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木の雑記帳
  幻のサビタのパイプ
   サビタパイプとは一体どんなものなのか


 ノリウツギを図鑑等で調べると、大抵の場合、北海道ではこの樹のあるいはを利用してパイプあるいは煙管(キセル)を作ったとする説明を見る。北海道ではこの樹をサビタと呼ぶことから、「サビタのパイプ」と呼んできたという。戦前までは存在したともいうが、展示物としても現物を目にしたことがない。ということは、もはや図鑑の中だけでその伝説が生きているのであろうか。【2012.4】


 
 ノリウツギのおなじみの花             ノリウツギの花
 賑やかな両性花を装飾花が取り巻いている。
   
 ノリウツギ  Hydrangea paniculata

 ユキノシタ科アジサイ属の落葉低木。

 北海道から九州までのどこにでも見られる。
 内皮にぬめりがあって、これが和紙を漉く際の糊料とされてきた。

 材は非常に堅く、ウツギと同様に木釘(木クギ)に利用される。
 
 ノリウツギの若い葉  
   
   まずは、記述情報の確認である。特に木材の利用に関しては、図鑑類では通説を簡単に掲載しているだけであるから、本当は「サビタのパイプ」が現役であった時代の現物を認知した上での具体的な記述が存在すれば嬉しいのであるが、詳細に講釈している資料はなかなか見つからない。 
   
 図鑑等での記述例

 図鑑等での記述例は以下のとおりである。 
   
 
@  【大日本有用樹木効用編】(明治36年) のりのき:
 材は木釘を作るに用いられ又此樹は木心に細孔あるを以て近年(注:出版年は明治36年)パイプを作るに用ゆ而して奇形の處は根部にあれども小刀を以て切目を入れ再び癒着せしめて人工的に奇形を作るに至れり此くの如くして作りたるパイプ及び杖は北海道の名産となれり 
A  【木材の工藝的利用】(明治45年) のりのき:
 材白色木心に細孔あり其肌理精緻にして殊に奇形の部分を好んで利用す 喫煙用パイプ,洋傘,洋傘柄 
B  【増補版牧野日本植物図鑑】(昭和15年初・昭和34年増補) ノリウツギ:
 幹の内皮を以て製紙用の糊を製す、故に和名を糊空木或は糊の木といふ。又北海道にてはサビタと呼ぶ、故に其根材を用いて造れるパイプサビタのパイプと云ふ。 
C  【樹木大図説】(昭和34年) ノリウツギ:
 茎よりステッキを、よりパイプを作る。さびたのパイプ」は北海道の名産品である、アイヌ人はこれで煙管の雁首を作る。  
D  【北方植物園】(朝日新聞社 昭和43年) ノリウツギ:
 サビタ(ノリウツギ)の材は木クギにできるほど硬く、これで作ったパイプやステッキは、アイヌ細工の中でも早くから知られ、特に日高沙流川流域の製品は人気を集めた。また、この木で、クマ祭の花矢のチロス(矢じり)、キセル、火ばしを作った。・・・サビタのパイプは、ニコチンが徐々に浸透して、象牙のパイプのようにアメ色になる。戦前にはこの逸品がかなりあったが、今では姿を消してしまった。 
E  【北大植物園HP】 ノリウツギ:
 ノリウツギの茎や根には太い随が通っておりストローのようになっているので、それを利用して煙管(パイプ)やステッキなどが作られ北海道や日光の名産品にもなっています。和名はかつてこの木の皮から製紙用の糊(のり)をとったことから、糊を取るウツギ(中が空の木)に由来するほか、ノリノキ(糊の木)、ネリキ、トロロノキなどとも呼ばれています。北海道ではサビタと呼んで、これからとれる糊は「サビタ糊」「北海道糊」として高級紙を作るのに利用されていましたが、名前の由来ははっきりしていません。 
   
    次に、民俗(族)学的な出版物での記述例は以下のとおりである。
   
 
F  【アイヌの民俗】(更科源蔵 みやま書房 初出不明)
煙草も酒と同じ本州から持ち込まれた葉煙草がもとのようであるが、石狩川筋や鵡川では河原母子草(シルシノヤ)の枯葉をすったといい、煙管はのりのきので、セレンボとか木煙管(ニキセリ)というパイプを作ったが、大陸から入った雁首の大きいものも出土するから、大陸渡来も相当古いようである。煙草入れは木をくりぬいて文様を彫った、胴乱風のものが見られる。
 
