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続々・樹の散歩道
  キンモクセイの花(雄花)に萼があるのかないのか


 キンモクセイの花に関して、次のような講釈を耳にした。
 「キンモクセイの花には小さな萼があるのを確認できますが、図鑑では萼がないとしていました。このように、図鑑では結構誤りがみられます。」
ということで、図鑑がすべて正しいと思ったら大間違いで、かなりいいかげんな記述が見られるという見解で、喜びに満ちた口調で語っていた。個人的には特に関心の対象ではないが、図鑑でこんな基本的なことで誤りがあるとは思えないことから、念のために現物と複数の図鑑を確認してみることにした。ついでなので、今まではよく見たことのなかったキンモクセイの花の様子についても改めて観察してみることにした。 (2019.11)


                        花盛りのキンモクセイ
 生育条件が良好なのか、花つきが特によい個体の例である。かつては某芳香剤メーカーの製品のせいで、キンモクセイ風の合成香料がトイレの消臭剤として広く普及したため、不幸にもキンモクセイの香りが即トイレの香水として受け止める癖がついてしまった世代が存在する。
 モクセイ科モクセイ属(キンモクセイ属)の常緑高木。
 ★本種に関する参考情報はこちらを参照。
 
                       キンモクセイの花序(雄花)
 モクセイ属樹種の雄株の選抜品種と思われ、雌株は存在しない。葉腋その他に集散花序が簇生する。花冠は4深裂し、雄しべはふつう2個。雌しべは退化して小さい。
 
 
 キンモクセイの花(雄花)の様子は以下のとおりであった。  
 
         キンモクセイの雄花 1
 2個の雄しべの葯はまだ裂開していない。
        キンモクセイの雄花 2
 わずかながら3個の雄しべをもつ花も見られた。モクセイ属樹種全体では、まれに雄しべが4個ある(中国植物誌、改訂版日本の野生植物) という。
   
        キンモクセイの雄花 3
 葯が裂開して、花粉を出している状態である。
 2個の雄しべの間に、小さな退化した雌しべが見える。 
         キンモクセイの雄花 4 
 手前側の2個の花冠裂片と1個の雄しべを取り除いた状態である。小さな退化雌しべと、不規則に裂けた萼が確認できる。雄しべの花糸はごく短く、短い花筒の上半部につく。
   
        キンモクセイの雄花 5
 花冠を下方から見た状態である。APG原色牧野植物大図鑑では、「キンモクセイの萼は4裂」としているが、これを見てもよくわからない。 
    キンモクセイの雄花の萼と退化雌しべ
 萼と退化雌しべが見やすいように、花冠とこれに付着した雄しべを取り除いた状態である。多数の花でチェックしてみたが、萼が4裂しているようには見えない。 
   
      キンモクセイの雄花の雄しべ 1
 花粉放出前の状態である。左右に黄色の花粉が弧状に透けて見え、半葯の形態がよくわかる。
      キンモクセイの雄花の雄しべ 2
 花粉を出した雄しべを上方から見た様子である。黄色の花粉を空しくたっぷり出している。 
   
      キンモクセイの雄花の雄しべ 3
  花粉を出した雄しべを向軸面から見た様子である。
       キンモクセイの雄花の雄しべ 4
 花粉を出した雄しべを背軸面から見た様子である。
 茶褐色の小さな付着物が何なのかは不明。
 
 
 キンモクセイの花の萼についての図鑑での記述は、必ずしも個別の種で記述しているものでもないが、具体的な記述例は以下のとおりである。  
     
    モクセイ属(キンモクセイ属)の花の萼に関する図鑑での記述例  
中国植物誌  木犀属(モクセイ属)では、花萼は鐘状で4裂。
木犀(ギンモクセイなど)では、花萼長は1ミリで、裂片はやや不整斉。 
改訂版日本の野生植物  キンモクセイ属 Osmanthus では、萼は短い鐘形で、4歯があるか4浅裂する。 
原色日本植物図鑑  モクセイ属 Osmanthus では、萼は短く、4歯があるかまたは4浅裂する。 
APG原色牧野植物大図鑑  キンモクセイではがくは4裂。 
 
 
 なお、現在のところキンモクセイの花には萼がないとしている図鑑の記述例には出会っていない。