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木の雑記帳
  杢の魅惑とその多様な名称


 木材の表面の繊維が沸き上がるように渦巻き、屈曲し、その躍動するうねりと色彩の変化が驚くほどの美しい造形を織りなす場合、古くからその偶然の稀少性を尊び「杢」と呼んで珍重してきた。薄いツキ板であっても見事な立体感があり、加えて見る角度によって様々に光を反射して連続的に姿を変える姿は、人の手では作ることのできない樹木の芸術作品であり、驚異のホログラムである。
 杢は市場でその美しさと稀少性から評価されて取引されるため、グレードによる差別化を図る目的で多数の類型区分に応じた呼称が存在する。しかし、それはあくまで感性による細分化であり、しかも主として取引に係る業界での職人的用語であって、一般の消費者にはわかりにくく、特に著名なものは別にして細部にわたって共通語になりきっていない感もある。【2012.11】 


   に係わる現物や標本はやはり銘木・ツキ板屋さんの独壇場で、ホームページで多数の画像か紹介されていてありがたいことであるが、同じ呼称でも紹介されている画像にかなりの違いも見られる点はもどかしくもある。できることなら、個々の事業者がこれぞという〝とっておきの杢の画像〟を持ち寄って、おおよその合議で業界版の「究極の杢アルバム」を作って頂ければ幸いであるが、これも難しそうである。

 まずは、数は限られるものの、目にした美しい材面の例を紹介した上で、国内及び海外における杢などの呼称の事例を紹介することとしたい。美しい杢のすべに典型的な自前の画像を付すことができればよいが、それは残念ながら叶わぬことである。 
   
 
ケヤキ 1
 大正時代の建築の鏡板
ケヤキ 2
国指定重要文化財建造物の門扉 
ヤチダモ 1
国指定重要文化財建造物の内装鏡板 
   
 
ヤチダモ 2 
同前
 ヤチダモ 3 ヤチダモ 4 
(神代タモ)
   
 
バーズアイメープル 1 
(ウレタン塗装)
バーズアイメープル 2 
(オイルフィニッシュ)
バーズアイメープル 3
(素地) 
   
 
トチノキ
(漆仕上げ) 
 トチノキ(瘤) クスノキ(瘤) 
   
 
ダケカンバ(瘤)
透明塗装により、黄金の輝きを示す。
 木曽ヒノキ(瘤)
木曽ヒノキ瘤の樹皮直下の表面
イタヤカエデ(樹皮直下の小さい瘤)
美しい杢の存在を示している。 
   
 
 シオジ(素地) キハダ(漆仕上げ)   ホワイトシカモア
   
 
サペリ 
(旋回木理により縞模様となるもの)
黒柿  フィドルバック(フレームメープル)
(ブックマッチのバイオリン背板) 
   
 
 イチイ クロマツ(脂松)  屋久杉 
   
 
      ミズナラ 1
放射断面を基準として、角度のブレにより放射組織の様々な文様が出現する。
ミズナラ 2 
(鋸断面の違い) 
ミズナラ 3
(鋸断面の違い) 
         杢に関する和名、英語名の例 リスト
  注:  1 配列は同義あるいは類似と思われるものを和名、英名を問わず概括的に束ねて記載した。
2 樹種固有の通常の木理に由来するもので、広い意味の杢として扱われているものも掲載した。
3 海外の杢単板を扱う専門家は、さらに多くの細分した英語名を使用するという。
 
