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樹の散歩道
  雌雄二型とはおもしろい!!


小学校高学年向けと思われる書籍で「雌雄二型」の語を目にした。樹木に関して講釈した中での話で、要は雄株と雌株の樹形が異なった樹種が存在することが知られていて、これらを指した言葉のようである。具体的には、シダレヤナギが取り上げられていた。同様の話としては別の複数の樹種に関する記述を目にしたことがあり、やはり「通説」となっている印象がある。しかし、いずれも現物をじっくり観察して見極める機会がないため、実感がないし、図鑑類でも触れている例がほとんどない。そこで、可能な範囲で理解に努めることとした。【2012.7】 


   目にした先の書籍は「ほんとの植物観察(室井綽・清水美重子、株式会社地人書館)」で、少年少女向けの教育書籍ながら、フムフムである。関係分を抜粋すると次のとおりである。 
   
 
 ・  ヤナギの仲間はすべて雌雄異株で、シダレヤナギの雄株は枝が長く下垂しますが、雌株の方はあまり伸びません。このように花を見なくても雌雄の別がよくわかるものを、「雌雄二型」といいます。 
 ・  シダレヤナギは日本で見られる植物の中では、一番よく枝が伸びます。枝というより、あまりにも細長いので「枝条」とか「柳条」といわれ、長いものになると3メートルを超します。このように元気によく伸びるものはすべて雄株で、雌株はせいぜい1メートルどまりです。
   (:その他いろいろな講釈があって、小学生に独占させてはもったいないほどである。)
   
   さらに、別の少年少女向けの以下の図書にも同様の記述が見られた。

 【校庭の樹木:岩瀬徹・川名興(農文協)】

 「(シダレヤナギの)しだれる枝は、雄株の方が長く、雌株はあまりのびない。」とある。 
   
   次に教養を身に付けるために岩波の生物学辞典を調べると、この用語が掲載されていた。 
   
 
 性的二形[英 sexual dimorphism]【同】性二形、雌雄二形

 雌雄にかかわる二形性、とくに雌雄異体の動物において、主として外部的に現れる形質が性によって異なる現象。極端な場合には、鳥類などで雌雄が全く別種と、またボネリムシなどでは雄が雌個体に寄生していて他動物と誤認された例がある。音声・香気・発光性の有無なども含めていうことがある。人類では男女の差異(性差)はそれほど大きくないが、体の大きさ、輪郭、各部位の比率、皮下脂肪の量、体毛などに見られる。 
   
   日常感覚としては、シカ(鹿)やキジ(雉)、かぶと虫などいろいろ思い浮かぶが、樹木に関する“通説”としては「セイヨウハコヤナギ」と「イチョウ」しか思い浮かばない。そこで、とりあえずはシダレヤナギを含む3樹種を課題として採りあげて検討する。 
   
   シダレヤナギの雄株と雌株の実際 Salix babylonica

 「シダレヤナギは古い時代に中国から移入されたもので、日本には雌株が少ない」というのが国内での定型的な説明である。しかし、雌雄の形態の違いに関し、先に紹介した書籍の記述以外に、図鑑で説明した例は見たことがない。国内では雌株が少ない事情があるとしても、これほど身近な存在でありながら不思議なことである。あるいは、実は真実は単純ではないのかもしれない。しばしば「シダレヤナギの雌株」として認知されているものが、例えば特に枝が短めの特性を持った雌性品種のクローンであったり、中国の全く別の種の枝垂れ品種であったり、あるいはシダレヤナギの交雑品種であったとすれば、笑い話になってしまう。やはり、中国国内での情報も不可欠である。 
   
 
 シダレヤナギの雄花序 シダレヤナギの雌花序(部分)   成熟裂開した果実
   
 
      シダレヤナギの雌株 その1
 公称径107センチの大径木。この個体の場合は枝が短い。
 そもそも、この程度の枝垂れのものをシダレヤナギと言わなければならないことに違和感を持つ。(北海道庁前庭) 
       シダレヤナギの雌株 その2
 左の樹とは同一クローンと思われる。単に枝垂れる枝が短い特性を持った雌個体のクローンといった印象である。
(北海道庁前庭) 
   
