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ノラニンジンの元気な姿 1
空き地でしばしば大群落を形成する。ムラサキツメクサがいくらか見られるが、ノラニンジンに圧倒されている。(札幌市内) |
ノラニンジンの元気な姿 2
花はそこそこきれいなため、決して嫌われ者とはなっていない。2年生草本で、2年目に花を付けるとされる。 |
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ノラニンジンの花の姿
皿状の形態に開いたものと傘状のものが見られる。 |
ノラニンジンの花序のアップ
この手の花でよく見られるように、外側の花の花弁が大きい。 |
ノラニンジンの花序の裏側
花は複散形花序。 |
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ノラニンジンの成熟途中の果序
果実の成熟に伴い、果序が鳥の巣のような形態になることから、英語名に Bird's Nest バーズネスト(鳥の巣)の名もある。 |
ノラニンジンの成熟直前の果実
果実は熟すと2個に分かれ、それぞれに1個の種子が含まれる。 |
<比較用> 栽培ニンジンの市販種子
形態は同じで、さすがに刺(毛)は落としてある。 |
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1 |
栽培種が逃げ出したのか、栽培種の原種なのか |
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ノラニンジンはセリ科ニンジン属の2年草で、学名は Daucus carota とされる。一方で、栽培用のニンジンはこの変種又は亜種扱いとして、Daucus carota var. sativus 、Daucus carota subsp. sativus の名を与えている場合と、ノラニンジンと同じ学名となっている例を見る。さて、両者は如何なる関係なのか。
従来の図鑑を見れば、ノラニンジンは栽培種が逃げだして野生化したものとしているが、素人目にはその逆で、ノラニンジンこそが栽培ニンジンの野生種と思われる。英語でも
Wild carrot である。簡単に野良犬がオオカミになったり、野良猫がヤマネコになるとは思えないからである。そもそも、栽培ニンジンが日本に渡来して以降の栽培の歴史はそれほど長くないはずである。英語情報でも、ノラニンジン
Wild carrot を栽培ニンジンの祖先としている説明例を普通に見る。 |
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(ニンジン Daucus carota var. sativus の)野に生ずる者をノラニンジン(Daucus carota)と云ふ、畢竟圃品の逸出して自生化したる者なり。【牧野日本植物図鑑】
(注)ノラニンジンの名は牧野が与えた和名とされる。
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A |
ノラニンジン Daucus carota :ノラニンジンは日本にも帰化していて栽培品が野生化したものといわれる。全体に小型で、根も細くて白く、食用にならない。【朝日百科植物の世界】
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B |
ニンジンの野生種であるノラニンジンは,根がニンジンのように肥大しないし,黄白色で,赤くならない。このような野生系統はユーラシア大陸やアフリカ大陸北部に広く分布し,西南日本(瀬戸内地方)にも点々とある。しかし,その多くは栽培系統から野生化したものと考えられている。【平凡社世界大百科事典】
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C |
地中海沿岸地方原産であるニンジンの野生化したものといわれるが、ニンジンの母種であると考えた方がよい。【世界の雑草U(全国農村教育協会)】
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D |
「アン女王のレース」は「ワイルドキャロット」ともいう。セリ科の二年生植物である。これは栽培されているニンジンの先祖 ancester である。1.5メートルほどに成長する。植物体には硬い毛があり、葉には切れ込みがあり(注:羽状に分裂)、花は白とピンクの花からなる散形花序を形成していて、中心部の花は暗紫色であり、根は肥大化して食べられるが強いにおいを有し、果実は筋張って鋭いトゲを有している。しばしば観賞用に栽培されている。ユーラシア原産であるが、今や分布はほぼ世界的である。
【Britannica】
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E |
ワイルドキャロット(ノラニンジン)は栽培ニンジンの先祖 progenitor(wild ancestor)である。【carrotmuseum.co.uk】 |
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注 |
:ノラニンジンの生活史については、説明がいろいろで、「2年草」、「多年草」、「二年生植物だが通常は一年生植物のように育つ」等の説明例を見る。 |
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2 |
「アン女王のレース」の名の由来は