杢の種類 読み・和名 資料 説明・メモ
珠杢 たまもく 【工芸】 連環の如く或は渦ける波の如きもの
玉杢 たまもく 【用語集】 円環状あるいは渦巻状の模様を呈し、ヤチダモ、クスノキ、ケヤキ、クワなどで見られる。
【辞典】 杢の一種。環状または渦状を呈する杢。ケヤキ、ヤチダモ、クワ、クスなどに現れる。(grain)
【ハンド】 珠杢とも書く。円環を連ねたような、または渦巻くような杢。ヤチダモ、クスノキ等。
珠玉杢 (?) たまもく 【要覧】 入道雲が重なったように見える。ケヤキ、ヤチダモ、クワ、クスノキなどに多く現れる。
(注)一般的には珠杢(たまもく)又は玉杢(たまもく)と呼んでいて、この「珠玉杢」の表記は目にしたことがない。
泡杢 あわもく 【科学】 水泡状の丸い輪郭の模様を示すもの。
【用語集】 板目面に丸味のある泡状模様を示すもの。(blister figure)
【ハンド】 木材の板目面あるいはロータリー切削面などに現れる丸い輪郭を持った小範囲の凸凹によってできる杢。
Blistered figure ブリスター杢
(泡杢と同様)
highmountainforest.com もくもくとした雲あるいは泡のような形に似る。表面は完全に平滑であっても水ぶくれのように見える。材がロータリーカットあるいはハーフラウンドカットされると、年輪が凸凹しているためにこの特徴が発現する。ポメレに似るがまばらで、より大きな杢である。
牡丹杢 ぼたんもく 【工芸】 花状を呈するもの
【要覧】 花模様に見えるもの。ケヤキ、、ヤチダモ、クワ、ケンポナシなどに多く現れる。
【用語集】 牡丹花のような模様で、ケヤキ、ヤチダモ、クワ、ケンポナシなどでみられる。
【ハンド】 牡丹の花のような杢。ケヤキ、ヤチダモ、クワ、ケンポナシ等。
葡萄杢 ぶどうもく 【工芸】 球体相連り玉杢の小なるもの
【要覧】 葡萄の房が連なっているようにみえるもの。ケヤキ、クスノキ、カエデ、ヤチダモ、ハルニレなどに多く現れる。
【辞典】 木理が不規則で材面に葡萄の房が連なったように現れる木目。ケヤキ、クスノキ、カエデ、ヤチダモなどに多く見られる。(grapevine figure)
(注)grapevine figure は英訳語である。
舞葡萄 まいぶどう 【工芸】 球体相連り葡萄の舞に異ならざるもの
清国より輸入せらるる安
木と称するものは和名びらん又は舞葡萄と称し、花台、盆等に最も賞用せらる我邦にてはタブの瘤より取りたるものをびらんの舞葡萄と称す蓋し安木の模擬材なり
如鱗杢 じょりんもく 【工芸】 魚鱗の如きもの
にょりんもく 【要覧】 魚の鱗のように見えるもの。ケヤキ、ヤチダモ、タブなどによく現れる。
にょりんもく 【辞典】 変形木理のひとつ。魚の鱗(うろこ)のように見えるもので、ケヤキ、ヤチダモ、タブなどに現れる。(fish scale figure)
にょりんもく 【ハンド】 魚鱗のような杢。ケヤキ、ヤチダモ、タブノキ等。
  メモ 「にょりんもく」又は「じょりんもく」と読んでいる。
ケヤキの杢では如鱗杢が最高峰とされるが、ただ鱗のようだといわれてもさっぱりわからない。らしきものを写真で見ると、泡杢と波状杢が合体したような印象である。
縮緬杢 ちりめんもく 【工芸】 其名の如きをいう
【要覧】 縮緬のちぢれに似た紋様。杉、ヤチダモ、マホガニーなどに現れる。
【辞典】 変形木理の一つ。繊維がちぢれたように見える杢。トチノキ、ヤチダモ、カエデなどに現れる。(curly figure)
【ハンド】 縮緬状の模様を呈する杢。トチノキ、イタヤカエデ、ツツジ、ホオノキ、ケヤキ、ケンポナシ等。
波状杢 はじょうもく 【科学】 波状木理による模様で、ヴァイオリン杢とも呼ばれ、イタヤカエデやトチノキに見られる。(wavy-grain figure)
縮れ杢 ちぢれもく 【用語集】 波状木理 wavy grain で繊維が縮れて見える杢。タモ、トチ、カエデ、ホオノキ、ケヤキなどで見られる。(curly figure)
縮杢 ちぢみもく 【ハンド】 繊維の不規則な縮れに起因する杢の総称。マホガニーの羽毛状縮杢、ヤチダモ等。
Curly
Curly figure
カーリー杢 highmountainforest.com 木理の方向に歪みがあると光を違う方向に反射するため、波状のうねりが出現する。カーリー杢は特にカエデ類やカバノキ類で一般的である。階段状のカーリー杢はアングルステップ(別出)、ローリングカール十字砲火型と呼ばれる。
workshopcompanion.com カーリー杢は軸方向の細胞が波打って伸長することにより生じる。多くの樹種で発生するが、とりわけカエデ類で顕著である。
hearnehardwoods.com 最も一般的な杢の一つがカーリーで、タイガーストライプリップルともいわれる。カールは硬軟の木繊維が交互に縞状になって材面を直角に横切る圧縮木理である。この構造から、見る人に材面が3次元であるかのような錯覚を与える反射効果を産んでいる。杢は板目挽き、リフト挽き、柾目挽きの材に現れる。柾目取りしたカーリーメープル Curly mapleは、フィドルバックメープル Fiddleback maple ともいう。(しばしば誤って、杢が強く出た板目挽きのカーリーメープルをフィドルバックと呼んでいる場合があるが、バイオリン製作家は裏板と側板には柾目板のみを使用する。)カーリー杢は多くの樹種に存在し、例えばカオ、すべてのカエデ類、ウォルナット、トネリコ類、オーク類、さらにコクタンにさえ見られる。
Angle step アングルステップ hearnehardwoods.com 樹の切り株や根際部位をカットすることで現れる階段状のカーリー杢で、ウォルナット(Juglans spp.)でよく見るものであるが、トネリコ類(Fraxinus spp.)やメープル(Acer spp.)でも見られる。
woodmagazine.com Angel stairs とも。ねじれた樹幹を持った樹木から得られる材で見られ、特にカエデやウォルナットが典型。
