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続・樹の散歩道
 国内ではタネができないというムラサキカタバミと
 イモカタバミの様子を改めて観察する


 世界中に分布するというカタバミについては結実性がよくて、タネをピンピンと飛ばすことでお馴染みであるが、南米原産とされるムラサキカタバミイモカタバミはそれぞれ鱗茎塊茎で殖えるとされていて、国内ではタネが見られない。では、南米の原産国ではこれらが普通にタネをつけるのかについては国内の図鑑では全く触れられていない。そこで学名で検索を試みるも、残年ながら欲しい情報が得られない。とりあえずはこのことは先送りして、両者の花と根部を観察してみることにした。【2017.7】 


 雑草化して普通に見かけるカタバミムラサキカタバミイモカタバミについて、横並びで整理された同質の情報が得られす、睡眠運動(就眠運動)異形蕊性の種類毎の詳細は未確認である。
 雄しべについては上下2段に5個ずつついているのは共通しているが、雌しべの長さとの相対的な関係(一部は以下で確認した。)が一様ではないとか、例えばムラサキカタバミで長花柱花短花柱花中花柱花が存在するとした説明例(植物観察事典)をみたりするが、各種に等しく見られるものなのか否かを含め、それぞれの通性の詳細については未確認である。
 
 
 ムラサキカタバミの様子  
 
   南アメリカ原産のカタバミ科カタバミ属の多年草Oxalis debilis var. corymbosa
 観賞用として輸入されたものとされるが、広く帰化している。白い葯には花粉がなく、種子をつくらないで鱗茎で殖えることが知られている。生活域で小さな株が分散して存在する姿を普通に見られる。 
 
     
   
          ムラサキカタバミの花 1
 ムラサキカタバミは見た範囲ではあまり大きな株は見られなかった。
       ムラサキカタバミの花 2
 花を上からのぞき見ても、白い葯しか見えない。 
 
 
  ムラサキカタバミの花の内部 1
雄しべは上下に5個ずつあり、雌しべは柱頭が5個あり、輪状に並ぶ花糸の間から外に向けて出ている。
 ムラサキカタバミの花の内部 2 
 この花では葯のない短い雄しべのようなもの(仮雄しべか?)が別に存在しているように見える。
  ムラサキカタバミの雌しべと子房
 雄しべを取り去ることで子房の姿を見ることができる。
 
     
     ムラサキカタバミの葯と柱頭の様子
 白い葯は全く花粉を出していないことが確認できる。
  ムラサキカタバミの柱頭の様子
 緑色の柱頭は小さな突起に覆われている。 
 葉裏の縁の腺点
葉にはオレンジ色の腺点が見られる。
 
 
ムラサキカタバミの萼片の腺点 1
萼片の先端部にもオレンジ色の腺点がある。 
 ムラサキカタバミの萼片の腺点 2
 腺点部分の拡大写真である。葉、萼片の腺点は小斑点とも呼んでいる。 
   ムラサキカタバミの鱗茎 1 
 大小の鱗茎の様子である。オレンジ色の線が見られる。根は牽引根とされる。
 
 
   ムラサキカタバミの鱗茎 2
 小さな鱗茎が上側についている。 
  さび病のムラサキカタバミ 1
 カタバミでも普通に見られる。
  さび病のムラサキカタバミ 2
 オレンジ色の粒は夏胞子らしい。
 
 
 イモカタバミの様子  
 
   南アメリカ(パラグアイ)原産のカタバミ科カタバミ属の多年草 Oxalis articulata 。日本に戦後入ってきたという。色が鮮やかで、園芸的な利用もあるという。雄しべは花粉を出すが、果実は見られず、図鑑では塊茎によって殖えるものとされていて、結実性に関しては触れられていない。しばしば大群落をつくっていて、根際を見るとたくましい塊茎が地表をびっしり覆っている風景を見る。    
     
      イモカタバミの大群落(日比谷公園)
 強固な塊茎が盤状となっていて、他の植物の侵入を阻止しているように見え、イモカタバミ王国となっている。
      イモカタバミの花の外観
 イモカタバミは葯は黄色い花粉をタップリ出すが、なぜか結実しない。
 
 
   イモカタバミの花の内部 1 
 花糸と花柱には白い毛が多い。黄色い葯と緑色の柱頭が紅紫色の花弁、花柱、花糸に映えて美しい。 
  イモカタバミの花の内部 2 
 並んだ花糸の間から柱頭を出している。こちらの花では上下2段の雄しべが柱頭より上にある。 
   イモカタバミの雌しべと子房 
 子房は多数の白い毛に覆われている。
 
     
 
    イモカタバミの柱頭の様子
 緑色の柱頭には多数の小さな突起が見られる。
     イモカタバミの葯の様子
 上段の雄しべの葯で、花粉をタップリつけている。結実しないのが不思議である。
     葉裏の縁の腺点
 ムラサキカタバミの腺点より大きい印象がある。機能は不明。 
 
