木の雑記帳
突然の“吐月峰”の焼き印
「吐月峰(とげっぽう)」が何のことかわかる人は少ないと思われる。郷里に帰った際に、ふつうに見かけるものとは少し印象の異なる竹製の孫の手が居間にあって、これを手に取って見ると「吐月峯」の文字の焼き印がある。はて、吐月峰といえば・・・・突然の古風な固有名詞を見て、たぶん名前だけを拝借した冗談であろう思った。しかし、これは冗談ではないことがわかった。【2009.5】 |
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紙巻きタバコの登場以来、煙管(きせる)を使う人はほとんどいなくなったから、これだけの説明では不十分で、「煙草盆」と「灰吹き」の説明も要る。 「灰吹き」は「灰筒」ともいい、煙管の灰を落とし入れるための竹の筒で、一服後に煙管の雁首を下に向けて、灰吹きの縁にコツンと当てて吸い殻を落とすという仕組みである。 灰吹きの用材としては、ほとんどが静岡県の吐月峰(静岡県丸子付近の地)の竹が使用され、これで製した灰吹き自体を「吐月峰」とも呼んだとされる。 「煙草盆」はこの「灰吹き」のほか、刻み煙草を入れる「煙草入れ」、火種の炭を入れる「火入」をセットにした盆(箱)で、持ち手が付いだデザインのものもある。 |
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煙草盆はかつての一般的な喫煙具で、庶民の日常生活・来客用、商店の店先の接客用として、さらには大名のご愛用品もあったという。 この煙草盆であるが、紙巻きタバコが普及する前の江戸時代まで見られた過去の文化と思っていたところが、正式の茶事の道具として、煙管を添えるかたちで現在でも生存していることを知った。用語としては「莨盆」(たばこぼん)の字を充てている例もしばしば見られる。 したがって、灰吹きも健在で、茶道の解説書(「炭道具・莨盆」:淡交社編集局編)によれば、灰吹きの口径は1寸5分、高さ4寸5分が標準で、一会ごとに取り替えるものとしている。 さて、吐月峰に話を戻すと、吐月峯の焼き印の入った孫の手の入手先を父に聞いたところ、柴屋寺に立ち寄ったときに購入したものであることがわかった。そこで、この吐月峰柴屋寺に早速電話をして、現在でも竹製品を販売しているのか否かを照会したところ、なんと!現在でも「吐月峰」の焼き印を入れた灰吹きを含めて竹製品を製作・販売しているとのことであった!! 江戸時代に見られた生活文化が絶えることなく連綿と続いていたのである!! ということは近年では正に茶道文化が支えてきたということなのであろう。聞くところによれば通常は(油抜きした)白竹により、また注文により青竹の製品も製作しているとのことであった。 正式の茶事での煙草盆(莨盆)に関しては、@寄付(よりつき:茶会の待合)、A腰掛け、B薄茶席(の3箇所)にそれぞれの品質や形状の異なったものを使用する(角川茶道大事典:角川書店)としている。さすがに最近では煙管で一服する人はほとんどいないと思われる。したがって、多分様式化された格調高い飾り物として、実用からは離れた存在になっているものと思われる。なお、茶会での煙草盆にはふつう二本の煙管もセットすることになっているそうである。茶道用品の店ではいろいろなタイプの煙草盆を見ることができるが、いずれも丁寧に作られた上質の工芸品で、価格も半端ではない。しかし、その一方でホビー感覚の比較的安い製品も販売されていた。 |
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時代劇で煙管をコンとたたく姿はなかなか粋なもので、だれでもちょっと真似したくなってしまうものである。また、遊女が差し出す「吸い付けたばこ」の情景にも憧れてしまう。 なお、灰吹きは見た目には竹の節を底にしただけの真竹の筒である。かつてはほとんどの灰吹きは吐月峰の竹が使われた(日本民具辞典)といわれるが、なぜこの地の竹の製品の評判が良かったのかは残念ながら不明である。灰吹きの材料に関しては、「木材の工芸的利用」では「灰吹には苦竹(真竹のこと)を用ふ淡竹(ハチク)は火の為に割るる欠点あり」とだけ記述している。 |
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【2012.1追記】 | ||||||||||||||||||||||
先に紹介し煙草盆は、いずれも日常生活の実用の具といった風情のものであったが、やはり、もう少し上質の、お客さんにも見てもらいたいという気持ちがにじみ出た工芸品的製品も存在した。 下の写真は、都内渋谷区の「塩とたばこの博物館」の展示品である。 |
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