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木の雑記帳
   銘木見物で目の保養


 由緒のある名高い(ナマの立っている)木は「名木」で、材木となった価値の高い木は「銘木」ということになる。東京の新木場にも東京銘木協同組合など、「銘木」の名を冠した看板をしばしば見かける。
 最近は、木造住宅でも純和風住宅が減少したため、床柱(とこばしら)の需要は元気がないようであるが、どっこい、ムクの木材へのこだわりや、ツキ板としての需要が依然としてあるのは結構なことである。
 銘木の世界は、やはり商売人の世界で、素人の工作には縁遠いものではあるが、木が大好きな場合は、大いに目の保養となる。


   銘木標本館・・・そして銘木保管庫へ   
     
   かつて、(財)住宅・木材技術センターが運営していた「銘木標本館」は都内に立地する風変わりな展示施設として一部に知られていた。積極的に宣伝をしていたわけでもなく、館員が張り付いていたわけでもなく、マメに管理をしている風でもなく、したがって、決して人気があったわけではなかったため、都内江東区新砂の一角に静かにたたずんでいた。しかし展示されていたものはとてつもなく市場価値のある代物であった。世に言う各地の銘木たる巨大な原木、厚板、白檀などが倉庫風の建物にゴロゴロといった状態で、これらがほこりをかぶり、汚れるままに静かに眠っていたのである。

 こんな有様であったが、表面が汚れていても銘木の価値には全く影響はなく、例えばペラペラのツキ板に加工されれば、とたんに美しい天井板や床板(ここではトコイタと読んでいただきたい。)などに変身し、ため息の漏れる製品となるのである。近頃では入手不可能なこれら銘木を目にする(関心のある)人は、必ずや「眠らせておくとはもったいない!しかし、使ってしまってももったいない!」という思いに駆られたことであろう。

 実は、この膨大な量の銘木は個人の遺志に基づく寄付によるものであった。その個人とは、創業が大正11年の木材問屋、長谷川萬治商店の社長、長谷川萬治氏でした。氏は、昭和48年度から3年連続で長者番付(高額納税者ランキング)ナンバーワンとなったことでも当時広く知られていたところである。銘木標本館の正面入り口に平置きした巨大な年輪盤があり、その上に氏のブロンズ座像がドッカと構えていたことを記憶している。

 その後周辺事情が変化し、区画整理事業に関連して規模の縮小と若干の移動を余儀なくされることとなっている。現在は、同財団の試験研究所の「銘木保管庫」となったと聞く。保管庫となってからはまだ拝見していないが、規模の縮小は何とも残念なことである。

財団法人 日本住宅・木材技術センター 試験研究所 銘木保管庫(旧銘木標本館)
  東京都江東区新砂 3-4-2 TEL:03-3647-3930
 
  http://www.howtec.or.jp/meiboku/tizu.gif
 
     
  【追記 2011.6】   
     
   機会あって、銘木保管庫を再訪し、最近の様子を確認することができた。
 建物は素っ気ない鉄骨造の箱で、「銘木保管庫」の表示を確認した。一般の来訪者は決して多くないため、特に人を配しているものではなく、シャッターが閉まっている時は隣接する事務所でお願いしなければならない。

 内部を見ると、かつての建物の時と同様に、長谷川萬治氏のブロンズ像を正面に据えていた。そして、貴重な銘木コレクションは健在であった。

 なお、些細なことであるが、同センターのホームページでは、この施設の呼称はなぜか建物の表示とは異なる「銘木館」としている。確かにこの方が印象がよい。  
 
     
 
建物の表示 長谷川萬治氏の像  同館の看板製品である長蔵杉
 
通常の搬出が困難な場所にあって、現地で木挽き分割し、ヘリコプター集材をしたという。
 ケヤキを主体とする長大な原木
 手前は先の長蔵杉。
多様な樹種の銘木盤 同左
 
     


