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続・樹の散歩道
  オシロイバナの花を観察して
  その巨大な花粉にビックリ!!
  おまけにその種子の奇妙な構造にもビックリ!!


 オシロイバナは都会の道端でも雑草化している風景を普通に目にし、改めてその花を観察してみようなどという気持ちはさらさらなかったが、たまたま道路のギリギリまで接していた住宅のまわりに複数の色のオシロイバナが粗放的に植栽されていて、これがなかなか美しく、こうした利用も悪くないであるなあとしみじみ眺め、オシロイバナを見直してしまった。そこで、別の場所で野生化して繁茂していたオシロイバナを教材として、花の様子などを観察してみることにした。 【2017.1】 


         都内の住宅地におけるオシロイバナの風景 
 道路側に少々はみ出ているが、文句を言う人はなさそうである。
 オシロイバナ Mirabilis jalapa は熱帯アメリカ原産のオシロイバナ科オシロイバナ属の一年草(原産地では多年草)で、日本には江戸時代から記録があるとされる。
 ペルー原産と考えられているが、メキシコ南部原産とする見解もある。
 
 
     オシロイバナの花色の例  
オシロイバナの花 1  オシロイバナの花 2  オシロイバナの花 3   オシロイバナの花 4
       
オシロイバナの花 5   オシロイバナの花 6  オシロイバナの花 7  オシロイバナの花 8
 
 
 オシロイバナの様々な個性  
 
 観察と併せて、オシロイバナについて調べてみると、意外や色々な個性があって驚く。ポイントを以下に整理してみる。  
     
 @  オシロイバナは花冠を欠いており、花冠に見えるのは合着した5枚の萼片であり、5枚の萼片に見えるのは苞(注:苞葉とも。図鑑により総苞としている場合がある。)である。 
 A  花は夕方に咲いて翌朝にしぼむ一日花である。ということは花粉運搬者は夜に吸蜜するススメガであるが、夜遅くに同花受粉も行う。(現産地ではハチドリも訪花する。) 
 B  花にはよい香りがある。これに由来して中国名として「紫茉莉」の名がある。茉莉はジャスミンの意である。 
 C  黒い果実のように見えるのは偽果の一種で、黒い皮は萼筒の基部が残ったものであり、これを除くと淡褐色の薄い種皮に包まれた種子が出てくる。種子をつぶすと中にみられる白い粉状のものは胚乳(周乳)である。昔の子供達の白粉(おしろい)遊びの素材である。 
 D  同じ植物体でも、しばしば色違いの花が見られる。花色の発現に関しては遺伝的な観点での個性的な特性が知られている。例えば紅白の花の遺伝子の間には優劣性がなく、雑種第一代はすべて桃色が咲き、中間遺伝をする。また、オシロイバナの花色はマツバボタン、サボテン、ブーゲンビレア(オシロイバナ科)、ケイトウなどと同様に植物界では分布が限られているタレイン系色素による。 
 E  オシロイバナ(白粉花)の名は貝原益軒が名付けたとの説がある。英語名としてFour-o'clock (4時。午後4時頃に咲くことから。), marvel-of-Peru(ペール-の驚異。たとえ同じ根であっても多様な花色が見られることから。)の名がある。なお、属名 Mirabilis はラテン語で不思議な、素敵なの意で、やはり花色由来と思われる。 
 F  食べると全草有毒である。一方で、大きく育つ塊茎と葉の薬効が知られている。 
 
 
 興味を感じた事項のみを掲げたが、なかなか面白い。しかし外観を観察して最もビックリしたのはオシロイバナの花粉が非常に大きいことで、低倍率のルーペでも黄金色に輝く真ん丸の美しい花粉をはっきり見ることができるのである。時に美味しそうにさえ見えてしまう。次にその様子を見てみる。  
 
 オシロイバナの雄しべと雌しべの様子  
 
 オシロイバナは花粉がやたらと大きいため、普通は秘密兵器がないとなかなか困難な花粉の鑑賞が簡単にできる身近な植物である。  
     
     花粉放出前のオシロイバナの様子
 開花初期の雄しべと雌しべはツンと立っている。
   オシロイバナの雌しべと花粉放出前の雄しべ
  雄しべは5本、雌しべは1本。雌しべの柱頭は粒状。
 
