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木の雑記帳
  センダン科の著名な木材2題 マホガニーとセドロ


  南米のスペイン語圏の国から日本に持ち込まれた古い木材標本を実地検分する機会を得た。木箱に収まった20種の木材標本で、番号が付されていて、書面にその番号に対応した現地での一般名と学名が記されていた。馴染みのないものがほとんどであったが、とりあえず「マホガニー」と「セドロ」が含まれているのを確認した。何れもセンダン科の古典的に著名な木材である。本場の標本であれば多分インチキは考えられないことから、チャンス到来で(表示を信じて)じっくり観察することにした。【2010.2】


 マホガニーには Caoba(Swietenia macrophyllaと記してあるから、ホンジュラスマホガニー(オオバマホガニー)ということになる。中南米の征服者たるヨーロッパの富裕層に好まれた高級家具の素材として知られてきた木材である。

 セドロには Cedro colorado(Cedrela sp.) と記してあり、学名は「ケドレラ属」として種を特定していないが、Cedro colorado とした一般名の表記は、学名を“Cedrela odorata”(西インドチャンチン)とする最も一般的なセドロの一種を指す模様である。これも中南米がヨーロッパの植民地と化した中で、征服者の母国等で葉巻入れに好まれた材である。「スパニッシュ・シーダー」の呼称が一般的である。
 
 何れも知名度は高いが、中南米の侵略に参加していない日本には縁の薄い木材であり、前者は本当に魅力的なのか、また、後者は本当にいい香りがするのかを確認してみることにした。【2010.2】 
 マホガニー(ホンジュラスマホガニー、オオバマホガニー) Mahogany , Honduras mahogany        
 Swietenia macrophylla
        ホンジュラスマホガニーのサンプル材
 オイルフィニッシュとしている。太い道管がよく目立ち、まるで色の少し濃いラワン材といった風情である。オイルフィニッシュでは高級感は全く表現されない。
    同左拡大写真
 リップルマークが目立つが、そのことで魅力が増している印象はない。
 センダン科マホガニー属の常緑高木である。メキシコ南部からコロンビア、ベネズエラ、ペルー、ボリビア、ブラジルなどに分布【須藤】し、各地で植林されているという。ラワンその他南方系の木材でよく見られるような縦縞状の旋回木理が材面に見られるが、手鉋で非常に削りやすく、切削面にはつやが生じる。また、目を凝らせば材面に細かい横縞状のリップルマーク(漣紋)が確認できる。日本のトチノキに見られるものよりは間隔が広い。道管が非常に目立つ材で、赤褐色のラワンといった印象を免れない。

 なぜこの材が高級家具材として不動の地位を占めて来たのか、不思議でならない。濡れ色とするためにオイルフィニッシュとしてみたが、色にややしっとり感が生じただけで、印象に大差はない。小物クラフトに利用しても、ちっとも面白くなさそうな材である。がっちり目止めをして着色、鏡面仕上げとするのであれば、ラワンが立派な模擬材となりそうである。

 国内では現在でもマホガニーは「世界の代表的な銘木の一つ」として重々しく紹介され、美しい高級木材であるとして説明されている。その特性として、耐朽・保存性が高い、切削・加工が比較的容易、寸法安定性がよい、表面仕上げ・塗装効果が良好であるといった評価が確かにあるが、加工性が良好であること等は加工者には重要なことであっても、商品の外観上の魅力には繋がらない。唯一考えられる外観上のメリットは、赤茶色の材色は仕上げ着色を要しないことを予想させる点である。

 そもそも西洋文明の感性と埋め難い大きな溝があるのか、それとも世界を思うがままに侵略・収奪したかつての列強・先進国の価値観に周辺民族が折伏・洗脳されて、迎合・ひれ伏したために思考が停止した姿そのものなのであろうか。
 実はラワンそっくりとの印象を持つのは自分だけではなく、多くの素直な感性のようである。ただし、やはり既成の価値観があって、良さを理解できないことに未熟さを痛感している姿がしばしば見られるのも宿命的なものを感じる。