     
     地表に露出したイモカタバミの塊茎
 地表にモコモコと裸出していた塊茎の様子である。 
       イモカタバミの掘り出した塊茎 1
 塊茎の一部を掘り取ったもので、成長性かがよくわからない。
   
      イモカタバミの掘り出した塊茎 2 
 串団子状になった塊茎で、上側に重なってつくらしいが、盤状となった塊茎ではこれが横向きとなっているように見える。 
         イモカタバミ塊茎の断面 
 年季の入った古い部分の塊茎でもしっかりしているが、茎は出していないように見える。
 
 
 比較用:カタバミの様子  
 
   カタバミは世界中に分布するカタバミ科カタバミ属の多年草。 Oxalis corniculata
 花は朝開いて午後に閉じる一日花とする記述を見るが、午後に普通に開いているものも見る。個性的な種子散布(こちらを参照)をすることで知られており、根は普通の直根である。花が小さいため目立たないが、街路樹の植栽枡の中や建物の際などでもたくましくも慎ましやかに育っている姿を普通に見る。似たものに、北アメリカ原産のオッタチカタバミ Oxalis dillenii がある。葉や花の中心部に赤味があるものをアカカタバミ Oxalis corniculata f. rubrifolia と呼んでいる。
 
     
           カタバミの群落          カタバミの花の外観
 
 
     
     カタバミの花の内部
 目にした範囲では上段の雄しべと柱頭がほぼ同じ高さのものばかりであった。
   カタバミの雌しべと子房
 子房がスマートであるが、しっかり結実する。
   上から見た雌しべと雄しべ 
 柱頭部が上から確認できる。
 
 
      花粉を出した葯
 裂開して黄色い花粉を出している葯の様子である。
    花粉の付着した柱頭
 柱頭にはタップリと花粉が付着している。 
    カタバミの普通の直根
 カタバミはあくまで種子で繁殖する方針で、根は普通の直根である。 
 
     
  <参考メモ>   
 
 【花の大百科事典】
・ カタバミ属の多くの種では夜間や寒い天候のときに小葉が下方へたたまれる。
・ カタバミ属の多くの種は三型花柱性を示す。すなわち花は長い花柱と短い雄ずいと中くらいの雄ずいをもつか、中くらいの花柱と長い雄ずいと短い雄ずいをもつか、短い花柱と長い雄ずいと中くらいの雄ずいをもつ、異なった花型の間での交配のみ稔性がある。 

注:上記の内容は異形ずい性(異形花柱性)と呼ばれ、こうした花を異形ずい花(異形花柱花)と呼んでいる。
 
     
4    ムラサキカタバミとイモカタバミの結実性に関する情報  
     
   種をつけないムラサキカタバミイモカタバミの子房の断面を見ると、いずれも胚珠がカタバミのように並んでいる姿を見ることができる。    
     
 
 
  ムラサキカタバミの子房の断面
 
多数の胚珠が確認できるが種子はできない。    
   イモカタバミの子房の断面
 多数の胚珠が確認できるが、種子は見たことがない。
 (比較用)カタバミの子房の断面
 
こちらの胚珠は確実に種子となる。 
 
     
    ムラサキカタバミについては、そもそも花粉を全くつけないのであるから、鱗茎で勢力を拡大することで固い決意をし、端から実をつける気はないものと考えられる。明確に認知できる色の花は基本的に送粉者を利用するために存在するが、それに依存しないのであれば、既に花をつける目的を喪失しているのとみなされる。したがって、現在のまるで結実しそうに見える形態は、あくまで進化の途上の中途半端な状態にあり、進化の方向としては花をつけるのを完全にやめるのが究極の姿なのかも知れない。

 ただ、ムラサキカタバミについて、「日本では結実しない(野に咲く花)」としている例があり、この表現では、原産地ではまるで結実しそうなニュアンスとなるが、たぶん原産地でも同様と思われる。

 なお、ムラサキカタバミは小さな株が分散した状態で普通に見られるが、あくまで鱗茎で増殖するのであるから、人為的な土の攪乱や樹木移植時の土への混入によって小さな鱗茎(木子)が散らばることによるものと思われる。また、牽引根をもつとされ、周辺部に拡大することに役立っていると考えられるが、株が分散した状態となることには直接は貢献していないと思われる。
 
     
   イモカタバミはムラサキカタバミとは違って花粉をしっかり出すから、結実しないのが不思議な印象がある。原産国でどうなのかをまずは知りたいところであるが、情報が得られない。学名の捉え方がまちまちであるためか、一部で種子をつけることがあるとしている場合があるほか、たまに種子をつけるのはフシネハナカタバミであるとの一部の意見もあり、国内的にも真相がよくわからない。ひょっとすると、塊茎で安定した繁殖を実践していることから、ムラサキカタバミと同様に、結実しない選択・決意をしたのかも知れない。