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街の鉄蓋
  都会の道路はマンホールの蓋や小蓋だらけだ!
  その14 滑り止め機能を高めた鉄蓋


 鉄蓋は車道に設置するのか、それとも歩道に設置するのかを問わず、その創製期から一定の滑り止めの機能を多少とも意識したはずである。そもそもタイヤや靴で踏みつけられるものであるから、表面の模様にそれほど神経を使う必要はないと解されたと思われ、結果としてダサい模様がほとんどである。つまり、ツルツルでは具合が悪いから、何らかの和柄や既往の幾何学的な模様で埋め尽くしているだけというのがほとんどであったというのが現実である。
 量産されて設置される街中の鉄蓋は、いわば空気のようなものであるから、どんな模様であろうと誰も注意を払うことなどないが、近年2つの動きがあったように思われる。 【2021.10】


   ひとつは日本の顔となるような特定の地域の歩道で見られるもので、きれいな街路を形成するために、天然石を利用した歩道の仕上げと協調し、無骨な様々な鉄蓋を同色の滑り止め塗料で覆ってしまう手法が採用されている例を見る。滑り止め機能の耐久性には限度があると思われるが、鉄蓋の種類を問わず、色調を整えることには貢献しているようである。

 もうひとつは特に車道の鉄蓋で次第に拡大しているように思われるもので、車にとっての滑り止めの機能を初めて真面目に考えて、いろいろな形態の小さな突起を全面に配した鉄蓋が複数社で開発されているようである。この製品の採用が次第に拡大している例を見る。 
 
     
  <滑り止めカラー塗装の例(歩道)>   
     
   これを確認したのは主として皇居付近の内堀通り沿いのビルの前の歩道上である。同様のものは東京駅と皇居の間のエリアで多数確認できる。このあたりは日本の顔でもあり、ほとんどの歩道の舗装に御影石が採用されていて、無骨な鋳鉄の素地むき出しのマンホールはおしゃれではないため、蓋表面に少々手を加えている。

 たぶん千葉市の中村電設株式会社の技術と思われる。会社の説明によれば、鉄蓋等の表面に飽和ポリエステル樹脂(NTTで開発し、10年以上の使用実績)の粉体塗料を塗布し、その塗膜が溶融状態の上に無機粗粒体を付着させることにより、優れた滑り止め効果を発揮するとしている。色は自由自在で、路面色に合わせて15色から選べるとしている。わかりやすく喩えれば、サンドペーパーの表面と同様の構造、質感である。

 この手法によれば、御影石の歩道にはなじみにくい鋳鉄製の蓋が御影石の色に調色された蓋に化けることになる。  特に、路地裏にしかなじまない東京ガスの薄汚い鉄小蓋も御影石と同色の目立たないものに変身できるのは大きなメリットである。
 
     
 
塗装・下水道合流管マンホール鉄蓋T-20  塗装・合流管マンホール鉄蓋T-25 
   
   前出鉄蓋の部分
 表面のザラつき感は写真のとおりである。塗装は一定の厚味があるため、スリップサインは丸い突起になってしまっている。
  塗装・雨水管マンホール鉄蓋 
   
  塗装・公共合流枡鉄蓋(中型)    塗装・公共合流枡鉄蓋(小型) 
   
  塗装・公共合流枡鉄蓋    塗装・消火栓鉄蓋 
   
  塗装・東京電力パワーグリッド鉄蓋    塗装・電気施設鉄蓋 
   
  塗装・電気施設鉄蓋(丸電鉄蓋)    塗装・電気施設鉄蓋(丸電鉄蓋) 
   
  塗装・NTT角型鉄蓋     塗装・NTT丸形鉄蓋   
   
  塗装・信号施設鉄蓋(丸K鉄蓋)    塗装・信号施設鉄蓋(丸K鉄蓋) 
   
 塗装・東京ガスターミナルボックス・
 ハンドホール鉄蓋

 鉄枠自体には塗装が及んでいないことが確認できる。
  塗装・水道制水弁鉄蓋 
   
  塗装・丸の内熱供給(株)鉄蓋    塗装・東京メトロ鉄蓋 
   
  塗装・公共基準点    塗装・使途不明蓋 
 
     
   【気づきの点】  
     
 
総じて仕上がりはきれいで、御影石の舗装の中で違和感なく収まっている。 
おしゃれな御影石の歩道整備に際して、御影石の化粧蓋とするのか、この塗装とするのかは事業者の選択である。 
耐久性とグレードの観点では天然石の化粧蓋の圧勝であるが、塗装であれば化粧用の仕様がない蓋でも対応が可能である。 
塗装は工場での作業となるため、鉄枠自体は元の鉄色のままとなるのは避けられない。 
塗装面はサンドペーパーのザラつきと同様の仕上がりであるから、靴はよく摩耗するであろう。 
個々の鉄蓋は出荷時に黒色の塗装をしており、生産者にとっては、自社の鉄蓋に勝手に塗装加工されるのは不愉快であることは間違いない。 
 
     
  <その他の滑り止め加工の例(歩道)>   
     
 
  表面加工されたマンホールの例(歩道)
 東京ガスのふつうのマンホール鉄蓋で見られたものである。見た目は陰気で美しくない印象である。周りがアスファルト舗装であればそれほど気にならないかも知れない。鉄枠は処理の対象外となっている。
     同左部分 
 先の滑り止め塗装と較べると、皮膜が厚く、粉体も砂粒程度と大きく、モルタル塗布したような質感である。砂やゴミが滞留しやすいようである。写真では角の部分が既にわずかに剥離している。
   
