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都内で目にするシイノキはすべてスダジイ(イタジイ)で、ツブラジイ(コジイ)を見ることはない。九州ではツブラジイが多かった記憶がある。両者の分布に関しては、スダジイの方が広く、ツブラジイはやや西に偏っているようである。両者の識別は、通常は堅果で識別されていて、果実がない時期の初対面の時は大径木であれば樹皮の外観でおおよそ推定されている。まずは念のために両者の記述情報を整理しよう。 |
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スダジイの樹皮(都内・中径) |
スダジイの樹皮(綾町) |
スダジイの樹皮(都内) |
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スダジイの花(都内) |
スダジイの花(都内) |
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スダジイの雄花序(都内) |
スダジイの雌花序(都内) |
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スダジイの殻斗(岡山県) |
スダジイの堅果(岡山県) |
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ツブラジイ(綾町) |
ツブラジイ(大分市) |
ツブラジイ(伊豆市) |
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ツブラジイの花(大分市) |
ツブラジイの花(大分市) |
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T |
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スダジイとツブラジイの概観
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分布
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スダジイは福島県・新潟県(佐渡)以南の本州、四国、九州、済州島の範囲に生じ、ツブラジイは伊豆半島以南の本州、四国、九州、南朝鮮に分布する。南の方ではスダジイは沿海近くに多くツブラジイは内陸に多い。【木の大百科】
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A |
ツブラジイはスダジイと比較すると、より内陸に多いが、しばしば生育場所が接触し混生していることもある。四国や九州にはツブラジイとスダジイの中間型があり、ニタリジイ(南九州)とかハンスダ(高知県)などと呼称されていたが、これは両種の雑種と考えられる。【日本の野生植物】
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B |
スダジイとツブラジイ重複する太平洋側の地域では、海岸付近にはスダジイが多く、標高が上がるとともにツブラジイが多くなり、さらに標高が上がると再びスダジイが多くなる。
【山田浩雄(森林科学第46号)】
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C |
スダジイは日本の海岸沿いに多い。ツブラジイは近畿から四国にかけて多くみられる。
【平凡社世界大百科】
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樹型
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樹幹はツブラジイの方は割合通直であるが、スダジイはやや形が悪い。【木の大百科】
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A |
ツブラジイの枝は細繊、葉梢薄く、梢小形。スダジイの枝は粗大。【樹木大図説】
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外観
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樹皮 |
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スダジイの樹皮は早く縦の割れ目が入り老木ではそれが深くなっていく。ツブラジイは若いときは比較的平滑で年数を経ると多少浅い割れ目が入る程度である。【木の大百科】
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A |
葉 |
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・ |
ツブラジイの葉はスダジイよりやや小さく薄く、手ざわりで判別可能。【樹に咲く花】
(注) これは、Cで触れているように、表皮の厚さの違いに由来している模様である。
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B |
堅果 |
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・ |
スダジイの堅果は卵状長楕円形で先が鋭く尖り、ツブラジイでは広い卵形で先が尖り大きさが小さい。ところが両者の中間のものが自然に出てきてどちらとも決められないこともある。これらは方言でニタリジイ(南九州)、ハンスダ(高知県)、オコジイ(鹿児島県)などという。【木の大百科】 |
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・ |
スダジイの果は長楕円形、味は劣る。ツブラジイの果は梢球形、味まさる。【樹木大図説】
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C |
顕微鏡的特徴 |
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スダジイの葉の表皮組織は2層からなるのに対し、ツブラジイの場合は1層からなる。【日本の野生植物(平凡社)】 |
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同じ葉の中で表皮組織の層数が1層部分と2層部分が混じり合っている個体も観察される。こうした中間タイプは必ずしも両種の交雑に由来するのではなく、それぞれの種内変異の可能性や浸透性交雑の可能性がある。【山田浩雄(林木遺伝資源情報)】 |
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4 |
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材の特性・利用