Tiger stripe
Tiger figure
虎縞、虎杢
タイガーストライプ
hearnehardwoods.com タイガーストライプ(虎縞)は板の木理を横切る縞状の圧縮杢である。カーリー杢と似ていて、しばしば同じ意味で使用されるが、我々としては、虎杢は縞が長くて太いものを指し、カーリー杢は縞が短く、しばしば破線が重なったようなものを指す。
バイオリン背杢 ばいおりんせもく 【用語集】 波状木理で、縞状あるいは帯状模様を示すもの。バイオリン背板として用いられる。(fiddle back figure)
(注)一般的に国内では「バイオリン杢」と呼んでいる。
バイオリン杢 ばいおりんもく -  Fiddleback を参照。
Fiddleback
Fiddleback figure
バイオリン杢
フィドルバック
highmountainforest.com 柾目取りによって現れるカーリー杢の形で、真っ直ぐな木理に対して端から端まで直交する縮れが見られる。この名前はバイオリンの裏板にこの杢が利用されることに由来し、伝統的にヨーロッパシカモア(シカモアカエデ Acer pseudoplatanus)を利用している。一般的ではないが、他のカエデ類(Acer spp.)、アフリカンマホガニー(Khaya spp.)、マコレ(Tieghemella heckelii)、ブラックビーン(Castanospermum australe)、コア(Acacia koa)でも見られる。
(注)
メープルに特定されることから、Flame maple, Flamed maple とも。
Ripple
Ripple figure
リップル杢 highmountainforest.com フィドルバック(前出)のような波紋状の外観を持った杢。
(注)トチノキでふつうに見られる微細な縞模様をリップルマーク(漣紋)と称しているが、それとは異なる。
Quilted figure キルト杢 highmountainforest.com 不規則なあるいは波打つ連結した模様が凸凹の材面を形成したものをロータリーカットあるいはハーフラウンドカットすると、枕のような形の3D効果が生まれる。これは、ポメレ杢やブリスター杢がより大きく強めに出た模様である。
hearnehardwoods.com ソフトメープルでは大きなくぼみ(dimples)がキルティングに似たキルト杢となる。これも、鳥眼杢のように菌類による。
Peanut shell
Peanut shell figure
ピーナツシェル
ピーナッツの殻
highmountainforest.com キルト杢やブリスター杢が出やすい材は、ロータリーカットすることでピーナッツ杢を出すことができ、その模様はキルト杢やポメレ杢に似ている。その表面は平らであるにもかかわらず凸凹したように見える。ピーナッツシェル杢は特にヤチダモで見られ、他の材でも現れる。
Crossfire クロスファイアー
十字砲火
highmountainforest.com フィドルバック杢やモトレ(斑)杢のようなうねった木理を突っ切る何らかの模様で、非常に華やかに見える。
鳥眼杢 ちょうがんもく 【要覧】 鳥の目のように小さな環状に見えるもの。
【科学】 接線断面(注:板目面の意。)に鳥の目の模様を示すもので、メイプルなどによく見られる。(bird's- eye figure)
【用語集】 鳥目杢とも。板目面に鳥の眼のような小さい円形の模様を示すもので、カエデ、カラマツ、トウヒなどでみられる。(bird's eye grain )
【辞典】 木理のひとつ。樹木が木部の造成過程で外部圧などの原因を基として生じた繊維の錯走によって、製材のときに現れた紋様で細い泡状をしていて鳥の眼に見えることから出た名。カエデ、マツ、トウヒ、カラマツ(?)などにみられる。(bird's eye figure)
【ハンド】 板目面で鳥の目のような模様を現す杢。イタヤカエデ、マツ類、トウヒ、カラマツ(?)等。
メモ 鳥眼杢の名は bird's eye figure の訳語で、主として北米産のシュガーメイプル(サトウカエデ)から得られるバーズアイエープル(バーザイメープル)は国内で広く知られている。
なお、上記資料で言及のあるマツ、トウヒ、カラマツの鳥眼杢に関しては、その存在を確認できない。
Bird's- eye figure 鳥眼杢 hearnehardwoods.com  バーズアイはハードメープル(サトウカエデ)に最も関係する杢の模様の名称である。しかし、私は他の多くの種、例えばカオ、ブラックウォルナット、チェリー、タスマニアブラックウッドのほか稀にローズウッドでも見たことがある。眼の大きさは砂粒からダチョウ革の突起ほどまでの幅がある。眼の密度は点在するものから高密度のものまである。バーズアイメープルの最も発生頻度の高い地域はメイン州、ミシガン州の東部半島、カナダその他の冬が厳しく成長期間が短い地域である。これら地域の木挽きたちによれば、密度の高い植林地の北面で多く見られるという。ある時点で間伐が実施された場合、通常は鳥眼の形成が止まってしまう。ということは、眼は後生出芽か休眠芽の一形態で、光に当たれば新たな枝を出すものと理解される。鳥眼杢は板目取りした板や単板で現れるため、単板はロータリースライサーで生産される。 
advancedlasercuttin.com  バーズアイ杢は小さな“眼”で構成され、しばしばそれらを取り囲んだ波状木理の模様が見られる。この杢はロータリーカットされたサトウカエデで典型的に見られ、マホガニー、カバノキ類、アメリカブナ、ウォルナット類、トネリコ類でもまれに見られる。 
workshopcompanion.com カエデ類で見られる鳥眼杢は細胞の層における小さなくぼみ(dimples)に起因する。これらは軸方向の細胞の成長に影響を及ぼす菌類によって引き起こされるものと考えられている。
(注)菌類説は確認されていない。