G  【アイヌ民族誌】(昭和44年 第一法規出版(株))
 アイヌは煙草を倭人から購入する以外に、みずから栽培して使っていた。またイタドリの葉、ぶどうの葉、よもぎの葉、とうきびのひげ等、いずれも乾燥して細かく刻んで、煙草の代用品として喫煙に用いた。
 喫煙用具には、アイヌ自製の煙管(ニキセル)、煙草入れ(タンパクオップ)、火打ち金(ピウチ)、火打ち石(ピウチシュマ)などがあった。
 ニキセルは、くびの曲がったさびたの枝などで作った木製の煙管で、現今の煙管より皿が大きく、長さも40cmくらいあった。各自の手製品で、明治時代から対象末年頃まで、今の年寄りの父親の時代には、盛んに使われていた。
(注)ニキセリ、ニキセル等の異文化の導入品の呼称は、日本語の転訛によるものとされる。 
H  【アイヌと植物 樹木編】財団法人アイヌ民族博物館(1993.3.31) ノリウツギ:
 「・・・煙管にも使った。適当な小枝を採ってきて皮をむいたら、中芯の部分は柔らかいので針金を使って、ポイパポイパ(poypa poypa ・穴を開けるように掘る)すると、先は針金が抜けていって穴が開く。フチたちは10本も20本もそれをつくって、束ねて乾かしておいて、煙管が割れたらまた替わりに使うようにしてたくさん持っていた・・・(織田ステノ氏)。」
(写真の掲載あり〜後出)  
I  【分類アイヌ語辞典】(第一巻植物篇:知里眞志甫 1953.4.1、(財)日本常民文化研究所)ノリウツギ:

 ・  各地で煙草をのむ煙管をつくるのに用いた。 この木の茎には太い木髄が通っているので、それを利用して煙管(ni-kisiri )をつくった。
 ・  樺太の眞岡でこれで羅宇を作りそれに頭をつけて煙草を吸った。
(注:「頭」というのは、多分雁首別に作って羅宇に継いだ構造のものがあったのであろう。石製の雁首も存在したことが知られている。) 
 ・  十勝の足寄では「カムイ・キセリ」kamuy (神)- kiseri (煙管)といって、熊祭の際に熊の頭の前に置いて熊の霊に喫煙せしめる二叉の煙管をやはりこれで作った。(図の掲載あり〜後出) 
 ・  各地で火ばさみを作った。 
 ・  各地で槍柄の継ぎ棒を作るのに用いた。(槍・矛・銛の柄と穂先とを継ぐ尺餘の棒を北海道では専らノリウツギの材で作った。)  
   
   上記資料で「サビタパイプ」の形態を伺える記述内容をそのまま整理すれば以下のとおりである。 
   
 
形態区分  説 明 関係資料
西洋パイプ風?(検証を要する) 根部を利用したブライヤーパイプ風のデザインが想定されていると感じるが未確認。  @ A B C 
煙管(キセル)風    枝部で全体を構成したもの。  F G H 
枝部を羅宇(らう、らお)とし、雁首(火皿を有する先端部)を継いだ形態  CI 
二叉のによる二叉の煙管 (祭祀用)
 
   記述情報からわかること
 
 以上の資料は、必ずしも民俗(族)学的な調査に基づく記述というわけではないから、写真も少ない中では、「サビタのパイプ」の具体的なイメージ自体もわかりにくい。

 そこで、想像をたくましくして、サビタパイプの由来を描けば、概ね次のようになろうか。
 
 ・  アイヌが和人を経由して喫煙を知り、交易で煙管(竹の羅宇と金属の火皿、吸い口を有する内地物)も入手できた。
 ・   和人の煙管は上質で耐久性もあり、最適のものであったが、これを入手し難い場合は、元々煙管のラウ(羅宇)に適した竹の存在しない北海道にあって、簡便な喫煙具として枝を中空にできるノリウツギ(北海道名サビタ)を素材として和人のキセル(煙管)を模した(ノリウツギ製の一体型の)煙管を自作して日常使いとし、呼称もまねてキセリ(ニキセリ、イキセリとも)と呼んだ。
 ・  時代が下って、アイヌは生活のために和人を相手に各種木工品の販売をすることが一般化して、このキセルも工芸品として販売されることもあった。 
   