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シイは一般に狂いが生じやすい。特にツブラジイは狂いが多く,また割れやすい。材の耐朽性はスダジイは普通かやや低い程度であり,南九州ではむしろ耐朽性の高い方の部類として扱われることもあるが,ツブラジイは著しく低いとされる。シイノキの材はくすんだ色で狂いが出やすく耐久性もあまりよくないので,一般的には優良な材として扱われない。ことにツブラジイはスダジイにくらべて数段劣るものと評価されている。炭としてもツブラジイは劣るといわれている。【木の大百科】
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A |
材は普通薪炭材(此炭は立ち消するをもって下等なり)と為すも其上等なるものは縁板,建築材,土台(之に用ゆる地方あれども保存期短),砂糖樽の榑木(くれき→へぎ板),諸器具用材,艪腕(ロワン),艪臍,塩浜にて用いる塩柄杓の柄,斧鉈の柄,農具の柄及荷棒等に用ゆ 又皮去りの円材は外面に縦皺多く稍(やや)ソロノキ(アカシデ)に似たるを以て床柱となす 又此皮付の生木は椎茸を養成する料とす
【大日本有用樹木効用編】
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B |
ツブラジイの材は集合放射組織が明らかで割裂しやすい。
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C |
スダジイは材質優良である。ツブラジイは材質劣る。【樹木大図説】
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D |
ツブラジイは特に保存性が低い。一般的にツブラジイはスダジイに比較して材質的には劣っている。
【須藤】
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E |
ツブラジイは材質は落ちる。【上村】
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F |
ツブラジイはスダジイの材に比ぶれば、やや劣るといわれる。【牧野】
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G |
家具には大部分ツブラジイを使う。【宮本】
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H |
山林用鎌柄では横の部分が長い下刈り鎌はシイ材が適している。【土佐西山商会カタログ】(同社では椎の鎌柄を現在でも取り扱っている。)
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I |
スダジイの材は椎茸のホダ木にする。スダジイが使われるのは材が腐りにくいことに加えて、樹皮に刻みが多くて椎茸菌の活着がいいこともある。
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シイノキの材は従前から材質的な評価が決して高くないため、その利用についても地味で、薪、木炭原木、枕木(スダジイ)、土台、道具柄材、しいたけホダ木、パルプ用材等に利用されてきた。かつて、九州の国有林では、シイノキを含めて利用が低位にあった広葉樹の需要拡大のため、直営製材工場でフローリングを製造・供給した歴史がある。現在でもそれほど需要は多くはないと思われ、まれにシイノキのフローリングを製造・販売している事例を見かける程度である。
しかし、かつては「椎絞り」、「椎丸太」というものがあったようである。
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U |
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椎絞りと椎丸太
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椎絞り(しい絞り、シイ絞り)
「椎絞り」に関しては全国銘木連合会の発行による「銘木史」に詳しい。その記述の概要は以下のとおりである。 |
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シイを使った磨き丸太は昔から数寄屋建築での使用例が知られているが、昭和40年代に、高知県の幡多郡大方町及び中村市で、住宅用床柱としてツブラジイの材面に出る「椎絞り(椎絞とも表記)」に着目した磨き丸太が生産・出荷された歴史がある。
シイの床柱(椎絞の磨加工)は高知県の業者によって開発され、昭和50年代半ばまで出回っていたが、スギの人工絞丸太に押されて、残念ながら市場性を失ったとされる。
生産の過程は、@原木の煮沸(2時間から2時間30分)、A皮むき、B砂洗い(砂みがき)、C天日乾燥、D背割、E防腐処理、F天乾、G漂白等と手間がかかり、出荷までには2か月以上を要したという。 |
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どこかの住宅で、間違いなくこの磨き丸太は健在であると思われるが、現物を見る機会がないため、手近にあったツブラジイの小丸太を剥皮して、その外観を確認してみた。
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写真右上: |
ツブラジイの樹皮は比較的平滑であるが、内部にこうして絞り模様が良く出ているものがしばしば見られる。高知県での床柱の生産に当たっては、山中でよい絞が出そうな原木を選んで伐倒し、一本一本担ぎ出したといわれる。樹皮の外観のみでどのように選木したのかはわからない。 |
写真右下: |
年輪のかたちが表面のしわ模様と相似形で、まるで花模様である。自然の乾燥ではこのように割れが生じるため、柱とするためには背割りが不可欠である。 |
写真左: |
剥皮してオイルフィニッシュとした。当時の椎絞りの磨き丸太は、これに近い雰囲気だったのであろう。なかなかいい感じである。市場では価格競争に敗れたとされるが、現在では既に床の間のある住宅自体が激減してしまっている。 |
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椎丸太
シイノキの丸太であれば、「椎丸太」であるが、特定の用途に供したもの指す呼称(俗称)として、この名称を目にした。少々古いが和漢三才図会である。
【和漢三才図会】椎子(しい) −抄−
「凡そ椎の木心は白樫に似て粗く理(きめ)微黒、堅に似て蛙(むし)いり易く屋の柱と為すに堪えず、唯(ただ)繊(ほそ)長き木を用ふ、椽の用と為す、俗に椎丸太と云ふ」
【和漢三才図会・平凡社版口語訳】
「およそ椎の木心は白樫に似ていて粗く、理(きめ)は微黒。堅そうにみえるが蛙(むし)がくい易く、屋柱にはできない。ただ繊(ほそ)長い木を椽(たるき)の用材とするだけである。俗に椎丸太という。」
積極的に利用したという雰囲気ではなさそうである。
シイノキは資源的には比較的多いにもかかわらず、その材、製品に触れる機会は全くない。工芸材料や家具材料として、よほど使いたくない素材なのであろう。しかしここまで嫌うのも気の毒であり、シイ材の地位向上の努力を期待したいものである。とりあえずは、改めてニマ工法で器を試作することを考えているところである。 |
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