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続・樹の散歩道
  ゲッケイジュの葉裏の奇妙な虫
  
葉裏のワンダーランド その2


 ゲッケイジュの葉裏に面白い虫がいることを耳にした。
 寒い時期は面白いものなくて、退屈していたため、早速ながらゲッケイジュが植栽されていることを承知している2箇所で葉裏を観察した。
 そのうちの1箇所で、らしきものを確認した。出現頻度は低いが、しばしば葉裏に2ミリほどの扁平な丸いものが張り付いていた。一見すると、コナジラミ類なのかもしれないとの印象を持ったが、表面はツルッとしていてよくわからない。葉を採取して持ち帰り、拡大して観察しつつ調べてみると、どうやらこの昆虫はゲッケイジュその他の葉に取り付く「フカヤカタカイガラムシ」らしい。カイガラムシをいくつか観察してきたが、これはまた少々違うタイプのようである。
 なお、もう1箇所では、小さくてかわいい昆虫と、卵も確認できた。まめに葉裏を観察すれば、極小の面白いものが見つかる。 【2019.3】 


 ペラペラ、極小のフカヤカタカイガラムシの様子  
     
   2月下旬にゲッケイジュの葉裏で確認したもので、この昆虫は3齢幼虫で越冬し、5月上~中旬に成熟して産卵するとされるから、まだ3齢幼虫と思われる。成熟すると淡褐色になり、周縁部が褐色に縁取られ、体下に白色綿状の分泌物で卵のうを形成する(原色日本カイガラムシ図鑑)という。以下の写真の部位名は、同図鑑による。
 カタカイガラムシ科フカヤカタカイガラムシ属のカイガラムシ類  Protopulvinaria fukayai
 
 
                          フカヤカタカイガラムシの背側
 この昆虫の背側はツルッとしていて、半透明である。この写真では葉から少々浮いているが、1度剥がしたことによるもので、実際には葉にピタッと密着していて、2齢以降のコナジラミの蛹のように脚がないか、動く気などさらさらないと決意しているかのような印象であった。
 個々の部位については理解しにくいが、小さな眼が1対あるほか、2対の気門陥入部が凹んでいて、それぞれ気門に通じた白線状の2対の「気門溝(次の写真を参照)」が透けて見える。カイガラムシのくせに、殻も、ロウ質の被覆物も見当たらない。
 A:眼、B:気門陥入部、C肛隙、D肛門板
 
 
 次は裏返した腹側の様子である。  
 
                         フカヤカタカイガラムシの腹側
 虫体を葉から剥がしてひっくり返すと、しばらくしてから折り畳んで体に密着していた脚が次第にせり出してきて、最終的には6本の脚を盛んにジタバタさせる。しかし、助けとなる翅もないから、どんなにあがいても正立することは困難である。内臓器官が透けて見えるが、詳細は不明。白線状の気門溝の基部には気門が存在するはずであるが写真ではわかりにくい。
 なお、口器は毛のように細いストロー状の口吻(こうふん)をもつとされるが、この画像ではよくわからない。
 A:眼、C:肛隙、E:気門溝(2対ある。)、F:脚(3対ある。)、G:口器
 
     
 
          フカヤカタカイガラムシの口器の口吻・口針(腹側) 
 前出の写真では確認できなかったが、別の個体で口吻口針(吸汁のためのストロー)をやっと確認できた(矢印)。淡褐色で艶があり、毛のようでかなり長い。
 
     
    脚をばたつかせて、写真では脚にピントが合わずに見にくいため、以下に動画にしてみた。  
     
 
   
 カイガラムシというと、脚が退化したイメージが強いが、このカイガラムシ(カタカイガラムシ科)では、3対の脚、1対の触角を有しているのがふつうのようである。ただし、写真では触角は確認しにくい。  
 
 
 
                    フカヤカタカイガラムシの触角(腹側)
 前出の写真では触角を確認しにくかったが、目を凝らせば眼の内側に何とか触角の基部が確認できる。
 別の個体で改めて見れば、ツンと伸びた触角の存在をはっきりと確認できた(矢印)。高性能の光学機器があれば、ストレスが軽減できるのであろうが、もどかしいところである。
 それにしても、腹側に触角をもっているというのも奇妙なものである。
 
     
  <参考: カイガラムシの脚に関する情報>   
 
 【日本原色カイガラムシ図鑑】
 カイガラムシの形態の単純化・退化傾向は、脚、触覚口器、複眼など、あらゆる部分にみられるが、とくに脚においては跗節が1節(まれな科では2節)、爪が1本のみからなる点で、2節の跗節と2本の爪を有する腹吻群の他の上科と異なっている。しかし、カイガラムシには中間幼虫や雌成虫で脚が完全に退化して無脚となるものも少なくない。 
 
     
 