植物の名前の由来はどこの国でも諸説ありの状態はやむを得ないが、本種は外来種であり、逸話の当該国でないと、諸説の情報も得難い。やはり誰もが気になるらしくて、情報量は多い。 |
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The Woodrow Wilson Foundation 【wwteachingfellowship.org】
「アン女王のレース」の名は、レースづくりが優れていた英国のアン女王に因むとされている。彼女が誤って針で指を刺したときに、レースに一滴の血が落ち、これが花の中心部に見られる暗紫色の花である。 |
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A |
World Carrot Museum 【carrotmuseum.co.uk】
一般名のワイルドキャロット Wild Carrot の名はウィリアム・ターナー William Turner が1548年に名付けた。アン女王のレース
Queen Anne's Lace は米国の名前であるが、この名は英国ではカウ・パセリ Cow parsley (セリ科シャク属のシャク)Anthriscus
sylvestris も意味する。ワイルドキャロットの一般名としての「アン女王のレース」の名の由来についてはいくつかの説があるが、いずれも決定的なものとなっていない。
英国のアン女王は、ジェームス2世と彼の最初の妻、アン・ハイドの次女として1664年に生まれ、デンマークのジョージ王子と1683年に結婚した。1702年にはウィリアム3世の死により王位を継承した。彼女の治世は、スペイン継承大戦争、マールバラの成功と偉業、スコットランドとイングランドの法的統合の成就、スペインにおけるピーターバラ伯の華々しい功績が特筆される。・・・・・彼女は1714年に50歳で没した。
ワイルドキャロットの花がなぜアン女王のレースと名付けられたのかについては、次のような逸話が知られている。
A |
花の中心の小さな紫がかった小花のひとつが女王で、白い小花は彼女のレースの襟(えり)とするもの
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B |
英国のアン女王(1665−1714)がレースを編んでいるときに指を刺して、レースに血が付いたとするもの
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C |
英国の植物学者ジェフリー・グリングソンは、この植物の名が英国のアン女王に由来するのではなく、聖アンナ、聖母マリアの母、レースの作り手の守護聖人に由来することを示唆している。
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D |
次のような英国の伝説よるとするもの。アンがデンマークから英国王ジェームス2世の妻(女王)として迎えられたとき、ワイルドキャロットはまだ王室の庭園ではまだ珍しい存在であったと考えられている。伝説では、アン女王はワイルドキャロットの花のように繊細で美しいレース柄を編み上げるコンテストを待つ婦人たちに挑戦を申し入れた。婦人たちは、誰も女王の手仕事には太刀打ちできないことを知っていたため、アンの大勝利となった。
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E |
「アン女王のレース」は、家に持ち込むと母親が死ぬとの迷信があって、「Mother Die 母の死 」としても知られている。
(注)ここでのこの内容の記述は趣旨不明。
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F |
白い花序は明らかにイギリス人にアン女王のレースの頭飾りを思い起こさせる。 |
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上記資料で、花序の中心の暗紫色の小花が採り上げられているところであるが、身近なもので確認すると、全体の4分の1にも満たないものの、その存在を確認できた。よく見るといろいろなパターンがあるようであり、一番多いのは右の写真のような暗紫色の小花が中心に一つだけのものであった。
この暗紫色の小花については、一体何のためにものなのかはわかっていない模様で、次のような説明例が見られる。
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「ノラニンジンの色付きの小花の謎に関しては、植物学者たちが少なくともここ150年間にわたって議論を続けてきた。かつて、経験豊かなある植物学者は、これが植物自身には何の役にも立たない奇妙なものと信じていた。しかし、近年の多くの植物学者はそう思っていない。ある者は、この小花は飛んでいる昆虫に対して、既に花の上には別の虫が留まっているように見せかけているものと考えている。おそらく、早く食事にありつきたがっている捕食性の蜂が舞い降りるように引きつけている。一匹の昆虫の存在は、他の昆虫に対してその花に何かいいものがあるサインとなる。そうであれば、小花は飛んでいる昆虫をだまして留まらせ、受粉に役立てていることになる。これまでの研究では、小花が昆虫の模倣であるとする主張とこれが繁殖には何ら貢献していないとする主張がみられる。(抄訳)」【carrotmuseum.co.uk】
中央の花に関しては、以下のような美しい変異が見られた。 |
