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木の雑記帳
 
   パーシモンの嘆き
             


 日本でパーシモンと呼んできたのはもちろん、かつてのゴルフクラブのドライバーやフェアウェイウッドのヘッドの適材として利用された木材である。アメリカからの輸入材で国内各メーカーもこれに依存していた。しかし、ヘッドの素材は20年も前から飛距離、機能性に勝る金属系にシフトしてきて、パーシモンのウッドはもはや完全に絶滅してしまった。ホンマの高価なパーシモンのクラブも商品価値はゼロになってしまったのである。 当時は木を知り尽くしたクラフトマンが素材を厳選し、丁寧に削り上げた製品であったはずであるが、需要がないのであれば市場価値はない。理屈ではわかるが、何ともむなしいものである。【2007.9】 

 パーシモンはアメリカ中部・東部・東南部産のカキノキ科カキノキ属の樹木(Diospyros virginiana)を指して日本で呼んでいるもので、英名は Common persimmon 、和名としてはアメリカガキの名がある。ただし、米国(メキシコにも分布)には別に Texas persimmon (Diospyros texana、和名でメキシコガキとも)も存在する。

 パーシモンの材は重硬で強靱、非常に緻密である。その硬さと仕上げの良さ、均質性から、米国では特にその辺材部を旋削、カンナ台、靴木型、ビリヤードキュー、織機用シャトルとして、そして何よりも以前はゴルフクラブヘッド素材として他に代替が不可能なものとして賞用されてきた。(心材部はベニヤ単板ほか特定の用途に供されてきた。)【USDAFSほか】 

 国内のゴルフクラブメーカーでは、一時期は日本各地の農山村の庭先に散在するカキノキ(ヤマガキ)の大径木を物色して利用した実績があるようであるが、量的なまとまりもないことから専ら米国産のパーシモンに依存してきた経過がある。

 しかし、そのウッドも金属系素材に置き換わって久しく、パーシモンのクラブは例えホンマであれ、それが新品であれ、かつて数十万円したものであれ、一部コレクション需要を別にして実用品としての需要は皆無となってしまった。したがって、中古ゴルフクラブ店でも需要のないパーシモンのクラブは全く置いていないのが普通である。ただ、小さな店ではタダあるいはタダ同然で店先で放出している場合がまれにあるようである。

 普通、実用的な木製品、工芸品であれば価値が低下することは考えられないし、資源的に先細りとなって供給が減少すればむしろ価格が跳ね上がるのが普通である。これに対してゴルフクラブはその目的に照らした機能性が第一義的な評価の主たる尺度であるため、かつてはその物理的な特性がクラブヘッドに最適とされたパーシモンも新しい素材の出現で突然地獄に突き落とされてしまったわけである。各社とも相当の素材ストックがあったものと思われるが、宝の山がゴミの山に転じてしまったのか・・・・と心配したが、一部は何とパークゴルフのクラブ素材として現在でも利用されているようである。パークゴルフのクラブヘッドとしてパーシモンを使用する必然性があるのかよくわからないが、せっかくの素材の生きる道、大切にされる用途が少しでもあるのは幸である。

 ある小さな店の屋外に複数のパーシモンの新品ドライバーがタダ同然の価格で寄り添っていたため、気の毒になって、ヘッドを文鎮として使ってあげることにした。ご存じの通り、ソールが湾曲していることから安定性を確保するため、透明のクッションゴムを4つソールに貼っている。できれば、塗装は全部剥がして素材の感触がよくわかるオイルフィニッシュとしたいが、面倒なため、まだそのままとしている。
        ドライバーヘッドの文鎮
 
 クラブヘッドの素材としての木材について詳細に論じた書き物はあまり見かけない。できればパーシモン全盛期にホンマで活躍した職人の講釈、蘊蓄に接してみたいものだが、どうも職人は寡黙なようである。以下はたまたま見つけた出版物の抜粋である。

【参考 1】クラブ考現学佐藤 勲(昭和63年9月25日、廣済堂出版) −抜粋−
@  ウッドヘッドにサンザシ(バラ科の落葉樹)やリンゴナシブナ等が使われた時代があったが、軽くて堅牢なことにおいてカキを上回るものは少ない。
A  単なる木目(注:意味不明)は柿の木の幹の高いところでも採り得るが。根元に近い方がヘッドとしては良質である。
B  アメリカのパーシモンは北米から中米に欠けて広く自生し、ルイジアナ、アーカンサス、ジョージアに至るまでの広大な土地に分布している。中でもミシシッピー川の流域の柿が珍重されているのは、寒冷地の柿材の質がよいとされているからであり、流域の高地で育ったものをアップランド・パーシモン、低地に育成したものをスワンプ・パーシモン等と呼んでいる。
C  木目の美しさを競うならアオダモも捨てがたい。
D  ケヤキなどで作られたヘッドでも堅くて美しい木目があるが、重さと割れる確率が高いという。

【参考 2】森林資源有効活用促進調査事業報告書(1987年 日本住宅・木材技術センター)
 (国産のカキの利用に関して)カキが好まれる科学的根拠についてはあまり明確な回答は得られなかったが、共通して言えることは、打音がよいこと、重さが適当なことである。この他には、ボールに対する反発力が大きい、バランスがとり易い、木目の良さ、材料の入手し易さなどであった。