 なお、サビタの奇形の根部を利用したとする製品(パイプ?)については疑問があり、後回しとする。
   
   記述情報でわかりにくい点 

 先の資料でわかりにくい点の一つ目は、パイプの語と煙管(キセル)の語が明確に使い分けられていないと思われることである。中にはパイプとキセルの両方の語が登場している記述(F)もある。よく知られているとおり、キセルは非常に小さい火皿を持つ雁首を有する喫煙具で、専用の細い刻みタバコを使用するものであるのに対して、パイプは一般には大きめのボウルを持っていて火皿の容量がはるかに大きい外来の喫煙具で、やはり専用のパイプたばこ(肺喫煙はしない)を使用するものであり、両者の形態は全く異なり、喫煙方法も異なるものであることから、両者の呼称は使い分けないとわかりにくい。

 わかりにくい点の二つ目は、ノリウツギの枝と根の両方が登場することである。枝であれば、枝の分岐した部分の曲がりを雁首とし、枝は随を抜けばそのままはキセルのらお(羅宇。「らう」とも。)と同様の管となるであろう。一方、資料の@〜C、Eはいずれも根部でパイプを作ったとしている。本家のブライアーパイプの素材はツツジ科の特定樹種の根部が利用されるが、日本では外来パイプが広く一般化した歴史はない。したがって、仮に根部を利用したものが本当にあったとしても、それは外来パイプの形態のものではなく、あくまで珍奇な形態の雁首をもった煙管と理解した方が良いと思われる。残念ながら根部を使用した製品は見たことがないし、ひょっとして、ブライアーを素材とした西洋パイプのイメージから来る誤解である可能性がある。そもそも、素材にこだわり、丁寧に作られたものは、少なくとも展示品として残されているはずであるが、ブラヤーパイプ風のサビタのパイプなど今までに見たことがない。したがって、「サビタのパイプ」は「サビタのキセル」と呼んだ方がよい(正しい)のではないかと思われる。
   
 
注1:   日本では両切りの紙巻きたばこを差し込んで固定する喫煙具であるシガレットホルダー」( Cigarette Holder 「たばこホルダー」とも)も習慣的にパイプと呼んできた経過がある。
 Eの「日光の名産品」は確認できないが、本州では普通の煙管が広く普及していたから、ノリウツギの煙管を作る必然性があったとは思えないことから、これはシガレットホルダーであった可能性がある。
 また、Fの記述で「象牙のパイプのように」とある象牙のパイプは、かつてはしばしば見られた象牙製のシガレットホルダーのことであろう。
 
注2:   キセルは英語でも Kiseru であるが、英語の説明では Japanese smoking pipe となって、パイプの語が登場してしまうのは仕方がない。 
   
   さて、想像力は既に枯渇したことから、あくまで現物を確認したく、民俗博物館的施設での展示を探索することとした。 
   
   現物探索

 まずは北海道開拓記念館(札幌市)では収蔵品はあるようであるが、常設の展示品としては目当ての製品は確認できなかった。

 そこで次はアイヌ民族博物館(白老町)である。辛うじて煙管(アイヌ語でキセリニキセリニキセル)とこれを腰に差す固定具(煙管差し)とこれに吊すたばこ入れ(アイヌ語でタンパクオプタンパクオップ)がセットになった製品が1点だけケース内展示されていたが、木製煙管(樹種の明示なし)の先端の火皿部分は見えるが、全体が確認できない。そこで仕方なく時間調整のため、この博物館に隣接して軒を連ねていた木彫り製品の店を覗いてみると、

 何と!博物館展示と同様のセット品が販売されていたのである! (但し、ウン万円である。)

 聞くところによると、アイヌの系譜の者の所有物であったとのことである。
   
 
 
 
     アイヌのニキセリとタンパクオプの販売品

 
要はアイヌの手づくりによる木製煙管木製煙草入れである。樋のようにやや湾曲した板状のものが腰に差す煙管差しで、穴に煙管を通せば雁首部が懸かって固定され、さらに吸い口部は煙草入れの紐で固定される。
 煙管の樹種は同定できないが、随を抜きやすいノリウツギや、最初から空洞となっているウツギ等以外は考えにくい。  

 雁首の部分が継いであるのがわかる。この部分は材がどんなに堅くても火で傷むから、こうした仕様も合理的なものともいえる。煙管差しと煙草入れにはいわゆるアイヌ模様の彫刻が施されている。
   
  <参考品:アイヌ民族博物館展示品> 
   
   これは、煙管を煙管差しにセットした状態となっている。木製煙管の雁首部分だけが見えている。煙管の樹種については特段の説明書きはない。

  
 
 
    財産法人 アイヌ民族博物館 北海道白老郡白老町若草町2-3-4
   
 
注:  腰差しできる煙管の(筒状)収納具と煙草入れを携行用のセットとした形式は内地では古くからあるもので、アイヌの用具は和人のこれら用具を摸したものであるが、デザインでアイヌ化されている。
   
