トップページへ  木の雑記帳目次

木の雑記帳
 
  木のいろいろな表情 その2
             


1 旧因州池田屋敷表門(黒門)  2 護国寺観音堂(本堂)の柱、回廊 
3 ウッドコーンスピーカー  4 旧丸ビルの基礎杭 
5 新木場駅の構内装飾・看板  6 お木曳き 
7 宮島の鳥居  8 木造電車 
9 運河の係留施設  10プライド高き木っ端 


1 旧因州池田屋敷表門(黒門)



 もとは因州(現在の鳥取県の一部)池田家の江戸屋敷の表門で、のちに皇族の屋敷門として移築された経歴を持つ。昭和26年9月、重要文化財として指定されている。実はこうした歴史も興味深いが、使用されている素材により関心が向いてしまう。素材はケヤキで長きにわたって日に曝され色が変わって遠目には分からないが、板材も玉杢の立派なものである。

東京都台東区上野公園13 国立博物館内
2 護国寺観音堂(本堂)の柱、回廊


 護国寺の観音堂は元禄10年(1697)に徳川5代将軍綱吉が生母桂昌院の願いにより建てたものという。関東大震災や東京大空襲にも耐えたこの建物は太いケヤキの丸柱が52本、角柱(軒柱)が4本使用されていて、これだけでも鑑賞価値がある。昭和6年1月重要文化財指定。
 写真の丸柱は屋外に面した部分で、ケヤキの木目がくっきり表れている。
 もう一つの写真は回廊の縁板の木口面である。屋外で雨や日光に晒されると木材は木口面が弱点となる。しかし、十分な厚さがあるから何ともない。材はヒノキだろうか。経年変化には味があり、それとして受け止めればよい。なお、純和風のちょっと気合いの入った住宅の場合は、外気に接する木口面を保護するために(化粧)タルキ先端や軒桁の小口に銅板錺金物を取付ける手法が採られて、格調を高めている。

真言宗豊山派 大本山護国寺 東京都文京区大塚5-40-1
3 ウッドコーンスピーカー

 2003年にビクターが開発したもの。元々音響特性に優れた木材をコーンに使用する研究を進めて、カバノキ和紙を裏張りし、試行錯誤の結果日本酒で軟化成形したという。スピーカーネットをはずしたままで目でも楽しむ製品でもある。
 なお、ビクターでは2008年2月には木の振動板(ウッドドーム振動板)を採用したイヤホンまで発売している。ハウジング(筐体)まで木製とするこだわりである。木は音を速く伝え、余分な震動を適度に吸収するため、音の広がりや余韻を自然に再生できるという。ビクターの木に対するこだわりは興味深い。

ウッドコーンスピーカー 日本ビクター株式会社

4 旧丸ビルの基礎杭(松杭)


杭の頭の部分

 旧丸ビルを立て替えるに際して、基礎工事のときに出土した当時の基礎杭である。旧丸ビルは大正12年(1923)2月に竣工したが、当時は基礎杭として丸太を打ち込むことは一般に行われていたようである。材は明治時代からメリケンマツの名前呼ばれていた米国産のベイマツ(マツ科トガサワラ属)であるから松杭である。新丸ビル(平成14年竣工)のオフィス専用のホールの床を刳り抜いて現物標本として組み込んであり、ガラス越しに観察できる。打ち込む時に叩かれた頭は少々痛んでいるが、本体は新鮮そのものである。

丸の内ビルディング 東京都千代田区丸の内2-4-1
5 新木場駅の構内装飾・看板



さりげなく各種継ぎ手や仕口がデザインとして組み込まれている。
 


     ケヤキの大径木の厚板である。

 元々の木場は別の場所であった。現在の東京都江東区木場、平野、冬木一帯は掘割や池が多く貯木に適していたため、元禄年間日本橋の材木問屋が木置場として以後問屋、製材所が集中して、木場千軒といわれるほど繁栄した歴史がある。
 しかし、1970年代に地盤沈下、交通事情の悪化等のため夢の島に南接する14号埋立地に新木場をつくって移転した経過がある。(移転の開始は昭和48年度。)水中貯木場の面積(水面)は約70ヘクタールに及び、かつては製材工場と木材問屋が立ち並んでいて、活況を呈していたが、近年製材品の輸入が多くなって、今度は経済的に地盤沈下が進んでいる。
 当時は材木屋もまだ元気であったため、新木場駅の新設に当たっては何としても地域にふさわしい木造の駅舎の実現したいとして熱心な運動が見られたが、消防法の壁は厚く断念せざるを得ず、残念ながら駅構内にささやかな木の演出をするに止まった。

新木場駅 東京都江東区新木場一丁目
6 お木曳き

 伊勢神宮第62回式年遷宮に向けた演出として六本木ヒルズで催されたお木曳きである。丸太は木曽ヒノキであろうか。剥皮した肌が何ともきれいである。無節のヒノキ丸太は貴重材であり、木口には割れ防止の紙が貼られている。


東京都港区六本木 六本木ヒルズ付近
7 宮島の鳥居

 写真は夜の宮島の鳥居である。この鳥居が耐久性に優れたクスノキでできていること、またこの根元は埋められているものではなく、自重と屋根下の石のおもりで地に立ち、袖柱で安定させる構造であることが知られている。よく見ると材料の丸太の元の形状を残しているのか、少々不整形となっているのが興味深い。


厳島神社大鳥居 広島県廿日市市宮島町
8 木造電車

 東武鉄道が初めて1924(大正13)年10月1日に浅草(現 業平橋)〜西新井間を電化した時に走った木造電車(デハ1形5号)とされ、東武博物館に展示されている。
 基幹的な部分が自国生産ができない時代で、パンタグラフ、電気装置は米国製、台車は英国製で、木製部分のみが国内で製造されたといわれる。
 木の内装から、古い時代のゆったりと落ち着いた雰囲気が伝わってくる。また、現在の電車のつり革は「革」ではないが、こちらは純正の皮革製である。
東武博物館 東京都墨田区東向島4-28-16   
9 運河の係留施設

 港区の高浜運河沿いのエリアは、オフィスビルの建設とセットで遊歩道が整備されていて、ベンチやささやかな緑も配置されており、地域住民やオフィスの住人にとってのお散歩コースとなっているが、やはりコンクリートに囲まれたやや冷たい空間となっている。ただし、東京都が進めて来た地域観光に係わる屋形船の係留施設が拠点的に整備されていて、この施設の太い木柱の質感と色合いがほっとする情緒を醸し出している。
東京都港区
10 プライド高き木っ端材

 たまたま東急ハンズ(新宿)で見かけた特設販売で、ヒノキやクスノキの輪切り材を小さく分割し、材の香りをウリとして販売していた。調べてみると、この事業者は随分あちこちで巡業をしているようで、ということは、いい商売として成立しているということである。
 驚くべきは、ただの木っ端(失礼)やチップが腰を抜かすような高価格で販売されていたことで、 さらに驚くべきことは、その価格にもかかわらず、そこそこ売れていたという現実である。これにはただ唖然とするばかりであった。都会の住人には全く理解できない性向があることを認識した。環境によっては、木っ端が高級材に転ずるという構図であった。
 ちなみにヒノキの木っ端を手に取ると、随分湿っていて、クンクンしてみるとふつうよりも強い香りがある。たぶん、カット・研磨したままの材ではなく、ヒノキオイルで香りを付加したものと思われる。

天然くすのき工房