   神城銘木博物館  不思議空間の不思議施設
  そして・・・ネット空間へ・・・ 
 
 
     
   銘木の博物館があることを知り、インターネットで検索するもほとんど情報は得られず、やむなく電話をして地図をファックス願ってたどり着いた。(注:その後ホームページ開設。)「神城銘木博物館」としているが、銘木の木工品や家具、床柱を展示販売しており、売り場面積はかなりの広さである。また、屋久杉の原木を大量に保管しているのには驚かされた。明らかに販売施設であるにも係わらず、入館料千円也には複雑な心境となるが、銘木の拝観料と受け止めるしかない。

 熊本県内で事業展開する小売り・デベロッパー事業者により設置されたものである。この施設は熊本県人吉市から錦町にかけての一角でサンロードシティとして開発が進められたエリアにあり、エリア内にはテナントとしてジャスコやイエローハットなどのおなじみの店が見られるが、隣接して自ら各種の何とも不思議な施設を多数設置している。例示すれば、神城(お城)神城銘木屋久杉館などはまああり得るかなといった感じであるが、神城神社として神社まで造ってしまっている。さらに、「神城文化の森」地区には、福助館にわとり館うさぎ館ねずみ館さる館等々の名称をつけた12の蔵づくりの展示館(各展示館すべて入館料500円也。)など、特に覗いてはいないが、経営者の強い個性が反映した異次元のあやかしの世界が展開しているようである。この膨張する施設群を地域住民がどう見ているのか興味深いものがある。

 ところで、銘木博物館の展示品については、すべて純和風住宅仕様で最近の住宅とは相性がよくないように感じられ、特に若い世代には受け入れられにくい世界となっているように感じられた。銘木界共通の悩みともいえそうである。ただ、素材として見るとなかなかの目の保養になる。訪問したのは日曜日で、テナントの各店はどこにでも見られる郊外型の店舗と同様のにぎわいであったが、個性の強いエリアのお客さんは銘木博物館を含めてパラパラであった。しかし、お客様がなくても一向に困りませんという雰囲気があるのがまた不思議な世界であった。

神城銘木博物館平成14年開館)
 熊本県人吉市下漆田町1625-3 TEL0966-22-8055
http://shinjyou.jp/wood.html
 
     
  【2014.1 追記】 

 久しぶりに不思議世界の様子を確かめてみようと、神城銘木博物館のホームページを見ようとしたところ、何と目的のサイトは存在せず、似たような名前の「神城木材館」の名のYahoo! 内の仮想店舗にワープしてしまった。
 不思議空間の不思議施設であるから、つかみ所のないメタモルフォーゼは大いにあり得ることと理解するも、あの巨大展示販売施設はどうしたのであろうか。

 そこで、Yahoo! の神城木材館に電話で問い合わせたところ、現時点では実店舗は(不思議空間である)神城文化の森エリアの「市房杉・焼酎館」内にあるそうである。焼酎との因果関係は不明であるが、ここ自体もメタモルフォーゼが進行して模様である。

 さらに、かつて存在を確認した奇妙な名前の施設群が現在どうなっているのかは確認できないが、また新たに奇妙な昭和村8館(コカコーラ館、駄菓子A館、駄菓子B館、建具館、ガラス館)が存在するようであり、これとて時期によりポスター館が出現したりと、不思議振りは健在なようである。これらの施設群が増殖の結果なのか、それとも先の施設のメタモルフォーゼの結果なのかは現地を見なければよくわからない。

 既に脱力感を覚えるほどの理解を超えた存在であるが、実は、一部である施設群42棟と土地が2008年に地元錦町に寄付されている模様である。努めて現実的でなければならない行政が、どのような考えで受け入れ、どのように管理しようとしているのか、人ごとながら気になってしまう。

藤田株式会社
  一般財団法人 神城文化の森藤田財団
熊本県球磨郡錦町大字西字大谷742-1