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木の雑記帳
   木材の心材・辺材、芯持ち材、未成熟材の理解


 心材(赤身)」、「芯持ち材」等の語は自宅新築に当たって、時に芯持ち材か集成材かの選択等の意向を確認されれば、そもそもそれがどんなものなのか、その特性はどうなのかを聞くなどして、にわか勉強を始める中で接することになる単語のようである。その際に多分、心材の特性と絡めた説明が展開されることになるものと思われる。ネット検索で、これらのポイントを理解しようとしても、工務店等の説明ぶりが正反対の内容となっている場合もあることに気づく。【2010.9】


 話に入る前に、念のために基本単語の概念を確認すると、概略次のとおりとなっている。
 基本単語
心材  丸太の横断面で中心部の濃色の部分を心材(赤身(あかみ)とも)と呼ぶ。心材には心材物質が形成されていて一般に腐りにくい。【平凡社世界大百科事典】
辺材  丸太の横断面で外周部の色の白っぽい部分を辺材(白太(しらた)とも)と呼ぶ。辺材は養分が多く腐りやすい。【平凡社世界大百科事典】
(注)辺材は抗菌性の成分がないことで腐りやすいとする説明もある。
芯持ち材  年輪の中心を持った柱等の製材品で、一般的には径の比較的小さい丸太から製材すれば、必然的にこうなる。
芯去り材  年輪の中心をはずした材で、大径の丸太の製材により得られる。
未成熟材  中心からある程度の年数までは繊維の長さも短く、強度も小さく、製材しても欠点の出やすい部分が続くが、これを未成熟材という。針葉樹では中心から10〜15年輪程度とされている。【平凡社世界大百科事典】
注1:  未成熟材の外側を成熟材と呼ぶ。これらは心材、辺材の区分とは異なる。
注2:  専門的には、「成熟期の形成層によって形成された木部を成熟材、未成熟期の形成層によって形成された木部を未成熟材」と定義している。
     左:ヒノキ(直径36センチほど)
 径が大きくなるにつれて心材率が高まり、辺材部は相対的に減少する。
      右:スギ(26センチほど)
 この樹齢では、心材部のほとんどは未成熟材ということになるが、利用上の問題はない。
 さて、上記の用語に関して、古くからの定説として知られていることがあり、見聞きした範囲で改めて整理してみる。(ここで言う「強度」は曲げに対する強度を指すこととする。)
 定説メモ
@  心材(赤身)辺材より腐りにくく(耐朽性がある)、シロアリにも強い(耐蟻性がある)ことから、土台にも適する。
A  一般に(極端な場合を除き)年輪幅が狭い(年輪を見た場合、色が淡白で細胞壁が薄い早材が少ないことを意味する。)ほど材の密度が高く、強度が高い。(なお、広葉樹の環孔材ではこの逆の傾向が見られるという。)
B  同じ年輪幅でも、個体により強度の差が認められる。
C  断面で見た場合、中心(芯)から外周部に向かって強度が増す。
D  未成熟材の部分(10〜15年輪程度)は、百年経過しても強度は低いままで変化しない。もちろん未成熟材においても年輪幅が広いほどさらに部分強度は一般的に低下する。
(注)  余談ながら、未成熟材部分の全体を円柱として捉えると、同じ年輪数であれば、部分的な強度が低くても年輪幅が広く、直径が大きい方が全体としての強度は優るという。
 これらのことを頭に置いて、工務店等の説明の事例を概観してみる。
説明事例(以下、特にスギ、ヒノキを念頭に置いた針葉樹を対象とする。)
(1)心材と辺材の強度に関して
@  心材は樹脂が多く)、水分が少なく、強度、耐久性に優れる)と言う特徴がある。
A  心材は辺材に比べ強度も強く)、腐りにくく耐久性にも優れているため、主に構造材に使われる。土台や、柱などでヒノキやヒバなどの芯持ち材がよいとされるのはこのためである。
B  心材は辺材に比べ硬質で強度があり)、狂いが少ない)上、虫害を受けにくい。
C  心材は硬くて強度があり)、木の骨格を成すものです。虫がつきづらく、腐りにくいため、種に構造材に使われ、栄養分が多く虫がつきやすいとされる辺材は、主として板材に使用されます。
D  心材と辺材の強度を比較すると、色の白い辺材の部分が、強度的には優れている。
<気づきの点>
 心材は強度で優れるとする説明は誤りであろう。あくまで耐朽性に優れるもので、強度では辺材が優っている。小径木では心材部分のほとんど(又は全て)が強度的に劣る未成熟材である。一方で大径木となると心材の比率が高くなり、辺材は外周部に薄く存在するだけとなる。このため、この段階にあっては、心材、辺材と、ことさら論じる意味はなくなる。
 また、@の単に心材に樹脂が多いとする説明には疑問がある。心材・辺材の成分に関して、森林・林業百科事典には次のような記述がある。
 「糖類については辺材ではグルコース、フラクトース、サッカロース、デンプンが多く、心材ではキシロース、アラビノース、マンノースが多い。樹脂および油脂類については、辺材では脂肪酸が多く、エステル型が優勢であるのに対して、心材では樹脂酸が多く、遊離酸が優勢である。フェノール類は心材に多量に含まれるが、辺材ではわずかであり、配糖体として存在することが多い。」
心材はフェノール類に限らず抽出成分の多いのが一般。【近藤民雄】
(2) 芯持ち材と芯去り材の強度等について
@  芯持材は強度が強く)狂いが少ないため、通し柱には芯持材が使われる。
A  柱、土台、梁は芯持ち材を使う。芯は非常に強い)ので、芯だけでもたすことが可能です。
B  昔から構造材には、反り、曲がり、割れなど無垢材の癖が小さくまた強度があるので芯持ち材を使う。()一方、芯を持たない「偏材」は年輪の目が偏っており、強度も不安定なので、間違いなく大きく反りだす。
C
 当社の柱材は、強度が大きく、長持ちする極上の芯持材)(年輪の中心部分を含む、反り、ねじれがない木材)を使用しています。
D  芯持ち材は中心に芯があるので、ねじれに対して素直であるが、芯去り材は芯がないことでねじれやすい)。
E  同じ材であれば芯持ちよりも芯去りの方が強度がある。
F  木材での誤解で心材部分に強度があり辺材部分には強度が少ないと思われているが、これは逆で心材の中心は強度が小さく、芯持ちの柱材であることを何か強度があることのようにいわれているが、実はその逆である。(
G  一部の木材店や大工さんの中には「心持ち材は強い」という人がいますが,構造材として使う場合に、心持ち材と心去り材のどちらが強いかは一概にはいえません。これは木材の強度を決める因子は多く、心持ちか心去りかはその因子の一つに過ぎないからです。
 濃色の心材と淡色の辺材とでは耐朽性(腐り難さ)に違いがあっても、強度には影響しないと考えてよいでしょう。強度に影響するのは心材と辺材の違いではなく、樹心付近にできる強度が低い未成熟材です。現在,市場で流通している人工林で成育したヒノキやスギでは、樹心付近で年輪幅も広く、製材品中で未成熟材の占める割合が多くなり、むしろ強度が低くなる傾向にあります。したがって、必ずしも心持ち材が心去り材よりも強いとはいえないわけです。【日本木材加工技術協会関西支部】
<気づきの点>
 単純に芯持ち材が強度的に優れるとする正確性に欠けた説明が多い中で、客観的な情報も発信されている。
 芯去り材はねじれやすいとして、単純化して言い切るのは問題があると思われる。
 Eの評価は、大径木であることが前提になるであろう。
 Fで「逆」として明確に断定しているのは、言い過ぎの感がある。後述。
 Gは大学や研究機関の職員も参加する社団法人で、客観的な記述に努めた内容と思われる。
(3) 未成熟材について 
@  若齢木はほとんどが未成熟材で占められていて、強度の弱い低質材である。
A  芯持材の3寸角はほとんどが未成熟材で、強度が弱く、不安定である。
<気づきの点>
 木材の物性を論じる場合、「未成熟材」「成熟材」の語は一般的な用語であるが、木材業界では決して一般的な概念ではない。なぜなら、小径木やこれらに由来する製材品のほとんどが強度に劣る未成熟材で構成されていることを積極的に説明する意味がないことにもよると思われる。そもそも若い樹の材は成熟した樹の材質には及ばないのは仕方がないことで、要は求められる強度を満たした利用をしていれば全く問題はないし、これらを有効活用することが大切である。 
 未成熟材成熟材の語は、それぞれ英語の jivenile wood(若年の材), mature wood(成熟した材)の訳語として定着したものとされる。しかし、未成熟材の語は誤解を招きやすい訳語で違和感を持つ。「未成熟」の語の概念は未だ成熟していない状態を指すもので、今後成熟・変化する見通しのないものに対する呼称としては正しい使い方ではない。むしろ、「初期形成材」とした方が分かり易く、自然であろう。
 @のように「低質材」として切って捨てるような表現は適当ではなく、客観的に説明した方がよいと感じる。要は個々の素材の特性に適合した使いこなしは大切な技術である。
 Aのように言い切ってしまうのは先の(2)−Fと同様に危険である。育林方法でも違いが生じ、例えば、ある程度密に植栽して育てたスギでは、未成熟材の占める比率が低下する。
 こうしてみると、木材は長きにわたって利用されてきた素材であり、物理的な特性に関しても多くの知見の蓄積があるにもかかわらず、基本的な物性に関する業界での理解に関しては怪しさを感じてしまう。こうした実態がある以上、木材に関わる研究者、研究機関が、一般向けに概念を整理して、より分かり易い情報を発信することに一層の努力を願いたいものである。

