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スウェーデン産の製材品の端材の外観 |
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断面は3.2×11.1センチ。
初期から年輪が非常に細かい。
板目面はマツっぽい印象がある。
樹皮が付いていないため何年生かわからないが、ここに見える年輪だけで、何と58年分ある。 |
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年輪が細かいため、正目面は美しく、マツとは別物の印象がある。(中心部の線は髄である。) |
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周辺事情を説明すると、この工場では集成材の構成要素となる板材(ラミナ)をスウェーデンから輸入し、これを貼り合わせて国内での需要に適合した規格の集成材を生産していた。国産のスギ、ヒノキの使用も一部に見られたが、主体はスウェーデン産のヨーロッパアカマツであった。
ヨーロッパアカマツ(Pinus sylvestris)は世界で最も広く分布するマツで、スコットランドからロシア太平洋側まで、北はスカンジナビアの北極圏から地中海側まで分布しているとされる。日本国内ではこのヨーロッパアカマツの呼称のほか、欧州赤松(オウシュウアカマツ)、ロシアアカマツの呼称がある。英語名にはスコッチパイン(Scotch pine)、スコッツパイン(Scots pine)の二とおりの呼称がある。また、製材品に対しては英語でレッドウッド(redwood)の呼称もある。米国のセンペルセコイアにもレッドウッドの呼称があるからややこしい。
さらに、わが国に輸入されている製材品は業界ではレッドウッドと呼び、ホームセンターの店頭ではレッドパインの名で販売されているから、訳がわからないが、承知していればそれだけのことである。
さて、写真の材はもちろんヨーロッパアカマツで、この材をよく見ると・・・
断面は3.2センチ×11.1センチで、幸い年輪の中心部である随が含まれている。隋からわずか6.1センチの間には、なんと58年分の年輪を確認した。この間の年輪幅は概ね1年間に1ミリ程度である。
厳しい生育条件に置かれていたことが想像できるが、ここまで成長が遅いというのは、信じ難いほどである。 |
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<比較参考用>
北海道で人工植栽されて育ったグイマツの輪切りである。
直径は約10センチで、上のヨーロッパアカマツと表示縮尺は同程度である。
皆伐後に植栽された樹木は、日当たり良好な環境が確保されるから、この程度の広い年輪幅は普通である。 |
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関係者に聞くと、先のヨーロッパアカマツの材は人工林から産出されていると聞いているということである。しかし、この年輪幅で人工林材であるとはとても信じられない。少なくとも皆伐後に一斉造林して育てたものではないことは明らかである。こうした場合は、植栽後は日当たり良好な環境下に置かれ、、中心部からしばらくの間の年輪幅がかなり広くなるはずである。
按ずるに、言葉の定義が少々異なっているのではないかと思われる。可能性としては、天然林を抜き切りし、天然更新あるいは必要により植え込みを行う方式で育成しているのではないかと思われる。全くの天然林を皆伐しているのではないというニュアンスの「人工林」の語であったのであろう。年輪を改めて見ると、50年目から急に年輪幅が明らかにやや広くなっていいることが確認できる。これは、上方を覆っていた樹高の高い木を抜き切りしたことにより、光の条件が向上して年間生長量がそれ以降増加したことを物語っているものと思われる。
こうして想像するも、やはり現地に行ってみなければよくわからない。スウェーデン森林庁のホームページを見ても、森林の具体的な育成方法についての詳細はよくわからなかった。 |
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<スウェーデンの森林・林業のあらまし【スウェーデン森林庁】>
http://www.svo.se/episerver4/templates/SNormalPage.aspx?id=11310 |
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現況
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国土の60%、2千800万ヘクタールが森林。
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51%の森林が小規模な私有林で、しばしば family forestry と呼ばれる。約35万人の所有者がいて、平均で47ヘクタール。会社所有が24%、国公有林は25%。
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立木蓄積の85%が針葉樹で、Norway spruce (ヨーロッパトウヒ)が45%、Pine(Scots pine ヨーロッパアカマツ)が39%、Birch が10%を占めている。年間生長量は1億立方メートル。
木材は輸出額の12%を占める。 |
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A |
林業
スウェーデン林業は現地適応型である。造林の手法を使い、樹種は現地の自然条件に適合したものとしている。1903年以降、伐採後の再生を必須条件とすることがスウェーデン林業法制の中心的役割となっている。
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再生(0〜10年):年間330百万本の苗が14万ヘクタールに植栽されている。6万ヘクタールは天然更新されている。また、年に16万ヘクタールにつき地表処理が実施されている。
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クリーニング(5〜30年):若木が2〜4メートルに達したときに、残すべき樹種及び個体を選別して、他を除去する。年に20万ヘクタールについて実施されている。
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森林内での全ての行為は、自然保護と文化遺産の重要性を考慮しなければならない。
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間伐(20〜80年):間伐はふつう成長のサイクル間に2〜4回実施されている。年間約27万ヘクタール実施されていて、1500万立方メートルの丸太が生産されている。
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再生のための伐採(50〜130年):樹木が一定の密度と樹高に達すると、生長量が減退し、収穫の時期となる。再生のための伐採は年間約20万ヘクタールで、全森林面積の1パーセントにも満たない。これにより、5千万立方メートルの丸太が生産されている。 |