 以上が率直な感想で、木材としてのマホガニーには特別の魅力は感じない。なぜ世界三大銘木(ウォルナット、チーク、マホガニー)に入っているのか不可思議である。貧乏人にはその良さはわからないでしょうねえといわれたら、うなだれるしかない。機会があれば、高価格で販売されているとっておきのマホガニーのテーブルをじっくり観察したいと考えている。ところで、急に思いついたが、ダイアナロスの「マホガニーのテーマ」は好きである。
注1  「ラワン」の名はフタバガキ科のショレア属,パラショレア属,ペンタクメ属の3つの属に含まれる百種以上の樹種群のフィリピンでの呼び名(タガログ語)。同じような樹種群をボルネオ/(マレーシア)あたりではメランチ(メランティー)と呼び,サバ/(インドネシア)ではセラヤと呼ぶ。【上村】 
注2  マホガニーに関して、ワシントン条約で伐採が禁止されているとの多くの記述を見かけるが誤りである。ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)は関係国の伐採を禁止するような権能,、法的義務はなく、あくまで保護のために必要な国家間の取引の規制を締約国会議での合意の下に条約附属書で定めているものである。マホガニーに関しては、メキシカンマホガニー(Swietenia humilis)、ホンジュラスマホガニー(Swietenia macrophylla 新熱帯地域のものに限る)、マホガニー(Swietenia mahagoni)が附属書Uに掲載されていて、取引に当たっては輸出国政府の輸出許可が必要とされているもので、締約国ではこの措置に必要な国内法が整備されていることが必要となる。したがって、個別産出国が国内法で伐採自体をどう扱うかはその国の主体性に委ねられている。
 セドロ(スパニッシュシーダー) Cedro,Spanish cedar 
 Cedrela odorata (たぶん)
               セドロのサンプル材
 オイルフィニッシュとしている。柔らかめの特に個性のない材で、ハンノキの親戚のような印象である。太い道管が目立つが、マホガニーほどは多くない。
  同左拡大写真

  センダン科ケドレラ(チャンチン)属の落葉高木である。メキシコから西インド諸島、さらにチリーを除くラテンアメリカに分布する。スパニッシュ・シーダーの名前で呼ばれる木材は、Cedrela odorata を含めて7種ある【須藤】とされる。一般に加工性、接着性がよく、耐朽性も高いとされる。

 セドロがその名を知られたのは、葉巻の乾燥を防ぐ木箱に最適であったことによる。材の芳香成分が葉巻によい香りを与えるといわれている。 シガーボックスシーダー cigar-box cedar の別名はこれに由来する。

 外観は取り立てて特徴を感じないが、第一印象はハンノキの親戚かと感じる程度である。取引名のスパニッシュ・シーダーの名は、広葉樹であるにも係わらず材の外見と芳香が針葉樹のシーダー類に似ていることによるという。鉋で少々削った上で匂いを確認したところ、時間の経過によるものか揮発成分がやや失われているようにも感じたが、確かに弱い針葉樹系の香り(コショウのような香気があるとして表現している例【木の大百科】もある。)は確認できた。しかし芳香という印象はなかった。年数の経過で、匂いが飛んでしまったのであろうか。軽軟な材で、手鉋でサクサクと削ることができて、仕上がり面は良好である。現在でも葉巻用の箱の素材として利用されていて、その製品も販売されている。
<参考:Kukachka B.F.>
 熱帯アメリカにおける探検と植民地化の初期から、スパニッシュシーダーはその地域では最も重要な用材樹木の一つであった。1800年代においてはこの木材は最も重要な輸出貿易品目のひとつで、当時は葉巻産業が葉巻梱包材としてスパニッシュシーダーを必要としていた。この香りの良い箱は、1930年代に価格が上昇して、ついには葉巻産業がボール紙や地域の軟材で製造した低価格の梱包材に転換するまではふつうの製品であった。スパニッシュシーダーは、今日に至るも、ラテンアメリカの地域での利用のための最も有用な樹木の一つであり続けている。自生地では一般にセドロと呼ばれている。
注1  セドロ Cedro の呼称自体は、中米、南米産のチャンチン属の樹木すべてに使われる。【木の大百科】
注2  スパニッシュ・シーダーの「スパニッシュ」はかつて南米のほとんどを征服した宗主国スペインに由来するもので、自生地とは無関係の呼称である。
注3  「シーダー」の語は、ややこしい面があるので、別項(参照)で採りあげた。