 
  表面加工されたマンホールの例(歩道)
 東京ガスの上の写真と同じ処理をされたと思われる別の蓋の様子である。アスファルト舗装の中では違和感のない存在となっているが、表面の被覆は既にすり減って鉄の素地が露出しかけている。
  表面加工されたマンホールの例(歩道)
 東京ガスの同じ処理をされたと思われる鉄蓋のなれの果てである。既に鉄の素地がしっかり露出している。
 こうした状態を見ると、コンクリートやアスファルトで被覆した化粧蓋の方がはるかにましであることをしみじみと実感する。 
   
  表面加工されたマンホールの例(歩道)
 ふつうの合流管マンホール鉄蓋T-20で、上の写真と同様の処理がされたものと思われるが、ひどく薄汚くなっていて、これはいただけない。 
    同左部分
 滑り止め効果でゴミを拾いやすくなって、こうした状態に至ったのかは不明であるが、推奨事例とは言い難く、文字も判別しにくくなっている。 
   
 表面加工されたマンホール蓋の例(公園)
 まだ新しい蓋であることから、特に見た目の違和感はない。外径約111センチの大型電気設備用鉄蓋(丸電)である。強いザラつきがあるから、汚れが付着しやすい印象がある。 
   同左部分
 表面の質感は荒目のサンドペーパーと同じである。
 この上でダンスをしたら、靴底は消失するであろう。
 大きめの粗粒体を樹脂で固めたような印象で、研削力が強すぎるのではないかと心配になる。転んだらひどく擦り剥きそうである。 
 
 調べてみると、滑り止め処理のための表面加工用の製品も販売されていて、例えばシート状のものをガスバーナーで加熱・溶着するもので、現場施工が可能であることをウリとしている。 
 
     
  <耐スリップ性能を高めた模様の鉄蓋の例(車道)>   
     
   近年の傾向なのか、今までは惰性で古典的な模様のマンホール蓋を作ってきた事業者が、少しだけ車道での耐スリップ性能等の機能を意識するようになってきたような印象がある。自動車のトレッドパターンの研究よりも百年ほど遅れていたように思われるが、車道におけるマンホール蓋の改善に繋がることを祈りたい。スリップサインもタイヤに学んでいるようである。   
     
 
    耐スリップ型・東京都電線共同溝鉄蓋
 日本鋳鉄管(株)の製品と思われる・
  耐スリップ型・東京都電線共同溝鉄蓋 
 突起を十字に割った形態で、いかにも食いつきが良さそうである。小さな突起も配されている。
   
  耐スリップ型・東京都電線共同溝鉄蓋    耐スリップ型・東京都電線共同溝鉄蓋
 方形と十字型の突起を均等に配置され、わずかに異型の突起がある。
   
  耐スリップ型・港区電線共同溝鉄蓋
 日之出水道機器(株)の製品である。
   耐スリップ型・港区電線共同溝鉄蓋
 突起が三段構造となっている。
   
  耐スリップ型・港区電線共同溝鉄蓋
 メーカーは未確認。 
   耐スリップ型・港区電線共同溝鉄蓋
 基部が六角形でピンが円柱のものと基部が三角形で、ピンも三角柱のもので構成されている。
   
   耐スリップ型・NTT鉄蓋
 2017年度にグッドデザイン賞を受賞したというが、同賞は乱発ぶりが知られているから、特に気にとめる必要はない。水が滞留しやすいのか、表面が灰褐色〜褐色に汚く変色していることが多い。 
   耐スリップ型・NTT鉄蓋 
 四角柱のシンプルな突起で、基部が六角形のものが混じっている。これがスリッサインとして機能するとして講釈している。
 
     
   信号機施設用の鉄蓋でも細かい突起に覆われた蓋も見られる(こちらを参照)が、ここで採り上げたのは本来的には車道用の鉄蓋である。突起の形態や密度もメーカーによって様々で、本当に機能性が優れているものなのどうかは客観的な実証的研究データにより比較しなければ全くわからない。   
     
  <歩道における滑り止め効果を高めた鉄蓋の例>(信号施設用鉄蓋を除く)   
     
 
   電気設備用鉄蓋(丸電)
 上面が平らな微細な突起を密集させているため、靴には易しい印象である。 
    同左部分
 突起は小さいが、一定の高さを確保しているため、耐久性には問題ないように見える。 
   
   電気設備用鉄蓋(丸電)
 微細な突起を多数のL字型に配したものである。靴に対しては優しいデザインで、またゴミを拾いにくい印象がある。 
    同左部分
 突起の形態は四角錐で、小さく低いため、摩耗には弱いと思われる。  
 
     
  【比較用参考】    
     
 
 左の写真は、周囲がコンクリートで舗装された歩道に設置された下水道(合流管)マンホール鉄蓋の化粧用の仕様である。

 周囲と同じコンクリートで表面が被覆されていて、極めて無機質な表情の蓋であるが、よくよく考えてみると、そもそも街中の鉄蓋とは変に主張する存在ではなく、この蓋のように極力謙虚で周囲に溶け込んだ無機質な存在であるべきであることを改めて実感できる。

 歩行者にとってはコンクリートやアスファルトは極めて靴との相性よく、変な滑り止めのための鉄の表面デザインは必要ではない。

 どうしてもおしゃれをしたいときには、コストも勘案して表面素材を選択すればよい。