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街の鉄蓋
  都会の道路はマンホールの蓋や小蓋だらけだ!
  【番外編】 鉄蓋に関する気付きの点


 街中に溢れるほど多く見られるマンホール鉄蓋やハンドホール鉄蓋を見ているうちに、いろいろともどかしい思いがこみ上げてくる。以下に、そのうちのいくつかを採り上げてみる。 【2021.10】


1   マンホール蓋に本来求められるデザインとは  
     
   歩道の鋳鉄製のマンホール蓋は総じて人の靴に対しては優しくない。また少し摩耗した古い時代の鉄の質感は鑑賞の対象としては魅力であるが、ツルツルとなった鉄は特に水濡れ状体では間違いなく滑りやすい。

 マンホールの地紋(模様)は本来的には一定の滑り止め効果を発揮しなければならないものであるが、街中の鉄蓋を見る限り、特に深く考えることもなく、何らかの模様で埋め尽くせばそれでよしとしてきた歴史しかなかったのではないかと受け止めざるを得ない。改めて車道と歩道のマンホールを見てみると、どうやら考え方が整理できていなかったように感じる。

 まず、車道のマンホール蓋であるが、車内からは明らかに蓋の模様などは見えないし、見栄えがする絵柄のデザインである必要は全くない。したがって、車道のマンホール蓋はタイヤにとっての滑り止めの効果という機能一辺倒で、純粋に工学的な論理でその表面構造を定めるべきである。
 対する自動車タイヤのトレッドパターンは、様々な研究の積み重ねがあると思われるが、マンホールの鉄蓋の模様に関しては思考が停止したままで現在に至ったようである。

 一方歩道であるが、車道とは異なり、歩道の色調とあまりにもかけ離れた蓋は目障りで、不快感をもたらすから、基本的に歩道の仕上げ材の色調、質感との調和を配慮しなければならない。結論をいうと、鋳鉄の素地むき出しで周囲に調和しつつ靴に優しいマンホール蓋を作るのは無理であり、またそんな無駄な努力もすべきではない。

 賢明な選択は、歩道の仕上げ素材と協調した(滑り止め機能に配慮した)タイルやコンクリートブロック、天然石を貼った普通の仕上げとするか、カラー舗装材で覆うのが最終的な落ち着き先と思われる。また、色彩上の制約はあるものの、舗装面と同じアスファルト(できれば粒度の粗いものがいい。)で仕上げた蓋も機能的には最も優れた仕上げ材のひとつである。

 ところがである。現実は車道での耐久性のみを意識した無骨なものや、特に下水道マンホール蓋では車道での耐久性に加えてある程度の見栄えのよさを意識したデザインのマンホール蓋が使用されていて、何とこれと同様のものが歩道にまで転用されている実態を見る。これは明らかに正しい選択とは思えないから、徐々に軌道修正すべきであろう。
 率直に言えば、歩道にあっては早晩、鉄剥き出しの蓋は退場願うのが穏当な方向性であると思われる。 
 
     
2   ご当地もののカラーマンホールやデザインマンホールについて  
     
   いわゆるご当地もののカラーマンホール蓋やデザインマンホール蓋は、税金を使った行政のお遊び、無駄遣いとしか見えない。少量の特注であるため、とんでもない価格となっているはずである。こうしたものは、例えば特別の観光地での演出など、極めて限定的なものであれば許されるが、それも趣旨に賛同した寄付があった場合のみの、限定的なものとして対応すべきである。

 カラーの鉄蓋として、唯一共感できるのは消防庁のかわいい坊やの消防士をカラーで描いた図柄の消火栓蓋で、これは実用上絶対に目立つ必要があるから合理性があり、異議はない。 
 
     
3   東京の下水道の現実  
     
   都内区部の約8割は後進的な合流式下水道となっているという。このため、大量の雨が降ると、下水処理場の能力が追いつかず、下水が未処理のまま川や海に垂れ流されているという。これでは残念なことに東京湾に船で糞尿を運んでまき散らしていた江戸時代と変わらないではないか。

 地下深くに布設される下水道の整備、維持管理には大変なコストと労力が伴うものと思われるが、狭小で錯綜した街路が無計画に拡大したこの大東京にあっては、し尿を分離してこれを適正に処理するなど、今となっては残念ながら夢のまた夢のようである。残念なことに、お台場海浜公園の海水汚染、大腸菌問題も都民のウンチが原因である。

 しかし、一方で、現在でも江戸時代と変わらず江戸前の魚介類は、実は都民の糞尿が育んでいるのかも知れない。 
 
     
4   路上のマンホール蓋、小蓋観察の壁と闇  
     
   ネット上には夥しい数の路上のマンホール蓋や小蓋の写真情報が溢れているが、蓋の中に何が入っているのか、それぞれどんな機能を担っているかといった情報が伴わないものがほとんどである。なぜなら、外から蓋を見て想像しても何もわからないものが多いからである。結果として、ただの鉄蓋の写真カタログに終わってしまうケースが多いという宿命がある。 

 非常にもどかしいことであるが、鉄蓋の管理組織の協力が得られれば、膨大な写真の蓄積は大変よい教材となることは間違いない。しかし、事業関係者でも、沿革的なことや現場レベルの情報などにまで精通している者は限られていると思われ、その辺もひとつの壁になると思われる。それはそれとして、実はそんなことよりも、例えば東京ガス東京都交通局のように、保安上の理由から都民、ユーザーに対して、路上施設の機能に関するおおよその情報の開示さえ拒んでいる実態があるから、謎は謎のままとなってしまっている。

 路上に企業体の最高機密が転がっているはずもなく、大げさなものでもないのに、都内の重要なインフラを担っているという上から目線のプライドがあることに加えて、独占的事業体によくある変な傲慢さがにじみ出ている。例えば、民間の通信事業者のマンホールが多数見られるが、ケーブルや関係設備が収まっているだけで、決して秘密施設とはなっていない。

 できることならば、各事業者のOBが都市の路上観察の楽しみという視点で、情報開示に貢献してもらうことができれば、都民が足下の施設についての認識を深めることができることになる。これによって、事業者の安易な秘密主義、閉鎖的体質がもたらす不愉快な現状が改善されて、都民は随分スッキリするはずである。