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木の雑記帳
  鉛筆用の補助軸の使い勝手


 ちびた鉛筆をギリギリまで使うための補助軸(おしゃれにペンシルホルダーペンシルエクステンダーとも)は昔から知られているが、普及価格の製品を対象として、最近の様子を確認してみることとした。文具は元々趣味的な要素もあって、高価格の製品はきりなく存在するのがふつうであるが、けちをする道具にそもそも高級品は馴染まないし、そのようなものには全く関心はないから、例えばドイツの何とかと言うメーカーの製品は当然ながら対象外である。
【2013.11】 


   身近なところで見た範囲では、古典的なタイプの製品は変わらずに存在したが、中には迅速に鉛筆をセット可能な製品もあり、安いながらも可能な工夫が加えられていることがわかった。以下は試した製品の事例である。   
     
     
     
   
     
     
 
 @  ABS樹脂(生産国:中国、ダイソー扱い)鉛筆補助軸

 仕組みは、食い付き部(4つ割れのチャック構造)を持った内側の筒をねじで繰り出して、先端部を少々絞った外側の筒先に押しつけることで鉛筆が固定される方式である。プラスティックのグリップ感は素材に由来する普通の感触で違和感のないのはよかったのであるが、強度に問題があり、程なく食い付き部分と外筒の先端部の両方に多数の割れが生じて、全く使い物にならなくなってしまった。製品の台紙には確かに「強くしめすぎると破損の原因となりますのでご注意ください。」とあるが、少し強く締めた途端に絶命してしまうのでは情けなく、何とかしてもらいたい製品である。頂部の半端な消しゴムなど省略して、
材質の改善を図れば使いやすい製品になり得ると思われるだけに、残念なことである。
 なお、クツワ(株)が同じ製造者によると思われる消しゴム部が省略されたタイプの製品(STADのロゴ入り、75〜95円)を扱っている。 同様に非常に優しくだましだまし取り扱うことが求められる製品である。
   
 A  真鍮・クロムメッキ(生産国:日本、ダイソー扱い)えんぴつ補助軸

 
古典的なタイプで、価格が安いからそれなりの仕様である。先端を絞った回転部のねじ機構で食い付き部(3つ割れ)を締める方式である。本体・回転部ともクロムメッキの薄い真鍮製の筒で、型押しのねじである。弱点はクロムメッキの回転部がすべりやすくて締めにくい点である。加えて、素材の制約から食い付き部の滑り止め加工がないこともあって、鉛筆保持力は弱い。すべりやすい回転部がグリップ部にもなるため、グリップ感はよろしくない。仕方なくスコッチプラスチックテープを巻いて改善した。当初の状態で使うのは少々つらい製品であるが、歴史的には価格見合いの品質として特に変わることもなく、また、利用者も選択肢がなくて受け入れてきたのであろう。生産国は日本としているが、不思議なことに、生産国を中国としている@の製品と全く同じ消しゴムが付いている。
 なお、 
同じ価格帯で、スチール製(ニッケルメッキ)の同様のデザイン(消しゴムはレンガ色)の日本製の製品をクツワ(株)と銀鳥産業(株)が扱っている。よく見ると両社が扱う製品は全く同じで、特定の事業者が供給していることがわかる。
   
 B  アルミ(生産国:日本、サンスター文具(株)扱い)グリップ付補助軸Sect S5020018 126円

 仕組みはAと同様であるが、回転部にシリコンラバーのグリップがあるため締めやすい。非常に軽くてシンプルながら、不安を感じたひょうたん型のグリップが意外や持ちやすく、不思議と鉛筆保持力も強い。
実用品としての基本的な機能については全く問題がないことがわかった。ただし、少々柔らかくて粘るグリップのゴムの感触は好みが分かれると思われる。なお、頂部の色の付いた部分はABSのただのキャップである。
 サンスター文具の扱いで、この製品を若干グレードアップしたと思われる製品「グリップ付補助軸 PRO 」(生産国:中国、189円)が存在し、シリコンラバーグリップがより大型になっていて、グリップ感の向上を図ったものと思われる。 製品は現在欠品状態のようであるが、
グリップ部を回転させて締めるタイプの標準的な製品となりうる印象である。
   