highmountainforest.com ほぼハードメープル(サトウカエデ)に限って見られる小さな丸い形の光沢のある斑点。
Cluster burl クラスターバール hearnehardwoods.com 材面に不規則に分散して見られる小さな瘤が形成されたもの。材や単板で、鳥眼に似た杢を見せる。その「眼」を活かすためにはロータリースライスしなければならない。製材は板目取りする必要があり、さもないと引っ掻き傷に終わる。
Pippy ピピー highmountainforest.com 多数の小さな斑点が不規則に散らばったもの。ヨーロッパイチイ(Taxus baccata)やセシルオーク(Quercus petraea)が代表的。
(注)Pippy はイギリス英語で、cluster burl figure を指す。
Cat's paw キャットポー
猫の手
猫の足
highmountainforest.com ピピー材(Pippy 既出)あるいはバール材の変形で、ねこちゃんが上を歩いて、足跡を残したように見える。
根杢 ねもく 【工芸】 普通のスギ材にても根際より取りたるものは根杢と称し腰嵌又は開戸板に用ひらるツゲの根杢美なるを以て莨盆(たばこぼん)となす
【要覧】 根張りの部分から取った板に出る。スギ、ツゲ、ハンノキなどに現れる。
Butt figure バット杢
(根杢と同様)
highmountainforest.com 根が張り出す部分で木理の乱れにより生じる波打った、あるいはさざ波のような模様。アメリカンウォルナット(Juglans nigra ブラックウォルナット)において非常に味のあるバット杢が得られ、根株単板として利用される。
(注)ここでの Butt は残念ながら「尻」の意味ではなかった。
笹杢 ささもく 【要覧】 笹の葉のような模様になるもの。スギ、イチイ、神代杉などに現れる。
【工芸】 神代スギ、吉野スギ、春日スギには笹杢あり
【辞典】 木理が笹の葉のような模様を呈したもの。スギ、イチイなどに見られる。(bamboo leaf grain)
(注)bamboo leaf grain は英訳語である。
白杢 しろもく 【工芸】 スギの白色辺材より紋理材を取りたるものを白杢と称し賞用せらる
【要覧】 銀杢とも。スギの白太(注:辺材)に現れる紋理材。
舞杢 まいもく 【工芸】 三味線胴の如きは花櫚の辺材に接したる処より取りたるものを上等とし之を舞杢と称して賞用す舞杢は必ず密なる同心環状をなし其の環の中心は胴の中心にあるを要す
蟹杢 かにもく 【工芸】 蟹杢と称するは同心環状をなさずして左右に蟹の脚の如く流れ居るもの又場合によりては裏杢と称し心材に面せる方即木裏を表面となし舞杢を取ることあれども杢美ならず又板杢と称するは毫も左右相称の杢を現さざるものをいふ
年輪の殆ど直線的に密に平行せる部分は舞杢となり年輪の距離大なるもの又は甚しく円弧をなすものは長巻となり遂に蟹杢となる、年輪斜行するときは板目となる。
(注)出版物の写真を見ると、中心に板目の出る「中杢」と波状杢が合体したような印象である。
筍杢 たけのこもく 【要覧】 筍のような円錐状の紋様が重なって見えるもの。ケヤキ。
(注)わざわざ「杢」の字を使用することには違和感がある。
【工芸】 ケヤキの普通杢は之を筍杢と称す
【辞典】 木理が筍状をしているもの。普通、板目に見られる木目。(bamboo shoot like grain)
(注)bamboo shoot like grain は英訳語である。
Cathedral
Cathedfal grain
カテドラル
大聖堂
(筍杢)
highmountainforest.com 積み重ねの連続あるいは逆V字型で、板目挽きの単板に現れる。
(注)ただの板目模様を指しており、筍杢と同じ。
Roll ロール highmountainforest.com 斜走する大きなうねり又はねじれ模様で、ブックマッチ(注;隣接して木取りした2枚の板を左右に本のように接ぎ合わせたもので、ほぼ左右対称の杢目となる。)とすれば、ヘリンボーン(注:矢はず(杉綾)模様)として知られる模様となる。
鶉杢 うずらもく 【要覧】 雉杢(きじもく)とも。鶉や雉の胸毛のような曼荼羅模様のもの。
【工芸】 屋久スギには鶉杢、野鶏班(きじもく)あり
【用語集】 ウズラの羽に似た模様を呈す。屋久杉、ネズコ、神代杉などでみられる。
【辞典】 杢目の一種。屋久スギなど捩れの多い樹木から採れる。
【ハンド】 ヤクスギ、クロベ、神代杉等。
雉杢 きじもく 【工芸】 屋久スギには鶉杢、野鶏班(きじもく)あり
(注)鶉杢と雉杢の違いは、多分羽根の模様に幾分違いがあることによるものと思われるが、一般人にはよくわからない。両者を同義としている場合も見られる。いずれもゆらぎのある細かに年輪の原木から板目取りした複雑・緻密な木目模様が出たものであることには違いない。
雲紋杢 うんもんもく 【要覧】 雲が重なり合っているように見える。黒部スギ、サクラ、アズキナシなどに現れる。
(雲頭の杢) 【工芸】 黒部スギには雲頭の杢あり甚美なり天井板に適す焼きて摺る時は杢現はれて鮮なり
斑杢 まだらもく 【ハンド】 木理の中での不規則な水平方向の波によってできた断続した帯による杢。
Mottle モトレ
(斑杢に同じ?)
highmountainforest.com 交錯木理(cross grain )の別のタイプで、旋回する逆向きの木理が波状の木理と結合して斑点状、しわ状の外観となる。文様は不規則あるいは、幾分チェス盤風(Block mottle)で、よりきめが細かく小さい模様の場合は「ビーズウィング」(Bee's wing 後出)として知られている。モトレ杢はマホガニー(Swietenia spp.)、サペリ(Entandrophragma cylindricum)、ブビンガ(Guibourtia demeusii)、カオ(Acacia kao)などに見られる。