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ノラニンジンの中心の花 1 |
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ノラニンジンの中心の花 2 |
ノラニンジンの中心の花 3 |
ノラニンジンの中心の花 4 |
ノラニンジンの中心の花 5 |
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食べることについて問題はないのか
国内の図鑑では、「食用にならない」としている例はあるが、詳しい記述は見られない。まれに試食にチャレンジしたレポートを見るも、一般的なレシピとして紹介している例はない。
しかし、ノラニンジンの食用を含めた利用のための英語情報は豊富で、やはり原産国での利用の歴史が背景にあるものと思われる。
(可食部位)
具体的には、ノラニンジンの葉、根、花、種のいずれも食用になるとしている。また、実に多様な薬効(省略)も知られている。
葉:春に採種。乾燥してシーズニングとしても利用可。
根:春に採種。花を付けない1年目のものは柔らかいが、古いものは堅い中心部を除く。
花:夏に使用。フリッターのように揚げるか、ジェリー(ジュレ)にも利用できる。
種:晩夏に得られる。キャラウェイシードのように使用できる。精油はエセンシャルオイルとして利用(販売)されている。
(毒性の有無)
葉を大量に摂取する場合に限り毒性がある。毒性要因はファルカリノール。
取り扱いに際して細胞液が日照下での皮膚の炎症やアレルギー反応を引き起こすことがある。
<参考資料>
http://www.ces.ncsu.edu/depts/hort/consumer/poison/Daucuca.htm
http://www.carrotmuseum.co.uk/queen.html → このサイトは情報量が非常に多い。 |
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試食試験
大量に摂取しない限りは問題はないようであるため、自己責任でちょっとだけかじってみることにした。
(注)英語サイトでの説明では、poison hemlock (毒ニンジン)と取り違えることのないようにとの注意喚起が多い。 |
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@ ノラニンジンの(多分)2年目の根 |
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様々な根の形状
太さ、形態は様々である。左の太い根で直径約3センチ。土が軟らかければ、
もっと素直にすらりと伸びるのかも知れない。 |
断面の様子
中心部は木質化していて非常に堅い。輪 切りにするにも力を要する。 |
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根の縦断面(内側)
中心部と周辺部は簡単に剥離する。中心部は木質化していて堅く、周辺部はスカスカの繊維質であった。こうした2層構造となるのもニンジンと同じ印象である。 |
根の縦断面(外側)
中心部と周辺部を剥離した左のサンプ ルの外側の様子。 |
叩きつぶした状態
中心部(左)と周辺部(右)のいずれも繊性が強く、とても口に入れる気にならない。 |
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A ノラニンジンの(多分)1年目の根 |
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根の形状
さすがにいずれも細めである。 |
叩きつぶした様子(拡大写真)
2年目ほどの繊維性はないが、栽培種のニンジンより繊維質が強い。 |
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生でかじってみたところでは、可もなく不可もなしで、積極的に食べたくなるような代物ではなかったが、料理すればまた別の印象になるかも知れない。ニンジン様の風味はあるが、繊維質がやや強いため、ニンジンの食感とは異なる。
例えば、外来雑草で広く帰化している「ノヂシャ」も原産国のヨーロッパではサラダに利用されているというが、利用の歴史がないために国内では見向きもされないのと同様で、ノラニンジンも今更利用の文化は育たないであろう。
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ノラニンジンに集う虫たち
花には虫がつきものであるが、やはり棲み分けがあるようである。以下はノラニンジンの花の上で見掛けた虫たちである。 |
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アカスジカメムシ
大好きなセリ科の花園で仲良ししている。 |
マダラナガカメムシ
最も美しいカメムシのひとつである。 |
ナナホシテントウ
虫を狙ってやってくるようである。 |
クサギカメムシ
最も色気のないカメムシである。 |
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<参考資料> ニンジンについて |
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【朝日百科植物の世界】