 C  アルミ+真鍮(生産国:中国、クツワ(株)扱い)補助軸 RH004 210円

 価格見合いでAの材質・仕様を向上させるとこうなるといった製品である。ねじ部はオスメスともしっかりねじ切りしたもので、アルミの
回転部には複目の滑り止めがあるためキッチリ締めやすい。さらに食い付き部(4つ割れ)の内側に加工の際の筋目があるため、保持力は強い。実用品としての機能は問題ないが、個人的にはヤスリ目調の粗い滑り止めがグリップ感として馴染めないため、またしてもスコッチのプラスチックテープを巻いて補正した。 
   
 D  アルミ(生産国:中国、クツワ(株)扱い)ワンプッシュ鉛筆ホルダーRH010 399円

 頂部を押せば食い付き部が開き、離せばバネで戻って鉛筆に食い付く仕組みで、シャープペンシルや芯ホルダーのチャックと同じ原理である。これを使うと、例えば@Cの手回しで締めるタイプがもどかしくなる。食い付き部(6つ割れ)の内側にはしっかりした滑り止め加工があり、鉛筆保持力も強い。ただし、グリップ部は環状の複数の溝があるもののアルマイト加工のツルツル仕上げですべりやすいのは惜しい。
機構としてはこのタイプの先導的な製品となりうるものだけに、残念である。仕方なくまたもやスコッチのプラスチックテープを巻いて改善した。なお、頂部のキャップを取れば消しゴムが付いている。製品は4色ある。 
   
 E  ポリプロピレン(生産国:中国、(株)ソニック扱い)補助軸 グリッペンSK-112 315円

 これは他の製品と全く異なる機構で、まさか低価格の製品でそのアイディアにビックリするとは思わなかった。
 仕組みは、回転繰り出し式で鉛筆の長さに応じて出具合を調整すもので、鉛筆の収まる穴の奥がテーパーとなっていて、鉛筆を単に差し込むだけで固定されるというものである。食い付き機構なしで鉛筆が固定された状態となるのは全く新しい発想である。繰り出し機構のおかげで、強い筆圧がかかっても鉛筆が引っ込むことは絶対にない訳である。
使用してみるとグリップ感もよいのであるが、残念な点は、鉛筆の差し込み口について、太めの鉛筆にも適応させたのか径がやや大きいため、普通サイズの鉛筆を差し込んだ状態では遊びが生じてガタつきが見られることである。そこで、仕方なく先端部を火で熱して少々絞ることでガタつきを解消したところ、快適な使用感が得られた。これは基本的な機能にかかわることであり、改良が望まれる。なお、おまけとして、同じ回転繰り出し式の消しゴムが頭に付いている。製品は4色ある。 
   
 F  ステンレス・ラバー塗装(生産国:日本、(株)伊東屋扱い)
  ヘルベチカ ペンシルエクステンダーHJGK1〜4 379円又は525円
 

 文具の老舗である銀座 伊東屋の企画による補助軸(製品の呼称はエクステンダーとしている。)である。基本的な構造は@と同様であるが、グレードを上げたステンレスの円筒を使用しているため、@の様に情けない割れが生じることはなく、ギザのある頂部のつまみで鉛筆をキッチリ固定することができる。鉛筆の出し具合を調製して左手で仮押さえし、その一方で指の掛かりがよく回しやすい頂部を右手で回して締める操作はACの場合よりもはるかに自然な動作の流れとなることを実感できる。本体のラバー塗装とやらは、エラストマー樹脂のコーティングと違ってベタつき感がなく、手の感触はよい。ただし、グリップ部分はねじ部分がそのまま利用されているため、握った指にはクッキリとねじ模様が転写してしまって、感触はよろしくない。例のテープを巻けば補正できる。製品の写真の下に並べたものは、食い付き部(3つ割れ)を持った内側の筒を引き出してみたものである。ギザのある頂部のつまみ部分がまるで削り出したソリッド材のように見えるが、一体の薄い筒を加工したものである。
デザイン的にはこの製品が最もシンプルで洗練された印象である。製品は4色ある。
 なお、価格の差は納品時期の差に由来するのと思われる。 