          シダレヤナギの雄株 その1
 よく見掛けるシダレヤナギの樹型である。
 (北海道大学構内) 
        シダレヤナギの雄株 その2
 見慣れたシダレヤナギの枝の様子である。
 (森林総合研究所北海道支所) 
   
  (目にするシダレヤナギの雄株は単一のクローン品種なのか)

 このことについて科学的な根拠に基づいて結論を述べるには、古い時代から広く出回っているシダレヤナギのDNAを相当の規模で調べなければならない。一部の書籍で「同一遺伝子のクローンである。」とした記述を見るが、その根拠はわからない。
シダレヤナギは長く枝垂れることが「いのち」であり「価値」であって、このため、より長く枝垂れるものが選抜され、そしてその選抜されたものが挿し木で増殖されてきた歴史のあることは容易に想像できる。身近なシダレヤナギの雄株の枝の様子を見ても、枝垂れの長さには幅があるような印象があり(樹齢との関係はよくわからない。)、複数の系統が存在する可能性を示している。そもそもソメイヨシノのように交雑により作出された品種ではないから、単一のクローンとは考えにくい。 
   
  (中国では雌雄の樹型等の違いについて認知しているか)

 「中国主要樹種造林技術」によれば、シダレヤナギ(中国名「垂柳」ほか)に関し、概略次のような記述が見られる。 
   
 
 小枝は細長く、通常は下垂する。但し、枝条が直立するものがある。
 
 雄株と雌株は形態的に明らかな違いがあり、一般的な雄株は枝が太くて丈夫で、花芽が大きい。
 
   残念ながら、雌雄の垂下枝の長さの違いに関する記述は確認できなかった。したがって例えば雄株の方が枝が長いから好まれるとも言っていないし、実は、むしろ雌株は春に大量の綿毛を飛ばして環境衛生上よろしくないということで、公園や市街地、住宅地の緑化に当たっては、雄株を選択すべきであるとしている。
(注)雌雄の枝の太さについて触れているが、国内のサンプルでは実感はない。

 また、別の「中国樹木誌」でも「小枝細長、下垂」(小枝は細長く、下垂する)とあるだけである。

 少なくとも、確認したシダレヤナギの例では、雄株の枝長は幅がありそうである。これは選抜の経過が反映しているのかも知れない。雌株は多分クローンであろう隣接した2本を目にしただけで、たまたま枝は短めであったが、雌株の枝が常に短いのかを確認するに十分なサンプルがない。

 平均的にどうなのかとなれば、本家の中国でフィールド調査をしなければ何とも言えない。
 先の中国の文献の原文は以下のとおりである。 
   
 
【中国主要樹種造林技術(中国林業出版社)抄】

楊柳科 柳属 垂柳 (シダレヤナギ)
別名 水柳、垂枝柳(江蘇、浙江)、垂楊楊(北京)、垂糸柳(四川)
「喬木、高達12-18米。小枝細長通常下垂、但也有枝条直立的。雌雄異株、(葇荑花序、)雄花序長2-4厘米、雌花序長1-2厘米。蒴果、内有種子2-4粒、成熟種子細小、緑色、外披白色柳絮。千粒重只有0.1克。垂柳的雌雄株、在形態上有明顕的差異、一般雄株枝条粗壮、花芽大、吐芽開花比雌株早3-5天」
「実生林初期生長慢、但寿命長、能長成大材。挿条及萌芽林初期生長快、寿命短」
「在公園、城市或居民点緑化、要選択雄株、因為雌株在春天産生大量柳飛絮、不利于環境衛生」 
   
  (その他どんな記述が見られるか)

 シダレヤナギ Salix babylonica に関連して、以下の記述例が見られた。 
   
 
 (英国で)栽培されているシダレヤナギの大半は単一の雌のクローン。祖先である枝垂れない中国の樹木はSalix babylonica f. pekinensis ペキンヤナギ(syn. Salix matsudana)と名付けられている。(【フローラ(産調出版。 英国の出版物の翻訳書)】
(注)ペキンヤナギの変種がよく知られたウンリュウヤナギ Salix matsudana cv. tortuosaSalix matsudana f. tortuosa)であるとして一般に説明されているが、中国名は曲枝垂柳で、中国植物誌では学名をSalix babylonica f. tortuosa (シダレヤナギの品種)としている。
 
