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木の雑記帳 イチイのはなし
イチイは国内では九州から北海道まで広く見られるが、特に北海道(この地ではオンコの呼称が一般的)にあっては特別な存在感を示している。北海道に生活する者なら誰でもが知っているとおり、イチイは古くから庭園、庭の主役(主木)であり続けていて、また、サカキやヒサカキが存在しない北海道にあっては神前の玉串にもイチイの枝を使うのが一般的である。 また、イチイの材は特有の魅力的な赤味があって緻密であることから評価が高く、飛騨一刀彫りの素材としても知られていて、実はこれが随分前から北海道産のイチイに依存してきたことも知られている。 しかし、その北海道でもイチイの資源は減少し、かつては道東地方のイチイがエンピツ用材として大いに利用された歴史もあるが、現在ではその面影はなく、辛うじて国有林内で一部に残った純林が保護されている。こうして山のイチイは随分寂しくなったが、道内の個人住宅の庭では相変わらずイチイがたくさん見られるのは何とも皮肉なことである。【2011.8】 |
イチイには直径が1メートルを超えるものもあるが、大径木ではスギやヒノキのように先端まで健全に伸びている例はほとんどなく、多くは地面に立てられた寸詰まりの極太丸太から枝がチョロチョロ出たような樹型が一般的である。寿命の長い樹であるが、その間に満身創痍となり、いかにも風雪に耐えてきたという姿に化してしまう。こうした樹型のおかげか、そのまま造園の素材として移植・利用されている例が多く、自然を感じるいい風景をつくっている。 | |||||||||||||||||||||
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1 | イチイのあらまし | ||||||||||||||||||||
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2 | 植栽木としてのイチイの例 |
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以下は植栽されイチイの樹型のバリエーションである。いずれも北海道内での風景。 | |||||||||||||||||||||
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3 | イチイの材 イチイの名の由来に関しては、「仁徳天皇はこの材で笏(しゃく)を作り木に正一位を授けたという【樹木大図説】。」とか、「昔、この材で笏をつくったことから、位階の正一位、従一位にちなんでつけられたといわれる【樹に咲く花】。」といった伝説が紹介されている。イチイの笏は現在でも存在する。 |
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① | イチイ材の外観 イチイの魅力はオレンジ色がかった独特の赤味とやや硬めの緻密な材質である。自家用として、イチイの箸を削ってみた感触では、材の堅さはかなり個体差があって、やはり堅めのものの方がいい艶が生じることを確認した。また、心材の色合いについても随分個体差が見られた。淡色の辺材部は非常に薄く、この部分は一般的に利用されないが、床柱に限っては心材と辺材の色の変化を積極的に見せる仕上げが採用されている。 |
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イチイの魅力的な材色は、出来ればそのまま維持したいものであるが、素地のまま、あるいはオイルフィニッシュでは次第に暗色となってしまうのは避けられない。ウレタン塗装をすればかなり維持できるが、この辺は好みの問題である。なお、かつて耳にした話であるが、床柱などに加工した場合に、赤味を強めるためにアルカリ処理をする場合もあるようである。 | |||||||||||||||||||||
② | 材の利用に関する記述例 | ||||||||||||||||||||
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イチイの材の利用に関して、弓としての利用がアイヌとイギリスで共通している点は興味深い。国内では、発掘された古い時代の遺跡の弓材はイヌガヤやイヌマキの名は見てもイチイはほとんど存在感がない。一方、北海道ではこのいずれも存在しないなかでイチイが利用されているわけで、それぞれ入手しやすい靱性に富んだ材を利用したということなのであろう。 ヨーロッパではセイヨウイチイの材は弾力性があって、中世には大弓(longbow)をつくるための重要な素材であったとされ、イギリス人はこの弓を武器に、1415年のアジャンクールの戦いでフランス軍を撃破したという。【コリンリズデルほか:樹木】 |
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③ | イチイ製品等の例 | ||||||||||||||||||||
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上の写真は、いずれも北海道内の製品で、仕上げはウレタン塗装となっている。最近はイチイの幅広の板は入手しにくくなっているはずであるから、盆の素材調達には苦労していると思われる。 | |||||||||||||||||||||
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④ | イチイの銘木盤 | ||||||||||||||||||||
現在では決して手に入ることのないイチイの見事な盤が都内の倉庫で眠っている。 | |||||||||||||||||||||
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財団法人 日本住宅・木材技術センター 試験研究所 銘木保管庫(旧銘木標本館) 東京都江東区新砂 3-4-2 |
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<参考:イチイの仲間たち(イチイ属の種の例)> | |||||||||||||||||||||
a | シナイチイ Taxus chinensis 中国名:紅豆杉 甘粛南部、陜西南部、四川、雲南東北部及び東南部、貴州西部及び東南部、湖北西部、湖南東南部、広西北部及び安徽南部に産する。 心材橘紅色、辺材淡黄褐色、紋理直、結构細、比重0.55-0.76 、堅実耐用;可供建築、車両、家具、細木工、文化体育用具等用。【中国樹木誌】 |
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b | タイワンイチイ Taxus chinensis var. mairei Tsxus mairei 中国名:南方紅豆杉(中国樹木学)、美麗紅豆杉(経済植物手册)、杉公子(四川南川)、海羅松(江西遂川) 安徽南部及び大別山区、浙江、台湾、福建、江西、広東北部、広西北部、東北部、湖南、湖北西部、河南南部、陜西南部、甘粛南部、四川、貴州及び雲南東北部に産する。 (注)タイワンイチイの呼称はいかにも日本的で、分布実態からも適当ではない。 |
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c | ヒマラヤイチイ Taxus wallichiana 中国名:西藏紅豆杉(中国植物誌) 喜馬拉雅紅豆杉(植物分類学報) 木材の性質と用途はウンナンイチイと同様。 |
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d | ウンナンイチイ Taxus yunnanensia 中国名:雲南紅豆杉(中国樹木学) 雲南西部から西北部、四川西南部、西藏(チベット)東部に産し、不丹(ブータン)、緬甸(ミャンマー)北部に分布がある。 木材心辺材区別明顕、紋理均匀、結构細緻、硬度大、靭性強、干後少撓裂;為優良建築、橋梁、家具、器具、車両等用材。【中国樹木誌】 |
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e | セイヨウイチイ Taxus baccata (English yew, European yew) ヨーロッパ、アフリカ北縁、小アジア、コーカサスに分布。欧米の最も一般的な造園樹の一つで、刈り込みにも適しているとされる。 |
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f | カナダイチイ Taxus canadensis (Canadian yew) 北アメリカ中部、東部に分布。低木で大きくならない。 |
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