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木の雑記帳
 
  木のいろいろな表情 その1
             


 コンクリートの街の建物の内外に、ちょっと出かけた折に、ふといろいろな木の表情を見かけることがある。慎ましやかなもの、存在を主張するもの、歴史を刻んだものといろいろあって興味深い。【2007.9】

 林試の森公園 木製車両進入防止杭
 経王寺山門 弾痕
 内幸町の不思議空間 赤い木のトゲ
 死の灰を浴びた木造船 第五福竜丸
 思い出ベンチ
 目黒雅叙園の十畝(じゅっぽ)の間のパオブラジル(ペルナンブーコ)の床柱
 ボンゴシの木橋 七瀬川自然公園の三日月橋
 原尻の滝 滝見橋
 なぜか伐られたイスノキ
10  力尽きたクスノキ






林試の森公園 木製車両進入防止杭

 街中普通で見かける車両進入防止杭は、太い棒状のステンレスパイプあるいはコンクリートの製品ばかりであるが、こうして苔むした木製の重厚なものもあった。屋外に置かれた木材は木口が弱点となるが、これは防腐剤の効果なのかどうかはわからないが、当分へこたれそうにない。シンプルだが情緒があっていい。
都立林試の森公園
目黒区下目黒五丁目、品川区小山台二丁目


【2015.2追記】
 風情のあった杭であったが、残念ながら予算消化によるものか、いつの間にか味気のないコンクリート製の同様の形態のものに取り替えられていた。




経王寺山門 弾痕

 1866年、上野戦争で敗走した彰義隊をかくまったことで新政府軍の攻撃を受け、その際の弾痕が経王寺の山門に残されている。木工用ドリルで空けたようなきれいな穴で、思ったより銃の性能がいい。耐久性に富み、歴史を刻むケヤキ材に乳金具の組み合わせも様になる。

経王寺
東京都荒川区西日暮里3-2-6


内幸町の不思議空間 赤い木のトゲ


 名称がなくて説明しにくいが、要は新橋駅近くの内幸ホールの地上部、第一ホテルアネックスと東京電力のブロックの公共エリアである。奇妙なオブジェで充ち満ちている。地下部の石のオブジェ、地上部では石と金属が織りなすユニークなベンチ、一段上がると岩から生まれた石のツボが水を湛え、あちこちに鮮やかな赤色の巨大な棘がそびえている。
 この棘の素地は巨大な丸太の四面を削りあげたものである。サツキツツジが咲くと同じ色で一体化して不思議な風景となる。

内幸町「地の棘石の華」(小清水漸(すすむ)
東京都千代田区内幸町1-5-1







死の灰を浴びた木造船 第五福竜丸

 1954年3月1日ビキニ環礁でのアメリカ水爆実験により被災したマグロ漁船「第五福竜丸」の船体である。不幸にも乗組員もろとも死の灰を浴びた船として保存されている。全長が30メートルにも及ぶため、写真は船体のごく一部である。

東京都立第五福竜丸展示館
東京都江東区夢の島3-2 夢の島公園内


思い出ベンチ

 平成15年度から都立公園等を対象に寄付の呼びかけが開始されたもので、寄贈者のコメントを刻んだ真ちゅう製プレートが背の部分に取り付けられている。名付けて「思い出ベンチ」。座板はさすがに東京都であるから地場の多摩産のヒノキ材で、木目を殺さない木材保護着色塗料仕上げとなっている。さらに脚は重厚な鋳鉄製で、値段は結構高く、このタイプで税込み20万円である。寄付した者それぞれの思い出や願いが記されている。結果として上質のベンチが整備されて大変結構なことである。このシステムの元祖はわからないが、海外での事例も知られている。

都立日比谷公園
東京都千代田区日比谷公園






目黒雅叙園の十畝(じゅっぽ)の間のパオブラジル(ペルナンブーコ)の床柱

 目黒雅叙園の木造部分で、豪華絢爛な竜宮城の世界が展開している。これは十畝(じゅっぽ)の間で、荒木十畝(1872〜1944)がこの部屋のすべての絵を手がけたという。写真はパオブラジルペルナンブーコブラジル木とも)の床柱で、この樹種の床柱は滅多にお目にかかれないであろう。 樹種名はブラジルの国名の由来でもあり、さらにバイオリンの弓の材料として最も適しているとされる。

目黒雅叙園
東京都目黒区下目黒1-8-1




ボンゴシの木橋 七瀬川自然公園の三日月橋


 ボンゴシエッキアゾベとも呼び、堅くて強靱で、耐朽性に富むことで知られている。このため各地の木製木橋にも使われている。ただし、接合部に水がたまったままになりやすい等の施工の甘さで、落下したケースもある。耐朽性のある材でも水切りを良好なものとすることが大切とされる。
 この材は元々暗褐色であるが、この色からすると防腐処理もされているのであろうか、遠くからみれが金属的な印象がある。
 橋長は66.7メートル、1998年3月竣工。
七瀬川自然公園
大分県大分市高瀬口戸




原尻の滝 滝見橋

道の駅「原尻の滝」内 の吊り床版橋で、橋長は80.5メートル。 材はスギで、いかにも木の橋といった風情である。敷き詰めた板が比較的薄いのもスリルを感じていい。日本の滝百選にも選ばれた原尻の滝(はらじりのたき)を間近に眺望できる。平場に突然滝が現れるという情景は、これ以外に経験がなく、びっくりした。
 構造的には徳島県の祖谷のかずら橋と同様にワイヤーが支えており、不安はない。

大分県豊後大野市緒方町原尻




なぜか伐られたイスノキ

 滅多にお目にかかれない、イスノキの丸太の木口面の写真を撮影できた。とことん堅い木であるから、チェンソーを使ったときには焦げ臭い煙を上げたかもしれない。中心部の模様は固有のもので、腐れではない。危険防止のための整理であろうか。
 鷹鳥屋山の山頂付近一帯の常緑樹林は自然度が高く、大分県指定の天然記念物に指定されている。

大分県佐伯市宇目町鷹鳥屋山(たかとりやさん)


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力尽きたクスノキ

クスノキはかつては防虫剤の樟脳の原料となったくらいであるから、その材は水湿によく耐え、その耐朽性・耐虫性はきわめて高いとされる。写真は地面すれすれに伐採されていてわかりにくいが、ぐるりを残してボソボソに見事に腐って伐採されたクスノキである。根元径は60センチくらいある。当の木自身がこんなことになるとは思わなかったに違いない。もちろん、ぐるりが生きていれば厳密には枯れたことにはならないが、公園では危険であるため処理したのであろう。

都立日比谷公園