 (英国では)シダレヤナギ Salix babylonica は、×セプルクラシス‘クリソコマ’ Salix× sepulcralis ‘Chrysocoma’(注:コガネシダレ黄金シダレヤナギとも。英名:Golden weeping willow)に植え替えられている。【A-Z園芸植物百科事典 英国の出版物の翻訳書】
 
 ヨーロッパや北アメリカで見る枝垂れているヤナギの多くはコガネシダレ Salix×chrysocoma で、シダレヤナギとセイヨウシロヤナギ Salix alba の変種 サリクス・アルバ・ウィテリナ Salix alba var. vitellina との雑種である。【朝日百科植物の世界】
(注)Salix×chrysocoma は前出 Salix× sepulcralis ‘Chrysocoma’の異名で、Salix alba ‘Tristis’, Salix × sepulcralis var. chrysocoma も同様。新梢は細長く黄金色で地面に垂れ下がる。【A-Z園芸植物百科事典による。】
(注)Salix× sepulcralis サリクス×セプルクラリスは、Salix alba セイヨウシロヤナギとSalix babylonica シダレヤナギの園芸交雑種で、習性と葉はシダレヤナギに似るが、わずかに垂れ下がりが少ない。【フローラ】
 
 オーストラリアにはシダレヤナギの雌株のみが存在するが、別のヤナギ類との交雑により結実している。【NSW Government】 
   
   本種は世界的に普及しているものであるが、雌雄の枝の長さに関して論じた情報は見当たらなかった。
 結論的には、国内で見られる限られた個体のみで平均的な雌雄の枝の長さについて論じることは困難であり、広く交雑種を含めてしっかりと系統を把握した上でデータを整理しなければ、総合的な評価は困難であると思われる。 
   
  <参考資料>
 
 
【日本の野生植物】
 シダレヤナギは自生地が不明であるが、起源は中国にあると信じられている。種小名はバビロニカだが、メソポタミアには野生はない。現在は世界各地に植えられている。日本のものは中国または朝鮮から渡来したものと思われる。 
【樹木大図説】シダレヤナギ
(種小名 babylonica について)
 中国産のものがバビロンに移入し、同地で採集された標本に対しリンネがバビロニカの学名をつけたと見るべきである、これが定説になっている。 
【davisla.wordpress.com】
 属名 Salix の語源はヤナギの古いラテン語名に由来し、さらにそれは多分「near 近く」を意味する古いケルト語の‘sal’と、同じく「water 水」を意味する‘lis’由来する。種小名 Babylonica はリンネが賛美歌137番で表現された木がこのシダレヤナギであると間違えたことによる。 
【花おりおり】
 シダレヤナギ:日本最古のクローン樹木。その歴史は千二百年を超える。大伴家持は京の大路の柳を思う歌を残す(「万葉集」巻十九)。それも本種であろう。雌雄異株で、原産地・中国では5月に種子が雪のように舞い、柳絮と呼ぶ。日本はほとんどが雄木。種子ができず、挿し木で殖やされた同一遺伝子のクローンである。 (?) 
【朝日百科植物の世界】シダレヤナギ
・ シダレヤナギがいつ日本に渡来したかは不明であるが、奈良時代にはすでに伝わっていた。
・ シダレヤナギは中国原産で長江と黄河の流域に自生するとされる高木。原産地では枝が日本で見るほど長く枝垂れない。(注)この説明とともに、枝がほとんど枝垂れていない個体の写真を掲載しているが、一般性に欠けていて誤解を招く。
・ 日本のシダレヤナギはほとんどが雄株。 
【山渓 日本の樹木】
・奈良時代に朝鮮を経て渡来したといわれ、日本全土に植えられている。雌株は少ない。 
   
   セイヨウハコヤナギの雄株と〝雌株〟の実際

 セイヨウハコヤナギの場合は細い枝がみんな上を向いたスリムな樹形が雄株で、雌株は枝が横に開いているというのが通説である。この場合、もちろんカイリョウポプラを見てセイヨウハコヤナギの雌と勘違いしてはならない。と言いつつも、実は、そもそもセイヨウハコヤナギに雌株が存在するというのも変な話である。以下に順を追って検討してみる。