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注: |
スウェーデンの林業に関して次のような記述例がある。
「伐出作業は、まずハーベスタによって立木の伐倒、枝払い、玉切りまでを林内で行う。つづいて、フォワーダが林内に残された丸太を林道端まで集材する。・・・伐出作業は、皆伐が主体である。・・・伐採対象地であっても、太い木や広葉樹などは極力伐らずに残される・・・」
【ヨーロッパの森林管理(日本林業調査会)】 |
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<参考1:身近なヨーロッパアカマツの材> |
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ヨーロッパアカマツの集成材 その1
ホームセンターで「レッドパイン」の名で販売されていたものである。柾目を出していて、ヒノキに近い印象がある。 |
ヨーロッパアカマツの集成材 その2
これは「節あり」として明示して同ホームセンターで販売されていたレッドパインの集成板材である。あまり綺麗ではないが、資源を残さずに利用するべく、こうした選択肢を提供することは大切である。 |
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<参考2:スコッチパインとスコッツパインの真実> |
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ヨーロッパアカマツを英語でスコッチパインと言うことは承知していたが、幸運にもヨーロッパ各国を視察できた者が、あくまで
Scots pine と表記しているのが目についた。
スコッチパインとスコッツパインの語を口で反復してみて、すぐにピンときた。東北人にスコッチパインと言ってもらえば、必ずやスコッツパインになるに違いないという確信を持った。
運のいいことに身近に生粋の青森県出身者がいた。奥様が茨城県生まれのため、正調青森弁に若干の乱れが生じている可能性はあるが、やはりネイティブである。そこで単刀直入に問うてみた。「コッチパイン」の語を青森的に発音すればどうなるのかと。すると感動的な答えが返ってきた。「やはり、スコッツパインかな」と。
してやったりである!!
イギリスでも「スコッツパイン」が「スコッチパイン」の方言であれば、日本語における東北弁と標準語の関係と全く同じイメージとなり、これほどうれしいことはない。
こうした期待を抱きながら、真面目に調べてみた。
【英語版Wikipedia】Scotch (形容詞)
Scotch(スコッチ) は「スコットランドの」の意の形容詞である。スコットランドでは近年は Scottish(スコティシュ)又は Scots(スコッツ)の語が使われ、Scotch の語は特定の産品、通常はスコッチウィスキー、スコッチパイ、スコッチブロス(イギリスのスープの一つ)、スコッチエッグ(ゆで卵を使ったイギリスの料理)などの食品や飲物に対してのみ使われ、“Scotch”が人に対して使われる場合は、一般にやや軽蔑的な意味合いとなっている。しかし、Scotch はイングランドやアイルランドでは時折使われており、北アメリカでは普通に使われている。
【ランダムハウス英和大辞典】
Scotch は元来イングランド中・南部の方言形で、口語的には米英両国で用いる。Scots と Scottish はイングランド北部とスコットランドで好まれ、特に形式張った文脈では米英両国でScottish
をよく用いる。
Scotch:(形容詞の場合)@スコットランド起源の、スコットランド(人)的な、スコットランド風の A倹約な、つましい、質素な
Scots pine= Scotch pine
ということで、残念ながら、Scotch の方が方言であった。ヨーロッパアカマツの英語名の使用例を掲げると、英国森林委員会(Forestry Commission)のホームページでは“Scots pine”(スコッツパイン)としていて、米国農務省(USDA)のホームページでは“Scotch pine”(スコッチパイン)としていた。 |
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【追記 2011.1】 国内でのヨーロッパアカマツの風景 |
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ノルウェー産のヨーロッパアカマツの実生木が20本余存在する。
(北海道育種場内) |
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ポーランド産のヨーロッパアカマツの実生木が40本ほど存在する。
(北海道育種場内) |
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北海道江別市の林木育種センター北海道育種場には、各種育種素材としてヨーロッパ各国産のヨーロッパアカマツも植栽・保存されている。具体的には、イギリス、ノルウェイ、スウェーデン、フィンランド、スペイン、フランス、ドイツ、デンマーク、チェコ、オーストリア、ポーランド、リトアニア、ルーマニア、ブルガリア、ロシア、中国の各国産と、国際的である。 (写真は田之畑 忠年氏撮影)
注: 中国に自生するのはヨーロッパアカマツの変種 Pinus sylvestris var. mongolica で、中国名は「樟子松」で、この和名を「モンゴルアカマツ」としている場合がある。 |
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ヨーロッパアカマツの中径木
樹皮は日本のアカマツとは少々色合いが異なっている。(北海道育種場) |
ヨーロッパアカマツの小径木
(北海道夕張郡栗山町 王子製紙森林博物館) |
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【追記 2018.11 突然の都内のヨーロッパアカマツ】 |
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ヨーロッパアカマツは北海道では試験的な植栽の歴史があるが、一般的な緑化木としての位置付けはない。
そのヨーロッパアカマツが東京のど真ん中、皇居東御苑に植栽されている。東御苑で外国樹種を唐突に植栽することはないから、説明看板を見ると、案の定、スペイン国王・王妃が来日した際に 天皇・皇后両陛下に贈られたものを、両陛下がお手植えになったものとされる。 |
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両陛下お手植えのヨーロッパアカマツ (2014年) |
説明看板 |
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両陛下お手植えのヨーロッパアカマツ (2018年) |
ヨーロッパアカマツの雌花 |
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