   
G  ポリプロピレン・ラバー被覆 (生産国:不明、(株)トンボ鉛筆扱い)
  ippo クリップ・グリップ 210円

 
これもEと同様に他に例のないユニークな製品で、端をつまんで口を開き鉛筆を挿入するというクリップ方式である。取り扱いが簡単な点はD、Eに匹敵する。素材はポリプロピレンで、やや厚めにエラストマー樹脂を被覆している。
 製品の区分としては名称にあるとおり、あくまで「グリップ」で、新品の鉛筆の長さでも使用できるのは上記の製品群にはない特徴となっている。説明書きでも、「補助軸にもなり、2センチの鉛筆にまで使用できる」としていて、補助軸の機能は形式的には従としている。
 手にすることで鉛筆自体はキッチリ固定され、また、グリップ機能そのものについては何ら問題はないのであるが、軟質の被覆樹脂のベタつき感がやや強く、またこれに起因してゴミをよく吸着してくれる点は個人的には少々気になり、この点を
改善してもらえば、このタイプの先導的な製品となり得ると思われる。
 
 
注1:  鉛筆補助軸は国内の製品名として鉛筆ホルダーペンシルホルダ− pencil holder 、ペンシルエクステンダー pencil extender の名も使われている。ただし、英語としては pencil extender の方が一般的なようであり、 pencil holder の語は、どちらかというと鉛筆立ての意で使用されることが多い印象である。 
注2:  グリップ部の素材について、ラバー、シリコンラバー、エラストマー樹脂、 TPE(熱可塑性エラストマー)等々いろいろな表記を目にするが、わかりやすい共通の区分表記方法がないような印象である。
 
     
    以上のとおりである。

 いずれも普及価格の製品であり、高価格の製品の質感を楽しむことにこだわるのでなければ、実用品としては一部に致命的な問題があったものの、安心のレベルのもの、若干の改良で問題を解消できるものが見られた。

 しかし、総じてグリップ部の感触に関して、あまり神経が使われていないという印象があった。グリップ感のみについて言えば、 違和感のないのはBEのみ(@は除外)であったのは、少々残念であった。鉛筆補助軸は、文具としては地味でマイナーな存在であるが、子供達が使う可能性も高いから、使いやすさと持ちやすさ、手に対する馴染みやすさの観点で、可能な範囲でもう少し優しい配慮が欲しいところである。 
 
     
 
 余談1:筆記具のグリップの素材についての気づきの点

 最近の高級品以外の日常使いの筆記具に関しては、グリップがやや柔らかめのシリコンゴム、合成ゴム、エラストマー樹脂等々の表示のある多様な素材が使用されていている。手にした感触としては製品によっていろいろであるが、個人的にはあまりに柔らかくて、ベタつき感があるものや、このことに起因してほこりがベタベタ付きやすい素材は好きにはなれない。
 さらにグリップ感として最悪なのは、指に少々力を入れただけで、グリップ素材が偏って浮きが生じてしまう製品である。
 本当のところは、個人的にはグリップ感、手の感触として、しっとり感のあるエボナイト調の質感あるいは少々かためのゴムの方が好みである。多くの人がフニャフニャでベタベタのゴムが好みとは思えないのであるが・・・

 余談2:鉛筆の芯の実質的な使用率はどれほどなのか

 普段、手書きの場合は鉛筆かシャープペンシルを使用しているところであるが、シャープペンシルではその構造から芯がほとんど無駄にならないない合理性に改めて感心する。しかもメカニズムの進化で、最後の残芯さえも随分減少した。
 これに対して、鉛筆に関しては削りの頻度にもよるが、果たして、どれだけの芯を粉にして廃棄しているのか、ふと気になってしまった。こんなことを研究した者はしないと思われるが、感覚的には半分以上は当然で、ひょっとすると70〜80パーセントは無駄になっているような気がする。なぜなら、鉛筆の芯の利用部位は、中心の限られた部分だけとなる宿命があるからである。こう考えると、何とも贅沢な筆記具である。と言いながらも1ダースが百円の製品もあるから、ものの言い方がふらついてしまって定まらない。

 また、近年、環境配慮の受けをねらって、再生プラスティック、廃材、木粉+樹脂の鉛筆とか、古紙の鉛筆まで登場しているところであるが、やはり、シャープペンシルに切り替えた方が環境に優しいのであろうと考えたり(0.9ミリは書きやすいが、0.3ミリの方が明らかに省資源である。)、あるいは中国産等の激安鉛筆の圧力に耐えて国産鉛筆をがんばって作っている会社があるし、木を削る感触はやはり捨てがたいなどとあれこれと考えたりするのであるが、見通しとしては鉛筆のシェアの減少は避けられないのであろう。 
(注)  実はシェアをどうやって計算するのかはわからない。現実的には単に鉛筆とシャープペンシル芯それぞれの国内生産量に輸入量を加えた合計値の推移を指標として比較すべきか。