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木の雑記帳 杖あるいはステッキの雑話 (杖の用材・材料など)
仙人は白いひげを蓄え、杖を手にするイメージが定着しているから、特に杖なしの姿は考えられない。たまたま道端で見かけた久米の仙人も、イメージどおりの姿で安心した。これを機に杖やステッキに関する日常的感覚を整理しつつ、最近のステッキ事情も調べてみた。【2009.11】 |
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久米の仙人はわが国の仙人の中では最も有名な仙人で、同時に親しみを持たれている。 その話は今昔物語集巻第十一(久米の仙人、始めて久米寺をつくれること)に登場し、広辞苑にも次のように要旨が記されている。 「大和国吉野郡竜門寺に籠り、仙人となったが、飛行中吉野川に衣を洗う若い女の脛(はぎ)を見て通力を失い、墜落した。都造りの材木運びに通力を取り戻し、賞に免田30町を得て久米寺を建てたという。」 わが国においては、お年寄り用の歩行の際の補助的支えとする棒を杖(つえ)と呼び、修験者、山伏が手にするものは錫杖(しゃくじょう。小型のものは手錫杖。)と呼んだ。ヨーロッパ伝来の「アクセサリー、おしゃれ用品としての杖」はステッキ(英語の stick スティックのなまり。)と呼ばれて、明治時代の文明開化の副産物として一時的に導入された歴史がある。アクセサリーとしてのステッキはほとんど定着しなかったが、実用品としての杖については常に一定の需要が見られる。しかし、「杖」の語に年寄り臭い響きがあるせいか、「ステッキ」の呼称が復活して優勢となっている。なお、登山やハイキングで利用される杖はストック(ドイツ語で杖の意)又はステッキと呼ばれ、強度・機能性に優れたものが普及している。 注:英語で杖は walking stick ,walkimg cane , あるいは単に cane (ケイン)と呼んでいる。 |
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1 | イメージとしての杖、ステッキ 誰かが目撃したわけではないが、久米の仙人以外にも伝説上の人物の図像のイメージが定着していて、杖がないと様にならないケースが多い。また、現在でも「○○の杖」の名の呼称はいろいろな場で健在である。とりあえず、思いつくものを掲げてみよう。 |
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■水戸黄門の杖 | |||||||||||||||||
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■七福神のうちの寿老人と福禄寿の杖 寿老人は鹿と仲良しのおじいちゃんで、福禄寿は鶴(時に亀)と仲良しのおじいちゃんであり、共に杖が手放せないようである。杖の材質を知ることは困難を極めるが、だれがどのように確認したのか明らかではないが、いすれも藜(アカザ)の杖であるとする噂がある。 ■久米の仙人の杖 この人気者のエッチな仙人の杖の材質に言及した記述情報は少ないが、やはり先のおじいちゃんたちと同様に藜(アカザ。全国に分布するアカザ科の一年草。)であろうと言われている。 ■金剛杖 富士山登山用の杖として売店で販売されているのは八角形のヒノキ製とされる。この形状に関する講釈もあるようであるが、何よりも角材の角を落とせばよいから、作りやすいのは間違いなさそうである。すべてヒノキかは未確認。 木曽御嶽山登山用の杖が御嶽神社や売店で販売されている模様で、聞いたところでは富士登山の場合と同様に八角形のヒノキ製であるという。 ■遍路杖(四国八十八カ所の霊場巡り用) 西国巡礼は和歌山の那智山青岸渡寺からはじまり、三十三番札所の岐阜県谷汲山で終わる霊場巡りで、手にする杖は「巡礼杖」という。【杖:矢野憲一】 遍路杖も巡礼杖も同様、どちらも錫杖とか金剛杖とも呼ばれ、一般的にはヒノキの白木の八角や四角の杖で、先達のそれには赤い印を付ける。【杖:矢野憲一】 遍路が行き倒れ果てた場合は、その杖を卒塔婆にしたという話があるそうであるが、だからといって最初からモミの木を使うことはないようである。 ■山伏の杖 手には錫杖(しゃくじょう)と呼ばれる銅や鉄などで作られた金属製の杖を持ち、その頭部の輪形には遊環を6個通しているという。 密教法具として小型のもの(手錫杖)が現在でも販売されていて、頭部は金属製で、柄部は黒檀製のものが多い。 ■おまわりさんの警杖(けいじょう) 警視庁規格仕様として、竹製、ビニロン帆布覆い袋仕立、長さ1,250mmとしている製品の事例を目にした。 ■吉田茂のステッキ 創業が明治15年で、現在でも銀座松坂屋の前に店を構える「銀座タカゲン」は日本で最初のステッキ専門店とされ、その製品は大隈重信や吉田茂も愛用したという【銀座タカゲン】。故人のステッキの素材は不明。なお、チャプリンのステッキは寒竹であったとする情報例を目にした。 ■魔法使いのおばあさんの杖 魔法使いが愛用する杖のための定番の素材があるのかについては確認できない。 ■マーキュリーの杖 別項で紹介したとおり、マーキュリー(メルクリウス。ギリシャ神話のヘルメス。)が手にしているのは一説にセイヨウハシバミの杖とされている。 ■モーセの杖 映画「十戒」のイメージが目に焼き付いている人が多いはずである。モーセが杖をかざすと突然海が避けるシーンには、みんな大喜びであった。もちろん荒唐無稽な伝説であることもみんな承知である。図像化されたモーセはまるで仙人のようであるが、アカザはインド又は中国原産とされ、アカザは合わないか?。 |
