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木の雑記帳
   黄色い材


 木材の色は、はもちろん濃淡はあるものの総じて黄褐色系がほとんどである。こうした中でマメ科の個性的な暗褐色系の材はよく目立ち、また、特に南方系の材で鮮やかな赤色系のものや、重厚な暗色系のものが多く見られる。さらに、まれに紫色のものがあったり、緑がかったものも存在する。また、中には特異な模様を形成するものがあって、例えば斑紋や縞模様が見られるものも知られているなど、実に多様である。しかし、いかにも黄色い木材というものはそれほど多くないことに気づく。【2010.4】


 その1 グミ科 Elaeagnaceaeグミ属類 Elaeagnus spp. 
 グミ材に関しては別項で採り上げたが、明るいプリンに似た穏やかな黄色で、実に魅力的で、しかも材質が緻密で仕上がり良好な優良材である。強度も充分で柄材にも適していて、グミ柄の鑿(のみ)のファンがいるほどである。できれば普段よく手にする道具、器具の素材として活用したい材である。
ナワシログミの木口 ナワシログミ
 その2 メギ科 Berberidaceae メギ属類 berberis spp.
 メギの和名は「目木」の意とされ、材にはキハダやオウレンの根と同様のベルベリン等のアルカロイドを含み、葉や木部を煎じて洗眼薬としたことによるものとされる。同属のフッケリーメギ含めて、メギ属の材はいずれも鮮やかな黄色を呈している。この材色はベルベリンに由来する。この物質名は科又は属の学名に由来する模様である。独特の匂いとベルベリン由来と思われる苦みがある。
 メギの黄色の材は寄木、木象嵌に利用される
 
 
メギの木口(皮付きの生材)  メギ(皮付きの生材) 
   
   
フッケリーメギの木口 フッケリーメギ
   
【薬用植物事典:村越三千男(福村書店)】
 メギの木部には「ベルベリン」約2%、その他「ベルバミン」、「オキシベルベリン」等のアルカロイドを含有する。
 生薬名「小檗」はメギの木部を採集して乾燥したものである。健胃薬とし煎用し、また木部及び葉を陰乾したものの煎汁で1日3,4回洗滌すれば大概の眼病を治するに特効があると云ふ。
【樹木大図説】
 メギ属の学名 Berberis は種実のアラビア語 berberia 、 berberys に由来する。
 メギの名は皮を煎した汁で目を洗うと眼病を治すことができるいうにより、目木目宜(注:「宣」ではない。)の文字あり。
 その3 メギ科 Berberidaceae ナンテン属類 Nanina spp.              
                   ヒイラギナンテン属類 Mahonia spp. 
 メギ科でもナンテン属のナンテンの場合は黄色味が弱く、淡黄色である。
 ヒイラギナンテン属のヒイラギナンテンホソバヒイラギナンテンの方が材の黄色味は強いようである。独特の強い匂いがある。
 シロミナンテンは白実の品種である。
ナンテンの木口 ナンテン
ホソバヒイラギナンテンの木口 ホソバヒイラギナンテン
   
 ナンテンの果実を乾したのを「南天実」といひ白実の方が賞用される、赤味の方は天日で漂白して白実のように見せる。セキ止めの効果は白実のものに限ったことではないから紅実を態々漂白して白南天に見せかける必要はない。果実にはアルカイロイドの一種ナンテニンを含む、苦みがあり漢方ではセキ、喘息、百日セキの薬とする。樹皮には4種の結晶性アルカロイドを含む、これは大脳及び知覚神経末梢を麻痺させる作用がある。葉を蒸留すると青酸を液中に検出する、漢方では葉を強壮剤としている。【樹木大図説】
 その4 ウルシ科 Anacardiaceaeウルシ属類 Rhus spp. 
                   ウルシ、ヤマウルシ、ハゼノキ、ヤマハゼ
  木材の心材色を染色に利用した古来の手法が知られている。ヤマハゼの黄色の心材を利用したとされる黄櫨染(こうろぜん)である。黄色みを帯びた茶色で、嵯峨天皇以降の天皇の位袍(いほう)の染色に使用されたという。ヤマハゼ(山黄櫨)とスオウ(蘇芳)の煎汁に灰汁と酢を加えて染めた色という。
  ハゼノキ(九州産)

 ハゼノキは木蝋採取を目的として日本へは導入栽培されたものとされるが、その時期についてははっきりしない。 心材は透明感のあるきれいな黄色である。
 
  ヤマハゼ

 小径木から採取したサンプルであるため、心材化した黄色の部分が少ない。色合いはハゼノキと同様である。
 本来的にはこちらがハゼノキで、木蝋が採取されるなど有用なハゼノキに名前を奪われて、ヤマハゼと呼ばれるようになったといわれる。
   
 ウルシ属のウルシ、ヤマウルシ、ハゼノキ、ヤマハゼのいずれも心材は黄色である。
 小径木に止まるヤマウルシ以外のこれら樹種の黄色の心材は、その個性を生かして寄木、木象嵌にも利用される
 ハゼノキの特異な用途として、弓の側木(そばぎ)としての利用がある。竹に挟まれた芯材の側面に使用するものである。
 弓の側木は土佐、伊予産のハゼにして心を去り辺心材の境界部を柾目に取りて用ふ【木材の工藝的利用】
 ハゼノキの材にフラボン系色素フィゼチン(fisetin)があるので染料に使われ、明礬媒染で橙褐色などを染める。【木の大百科】
 その5 ニガキ科 Simaroubaceae ニガキ属ニガキ Picrasma quassioides
 心材は帯紅淡黄色で、ときに黄色味の強いものがある。黄色味の強いものは寄木、木象嵌に用いられる。【木の大百科】
 全体に非常に強い苦みがある。
 
 
     ニガキの小枝の断面
 15年ほどの年輪でやっと中心部がオレンジ色になってきている。
        ニガキの縦断面
  (森林総合研究所木材データベースより) 
   
 皮部を除いた材部を日本薬局方「苦木」と呼び、苦味チンキ、ニガキエキス、ニガキ末を作り、苦味健胃剤として消化不良、胃炎、食欲不振等に用いる。【保育社薬用植物図鑑】
 材中に苦み質クワッシンを含んでいて、日本薬局方にも苦木としてあげられている。【木の大百科】
 以下の胃腸薬にはニガキ末が配合されている。
 石鎚山陀羅尼丸(松田薬品工業、発売:石川健康堂)、太田胃散(株式会社太田胃散)、健胃消化剤つくしA・M散(大正富山医薬品株式会社)、奥田胃腸薬(奥田製薬株式会社)、新タナベ胃腸薬(田辺三菱製薬)、菱明胃酸(明治製薬)