 倍率不足でもどかしいが、左の写真はフカヤカタカイガラムシの脚先(矢印)である。

 一見すると、爪が2本あるように見えるが、前記資料では、脚のあるカイガラムシの爪は1本であるとしている。

 日本原色カイガラムシ図鑑のイラストで確認してみると、脚先に2つあるのは「爪冠球毛」の名の器官らしい。

 ということで、1本あるとされる爪ははっきり見えない。  
  フカヤカタカイガラムシの左中脚と左後脚の先端部   
 
     
  <参考: フカヤカタカイガラムシに関する情報>  
 
【日本原色カイガラムシ図鑑:河合省三】1980.12.1
【東京都農業試験場 庭木・樹木類に寄生するカイガラムシの種類と生態:河合省三】昭和47年11月(緑字)

 カタカイガラムシ科: Coccidae
 雌成虫の体型はさまざまであるが、尾端は中央に向かって大きく切れ込んで、肛隙となり、肛門輪は通常三角形をした1対の肛門板によって覆われることで特徴づけられる。タマカイガラモドキ属を除いて、雌成虫は触角と3対の脚を有するが、コナカイガラムシに比して一層固着性が強く、一定の時期を除いてはほとんど移動しないものが多い。成熟すると背面が著しく硬皮する種もあり、科名の由来となっているが、中にはほとんど硬皮しないものや、コナカイガラムシに似た卵のうを形成するものなどがある。いずれも脱皮後間もない若い成虫でないと微細な構造を観察できないので、分類は主として若い雌成虫を用いて行われている。

 フカヤカタカイガラムシ属:Protopulvinaria
 雌成虫はきわめて扁平で、丸味を帯びた三角形の体型と、肛隙が深く、体長の1/3に及び、肛門板が著しく細長いことなどで特徴付けられる。虫体は淡黄~淡黄緑色で半透明。成熟すると淡褐色となり、周縁部は褐色に縁取られ、体下に白色綿状の分泌物で卵のうを形成する。

 フカヤカタカイガラムシ:Protopulvinaria fukayai
 雌成虫は扁平、大きさ3~4mm、淡黄~淡黄緑色で半透明。成熟すると体周縁部は褐色に縁取られ、体下にわずかに白色ロウ質物を分泌して産卵する。年1回の発生、3齢幼虫で越冬し、5月上~中旬に成熟して産卵、幼虫は5月下~6月中旬に現れる。
(検索表から)
・ 肛門板の長さは幅の5倍以上。管状分泌管は腹面のほぼ全面に分布する。
・ 体周縁刺毛は気門刺毛と同長かより長く、大部分先端は分岐しない.体長3~4ミリ。
 寄主植物:ゲッケイジュ、ヤブニッケイ、タブ、シロダモ、キヅタ、ヤツデ、テイカカズラ、クチナシ
 生態:葉の裏面に寄生する.年1回の発生、主として終齢幼虫で越冬し、5月上~中旬に成熟して産卵、ふ化幼虫は5月下旬~6月中旬に現れる。
 分布:本州、四国、九州 
 
     
 かわいいチャタテムシの幼虫の様子  
 
 前出のカイガラムシを観察するつもりで、別のゲッケイジュの樹の葉裏を検分した際に、小さな、明らかに何らかの昆虫の卵が付着しているのを確認した。その脇にはごく小さな昆虫の存在も確認した。調べてみると、この昆虫はチャタテムシの仲間の「ヨツモンホソチャタテ」と判明した。何ともかわいい幼虫である。
 ホソタテチャ科のチャタテムシ類 Graphopsocus cruciatus
 
 
                     ヨツモンホソチャタテの幼虫の様子 1
 背部に名前の由来の4つの紋がある。終齢幼虫なのか、小さな翅(翅芽)がある。思わず笑ってしまうほどのかわいらしさである。
 
 
     ヨツモンホソチャタテの幼虫の様子 2
 上の幼虫よりも若く、孵化後間もないものと思われる。
     ヨツモンホソチャタテの幼虫の様子 3
 別の個体で、左の幼虫より腹部がふっくらしていて、より時間が経過しているものと思われる。
 
 
 ヒトの赤ちゃんはもとより、他の動物でも、赤ちゃんがかわいいと感じることについては(注:もちろん、赤ちゃんの段階でも、経験則で知られているように、器量の良し悪しは遺伝の呪縛に支配されていて、残酷なまでの格差が見られる。)、生物学的に親が丸っこい小さな子をかわいいと感じ(もちろんこれは錯覚である。)、この上なく慈しみ、養いたくなってしまうように方向付けられていることによるに過ぎない。しかしながら、孵化して以降、全く親の世話にならない昆虫も丸っこくてかわいいと感じてしまうのは、やはり普遍的な原理に支配された中でのヒトの本能に違いないが、当の昆虫の親は別に何も感じていないのであろう。ただ、これが餌ではないということだけは認識しているものと思われる。