 列状にきれいに植栽されたセイヨウハコヤナギと思われるポプラが並木を構成している風景に目をやると、単木的に、或いはまとまって、枝が暴れた樹形のものがしばしば混在していることに気付く。

 かつて植栽を発注し、そして現在管理している立場の者としては、スリム樹形で美しく揃った風景を描いていたはずである。しかし大きく生長した姿をみればだらしなく不規則に枝を突っ張る樹形のものが混在していて、枝の整理に手間を要し、加えてこの暴れ木は、初夏にはこれでもかとばかりに綿毛をまき散らし、近隣の住民からは大いに嫌われている情景が目に浮かぶ。
 
 こうした風景は、ヨーロッパとは違い、ポプラ導入後の歴史が浅いことに起因しての認識不足によるものと言えそうである。 
   
 
      典型的なセイヨウハコヤナギ(雄株)
          (札幌市福住・桑園通り)
 従来セイヨウハコヤナギの雌株とされてきた暴れポプラ
         (札幌市福住・桑園通り) 
   
 
    植栽樹の混在風景。右2本は暴れポプラ
   (岩見沢市内) 
  暴れポプラの枝の様子 
  (札幌市福住・桑園通り)
 枝をすっかり落とされた大径
 の暴れ者ポプラ♀
(札幌市内)
   
  (セイヨウハコヤナギの並木等でなぜ樹形の異なるものがしばしば混在しているのか)

 そもそもセイヨウハコヤナギPopulus nigra var. italica , Populus nigra ‘Italica’ (元祖ロンバルディポプラ Lombardy poplar )としてイタリアで選抜されたとされるものは「雄株」とされている。したがって、適正に系統管理されたものから採穂され、接ぎ木で増殖されたものであれば、すべて同一クローンで樹形は間違いなく揃い、綿毛を飛ばすものなど混在するはずがない。そうでないとすれば、採穂木の管理に混乱があって、結果として別のものが混じったとしか考えられない。 
   
 
    セイヨウハコヤナギとされているポプラの
    裂開果実の綿毛
           地上に落ちた綿毛
 札幌市の市街地のど真ん中、北海道庁の前庭には「セイヨウハコヤナギ」とされているものに雄株と雌株が混在しているほか、カイリョウポプラの雌株も存在する。毎年6月に大量の綿毛を辺りにまき散らして市民を当惑させている。中にはマスクをして防衛する人も見られるという。これはとても季節の風物詩などと、呑気なことを言っている状態ではない。(実は中国の北京ではこんな生やさしいものではなく、毎年地獄の様相を呈しているという。) 
   
  (異質のポプラの正体は一体何なのか)

 身近な複数箇所で確認した限りは、スマートなポプラは確かにすべて雄株であったが、綿毛を散らかしたものは枝が開いた雌のポプラ(もちろんカイリョウポプラではない。)であった。こうしたことから、一般に「セイヨウハコヤナギの雌株は雄株とは樹形が異なり、枝が開いている。」とした認識につながっているのであろう。

 しかしである。繰り返すがそもそもセイヨウハコヤナギは雄株から選抜された雄性品種ではなかったのか。そうであれば、品種たるセイヨウハコヤナギに雌株など存在しないと理解するのが正しいはずである。したがって、くだんの異質な存在は別途導入されたただの基本種たるヨーロッパクロポプラ Populus nigra の枝が暴れる特性を持った雌株のクローンかもしれないし、得体の知れない交雑種の雌株のクローンかもしれない。こうしたことは、本当は想像するようなことではなく、苗木生産者が一体何を納入したのかという問題であるが、今となって誰にもわからないし、DNA鑑定を実施しない限り、素性は不明としか言えないのではないだろうか。

 したがって、例えば北海道庁の前庭にあって、毎年派手に綿毛を飛ばすセイヨウハコヤナギとしている雌株のポプラについて、これを「セイヨウハコヤナギ」と呼ぶこと自体が適当ではないということになる。さらに言えば、セイヨウハコヤナギの名の品種を指して、「雌雄異株である」とする表現自体も論理的にあり得ないということになる。もちろん、セイヨウハコヤナギの母種たるヨーロッパクロポプラ Populus nigra が雌雄異株であるとするのは何も問題はない。

