用できる。

 種子繁殖の手順は次のとおり。(要約)

果実から種子を取り出し、種皮を取除き、日陰で1〜2日乾燥させる。 
培養土に種子の凹んだ側を下にして植える。種子の上端は露出させる。 
数日で種子が緑色になれば健全で、暗色となった場合はおそらく腐敗している。 
発芽したら個々の鉢に植え替える。発芽には10日から14日を要する。
8ヶ月以内に茎は径8〜10ミリに、高さは10〜15センチになる。 
 
 
 販売されているマンゴー果実  
 
   マンゴーの葉の様子(温室展示栽培)
  フィリピン産マンゴー果実の例(販売品)
 
   
  パキスタン産マンゴー果実の例(販売品)
 
  近大マンゴー「愛紅」(販売品)
 これはべらぼうな価格で、購入はしていない。 2008年に誕生した日本初のマンゴ−品種とされる。和歌山県有田郡湯浅町の近畿大学の農場で栽培されている模様。それにしても、この価格は凄い!!
 
     
 マンゴーの核と種子  
 
  メキシコ産マンゴー果実(核果)の外観
 少々あばたが見られるが、全く問題はない。  
 大果で非常に甘く、大当たりであった。 
    硬い内果皮に包まれた種子 
 内果皮から繊維が出ていて、果肉内にこの繊維がまとわりついていて、少々じゃまである。評価の高い品種ではこの繊維が少ないともいう。
   
   核(殻)の片側を剥がした状態
 種子は褐色の種子に覆われている。 メキシコ産マンゴーは単胚性系統である。
   種皮を剥がした種子の様子
 種子は腎臓形で、大きな2個の子葉が向かい合わせになっていて、例えばダイズの種子と同様のイメージである。 
 
 
 
          マンゴーの内果皮(殻)の片側を剥がした状態
 この種子では、中の子葉が種皮からはみ出して大きく成長している。こうした風景は普通に見られる。
 
     
 発芽の経過  
 
   マンゴー種子が発根した状態
 観察のために裏返しとしたものである。子葉は次第に緑色になってきた。 
   芽を出したマンゴー種子
 芽を出した段階で、子葉の緑色が濃くなっている。こうなることは子葉であるから違和感はないが、ダイズのように子葉が地上で双葉状に開くことはない。もちろん、芽は2枚の子葉の間から出ている。 
   
   マンゴーの芽生え
 子葉は緑色と尾なっているが、部分的に傷みが出て、暗褐色となっている。 
   マンゴーの芽生え
 葉が4枚展開した。 
   
   マンゴーの芽生えの葉の様子 
   マンゴーの芽生え時の根の様子 
 
 
     マンゴーの芽生え
 葉が大きくなってきた状態であるが、残念ながらこの後に枯れてしまった。観察のために、子葉は露出した状態としているが、既に子葉に依存していることはないと思われ、子葉を土に埋めていないことのマイナスは考えられない。
 
 
<感想>  
 
 ・  種子を植えるに際しては、種皮を剥がすのが一般的な手法となっている模様であるが、種皮が発芽抑制物質を持つことによるものなのかは未確認。一方、種皮を剥がした種子を土に埋めた場合に、程なく腐敗してしまうケースが多かったのは気になる点で、やはり、種皮のあるなしで実際に比較してみないと何とも言えない。 
 ・  今回の発芽試験では、剥皮した種子を水に浸漬して発根、発芽を待って根を土に差し込んで子葉を露出したままとしたところであるが、子葉は次第に褐色部分が拡大し、かなり縮小してしまったた。このため、既に子葉の栄養には依存していないと判断してちょん切ってしまったが、これが枯れに関係したかはわからない。 
 ・  多胚性の種子で、元気な芽を選んで育てたら面白いかも知れない。 
 
 
 
  【追記 2021.4】   
     
 
  ペルー産マンゴー
 近所の八百屋の激安品で、切ってビックリ! 果肉がスカスカで褐色に変色していて、甘さもほとんどないという、最悪の製品で、食べられる代物ではなく、返金してもらった。 
  ペルー産マンゴー
 ドンキホーテの販売品で、普通のアップルマンゴーといった印象であるが、またしても大外れで、果肉が褐色に変色していて、左のマンゴーと同類であった。低価格のペルー産マンゴーは危ないということを学んだ。  
   
 
  タイ産マンゴー
 こちらは果肉は淡黄色で、安心の普通の味であった。形状が少々個性的であることに加え、内果皮が薄っぺらで、果実の長さに近い長さがあり、その一方で中の種子は非常に小さい。この内果皮が薄い点は、果実を三枚おろしにする際は非常に都合がよい。 
  タイ産マンゴーの種子
 左の果実の種子を取り出して種皮を剥がしたものである。 多胚性のようである。植えてみたのであるが残念ながら腐敗してしまった。
 
     
  【追記 2021.5 多胚性のタイ産マンゴー種子の再観察】  
     
 
 
      タイ産マンゴーの内果皮を開いて種子を露出させた状態
 種子の大きさに対して内果皮が非常に長い。左側の種子では、他産地のマンゴーでも見られたように、成長に伴って胚が種皮からはみ出ている。
 
 
      タイ産マンゴ-種子の発根の様子(白矢印は発根部位)
 この写真の種子は先のマンゴー内果皮から取り出したものである。左の種子は多胚性で、2個の発根が見られた。右の種子は小さく、複数の胚が成長するに至らなかったようで、実質的には単胚性の状態となっている。

 多胚性の種子では、複数の胚のうち、1個だけが受精胚(有性胚)で、残りが親の木と同じクローン胚(無性胚)とされる。したがって、種子に胚が2個入っていれば1つが、受精胚で、もう1つが無性胚ということになるが、どっちがどっちなのかは胚を見ただけではさっぱりわからない。先に引用した参考資料によれば、受精胚は生育が劣る方である可能性が高い。

 なお、複数の胚で構成されている多胚性の種子では、1つの胚の2個ある子葉の大きさが甚だしく不等であることが多いほか、個々の子葉が複雑に入り組んでいる場合が多く、無理にこれらを引き離そうとすると子葉の片割れが切れてしまうことがある。
 
 
    3個の胚がバラけた多胚性のタイ産マンゴー種子の例(白矢印は発根部位)
 種子を水に半身浴状態として発根を待ったところ、3個の胚の子葉が次第に緩んできて、引き剥がすことができた。 それぞれ根が伸長をし始めている。ここでは3個の胚のうち1個が受精胚で、2個がクローン胚である。 
 
     
  ★ 多胚性種子としてのかんきつ類(タチバナ)の種子及び芽生えの様子についてはこちらを参照