Block mottle figure ブロックモトル Mottle を参照。
Bee's wing figure ビーズウィング highmountainforest.com イーストインディアンサテンウッド(Chloroxylon swietenia)、マホガニー(Swietenia spp. )、ブビンガ(Guibourtia demeusei)や何種類かのユーカリ類で見られる小さな目のつんだ斑杢。
虎斑 とらふ 【要覧】 虎の縞(しま)模様のように見えるもの。ヤチダモ、ミズナラ、ブナの柾目に多く現れる。
【工芸】 三味線棹として紅木の虎斑あるものは最も貴重せられ其価格頗る大なり
【科学】 広い放射組織を有する樹種の放射断面に現れる模様を「銀杢」(silver grain)といい、特にミズナラでは「虎斑」(とらふ)という。
【用語集】 柾目面に現れる幅広の複合放射組織が虎の縞模様にみえること。光線により銀色に輝くことから「銀杢」 silver grain ともいう。カシ、ナラ、ブナ、ミズナラなどでみられる。(ray fleck)
【辞典】 ナラの捩れのある原木の柾目挽きに多く現れる模様。虎の腹部の毛並みに似ているところから出た名。ブナにも見られる.透明塗料を塗ると鮮明になる。(tiger grain)
【ハンド】 大きい断面を持つ放射組織が柾目面に現す模様。
Button ボタン highmountainforest.com 大きな放射組織を持った材で、その硬くて艶のある放射組織が現れるように柾目挽きすることで、通直な木理を背景とした中にボタンあるいはフレーク様の模様が現れる。とりわけアメリカシカモア(アメリカスズカケノキ Platanus occidentalis)、ホワイトオーク(Quercus app.)、レースウッド(Platanus spp.)で見られる。
Flake figure フレーク杢
虎班(とらふ)
advancedlasercuttin.com 一般にオークやレースウッドの柾目で見られる。虎斑は暗色部分でステインの乗りが悪いため、しばしば好ましくない杢と見なされる。
Flake
Fleck
Ray fleck
フレーク
フレック
レイフレック
highmountainforest.com レースウッド(lacewood , European plane, Platanus hybrida)、オーク(Quercus spp.)、シカモア(sycamore , Acer pseudoplatanus)は材が放射組織に平行(注:柾目の意)あるいは平行に近い木取りがされることで、放射組織に由来する様々な光沢が現れる。
Lacewood レースウッド 【ハンド】ほか レースウッドは多くの樹種の柾目木取りの材面に現れる密集した斑紋模様のことを指す。Cardwellia sublimis の材の一般名でもある。また、柾目面が似たアメリカンシカモアの材も意味するほか、イギリスではロンドンプレーン(Platanus × acerifolia モミジバスズカケノキ)の柾目材を意味する。
銀杢 ぎんもく 【科学】 広い放射組織を有する樹種の放射断面に現れる模様を「銀杢」(silver grain)といい、特にミズナラでは「虎斑」(とらふ)という。
【辞典】 木材の柾目の上に大きな髄線が帯状に現れる杢。ナラ、ブナ、カシによく見られる。(silver grain)
Silver grain 銀杢(ぎんもく) highmountainforest.com 光沢のあるレイフレック又は柾目取りした材の別名で、オーク類(Quercus spp.)が典型。
縞杢  しまもく  【用語集】 交錯木理に起因して、柾目の鉋削面で光線に反射して縞模様を呈するもので、リボン杢ともいう。
【辞典】 交差木理(注:交錯木理に同じ。)の一種。ラワン類、マホガニー、クスなど交差木理を持つ樹の柾目面に現れる幅の広いリボン状縞目に見える杢。(ribbon figure)
メモ  縞杢は、上記のような木理由来のものではなく、材色に由来して縞模様が出る、ゼブラウッドのようなものを指すという説も見られる。 
リボン杢 りぼんもく 【科学】 交錯木理の放射断面に見られる帯状模様で、メランチなどの熱帯広葉樹に多く見られる。(ribbon figure)
【辞典】 製材品の表面に現れる縞模様の木目。マホガニー、ラワン類に多く見られる.透明塗料を表面に塗ると鮮明になる。(ribbon figure)
【ハンド】 交錯木理の木材の柾目面において認められる濃色と淡色能島によってできる杢。縞杢。
Ribbon stripe リボン縞 highmountainforest.com 軽く捩れたリボンに似た印象で、柾目取りしたマホガニー(Swietenia spp.)やサペリ(Entandropphragma cylindricum)で見られる。
Ribbon figure リボン杢 workshopcompanion.com 例えばマホガニーのような樹種で、軸方向の細胞の旋回方向が層状に変わることでリボン杢が発生する。
(注)stripe figure も同様。
Roe
Roey figure
はららご杢
(仮訳)
highmountainforest.com 交錯木理に由来して、ある種の柾目取りした広葉樹に見られる短く崩れた縞杢、リボン杢。
網杢 あみもく 黒柿の心材部でしばしば見られる網目状の文様を指す。
孔雀杢 くじゃくもく 網杢のうち、模様がクジャクの羽根を思わせるような印象のあるものを指し、希少品となっている。
瘤杢 こぶもく 【用語集】 瘤 burl は樹幹や根株部に異常に膨れ出た部分。変化に富む瘤杢が出る場合があり、高い評価を受けることがある。(burl figure)
【辞典】 木材の繊維が交差して木理が瘤のような感じを現すもの。クス、ケヤキなどに見られる。(burls figure)
(注)上記説明では「瘤のような・・」としているが、名前の「瘤」は瘤そのものを指しているから、誤解されやすい表現で疑問がある。

