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木の雑記帳 カツラの心地よい甘い香りの葉と穏やかな材
カツラの樹はその葉や樹冠が端正で優しい印象があって、都市緑化木としてもいい雰囲気の緑陰を提供してくれる。そして秋の黄葉はひときわ美しく、条件が整えば、ほのかな甘い香りを漂わせ、これに気づいて、ふと足を止めることになる。さらに、その木材は古くから生活に密着した堅実な有用材として知られ、利用されてきた。【2011.12】 |
1 | カツラの樹の様子 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
カツラは大きくなる樹で、各地で残り少なくなった大径木がしばしば保存されている。 |
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カツラは樹形が優美であることから、都市部でも街路樹として利用されているほか、ビルの一角の鑑賞樹としても利用されている。 カツラの花には花弁がなく地味で、しかも開葉前にひっそりと咲くため、その存在に気付かない人が多い。 |
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ついでなので、次にカツラの種子が果実(袋果)の中でどんな具合に収まっているのかを念のために確認してみる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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2 | カツラの葉の香り | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(カツラの葉の香り成分) カツラの葉の甘い香りについてはもちろん古くから知られていて、これに因んだ呼称もあり、おこーのき(岩手:九戸・下閉伊・紫波)、こーのき(宮城、新潟、長野:北安曇)、しょーゆのき(山形:飽海・北村山、岡山:備中)、まっこ(秋田:仙北)、まっこのき(青森:弘前市)、まっこーのき(青森:南津軽)、まっこのき(青森:津軽、秋田:北秋田・南秋田)などと呼ばれる(日本植物方言集成)という。 この芳香成分については高石らの研究で「マルトール maltol 」によるものであることが既に明らかになっている。しばしばキャラメルのような匂いともいわれ、正にそのとおりである。マルトール自体は砂糖を含む菓子等の製造過程で生成される甘い匂いを持つ物質とされ、要はキャラメルの匂いと同じである。したがって、〝キャラメルのような匂い〟ではなく、〝キャラメルの匂いそのもの〟であることが理解できる。 マルトールは食品産業では甘みや風味を増強する効果を有する添加物(エンハンサー)として広く利用されていて、かつては意外やカラマツの樹皮やモミの葉から分離され、現在では発酵法をベースにした工業的製法が確立されているという。 (注)マルトールは焦がした麦芽(モルト)に見いだされ、名称はこれに由来している。 (カツラの葉はどんな時に一番匂うか) 経験則で言えば、カツラの葉の甘い香りは、黄葉の時期に落葉のマットができた状態で、一雨降った後の雨上がりが一番と思われる。上に掲げた写真もそういった状況での風景である。 ちなみに緑色の葉を揉んでも匂いはなく、さらに黄葉を揉んでも特に匂いは感じない。また、雨に濡れた黄葉なら少しくらいは匂いそうであるが、これを揉んでもさっぱり匂わないのは不思議である。そもそも強い匂いではないのであるが、条件が整えば、少々離れていてもほのかに漂う香りに気付くことになる。 なお、カツラの黄葉は抹香の材料にもされたというから、念のために黄葉を揉みつぶして火を点じたことがある。しかし、焦げ臭いだけで香りは全く感じられなかった。固有のノウハウがあるのか詳細は不明である。 |
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2 | カツラの材 カツラの材はかつては今よりはるかに生活に密着したものであったはずであるが、現在目にするものは定番の碁盤、将棋盤のほかは彫刻用材、版画板としてホオノキと並んで販売されているのを見る程度となってしまった。 昔は張り板や裁縫板がどの家にもあって、今となっては身近な現物で確認のしようがないが、カツラは張り板として最適で、裁縫板としても最上とされたホオノキの代替とされたという。洗濯板は現在でも一部に生存していて、ブナやサクラの製品を見るが、木材の工藝的利用によればカツラが適材であったという。また、引き出しの側板も典型的な用途であったが、現在ではシナノキ(合板を含む)、ジェルトン、アガチス等々で、カツラの利用はほとんど目にしなくなった。 カツラは素直で加工性のよい材といった印象があり、中でも北海道は日高産の赤味のあるカツラは評価が高く、「日高の緋ガツラ」として伝説的な呼称が残っている。 |
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【大日本有用樹木効用編】 材は家屋、橋梁、造船、其他建築材とし又神像、図板、裁板、張板、版木、下駄、下駄の歯、碁盤、机、箱、煙草盆、釜蓋、鉛筆其他器具を作るに用い又薪材とす |
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【木材の工藝的利用】 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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【中国樹木誌】連香樹 木材紋理直、結構細、淡褐色、心材・辺材区別明顕、比重0.51~0.63、可作建築、家具、枕木、絵図板、細木工等用。新葉帯紫色、秋葉黄色或紅色、樹形優美、可作緑化樹種。 |
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3 | 中国における「桂」の文字 日本では「桂」の文字はもちろんカツラ科カツラ属のカツラを指すが、実はこれは日本固有のもので、漢字元祖の中国ではそうではないことが知られている。漢和辞典でも明らかで、次のような中国での語義の説明例(学研国語・漢和大辞典等)がある。 |
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種名として中国で「桂」の文字が使われているものには、次のようなものが見られる。(樹種名は中国樹木誌による。) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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<関連参考メモ> 日本では樟、楠のいずれもクスノキであるが、中国の呼称で「楠」の文字の使用例として以下のものが見られる。(中国樹木誌による。) |
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なお、日本のクスノキ科ニッケイ属のクスノキ Cinnamomum camphora の中国名は樟樹(本草綱目)、香樟(杭州)、鳥樟(四川)、傜人柴(広西)、栲樟、山鳥樟(台湾)、小葉樟(湖南)としていて、「楠」の文字は使用されていない。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
<カツラの様々な葉色・葉形カタログ> カツラの新葉は繊細で美しく、また黄葉、紅葉の色合いは実に鮮やかで多様である。こうして並べてみると、いい香りが漂ってきそうである。 |
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