 
    丸まった花柱と花糸
 開花途中の萼筒を除いた状態で、花柱、花糸がまだ伸びきっていない。花粉放出中に夜遅くなって花柱と花糸はまた丸まって、同花受粉もできる。
 紅花では花柱と花糸も紅い。
      オシロイバナの柱頭
 柱頭の粒は花粉と紛らわしいが、花粉は黄色なので区別できる。柱頭の表面にはわずかな粘りが確認できる。
   オシロイバナの葯(裂開前)
 両側が裂開して花粉を出す。
 
 
       オシロイバナの葯の表面の様子
 表面は低いイボ状の突起で被われている。
        オシロイバナの柱頭の様子
 粒状に見えたものは、マッチの先のような形態である。
   
     オシロイバナの柱頭と裂開した5つの葯        オシロイバナの柱頭と裂開した葯
   
      オシロイバナの柱頭と裂開した葯
 柱頭に1粒だけ花粉が付着している。葯は全開状態である。花粉が美味しそうに見える。
        オシロイバナの裂開した葯 1
 葯を突けば花粉はポロポロと落ちる。スズメガに本当に付着するのかは疑問である。  
   
      オシロイバナの裂開した葯 2 (2個)
 裂開途中の状態である。大粒の花粉で葯がはち切れてしまったように見える。
       オシロイバナの裂開した葯 3
 過半の花粉は放出済みで、残った4粒が見える。走査電顕でさらに高倍率で見れば表面全体に小さな凹みのある(ゴルフボール状)のが確認できるようである。  
 
     
 オシロイバナの種子の個性的な構造   
     
   オシロイバナの種子の内部構造が写真で紹介されている例を見ていないが、非常に興味深い記述を目にした。読んでも具体的なイメージがわかないが、植物観察事典には次のようにある。

 「胚の構造をみると、2枚の子葉で胚乳を包んでいる。一方の子葉は小さく裏側で胚乳を包み、もう一方の大きいほうの子葉は小さいものと腹合わせになって、これらをさらに包んでいる。このため、発芽したときの子葉に大小がある。」

 そもそも子葉が胚乳をすっぽり包んでいるような構造は馴染みがなく、これを理解するには現物で確認するしかない。 
 
     
 
  オシロイバナの成熟した偽果
 皿のように開いた苞の上で成熟した偽果は、コロリと転がり落ちる。 
  オシロイバナの偽果の断面と種子
 左は偽果とその断面で、右は取り出した種子である。
   オシロイバナの砕いた胚乳
 粉質の胚乳はでんぷん質とされる。
 
     
 
        オシロイバナの萼筒の下部
 手前側の苞片の一部を剥ぎ取った状態で、プックリ丸い萼筒の基部の中に子房が収まっている。 
      オシロイバナの子房の様子 
 萼筒の手前側を切り取った状態である。花後には萼筒のくびれた部分で萎れた萼筒の上部は花柱、花糸もろとも切り離される。花糸は萼筒の内側にへばりついている。子房はまだ小さく、空間が見られる。
 
     
 
         オシロイバナの種子
 中央の縦の膨らみは、胚軸が収まっている部分である。写真の頂端部から発根する。
    オシロイバナの薄い種皮を除いた状態
 淡褐色の薄い種皮(2層になっていた。)を取り除いた状態で、胚乳をすっぽり包んだ子葉胚軸が姿を現した。 
 
     
 
        オシロイバナ種子の胚乳を取り出した状態
 オシロイバナの種子の胚と胚乳は簡単に分離し、胚乳をコロリと取り出すことができる。胚乳の凹んだ部分は胚軸が密着していた場所である。2枚の子葉はピッタリ重なっていて、このままでは2枚に見えない。 
     オシロイバナの2枚の子葉の様子
 2枚の子葉を引き剥がした状態で、これでやっと2枚の重なった子葉が胚乳を包んでいたことが理解できた。 
 
     
   さて、この風変わりな種子の発芽に際しての挙動も気になるところである。   
     
 オシロイバナの芽生えの様子    
 
   胚乳を抱き込んだ子葉がどのように展開するのか、また、簡単に転がり出るような胚乳の養分は子葉によってちゃんと消費されるのか想像しにくいため、外観の様子だけでも観察してみることにした。   
     
