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 木の雑記帳  木材の名前の魑魅魍魎

           ややこしい木の名前
 
  樹木には唯一の学名があり,また日本語の標準的な和名が一般的に使われているところであるが,商品としての木材,木製品となるとこれは商売の世界となり,本来の種の代替材あるいは類似のものについて,本家と紛らわしい名称が意図的に使用されているケースが多い実態にある。これは木材に限らず,流通や小売りの世界に共通する習性で,本来的にはルールが必要であるが,とりあえずは多少の知識を持った方がよいと思われる。
 
ここでは,その他参考として,よく耳にする木材の名称もリストアップしてみた。



名 称 説       明
アカマツ(ロシア産) マツ科マツ属 Pinus sylvestris
ロシアから輸入される欧州アカマツ(ヨーロッパアカマツ)を指している。ヨーロッパから輸入される同種は業界ではレッドパイン(「レッドパイン」を参照)又はレッドウッド(「レッドウッド」を参照)と称している。建築材。
アラスカヒノキ @国内流通上のアラスカヒノキ
マツ科トウヒ属。米材。 Picea sitchensis
ヒノキ類ではなく,トウヒ類である。商品の広告でこの名称が使われることがある。木材としては一般に単にスプルースと呼び,ほかにベイトウヒの名もある。英名はシトカスプルース Sitka spruce ほか。建具材等。
⇒ 新カヤを参照。
A和名としてのアラスカヒノキ(流通上ベイヒバとも)
ヒノキ科ヒノキ属 Chamaecyparis nootkatensis
Alaska cedar(米国)、Yellow cedar(カナダ)等の英語名がある。
イースタン・レッド・シーダー ヒノキ科エンピツビャクシン属。米材。 Juniperus virginiana
レッドシーダー,エンピツビャクシンとも。
⇒ レッドシーダーを参照。
インセンス・シーダ
(インセンスシーダー)
ヒノキ科ショウナンボク(オニヒバ)属。米材。 Libocedrus decurrens 
日本の鉛筆材料で,米国から輸入しており,この名称は英名のまま。ペンシルシーダー,オニヒバとも。なお,鉛筆材としては,かつてはエンピツビャクシン(米材。レッドシーダー,イースタンレッドシーダーとも)を使用していた。
ウェスタン・レッド・シーダー ヒノキ科ネズコ属。米材。 Thuja Plicata
木材としては一般にベイスギと呼び,従前から輸入されており,ホームセンターではウェスタン・レッド・シーダーの英名でウッドデッキ用材等として販売されている。
オーストラリアヒノキ ヒノキ科カリトリス属。オーストラリア産。 Callitris intratropica
流通名は,サイプレス又はハードサイプレス。オーストラリア東部のグレートディバイディング山脈西部に生育するヒノキ科カリトリス亜科の木材で,オーストラリアでは内装,外装材に幅広く用いられているという。エセンシャルオイルはコバルトブルーで Blue Cypress と呼ばれる。
(注)ヒノキ科イトスギ属のイトスギもサイプレスと呼ばれ、イトスギ油はエセンシャルオイルとしても知られる。
サクラ 家具に加工されると,ミズメ,カバ類はサクラと商品表示される。現在家具や建築内装の方面でサクラといっているものはマカンバが多く,本当のサクラ属の材であることはほとんどないという。なお,逆に樺(かば)細工の皮はヤマザクラである。
雑カバ 北海道における原木取引に際しての業界用語で,ウダイカンバ以外のカンバ類を指す。(ダケカンバ等)
シャムツゲ フウチョウソウ科。タイ,ミャンマー,カンボジアに分布。
材色は黄色。木理均一。将棋駒では中級品用の原木で,印鑑,櫛にも利用される。かつては暹羅黄楊(シャムロツゲ)と呼んだ。
新桂(しんかつら) アガチス(ナンヨウスギ科。東南アジア産)を指し,碁盤将棋盤に加工した場合,製品の広告ではなんと新カツラとなる。
新カヤ スプルース(米トウヒ)で碁盤将棋盤を作った場合になんと製品は新カヤと表示されている。
新欅、新ケヤキ 碁笥(ごけ。碁石を入れる木製のふた付きの丸い容器)、神棚和家具の商品説明でよく見られる。ケヤキではないことを明示していることになる。まれに碁笥で中国産のナツメであることを明示している例が見られたが、通常、これが本当は何なのかは明示していない。前出同様誠実さに欠けた呼称である。
杉(中国の場合) 中国で〈杉〉といえばスギ科のコウヨウザンを指すが,スギ科樹木のほかに冷杉,雲杉(以上マツ科)などのように語尾に杉の字のつくものは,たいてい針葉が松と柏(かしわ=ひのき類の常緑樹の総称)の中間ぐらいの長さのものである。【百科】
タイワンヒノキ 台檜とも。ヒノキの変種(var. formosana)。従前からヒバとこの台湾ヒノキにはヒノキチオールガ含まれ,国産ヒノキには含まれないとされてきたが,その後,国産ヒノキでヒノキチオールの存在を確認したとする報告があるという。