 残念なことであるが、ポプラのDNAを調べたところで何も手柄にならないから、今後誰も調べることもなさそうであり、謎は謎のままになってしまうのかもしれない。

 ポイントを再整理すれが次のとおりである。

 スリムな樹形のセイヨウハコヤナギは雄木の品種のクローンである。 
 したがって、品種としてのセイヨウハコヤナギには雌木は存在しない。 
 しばしば混在する枝の開いたポプラをセイヨウハコヤナギの雌株とするのは誤りで、とりあえずは素性不明の雌木のポプラのクローンと理解するしかない。 

 こうした事情から、結論としてセイヨウハコヤナギの場合は「雌雄二型」の例には該当しないと思われる。 
   
  <参考資料> 
   
 
【A-Z園芸植物百科事典】(セイヨウハコヤナギを指した説明)
Populus nigra var. italica
変種イタリカ。和名イタリアポプラ。英名Lombardy Poplar
雄株で狭い円柱形となる。高さ30m、幅5m。 
【Kew Garden】 Populus nigra , Populus nigra ‘Italica’(Lombardy Poplar)
 Black Poplar(ブラックポプラ)ヨーロッパクロポプラ Populus nigra は英国では普通に見られるが、おそらく亜種のLombardy Poplar ロンバルディポプラ(Populus nigra ‘Italica’)ほどは目にすることはないであろう。
 Lombardy Poplar ロンバルディポプラ(注:セイヨウハコヤナギを指す)は、1758年に北イタリアのロンバルディ地方から英国に導入された。その原品種(そして最も植栽されたもの)雄木で、このことで統一的な外観が説明されている。雌木はまれ(?)で英国ではほとんど植えられていない。しかし、仮に雌木に一般性があったとしても、雌花序が大きく熟した後にふわふわした種を樹下の地面に散らすようなものはきっと回避するに違いない。
(注)文中のまれな雌木が一体何なのかはよくわからない。 
【USDA】(セイヨウハコヤナギを指した説明)
Populus nigra ‘Italica’
一般名はLombardy Poplar ロンバルディポプラ。生長が早く、短命の囲障や防風用として有用でしばしば植栽されている。ロンバルディポプラは、多くの短い上向きの枝からなる細い円柱形をなし、樹高は40から60フィートに達しするが、広がりは10から12フィートである。花色は赤色。この木には果実はできない。ロンバルディポプラは雄のクローンであるため、増殖は挿し木による。 
【Virginia Polytechnic Institute and State University】(セイヨウハコヤナギを指した説明)
Lombardy poplar
Populus nigra var. Italica
花は雌雄異株であるが、変種‘Italica’は雄株のみで、果実は知られていない。 
【davisla.wordpress.com】(セイヨウハコヤナギを指した説明)
Populus nigra var. Italica
 種(the species)は雌雄異株で、雄木の花序は赤く、雌木の花序は緑色である。しかし、変種 italica は深紅色の花序を持つ雄のクローンである。 
   
    イチョウの雄株と雌株の実際 (イチョウの雄株と雌株の見分け方)

 北大構内のイチョウ並木はなぜか雄株と雌株がごちゃ混ぜになっている。多分意識したものではなく、単に実生苗を植栽した結果なのであろう。外種皮の臭いがいやな場合は、雄木を接ぎ木増殖して植栽するのが普通で、街路樹の場合は通常は雄株が植栽されている。

 さて、イチョウに関しては雌株はやや枝が開くとする通説があるこちらを参照)。そこで、サンプルを並べてみた。。
   
 A  イチョウの雄株の例(北大構内)
 
   
 B  イチョウの雌株の例(北大構内)
 
   
   
   しかし、修行が足りないせいか、それほど大きな違いを感じない。一方、次のような記述例がある。

  「イチョウの雌雄は、大きく成長したものでは樹形で容易に判別できる。雌株は果実の重みで枝が垂れ下がる傾向があり、横に枝を伸ばした樹形となりやすい。雄株はすらりと枝を上方に伸ばしており、花粉を風に乗せて遠方に飛ばすには、この方が適している。」 【岡山理科大学 植物生態研究室】