Burr
Burl
Burl figure

バール杢
瘤杢
highmountainforest.com 瘤状の変形した成長で、通常は根部又は幹に、時に枝部で見る。通常、樹皮への何らかの損傷又は樹皮下での感染の結果形成され、あるいは正常に成長しない未成熟な芽に由来する。樹の成長ととも瘤も成長でき、取り巻く木部は捩れあるいは波打ち、結果として非常に美しい木を生み出す。バール杢はヨーロッパニレ(Ulmus spp.)、トネリコ類(Fraxinus spp.)、ポプラ類(Populus spp.)、センペルセコイア(California redwood, Sequoia sempervirens)、ウォルナット(Juglans spp. クルミ属)などでしばしば見られる。
(注)Burr はイギリス英語。
hearnehardwoods.com バーズアイのように、バール杢は板目取りで現れるため、単板はロータリースライスされ、柾目取りとしてはならない。さもないと杢は眼にならないでピンになる。伝統的な利用は車のダッシュボード、家具の引き出しの前板や天板、銃床などがある。
鯖杢
さば杢 
さばもく -  Crotch figure を参照。
【工芸】 樹幹の分岐点又は幹枝分岐点に於ては一種の杢を現はすマハゴニーに於て此部分より取りたる材は普通材より高価にして Blumen-oder, Pyramiden-Mahagonie (注:ドイツ語の呼称)と称し貴重せらる
Crotch figure クロッチ杢
さば杢
highmountainforest.com 樹幹から枝の分岐した部位に形成される特にY字型の紋様。Burning bush, feather, flame, plume, rooster-tail(雄鶏の尾の意) はすべてクロッチ杢の変形である。マホガニーとウォルナットの単板が最良の供給源である。
メモ 和名は「鯖杢」又は「さば杢」の表記を目にする。この「さば」は鯖ではなく、捌(さば)くの「捌」であろうとの説がある。しかし、捌くというイメージ、使い方は違和感がある。「鯖」の語は鯖の尾のイメージから先割れした形態を指す意味があり、先の英語サイトの説明での「Y字型」と同様であり、たぶん「鯖」でよいと思われる。ただし、杢に生臭いにおいが移りそうであるから、個人的には平仮名の「さば」を使うことを支持したい。
Flame 火炎 highmountainforest.com crotch を参照。
Swirl 渦巻 highmountainforest.com  クロッチ杢(前出)の穏やかなタイプで、木理は渦を巻き、曲がりくねり、時に折り重なる。チェリー(Prunus spp.)、マホガニー(Swietenia spp.)、メープル(Acer spp.)、ウォルナット(Juglans spp.)でふつうに見られる。
Bear claw ベアクロー hearnehardwoods.com  ベアクローの呼称は楽器のトウヒ表板に関係して使用される。クマの爪で引っ掻かれたような模様が木目を横切っていて、美しい光の反射が見られる。
(注)ギター表板の素材としての利用実態がみられる。Bear scratch ベアスクラッチの名もある。
Pommele figure ポメレ 【ハンド】  斑紋の模様をあらわすときに、木材卸商はしばしばポメレ(Pommele)という言葉を使うが、それはビロードのような外見ということを意味している。立体感のあるポメレはときどきドレープ(drape)と呼ばれることがある。
highmountainforest.com  小さな円形又は楕円形の模様がしばしば重なり合う。小雨の中での水たまりの表面に例えられてきた。ブリスター杢のより細かいものに似て、ブビンガ(Guibourtia demeusii)、アフリカンマホガニー(Khaya ivorensis)やサペリ(Entandrophragma cylindricum)などのアフリカ材でふつうに見られる。
highmountainforest.com  樹の切り株や根元を切ったときに見られる階段状のカーリー杢。ウォルナットで多く見られるが、トネリコ類やカエデ類でも見られる。
Flower grain フラワーグレイン(花斑) highmountainforest.com  小さな不規則な斑中に見られる斜めの波紋で、ヨーロッパトウヒ(Picea abies)でしばしば見られる。
Spalting figure
Spalted figure
スポルテッド杢  菌が取り付いて腐りかけた材で見られる黒い線が模様となって、予想外の効果をもたらすことがある。樹種がメープルの場合にはスポルテッド・メープルの呼称がある。figure 、杢の語とは異質。
略記参考資料 【用語集】
【辞典】
【科学】
【ハンド】
【要覧】 
図解木材・木質材料用語集(株式会社東洋書店) 
新編林材用語辞典(財団法人林野弘済会)
木材科学講座3(海青社)
木材工業ハンドブック(丸善株式会社)
名木要覧(日刊林業新聞社) 
  <気づきの点> 
   