ナンテン 南天は「難転」につながることから縁起物とされる。このため,「南天」,「茶南天」,「白南天」といった表示の透明塗装の箸がスーパーや百貨店の家庭用品コーナーでは必ず目にすることができる。しかしながら,これらのほとんどは輸入材,さらにはこれを漂白したもの(⇒白南天)といわれる。縁起物といいながら,これほど広範に平然とウソ表示がまかり通っていることは驚くべきことであり,業界の悪習の典型である。一方で,本物の南天を使用した箸であるとして販売されている製品が一部に見られる。
ナンヨウカツラ アガチスの日本での別名。その名のとおり,カツラ材の代用として引出の側板として見かけるほか,建築の内装,ドア材としてもよく見かける。素人目には広葉樹としか思えないが,針葉樹であるという。
南洋キリ ファルカタの別名。マメ科の南洋材。 
モルッカンソウとも。ふかふかかさかさした軽い木で,素麺の箱によく利用されている。
南洋ザクラ 東南アジアのアカテツ科のニャトウ(ナトーとも)の別名。家具材で知られる。
ナンヨウスギ1 ナンヨウスギ科の針葉樹。アフリカを除く南半球に16種が広く分布する。ニューギニアのA. cunninghamii (英名 hoop pine,Moreton Bay pine)が一般にナンヨウスギと呼ばれているもので,建築材として利用される。
ナンヨウスギ2 昔はアガチスのことを南洋杉とよんでいたという。
ナンヨウマツ メルクシマツ(スマトラマツとも)を指す。マツ科マツ属。
インドネシアの造林木から製造した集成材やその家具を目にするが,商品としては他のマツ類と同様に単に「パイン」としている。  
バーチ ヨーロッパ(北欧)から輸入されるカバ材の家具製品の素材表示を,業界ではカバと(国産のカバ類でも絶対にカバとは表示しない。)せずに英語のバーチBirch(カバ)としている。
ハードパイン マツ属のうちの複維管束類は二葉松(が多く)類ともいうが,辺材,心材の区別および年輪界が明らかで,材質が硬く樹脂分が多いので硬松類 hardpine(pitch pine)ともいう。
パイン 製品の素材の表示を「パイン」としている場合は,米国産の複数種のマツ類,インドネシアのメルクシマツ,欧州・ロシア産のヨーロッパアカマツ等がある。
パラウッド ⇒ ラバーウッドを参照
ビーチ ヨーロッパ(北欧)から輸入されるブナ材の家具製品の素材表示を,業界ではブナとせずに英語のビーチBeech(ブナ)としている。ヨーロピアンビーチとも。
フィリピンマホガニー アメリカの木材市場でいうフィリピンマホガニーはラワンのことである。【緒方】
ベイスギ ベイスギは(スギ科)スギ属ではなく,(ヒノキ科)ネズコ属。日本のネズコと同類で,共に水湿に強い。
⇒ ウェスタンレッドシーダーを参照
ベイヒバ ベイヒバは(ヒノキ科)アスナロ属ではなく,(ヒノキ科)ヒノキ属。しかし,ベイヒバは日本のヒノキよりもヒバに近い匂いがある。
ベイマツ ベイマツは(マツ科)マツ属ではなく,(マツ科)トガサワラ属。英名でダグラスファー,オレゴンパインとも。ちなみに,ファーはモミ類であり,パインはマツ類であるから,英語名もいいかげんである。なお,日本にはトガサワラ属のトガサワラが知られているが,分布も限られていることから,木材としては影が薄い。
ベニヒ・紅檜 ヒノキ科ヒノキ属(C. formosensis)
台湾中央山脈の温帯林で分布。平安神宮,明治神宮の大鳥居に用いられている。
ベニマツ マツ科マツ属
ロシアから輸入されるチョウセンゴヨウ。チョウセンゴヨウ自体は日本にも少量分布する。
ホワイトウッド1 マツ科トウヒ属(Picea Abies
樹木自体は従前からオウシュウトウヒ又はドイツトウヒと呼ばれてきたが,近年ヨーロッパから集成材製品が建築用材として多く輸入されるようになって,これをホワイトウッドと呼んでいる。ヨーロッパでの流通名でもあるという。樹木のヨーロッパでの英語名はなぜか Norway spruce ノルウェースプルースである。
ホワイトウッド2 米国でホワイトウッド(white wood) はユリノキを指す。
ホワイトシカモア 「ホワイトシカモア」は日本の業界固有の名称であると思われ,オセアニア産のシカモアメープル(sycamore maple セイヨウカジカエデ)を指している。海外ではこの名称は使っていない。また,誤ってこれをアメリカスズカケノキとして説明している業者も見受けるが,アメリカスズカケノキは American sycamore というが,white sycamore とは呼んでいない。
ホワイトパイン マツ属のうちの単維管束類は針葉5本の種が多いので五葉松類ともいうが,材が軟らかくまた樹脂が少なく色も淡いので,軟松類 soft pine(whitepine)ともいう。
マカバ 北海道における原木取引に際しての業界用語で,ウダイカンバを指す。マカンバの詰まったもの。
メジロカ(ン)バ  北海道における原木取引に際しての業界用語で,特に心材率の低いウダイカンバを指す。メジロカバとも。