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2 | 販売されている杖の観察 |
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@ | シャフトの形態 (一本タイプ) シャフトに小細工のないタイプで、木製は当然ながらこのタイプだけとなる。 (折りたたみタイプ) 通常は四つ折りで、両端部がゴムで連結されている。分割されたシャフトは接続部分が差し込み方式となっているから、ポッキリ折れてこける心配はない。 (伸縮タイプ) 登山用ストック(ステッキ)は3段式が多いようであるが、街中の歩行用は2段式が多いように思われる。伸縮タイプは折りたたみタイプとと同様に、使わないときにコンパクトに収納したいという希望に応えたものである。 |
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A | シャフトの素材 | ||||||||||||||||
(木製) | |||||||||||||||||
国内販売されている木製ステッキの素材(用材)としては、カエデ(メープル)、クリ、サクラ、ブナ、カシ、ツバキ、ケヤキ、エゴノキ、ポプラ、ヒイラギ、アオキ、ヒッコリー、アッシュ、紫檀、黒檀、縞黒檀、カリン、ブビンガ、タガヤサン(鉄刀木)、スネークウッド、バウサンド、ボコテ、シャムガキ、ココボロ、レースウッド、サッチーネ、パープルハート、オリーブ、アッシュ、籐(トウ)等のほか、屋久杉、黒柿まで見られる。 ヨーロッパの製品例では、マカッサル、ローズウッド、パープルハート(バイオレットウッド)、ダイモンドウッド(DymondWood 強化積層材の商標名)、ココボロ、オーク(ナラ)、ブビンガ、ヒッコリー、ウォルナット、チェスナット(クリ)、チェリー、ラタン(籐)、ブラックソーンウッド、ゼブラウッド、ウェンジュ、アフロモシア、エボニーウッド(黒檀)、オバンコール、パドウク(パドック)、パープルウッドなどの名を目にする。 ステッキの素材に求められる基本的な機能は一定の強度であり、特定の樹種でなければならないというものではない。製品としても特に難しいものではないから、木製の場合は素材の質感や色合いを多くの樹種から選択できるため、製品は実に多彩な品揃えとなっている。 なお、かつては使用されたという「アカザ」は唯一の草本の素材である。 |
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(アルミ・アルミ合金製) 店頭で見ると、これが最も一般的で、輸入物の低価格帯のものも存在する。木製との最も大きな違いは、後に触れる多様な機能性である。 |
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(グラスファイバー、カーボンファイバー、チタン製等) アルミを含めて、テニスラケット等の素材の変遷・バリエーションと似ているが、テニスラケットに求められる性能ほどうるさいものではないから、これらが木製、アルミ製に対して機能性で圧倒的に優位にあるとは考えにくい。あくまで素材のバリエーション、選択肢として受け止めればよいと思われる。 |
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B | グリップの形態 国内ではグリップの形態を呼び分ける習慣が定着していないため、共通化した呼称は見られない。本場のイギリスでの呼称はほぼ定着している模様である。 |
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B | グリップの素材 木製のU字型は木材の曲げ加工による一体構造であるが、T字、U字では木製のほか、樹脂製が多いようである。輸入品のステッキでは鹿角、水牛角、銀製なども見られる。 注:持ち手の部分は、日本では一般にグリップと呼んでいるが、英語では一般にハンドル(handle)と呼んでいる。 |
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C | 表面仕上げ ・ 無地(単色、透明)塗装 ・ 総柄(花柄等)塗装 (注)アルミ系の場合はアルマイト塗装で、装飾的なエッチング処理がされたものも多い。 ・ 漆塗り ・ 綿布又は和紙巻きした上にコーティング 等 |
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杖の専門店は都市部にしか見られないが、ネット通販は実に盛んで、輸入物の高級品も多数販売されているのを確認できる。 |
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