 日本と欧米における杢の利用

 洋の東西を問わず、各種木材に見出される杢は美しいと感じることは共通しているに違いないが、その利用に関してはヨーロッパにおける歴史が古く、利用分野もはるかに広範にわたっていた印象がある。

 欧米では多様な家具の文化、歴史があり、美しい杢を家具の表面に化粧張りして飾る仕様は一般的でアンティーク家具でも目にすることができる。また、杢の出た素材が活躍できる贅沢品、小物も多彩である。こうして海外進出で手に入にした世界の木材とその杢の利用に関して豊かな利用の実績を有している。

 一方、国内での杢板の典型的な伝統的利用は、床廻りの装飾材、指物材、門扉鏡板、天井板等と家具の歴史がなかったことから、一般市民とは距離のある限られた世界での贅沢な上質の仕様として存在した印象がある。また、ツキ板の利用が国内で普及したのは遅れて大正時代に入ってから(銘木ツキ板・化粧合板総覧)とされ、指物にも杢が化粧張りされたというが、近年、江戸指物も生活様式の変化に適合できずに衰退してしまった。

 現在、杢が生存している場所を考えてみると、瘤由来の花台、挽物、刳物、一級品の無垢のテーブル、趣味性の高い小物、また、化粧張りでは一部の家具、ビル内装の上質な部分などが頭に浮かぶ。それに杢板の利用で忘れてはならないのはエレキギターのボディ(この関係で、一部の若者が杢に関して異様に詳しい可能性がある。)である。残念ながらこれは外来文化であるため、国産材の出番はほとんどない。 
   
 呼称のわかりにくさ

 例えば、和名の杢に鶉杢(うずらもく)雉杢(きじもく)の呼称がある。すぐにイメージできる人はまずいないし、画像検索で実際の羽の模様を見たところで、さて、この場合の雉はやはり雌雉かも知れないと想像しても、実際の木材でどんなイメージなのかは情けないことにさっぱりわからない。時にこれらが同義と見なされていることもあるから更にわからない。

 また、特に欧米では自らが利用を開拓した世界の多数の樹種に関して、利用の歴史も非常に長いため、英語の杢の呼称は極めて多い。ただし、これらも業者の感性で沿革的に増殖したものと思われ、決して科学的、論理的に整理されたものでなく、消費者には理解しにくい世界である。このため、例えば、和名がそのうちのどれに該当するのか等の突合は、いずれも緻密な定義を定めているものではないから、そもそも無理な印象がある。また、同じようなものをイメージしながら複数の呼称があることも悩ましいことである。 
   
   例えば、 波状杢(はじょうもく)、縮杢(ちぢみもく)、縮れ杢、縮緬杢、Curly figure (カーリー杢)、Tiger stripe (タイガーストライプ)、Wavy grain (波状木理)は、特段の違いはないように思われるが、違うと唱えるのも自由である。
   
 基本的な用語の使用実態の曖昧さ 

 多くの呼称をリストアップしてみてわかるのは、杢(figure)木理(grain)の語が錯綜していることである。
   
 
注:  一般に木理(木目、grain)とは構成細胞や組織の配列・大小・性状、とくに年輪や成長輪の状態やその反映としてみられる材面の状態をいう(木材科学講座)とされ、杢との関係は、木理は杢に寄与する特徴のひとつ(highmountainforest.com)ということになる。 
   
   一般的には「杢」は木材の軸方向に長い細胞が何らかの要因で通常とは異なるうねりが生じて特異な模様を呈する場合を指しているが、特定の通常の木材で、鋸断面によって例えば放射組織に由来して必然的に現れる模様に対してもしばしば使われていて、杢の属性をわかりにくいものとしている 
   
 
(例)  ①  ミズナラの通常の材を柾目取りした際の放射組織の文様を指して、「銀」及び Flake figure (フレーク)の名があること。 
   ②  通常の板目模様について、「筍」の名があること。 
   ③  ただの腐れ模様に対して Spalting figure (スポルテッド) の名があること。
     通常、旋回木理を示す材で必然的に現れる縞模様について、リボン(Ribbon figure)・縞(Stripe figure) の名があること。
   