     オシロイバナの芽生えの経過  
 
オシロイバナの芽生え 1-1 
 少し小さくなった胚乳が子葉に貼り付いている。発芽に際してすべてを使い切ってはいないようである。 
 オシロイバナの芽生え 1-2
 同左の裏側の様子である。光合成により既に自活≠オているものと理解される。
 オシロイバナの芽生え 2 
 2枚の子葉が分離し、2個重ねの「入れ子椀」のようである。胚乳の表面には既にカビが生えている。
 オシロイバナの芽生え 3
  胚乳はほとんど大きさが変わっていないように見える。地上に出た状態では胚乳は消費されていないようである。
       
 オシロイバナの芽生え 4 
 この状態になっても不思議なことに胚乳は貼り付いている。
 オシロイバナの芽生え 5
 胚乳がついに落下した。単に不要なものが落下したものと理解される。
 オシロイバナの芽生え 6
 2枚の子葉が展開したが、内側にあった子葉は小振りである。
 オシロイバナの芽生え 7 
 順調に本葉を展開した。
 
     
   地上に出た子葉に胚乳が付着している状態は何とも奇妙な形態である。同時に播種した別の芽生えでも見られた胚乳を突いたところ、ポロリと簡単に落下したから、子葉が地上に出た状態では既に胚乳に対する依存はほとんどないようにみえる。つまり、オシロイバナの胚乳は、子葉が地上に出る前の栄養供給源としてのみ機能していると思われ、発芽後にぶら下がった胚乳はわずかに子葉と接触しているだけであり、既に生育に不可欠の存在ではなくたっていると思われる。

 ついでなので、面白半分に以下のお遊びをしてみた。

@  胚乳を除去した種子は発芽できるか?

 → 元々ゆるゆる状態で子葉に包まれていた胚乳であり、たとえ貧相なものとなろうとも何とか発芽できないものかと淡い期待を抱いて試してみた。胚乳を取り除いた胚を子葉にそこそこ日が当たるように覆土して経過を観察したところ、何と驚くべきことに、胚乳なしでしっかり発芽して子葉を展開したのである!! (右写真)
 
 見た目には、ふつうの種子の発芽と変わりない。やってみなければわからないというのはこのことである。詳しいことはわからないが、元々胚乳に対する依存度が低いとしか考えられない。 
 
   胚乳なしでふつうに発芽したオシロイバナ(3本) 
   
A  胚乳を除去した胚に代替品としてジャガイモでん粉を与えた場合はどんな反応を示すのか?

 → 発芽に胚乳が不可欠というわけでもないことはわかったが、胚乳を除去した種子の子葉に片栗粉(ジャガイモでん粉)を代替品として与えたら喜ぶかということである。上記の@と同時に実施したものであるが、@が発芽不調であった場合にはこれを試す意味があったかもしれないのであるが、意外な展開から、やや拍子抜けとなってしまった。

 結果は@とほとんど変わりなく(写真は省略)、ジャガイモでん粉をわずかでも消費したのかもわからなかった。
 
     
   オシロイバナはごくありふれた存在で、たくましい雑草のようにワイルドに繁茂し、また開花時間帯に偏りがあるせいか、花壇で丁寧に栽培されている姿は見かけないが、改めて観察することで認識のなかった個性を十分に楽しむことができた。     
     
 参考比較:一般的な種子の構造    
   
   オシロイバナの種子の構造は少々変則的であることが確認できたが、この機会に普段はそれほど意識にない身近な種子の構造を念のために以下で確認してみる。   
     
  @ カキノキの場合 (サンプルは次郎柿で、種皮はそのまま)  
     
 
          カキノキの種子の断面
 カキノキの種子は大きめで、観察用には最適である。有胚乳種子の例で、半透明の胚乳の中に2枚の子葉を持った胚が収まっている。2枚の子葉をわずかにずらしてくれているからわかりやすくてはありがたい。 
    カキノキの種子から取り出した胚
 種子の胚乳から取り出した胚で、人為的に2枚の子葉を開いてた状態である。 
 
     
   カキノキの芽生えの様子(サンプルは富有柿   
 
   
    カキノキの芽生え 1
 種子が大きいから、茎がずんぐりして太い。
    カキノキの芽生え 2
 種皮が厚くて硬いため、脱ぎ捨てるのには難儀しているようであった。
    カキノキの芽生え 3
 子葉の間で既に本葉がある程度仕込まれていたため、本葉の展開は早い
    カキノキの芽生え 4
 