 なお、ヨツモンホソチャタテの名は「四紋細茶立虫(茶柱虫)」である。「ちゃたて(茶立て)」の語を持ち出しているのは、実に情緒があっていい。この名(チャタテムシ)の由来は、「障子などに止って大顎(おおあご)で紙を掻くことがあり、その微音が茶を立てる音に似るので名づけられた。(広辞苑)」という。かわいい姿と、実に日本的でいい名前のセットで、ファンになってしまう。

 チャタテムシ類は種類が多く、生活害虫(不快害虫)としても知られているようである。 住宅内のあちこちで大発生などしたら、地獄絵図となるのであろうが、自然の中でたまたま出会ったものは、純粋に興味本位、気楽に観察することができるので幸いである。 
 
 
2   ヨツモンホソチャタテの卵と孵化(ふか)の様子   
     
   せっかくヨツモンホソチャタテの卵を確認したことから、孵化(ふ化)の様子も確認することにした。    
     
   
        ヨツモンホソチャタテの卵 1
 表面が糸に覆われていて、ガードされているように見える。光の加減か、虹色に輝いている。
        ヨツモンホソチャタテの卵 2
 こちらの卵は淡黄色で、右下の透明でしわのあるものが脱け殻である。
   
 
       ヨツモンホソチャタテの卵 3
 卵の端に黒い筋が現れると、孵化が近いことを示している。この黒い筋が何であるのかがわかるとビックリである。
     孵化直後のヨツモンホソチャタテの幼虫
 孵化を待って撮影した幼虫で、頭部、胸部の斑紋はやはりまだごく薄いことが確認できる。まるでヤマトシロアリのようである。
 
 
   事前に関連情報を調べると、次の有用な情報を目にすることができた。   
     
   <参考: チャタテムシに関する参考情報>  
 
【チャタテムシの生物学:九州大学 吉澤和徳】インセクタリュム1999.06.07 
 ・  多くのチャタテムシは木の幹や岩の表面で、カビや地衣類を食べて生活している。 
 ・  葉上にすむチャタテムシに共通する特徴は、腹部に反転が可能な吸盤のような特殊な器官をもっていること。 
 ・  孵化のとき、チャタテムシの前若虫はその頭部に付いている「破卵器」を使って卵の殻をやぶり、外に出てくる。糸で卵をおおうタイプでは(管理者注:ヨツモンホソチャタテはこれに該当)、破卵器の中央にのこぎり状の突起が縦に並ぶ。破卵器は孵化の後も前若虫の脱け殻と一緒に卵の殻に残っている。 
 ・  チャタテムシは不完全変態(蛹を経ないで成虫になる)昆虫なので、その幼虫は翅がないことを除いて、ほとんど成虫と同じ姿をしている。幼虫は3回から、ほとんどの場合6回脱皮して成虫になる。 
 ・  チャタテムシの「チャタテ(茶立て)」という名前は、茶筅(ちゃせん)で抹茶をたてるときのような音を出すことからつけられている。チャタテムシが出す音は非常に小さくかすかな音であるが、障子の上などではピンと張った紙がスピーカーのように震動を増幅させ、人に聞こえるほどの音になる。 
 ・  コナチャタテヒメチャタテは、しばしば小麦の貯蔵庫などで大発生し、貯穀害虫となる。最近は新築のマンションで、チャタテムシが大発生する例が多い。 
 
 
管理者注:  個人的には家の中でチャタムシの類を見たことはないが、生活害虫として知られているのは、本の糊、穀粉、動植物の乾物などを広く食べる種類がいることによる。  
 
   
   特に、幼虫が卵の殻を破るために頭に付いた「破卵器」を使うというくだりは何とも興味深い。
 以下は孵化の様子の静止画動画である。 
 
     
 
   ヨツモンホソチャタテの孵化 1
 口の前に縦に付いた黒い破卵器を鋸のように使って卵の殻をゴリゴリやっているところである。
   ヨツモンホソチャタテの孵化 2
 頭部が出て、両目が確認できる。ゴム風船入りの玉羊羹が割れて、羊羹がヌラリと出てくるのに似ている。
   ヨツモンホソチャタテの孵化 3
 体を前後に振りながら、次第に出てくる。
     
   ヨツモンホソチャタテの孵化 4
 体を前屈みにして脱出中である。
   ヨツモンホソチャタテの孵化 5
 用済みの破卵器がこの時点で脱落している。
   ヨツモンホソチャタテの孵化 6
 ほぼ全身が出て、直立状態となっている。あと一息である。脱落した破卵器が下方に見えている。
 
     
     
       
 
 破卵器については倍率不足で詳細がわかりにくいが、鎌形に湾曲した外側にギザギザがあるようである。

 右の写真の矢印を付したものが破卵器で、これはふ化した幼虫が残していったものである。 
  ヨツモンホソチャタテの残留破卵器 
 
     
   ★ 葉裏のワンダーランド その1 はこちらを参照