   また、英語名で同じものに対して figure grain の両方が使われている実態がある。

(例) fiddleback figure / grain , bird's eye figure / grain  
   
   謎のマツ、トウヒ、カラマツの鳥眼杢

 複数の国内の用語辞典で、マツ、トウヒ、カラマツの鳥眼杢が存在することに言及していた。「鳥眼杢」の語は英語の Bird's eye maple (Birdseye maple) の翻訳語と理解され、カエデ類、とりわけサトウカエデに特有で、稀に出現するものとされている。米国の企業の情報ではその他の広葉樹でも稀に見られるとしているが、本家米国でも針葉樹でも見られるという情報はない。ということは、ひょっとすると、針葉樹でポツポツと葉節が出たグレードの低い材を、鳥眼杢だとして詐称する商法がふつうに存在したのであろうか。謎である。 
   
  <参考資料 1> 
 
【木材科学講座3:海青社 1992.3.25】(抄)

 構成細胞や組織の配列・大小・性状、とくに年輪や成長輪の状態やその反映としてみられる材面の状態を一般に木理(木目、grain)という。

 通直木理:軸方向要素(仮導管・木繊維・道管など)の配列が幹軸に対して平行でまっすぐな木理

2 交走木理:同配列が平行でない場合の木理 
 ① 螺旋木理(spiral grain):
旋回木理とも。樹幹の軸に対して軸方向要素が螺旋状に配列している木理。右(Z)旋回と左(S)旋回がある。 
 ② 交錯木理(interlocked grain):
右旋回と左旋回の螺旋木理がある厚さの成長層毎に交互になっている木理。メランチなどのフタバガキ科の樹種では一般的。 
 ③ 波状木理(wavy grain):
軸方向要素が波状に配列している木理。イタヤカエデの材はよく知られている。 
 ④ 斜走木理(diagonal grain):
軸方向要素が製材品の長軸に平行でない木理。主に木取りの仕方によって生じる。 
   
 木理や木材を構成している細胞の特異な配列あるいは異常な配列などにより、材面に装飾性のある特徴的な模様を示すものをもく(杢、figure)という。

 また、はだ目(肌目 texture)とは、木材の構成要素の大小・質・精粗・分布等の差異によって生ずる材面の状態をいう.構成要素の平均の大きさが大きいものや径の大きい道管を持つもの等を粗肌目(注:説明文としては「肌目粗」とも)という。 
 
   
  <参考資料 2> 
 
 バーズアイメープル(バーザイメープル)
 Birdseye maple (Canadian Forest Service)
 
(抄訳)

 バーズアイ模様の原因を説明するため、数多くの仮説が提起されてきた。それは、病原体による感染、遺伝、成長困難な状態、気候ストレスあるいはキツツキによる攻撃などの内容である。しかし、これらのいずれかあるいは複合的な因子が実際にバーズアイ模様の原因なのかに関してはいずれの研究でも立証できていない。

 光学顕微鏡や電子顕微鏡による観察によって、バーズアイメープルで普通とは異なる特徴が確認されている。バーズアイメープルの斑点内では材の道管が普通の材のもによりも短くて、直径も小さく、道管二次壁の異常な肥厚と細胞間の空隙が見られた。また、バーズアイ材は通常の材よりも木質化していない。最終的に、木質化した細胞壁を持った肥厚細胞に続くつぶれた細胞が成長輪の初期に観察される。これに対応する樹皮の側では生きた師部の薄い層と多数のつぶれた細胞が見られる。こうした特徴は、樹皮から加わる圧力がバーズアイ材形成の原因となっているか、あるいは寄与していることを示唆している。

 環境ストレスは水の吸収や炭水化物・その他の栄養素の可用性に変動を生じさせることで道管の形成に影響を与える。高い水準のエチレンもコルク形成層(外樹皮を作る組織)の活動を刺激し、維管束形成層(木部と内皮を作る組織)に向けて圧力を産むことができる。エチレンがある種の特別な解剖学的特徴の発生に関係し、バーズアイ材でも同様に観察されることは、数多く科学文献で報告されている。したがって、このホルモンはバーズアイ材の形成に際しての鍵となる要因であろう。

 バーズアイメープルは立木から収穫される量のせいぜい5パーセントである。仮にこの比率がたったの1パーセントであっても植林地の所有者にとっては時に相当な収入源となりうる。研究者が樹木にバーズアイ模様の形成を誘導する方法を決定できるまでの間は、最良のバーズアイメープルの個体をカエデ林の中で識別することは有意義である。バーズアイメープルを識別するための野外手引きが CERFO によって出版されていて、貴重な識別手段となっている。

 バーズアイメープルは希少であるため、非常に高価格となっている。この比類のない模様の材は単板製造業者や上等な木製品用(個性的な家具、ギターネック、ロールスロイスのような車のダッシュボードの生産)に珍重されている。ケベック州におけるピーラー品質材の価格は千ボードフィート当たり4千ドルから2万ドルである。最高品質のピーラー原木とは、曲がりがなく、心材が少なく、バーズアイ斑文が幹廻りに十分に分布しているものをいう。