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和蝋燭
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植物から採取した蝋を原料としたもので、東北地方ではウルシの果実を、九州・四国ではハゼノキの果実を使用したという。江戸時代には各地で木蝋の生産が奨励され、蝋燭の産地が形成された。ただし、当時でも蝋燭は高級品で、蝋燭の使用は武家、町屋の上流または特別の場合の利用に限られていたという。目に止まった情報を列挙すれば次のとおり。
写真は井筒屋野間商店製で、 ハゼ蝋百パーセントとしている。灯芯を除いた本体長15センチ(10号)。
■井筒屋野間商店
名古屋市中村区太閤4-6-3 |
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ウルシの果実を原料とした漆蝋の生産は既に生産が途絶えた経過から(注)、一般に木蝋といえばハゼノキの果実を原料としたハゼ蝋を指している。 |
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和蝋燭の製造は手作業で、芯に溶かした木蝋を掛けて次第に太くしていく手法である「手掛け」による。このため断面には年輪模様が見られる。色は淡い緑色である。 |
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ハゼノキの木蝋百パーセントの蝋燭の製造が現在でも手作業である理由は、この蝋が 非常にねばりが強いことから、型に流し込む手法が採用できないことによるという。 |
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和蝋燭は油煙(スス)が出にくく、仏壇(特に金箔の仏壇)を痛めないという。 |
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灯芯には和紙の上にイ草の随を巻きつけたもの(さらに、ほどけないように真綿で止めることも。)を使用する。西洋ローソクのように木綿の灯芯では吸い上げが困難とされる。燃焼が進んでも芯が残るため、絶えず芯を一定長に切りそろえる必要がある。このためには専用の芯切り鋏を使うか、火箸を使う。 |
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明るさは西洋ローソクに劣るが、現在ではオレンジ色の炎と、炎の揺らぎがあることを情緒として捉え、これを売りとしている。 |
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原料の調製に手間がかかるほか供給量も少なく、価格はかなり高い。 |
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現在製造している店の所在地として、例えば愛媛県内子町、兵庫県西宮市、京都府京都市、滋賀県高島市・彦根市、岐阜県飛騨市、愛知県名古屋市・岡崎市、福井県福井市、石川県七尾市、福島県会津若松市、山形県鶴岡市等が知られている。趣味の需要もあるが、主はお寺さんの需要とされる。 |
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ハゼ蝋は蜜蝋と同様に幼児が口にしても安全との記述を見かけたが、詳細の評価は不詳。 |
(注):福島県金山町の「和ろうそく復古会」のグループが一旦途絶えた漆蝋の生産に取組み、「金山漆ろうそく」の復興に努力しているという。(平成17年7月1日福島県伝統的工芸品に指定)
【参考資料】
井筒屋野間商店の和蝋燭の製品しおりでは、製品の特徴を次のように説明している。
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油煙が極めて少なく、お仏壇を汚しません。 |
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ともしびは、風が当たらなくてもチラチラとゆれ、ふと静止し、しばらくしてまた、ゆっくりゆれ始めるという、神秘的な燃えかたがします。 |
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純植物性ですので清浄そのものです。手造り和蝋燭を灯していただきますと、心がおだやかになり、リラクゼーションのアイテムとしても、皆様から、ご好評を得ております。また、環境にも大変やさしい蝋燭です。 |
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ハゼノキの様子 |
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里山のアクセントとなるハゼノキの紅葉(大分県) |
道端の巨大なハゼノキ(熊本県) |
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道端の巨大なハゼノキ(熊本県)
九州では栽培の歴史があるため、ときにハゼノキの大きな木の並木が見られる。(菊陽町・豊後街道) |
街中のハゼノキ
都内で唐突に見られたハゼノキ(雌株)である。通常は街路には植栽されないが、庭園での植栽例は目にすることがある。 |
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ハゼノキの紅葉 |
ハゼノキの小葉 |
ハゼノキの雄花序 |
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ハゼノキの雌花序
この個体では花弁に模様が見られた。 |
ハゼノキの雌花 1
普通の5花弁のタイプで、形態的には両性花に見えるが、雄しべには花粉が見られない。蜜が見える。 |
ハゼノキの雌花 2
4花弁のタイプである。 |
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ハゼノキの雌花 3
模様の入った5花弁のタイプ |
ハゼノキの雌花 4
