木の雑記帳
巨木と生きた人々の記録
ダリウス・キンゼイ写真集
この写真集を初めて見たときは、ただただ見とれるだけであった。巨大ガラス乾板に焼き付けた精緻な白黒の画面は圧倒的な存在としての巨木とこの巨木にしがみついて生活した人々を実に見事に記録している。 |
ダリウス・キンゼイ写真集(アボック社出版局)表紙 |
巨木を伐倒するに際しての受け口の大きさも半端ではない。人が何人でも納まってしまう大きさを見ればわかる。 立てかけてある異様に長い鋸も見たこともない代物である。多分、受け口の水平切りと伐倒のための追口切りに使用するのであろう。対面して二人がかりで挽く鋸であることがわかる。この作業のためには少なくとも木の直径プラス鋸挽きのストローク分の長さが必要なのではと余分な心配をしてしまう。日本では製材用として前挽大鋸(まえびきおが)が出現する前は、二人挽きの弦で突っ張った大鋸(おが)を使用して製材した歴史はあるが、伐倒用の二人挽きの鋸はなかったように思う。 受け口の斜めの面には斧の刃の痕跡が見える。斧が爪楊枝のように見えるのと同様に、力一杯の斧の一振りの刃痕はあまりにも小さく見える。ここまで削るのに何振りしたのであろうか。時間の流れも現在とは全く異なった世界である。 |
地上6メートル位の位置に打ち込んだ足場板の上に立って、受け口作りの作業をしている場面である。木の生長過程で何らかの障害があったのであろう。根元の太さに対して、上の方へいくと急に細っている。 労力と得られる収穫を天秤に掛けた結果が、地上から遙か上に足場を確保することで伐倒作業を行うという選択であった。何とも危なっかしい足場である。しばしば選択した作業方法であったのであろうが、この世のものと思えないような風景である。 (同写真集 130ページ) |
|
そもそも、好き好んで山奥に来る写真屋など他にはなかったであろうし、たまたま訪れた写真屋に作業現場での写真を撮影してもらえたことは作業者達にとってはこの上ない記念となったことであろう。 ダリウスキンゼイ(1869−1945)は米国の西部開拓時代、写真屋として店を構える一方で、森林、木材の伐採や搬出風景を好んで撮影し、当時の貴重な記録を今に残している。 写真集は残念ながら既に絶版となっているが、図書館にはしばしば所蔵されていて、じっくりと鑑賞できる。古書でもなかなかいい値段である。 ■「森へ ダリウス・キンゼイ写真集」 (1984.2.1、株式会社アボック社出版局)\17,000 |