     
   カキノキの種子では、発芽に際しては胚軸が種子を地上に持ち上げて、子葉が展開する際に種皮(種子殻)を脱ぎ捨てる。有胚乳種子としての普通の芽生えの形式である。(注:針葉樹では子葉を開かないタイプがある。)   
     
  A ダイズの場合 (サンプルは水でふやかして種皮を剥がした状態)  
     
 
     子葉を無理に開いたダイズの種子
 ダイズ種子の2つの子葉を少々開いた状態である。ダイズでは、胚軸が子葉の外側に接していて、こうすることで胚軸と子葉の連結部分がよくわかる。無胚乳種子の例である。 
          ダイズ種子の断面
 正確に言えば、手前の子葉を欠き取り、胚軸を縦割りにした状態である。幼芽は子葉にはまれた状態となっていたことがわかる。  
 
     
   ダイズ(大豆)の種子は、発芽に際して子葉(双葉)を開いて種皮を脱ぎ落とす子葉地上展開型である。子葉は緑色となってやや大きくなり、光合成も行うことが知られている。
 ちなみに同じマメ科のアズキ(小豆)については、
子葉地表存置型で(人為的に自分で覆土した結果の状態を指して、これを地下子葉型であるとしている奇妙な例を見る。)、閉じた種皮付きの子葉を地表に残したままで茎を伸ばして葉を開く。 

★ ダイズとアズキの芽生えの様子についてはこちらを参照
 
     
  B ドングリ(アカガシ)の場合   
     
 
         アカガシの種子の断面
 正確に言えば、アカガシの堅果の果皮を剥がして、さらに種子の種皮も剥がし、手前の子葉を欠き取った状態である。落花生と同様の形態である。写真上方が殻斗を付けていた側である。
     アカガシ種子の胚軸の部分の拡大写真
 落花生に比べると、幼芽部分で初生葉の形成が進んでいない。胚の様子はコナラ等の他のドングリでも同様である。
 
     
   ダイズと同様に無胚乳種子であるが、こちらは胚軸の位置が異なっている。ドングリは秋に根を出して冬を越し、翌春発芽する。発芽に際しては、閉じたままの子葉を地表に置いたままにして茎を伸ばして本葉を出す。子葉地表存置型である。 種皮は自然に離脱するが、果皮はそのままであったり、乾燥・変形して離脱している場合もある。

★ ミズナラ、コナラのドングリの芽生えの様子はこちらを参照。 
 
     
  C かんきつ類(タチバナ)の場合  
     
 
           タチバナの種子
 タチバナはミカン科ミカン属の在来種で、小振りであるが十分成熟すれば温州みかんのように食べられる。ただし、タネが多い。
       タチバナの1個の種子の複数の胚
 種皮を剥がすと、奇妙で複雑な姿を見せる。ほとんどのミカン属では複数の胚を持っていて、これを多胚性と呼んでいる。他科の植物でも見られるという。
   
 
     タチバナの1個の種子の複数の胚
 何れの胚も2個の子葉の大きさに差がある。このうちのいくつが発芽に至るのかは、やってみなければわからない。 
            左の胚の1つの様子
 子葉の表面は他の胚の子葉が密着していた形が残っている。子葉Aと子葉Bは大きさが随分異なっているが、ペアの子葉である。 
 
     
   多胚性の種子とは奇妙な現象で、1個の受精胚(有性胚)と複数のクローン胚(無性胚)で構成されているという。
 受精胚は他の個体の花粉をもらって受精した交雑胚であり、クローン胚は母親の個体と遺伝的には同一で、体細胞からできた珠心胚とされ、こうした構成は進化による一形態と考えられているが、どういった有利性があるのかは何だか難しくてよくわからない。  
 
     
   タチバナの芽生えの様子   
 
       
   タチバナの芽生え 1
 子葉を地上に置いたままで芽を出す。 
  タチバナの芽生え 2 
 左の種子は1個、右の種子は2個芽を出した。
  タチバナの芽生え 3 
  タチバナの芽生え 4
 元気のいい1本だけを残した状態である。 
 
     
   多胚性の種子は、いくつ芽を出すかはやってみなければわからない。しかも、受精胚由来か、クローン胚由来か、さっぱりわからない。芽生えのタイプは、写真のとおり子葉地表存置型である。