 木材を構造用素材として改めて見ると、実に合理的な構造であることに気づく。ミクロに見ればミクロフィブリル(糸状のセルロース分子)の多層構造の細胞壁を持った長い細胞が構成単位となっていて、年輪を見れば多数の重層的パイプ構造が強度を高めていて、外周部の強度が高いこと自体も強度を高めるいわばパイプ構造となっていることがわかる。

 ところで、初期形成材(先ほど「未成熟材」を改名した呼称)が強度で劣るとされていることについて、これを植物たる樹木として改めて考えると、この物理的な特性に関しては生理的な必然性があるように思われる。初期形成材の構造を見ると細胞壁のミクロフィブリル傾角が大きい(細胞壁を構成する繊維があまり立っていない)ことが大きな特徴とされ、これは言い換えると、若齢木や先端部では柔軟性を優先して樹体を保持しているといえるのではないだろうか。そして樹体が大きくなるにつれて、外周部の剛性を増しパイプ構造の効果で巨大な樹体を保持していると考えるのが自然であると思われる。つまり、樹木がその成長の過程で、樹体を保持するための合理性、必然性の中で、初期形成材の存在を認知し、表現すべきであると思われる。
 この認識に立てば、ことさら「初期形成材が強度で劣る」と言うのでは適当ではなく、「初期形成材以降に形成される材は次第に強度(剛性)を増していく」と表現するのが自然であろう