ニンジン Daucus carota var. sativus :ヨーロッパからアジアにかけての原産だが、栽培の起源地はアフガニスタンあたりとされる。そこから東西に伝播していき、それぞれ西洋種(短根種)、東洋種(長根種)の品種のもとになった。
(注1)西洋種、東洋種はそれぞれ西洋系(欧州系)、東洋系とも。
(注2)金時ニンジンは唯一国内で生き残っている東洋種で、アフガンニンジンの血を引く。
【野菜園芸大百科 (農文協)】
ニンジンの野生種はヨーロッパ、北アフリカ、アジアに広く分布しているが、一次発生の中心地は中央アジアのアフガニスタンで、ヒマラヤ、ヒンズークシ山麓とみられている。これらの野生種、すなわちアフガンニンジンはリコピンによる赤色〜濃紫色のニンジン、あるいはアントクロールを含む淡緑色のニンジン、あるいはアントクロールを含む淡黄色〜淡橙黄色のアントシアンニンジンと呼ばれているもので、我が国の東洋系のリコピンニンジンもこの系譜にあたる。
ヨーロッパには栽培種としては12〜13世紀ころアラブから導入され、オランダを中心に発達したものとみられる。東洋への伝播は、元(1280〜1367)の初めに胡地から雲南を経て華北に伝わり、華北を中心に広く栽培された。1716年ころには江戸にも導入され、土着したものが滝野川である。
戦前の長根種主体が戦後、食生活の変化と労働生産性の点から、急速に短根種に変わった。 |
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金時群は古くから大阪、九州などに栽培される東洋系ニンジンで、肉質が柔らかく、甘みに富みニンジン臭が少なく、日本料理に適しているが、非常に晩成で、抽台が早く、収量の少ないのが欠点とされる。 |
普通の短根種のニンジン |
金時ニンジン (香川県産)
長くて赤味の強い長根種である。 |
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先に登場したニンジンの種から育ったニンジンの花である。外観はノラニンジンとほとんど変わりはない。この品種によるものかは不明であるが、写真の雄しべの花粉はピンク色である。 |
ニンジン(栽培種)の花 |
ニンジン(栽培種)の花(部分) |
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<参考メモ> |
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@ 切花の「レースフラワー」はノラニンジンの親戚か
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ノラニンジンそっくりな花が花材として普通に販売されているようである。素人目には、ノラニンジンで十分代用できると思われるが、その素性とは?
その正体を調べてみれば、和名は「ドクゼリモドキ」で、これでは商品名にならない。
ヨーロッパ原産のセリ科ドクゼリモドキ属の一年草 Ammi majus とのことであり、ノラニンジンとは属が異なり、葉の様子も少々違っている。 |
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Ammi majus アミマジャス、メイジャス、マユスとも。南ヨーロッパ、トルコ、北アフリカ原産。白色の複散形花序をつくり、その様子は細密なレースの作品に似る。【A-Z園芸植物百科事典】(注)日本にも帰化分布
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ドクゼリモドキ属には一年生及び多年生植物6種が含まれる。花房は優美で、カスミソウのように切り花に用いられることが多い。 Ammis majus の(国内)一般名はホワイトレースフラワー、ドクゼリモドキ。英名 Faise Bishop's Weed ヨーロッパ南部からアジア西部原産の一年生草。白色の花が大きく房咲きし、切花は長持ちする。草花栽培者に人気が高い。【Gardening
フローラ】
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注 |
一方、英語名の White lace flower ホワイトレースフラワーは、一般にセリ科オルレイヤ属の Orlaya grandiflora オルレイヤ・グランディフローラを指し、国内でも広く栽培されている。
また、英語名の Blue lace flower は、セリ科トラキメネ属の一年草 Trachtmene coerulea を指し、国内でもブルーレースフラワーの名を使っている。この色変わりのピンク色のものは国内でピンクレースフラワーと呼んでいるという。
さらに、国内でブラックレースフラワーと呼んでいるのは、ニンジンの品種 Daucus carota var. sativus 'Black Knight' で、英語名は Black Knight ブラックナイトで、花を目的としたニンジンである。 |
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A 歌謡曲の「ノラ」とは
門倉有希の「ノラ」(作詞:ちあき哲也 作曲:徳久広司)の「ノラ」は野良犬、野良猫とは関係なく、母性本能をくすぐるタイプで、世話のかかるモテモテ男の名前のようである。
http://www.dailymotion.com/video/x8sylx_yyyy-yy_music → 懐メロ
なお、イプセンの「人形の家」の「ノラ」は女性とか(読んだことはない)。 |
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