   図像・画像探索

 決して多くはないが、アイヌ関連の書籍で、写真や図を確認することができた。しかし、ノリウツギの根部を利用したものは一切確認できなかった。 
   
 
 アイヌ民族博物館編集発行の「アイヌと植物<樹木編>」のノリウツギ(アイヌ語名ラスパニ)の項で掲載されているニキセリである。やはり枝の分岐部分を火皿とした形態である。
前出資料H関連)) 
   
 
   分類アイヌ語辞典 第一巻植物篇(知里眞志甫)掲載の例である。 説明は前出資料Iのとおりである。

 枝を利用した形態であることは伺えるが、枝の着生部で分岐するケースは見たことがないし、素材の加工に関してはよくわからない。
 
   
 
   左の図像は、「アイヌ考古学研究・序論」(宇田川洋 2001.4.20、北海道出版企画センター)が既存文献から転載しているもののうち、アイヌの木製の煙管とされているもののみを抽出したものである。 
 
 1:  松浦武四郎「手塩日誌」1857 樹種不明
 2  犀川会編 1933 ノリウツギ製
 3:  犀川会編 1933 ノリウツギ製
 4:  犀川会編 1933 雁首は石製、羅宇の樹種不明
 5  ヒッチコック 1985
 6:  ヒッチコック 1985
 7:  ヒッチコック 1985
 8:  美幌郷土資料館編 1983 樹種不明
 9:  白老民族文化伝承保存財団編 1989 樹種不明
10:  白老民族文化伝承保存財団編 1989 樹種不明
11:  函館博物館編 1987 樹種不明
12:  函館博物館編 1987 樹種不明
13:  函館博物館編 1987 樹種不明
 
 樹種の鑑定はこの手の研究の鬼門となっていて、上記のうちの2点だけがノリウツギとされている。

 多分、何れもノリウツギウツギではないかと思われる。形態的にはすべて枝部を使用したもので、根部を利用したものは全く見られない。
 
:    図の「10」の煙管は、資料H関連で掲載した前出の写真と同一品と思われる。図では樹種不明としていて、資料Hではノリウツギとして取り扱っている点で、扱いが一致してない。
 一般に、光学顕微鏡的な観察でノリウツギが確実に同定できるのかは確認していない。
    
   ノリウツギの枝の実際の様子

 
次に、煙管の素材とされたというノリウツギの枝の様子を確認する。
 これまでに登場したような煙管を作るのに適する枝が普通に採取できるかのかについて、
ノリウツギの枝振りを観察するに、火皿部分を加工するのに最適な曲がりを有する枝は、それほど多くないようである。 
   
 
    ノリウツギの枝

 生材を剥皮したところ、割れが入ってしまった。経験則である。 
   
   上の写真は、ノリウツギの2年枝の分岐部に曲がりのある枝のサンプル(剥皮済み)である。煙管ができなくもなさそうであるが、ひとつ気になる点は、髄が極めて太いことである。  木取りについては追記を参照
   
 
  1:ノリウツギ1年枝
  外径13mm、髄11mm

2:ノリウツギ2年枝
  外径18mm、髄11mm

3:ノリウツギ数年もの
  外径28mm、髄7mm

4:タニウツギ
  外径10mm、髄4mm
  髄は中空

5:ウツギ 
  外径7mm、髄4mm
  髄は中空
   
   上の写真の1〜3はノリウツギの枝の断面である。ノリウツギの枝はその名前にもかかわらず空洞にならないで、発砲スチロール様の太い髄があり、1年枝ではほとんどがスカスカの髄で、煙管の素材にならない。年数を経ると髄は細くなるようである。2年枝でも羅宇としては髄が太すぎる印象で、数年経過して髄が細くなったものは削って目的の太さとするのが面倒そうである。こんなことで苦労するよりも、ウツギを羅宇として、堅木で別途作成した雁首を継いだ方が品質としては上回るような気がする。

 なお、ノリウツギは髄が太すぎて、底が絞られた火皿ができないのではとの心配の声が上がりそうであるが、実は曲がり部分は髄が細いため、枝部だけでも火皿ができないことはなさそうである。   * 実際の木取りについては追記を参照
   
   再びノリウツギの根部を利用した煙管、パイプのの存在について

  ノリウツギの根部を利用したパイプや煙管は確認できなかったが、先にも触れたとおり、そもそも仮に存在したとしても、一般的な存在ではなかったのではなかろうか。

 つまり、外来パイプの最もオーソドックスな素材であるブライアーホワイトヒースの根部を利用していることから、これが先入観となって理解が混乱している可能性が考えられる。