メジロカ(ン)バ  【参考】業界用語で、ウダイカンバのうち心材率の高いものを「マカバ」、心材率の低いものを「メジロカバ」と呼んでいるが、業界関係者による著作で、これとは異なる以下のような説明を見かけた。
 「ダケカンバは市場名を雑カバと呼ぶが、赤味が極く少なく、非常に美しい白味の多いものがあり、一般の取引では目白カバ(注:メジロカバ)といっており、白味の質はマカバより良く、ネジレもなく真直板や単板がとれるため、突板用として最適である。製材にしても良質で評価がよい。」【高橋丑太郎】
モンテン(ボク) アオイ科フヨウ属(Hibiscus glaber
小笠原固有種。イチビとも。モンテンボクの名はマウンテンハウ(mountain hau→hauは現地の先住民の言葉からという)に由来するという。
ヤマギリ ハリギリ、サワグルミ、アブラギリ等を指してキリ代用の下駄材に用いられたことから、各地でこの名称が使われた。
ラバーウッド ゴムの木の廃材で,この集成材が家具に多用されている。ゴムの木,パラウッドとも。
レッドウッド1 国内の木材業界では,ヨーロッパアカマツ Pinus sylvestris (オウシュウアカマツとも)の製材品をレッドウッドと称している。ヨーロッパでの市場名もレッドウッド(redwood)が用いられるという。英語では樹木を指して、米国ではスコッチパイン Scotch pine、ヨーロッパではスコッツパイン Scots pine と呼ぶ。
レッドウッド2 Sequoia sempervirens
米国では,スギ科のセンペルセコイア(セコイアメスギ,又は単にセコイアとも。)をレッドウッド(redwood)と 呼んでいる。本来のレッドウッドである。
レッドガム1−1 Red Gum (red gum tree とも) フトモモ科ユーカリ属でオーストラリアに分布する8種(特に E.. camaldulensis 又は E.. calophylla)を指す。赤褐色の樹脂を分泌する。red gum は,その赤褐色の乾いたゴム質の滲出物そのものも指す。
レッドガム1−2 River Red GumEucalyptus camaldulensis)ユーカリ属では最も広くオーストラリアに分布。川沿いに主に生育する。通常は樹高20m。材は硬くて耐久性があり,枕木,床材,フェンス,合板,ベニヤ単板,旋作,薪材に利用される。蜂蜜は一級品である。
(参考1) タスマニアンブルーガム(Tasmanian Blue Gum):フトモモ科ユーカリ属(Eucalyptus globulus)。タスマニア島南東部,オーストラリア東部の海岸部の一部に分布。好適地では樹高70m,直径2mに達する高木。一般名の blue gum は,若い葉の表面が青灰色の蝋質の粉で覆われていることに由来する。材は淡色で堅く耐久性があり,ポール,杭,枕木に利用される。ニュージーランド,南アフリカ,カリフォルニア,インド,地中海諸国で防風用,林業用,装飾樹として広く植栽されている。海外での造林木は元々防腐用油,燃料,電柱,坑木,建築材とされたが,現在ではさらに製紙用・レーヨン製造用のパルプ材にもなっている。【オーストラリア国立植物園】
*日本に導入されているものでは最も一般的な種で,ユーカリ油も多くは本種に由来するという。
(参考2) <続き>
マラリア蚊が病気伝染に際してどんな役割を果たしているのかが理解される前は,ブルーガムの葉が熱病の病原菌を除去する不思議な物質を放出しているという迷信があった。本当のところは,この木がじめじめした土地の水分を蒸散させる能力により,蚊の繁殖に適当な場所が減少したことによる効果であった。
レッドガム2 Red Gumsweet gum,sweet gum tree とも) 北米原産のマンサク科フウ属のアメリカフウ(Liquidambar styraciflua ),その木材。モミジバフウとも。アメリカフウは日本でも街路樹としておなじみ。木材は家具材等に。属名も一般名の "gum" も樹皮から出る樹脂に由来する。
レッドシーダー ヒノキ科ビャクシン属(S. virginiana
エンピツビャクシンともいい,かつてエンピツ用に米国から輸入していた。
北アメリカ東部原産の30mに達する高木であるが,今日では産出量が著しく減少したという。
レッドパイン 国内で、ヨーロッパアカマツ(Pinus sylvestris)に対してレッドウッドの呼称(前出)とともに、レッドパインの呼称が慣用的に広く使用されている。例えばホームセンターでこの製材品にフィンランド産レッドパイン red pine のシール表示も目にした。しかしながら、英語のレッドパイン Red pine は北米産のレジノーサマツ Pinus resinosa に対する 一般名である。日本人には馴染みやすいイメージであることから、日本で勝手に呼んでいるものと思われる。
暹羅黄楊(シャムロツゲ) シャムロツゲ,シャムツゲ。暹羅(シャムロ)は「シャム」の別名。「暹」はシャムの音訳で、暹国が羅国を合して一国となったため「暹羅」でシャムを表すこととなった。アカネ科クチナシ属のいくつかの種を指す。(「木の知恵」ページで掲載。)