 果実の重さで垂れているのかどうかは、イチョウの樹によく聞いてみなければわからないのかもしれないが、仮にこうした例があるとしたら、二次的な物理的な条件による例となり、本質的な雌雄二型とは次元の異なるものとなる。 
   
 
   左は都内日比谷公園のイチョウの1本で、細枝がたっぷりついた果実の重みで一時的に枝垂れた状態になっているように見える。

 しかし、ひょっとするとシダレイチョウの系統かも知れない。

 果実の重さは細枝が一層垂れることに貢献することは間違いないが、果たして太くなった枝にまで及んでいるのかはわからない。
   細枝が果実の重みで枝垂れたイチョウか?  
   
   イチョウの樹形の観察に関しては、本当は自由に枝を伸ばした自然仕立ての大木の並木で比較したいところである。神宮外苑のイチョウ並木なら確認できるかもしれない。とりあえずイチョウの樹形観察は継続案件としたい。 
   
   雌雄二形に関係しそうな3樹種についてみてきたが、残念ながら、いずれもガッテンには至らなかった。  
   
  【追記 2015.3】 皇居東御苑のイチョウの雄株と雌株
   イチョウの雄株と雌株の樹形の違いを実感できるいいサンプルを目にできないままになっていたが、皇居東御苑の百人番所の向かいに並んだの2本のイチョウが幸いにも雄株と雌株で、ボランティアガイドが樹形の違いの例として採り上げて説明していたので、以下に紹介する。 
   
 
 何れも枝が剪定されているが、雌株の方が枝がわずかに開いているような気がする。(ただし、この2本だけで一般化して理解するのは危険である。)

 また、ガイドによれば、この例でもわかるが、雌株は葉が雄株よりやや少なく、さらに雌株は黄葉や落葉も早いとして説明していた。

 この点についも、普遍性のある属性なのかは確認していない。

 経験則ではイチョウの黄葉については単に日当たりがよい方が早い印象がある。   
    イチョウの雌株(東御苑)     イチョウの雄株(東御苑)
   
  【追記 2017.11】 都内行幸通りと神宮外苑のイチョウ並木
   イチョウの雄株と雌株の樹形が異なるのか否かは引き続く個人的な宿題となっていたところであるが、面倒と思いつつも意を決して、雌雄株が混在する都内のイチョウの名所でその様子を確認してみることにした。   
   
 都内 行幸通りのイチョウ並木 
 
                       行幸通りのイチョウ並木 1
   
 
       行幸通りのイチョウ並木 2
 奥が東京駅丸の内中央口。広い歩道を挟んだ道路の両側がイチョウ並木(全4列)となっている。
        行幸通りのイチョウ並木 3
 中央の2列は比較的剪定が弱く、自然樹型に近い樹形となっていて、観察には都合がよい。 
   
   
枝が立ち気味の雌株の例 枝が広がり気味の雌株の例 
   
   
枝が立ち気味の雄株の例  枝が広がり気味の雄株の例 
   
 都内 明治神宮外苑のイチョウ並木  
 
       神宮外苑のイチョウ並木
 広い道路を挟んだそれぞれの歩道の両側がイチョウ並木(4列)となっている。
      神宮外苑のイチョウ並木
 この時期、恒例の「神宮外苑いちょう祭り」が開催される。 
   
   
 枝が立ち気味の雌株の例 枝が広がり気味の雌株の例 
   
   雄株と雌株に多少とも樹形の違いの傾向があればとの思いで、1人で当てっこをしながら徘徊したのであるが、残念ながら、イチョウの雄株と雌株の樹形の違いについて、一般的な傾向は全く確認できなかった。これはいくら修行しても困難であろうと思われる。これを以て本件は打ち止めである。

 イチョウの雌雄株に樹形の違があるのかなど、一般の人にとってはどうでもいいことであり、観察したイチョウ並木では、おじいちゃんやおばあちゃんが、散歩がてらに慎ましやかに銀杏拾いをしている平和な風景がしばしば見られた。