 また、サビタ(ノリウツギ)の奇形の根部を利用した“煙管”の存在を可能性として考えたが、こうしたものも、覗いた博物館でも書籍の図像・写真でも全く確認できなかった。付加価値を高めるべく、いくら手を加えようとも、実用性の観点では金属製の雁首と吸い口を持つ煙管にはかなわないし、ノリウツギの空洞が生じるのは枝の随であり、根部を含めた素材からどうやって煙管に仕上げるのか、想像しにくい。
 
 木材の工藝的利用や大日本有用樹木効用編で、根部の利用に関して申し合わせたような表現でやや具体的な記述があるのは気になるが、根部を利用した煙管やパイプに関しては、とりあえずは決して一般的な製品ではなかったと受け止めておきたい。そして、呼称についてはごく一般的に存在した「サビタのキセル(煙管)」の語のみを使用することとしたい。
   
<参考:ブライアーパイプの素材> 
   
 

   たばこと塩の博物館
   東京都渋谷区神南1-16-8
 ブライアーパイプの素材となる大きなブライアーの原木。ツツジ科エリカ属 Erica arborea エリカ・アルボレア の根部とされる。地中海沿岸に分布し、ホワイトヒースWhite heath )の名がある。
(たばこと塩の博物館展示品)
 ブライアーBriar root , Briar wood)の材は非常に堅く、耐熱性がある上に、杢目が交錯して美しいため、喫煙パイプやナイフの柄の素材として好まれている。
(たばこと塩の博物館展示写真) 
   
 
 ブライヤー材は工芸用素材としても一級品の美しさで、 撫でさすり大切にされるパイプの素材はもとより、高級万年筆の軸の素材としても広く利用されている。
ブライヤーパイプの製品例  
   
<メモ> 
    
   なお、「サビタ」、「パイプ」の語で画像検索をすると、何と(当たり前かも知れないが)、ノリウツギの花の画像に加えて、ひどく錆びて薄汚れた鉄パイプ≠フ写真が多数ヒットした。まあ仕方のないことである。 
   
【追記1】 
   
   道内各地の資料館にはアイヌの喫煙具の収蔵はある模様であるが、常設展示となっているか否かは確認しなければわからない。たまたま覗いた旭川市博物館で展示品を見ることができた。素材の樹種については、材面を見ただけで同定できる人はいないから、特に表記は見られなかった。もちろん、根部を利用したと思われるパイプは見られなかった。 
   
 
 
            煙管差しと煙草入れ             木製煙管
   
 
      木製煙管の吸い口部 

 上の木製煙管の吸い口部のアップ写真である。鈎状のものは展示用固定具である。見てのとおり、髄に由来する空洞の径は非常に小さいから、ある程度の太さの枝から削り出したものと思われる。

旭川市博物館
旭川市神楽3条7丁目旭川クリスタルホール内
   
【追記2】 
   
   目からウロコの以下の資料の存在を確認した。

  アイヌ生活文化再現マニュアル 喫煙具【タンパクオプ・ニキセリ】
  財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構(2011.3)

 これはよくできた資料で、煙草入れ(タンパクオプ)煙管(キセリ、ニキセリ)及び煙管差しの3点の製作を北海道沙流郡平取町の工芸家 貝澤幸司氏(平取町二風谷 つとむ民芸店)が再現した作業工程を解説付きで収録したDVD(60分)と書籍で構成したもので、個人的には特に煙管の木取りについて確認することができたのは有益であった。
 再現作業で使用していた素材は次のとおりである。

 煙草入れ: イタヤカエデ
 煙管差し: 同
 煙管  :
ノリウツギ(サビタ。アイヌ語ではラスパ)
 緒締め : 鹿の角
 紐   : オヒョウ(アイヌ語ではアツ)の内皮を編んだ紐 
 
   
   煙管の材料としていたノリウツギの木取りは、下図のように、枝プラス着生部を含めた状態のものを使用していた。   
   
 
    この形態であれば、火皿を持つ雁首部分の形成の自由度があり、好みの大きさ、形状に彫って仕上げることが可能である。もちろん、火皿の底を心配する必要もない。

 枝部分の髄を抜くには、熱した細い鉄の棒(針金)を差し込んで、火皿の底までの煙道を確保していた。

 枝は2年枝と思われる。最後まで気になるのは、やはり髄が太いため、ひょっとこ口でくわえることになりそうな点である。できれば吸い口は口になじみやすい細めの素材を継ぎ足した方がよい。