模様の入った4花弁のタイプ |
樹上のハゼノキの果実 |
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外果皮を除いた果実
中果皮は繊維質と粒状のロウ質が見られる。この中果皮が木ロウの採取源となる。 |
ハゼノキの種子
種子は艶やかで硬い。 |
果皮を一部剥がした果実
中果皮のロウの質感がわかる。茶褐色のものは露出した種子。 |
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西洋ローソク
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石油を分留して作られるパラフィン蝋を主に動植物系のステアリン酸を加えたものを原料とする。 |
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製造は工業的に製造された原料で機械生産。 |
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和蝋燭に比べて安価で色が白くて美しく、さらに光度も非常に明るいため、明治時代に海外から導入して以来、それまでの和蝋燭を駆逐した経過がある。 |
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灯芯は木綿糸製である。なお、かつては灯芯を直立させることに効果がある鉛が使用されていた。(参考メモ参照) |
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仏壇用の蝋燭は日常生活用品としての安定した需要があって、百円ショップでも大抵レジ近くの棚に陳列されている。 |
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パラフィン蝋の製品の取扱い上の注意として、「目や皮膚についたら多量の水で洗い流す。口に入ったら、口をよくすすぐ。」とあるのを目にした。こんなことを書いてあると、なにやら恐ろしくなる。 |
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昔は子供にとっても蝋燭はおなじみのおもちゃで、火遊びのいい材料であったし、和裁用の裁ち板に蝋を塗って滑りをよくして、滑り台にして遊んだものである。もちろん、遊んだ都度手を洗うなどと言うことは一切なかった。 |
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両者の比較
炎の具合を観察してみた。以下の2枚の写真はそれぞれ左が西洋蝋燭で、右が和蝋燭である。
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ストロボ発光で撮影 |
ストロボ発光なし |
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和蝋燭は中空の芯が太いため、炎は比較的大きい。 |
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並べて見た限りでは、炎の色合いに大きな差は認められない。 |
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和蝋燭では芯が中空であることに由来するとされる炎のゆらぎがしばしば認められた。 |
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いずれも火を消した時に蝋が蒸発して白煙が上がるが、西洋蝋燭の場合は鼻持ちならない臭いであるのに対して、和蝋燭の場合はまだ我慢できる。 |
【参考メモ 1】
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一口に和蝋燭といっても、現在販売されているものには、ハゼノキの木蝋(ハゼ蝋)が百パーセントのもの、他の植物性の蝋を混ぜているもの、形が和蝋燭形(先が広がった形状)のものと、幅がある。増量用の蝋としては、ステアリン酸、パラフィン、牛脂硬化油、パーム油、米ぬか油等があり、また、既に中国産の木蝋(由来植物の詳細は確認していない。)シェアが高まっているとの情報もある。もどかしいのは、目で見てもその使用素材がさっぱりわからないことである。 |
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ハゼノキ、ウルシ以外で、かつて蝋燭用の蝋を採取した樹木の果実としては、ナンキンハゼ、シロダモ、タブノキ、ハマビワ、ハクウンボク、ハクサンボクなどが知られている。
また、明治以降に大豆油、米ぬか油も蝋燭製造用の原料に使われたという。 |
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「木ろう」の生産量、輸出入量の統計(注)があって、平成17年のデータによれば、年間生産量は55トン、輸入量9トン、輸出量16トン、結果国内消費量は48トンとなっている。主要生産県は福岡県と愛媛県である。輸出する一方で、輸入している構造がわかるが、輸入木ろうの樹種、用途等の詳細は今後確認したい。
(注)輸出入量は貿易統計、生産量は都道府県とりまとめによる。 |
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木蝋は古くからポマード、口紅、クリームなどの化粧品、クレヨンなどの文具、つや出し剤、塗料原料などに利用されてきたが、石油パラフィンや合成ワックスに代替されてきたという。 |
【参考メモ 2】
海外のホームページを candle health risk lead の単語で検索すると、鉛を使用した灯芯の蝋燭に関する問題を扱った記事が驚くほど多数ヒットする。
蝋燭の灯芯に鉛を加えると燃焼中にも灯芯の直立性が確保できることが古くから知られていて、一般的な仕様であった模様である。しかし、特に欧米で蝋燭の燃焼に伴う鉛の放散が問題視され、例えば米国では2001年に鉛灯芯付き蝋燭について、国内生産されたもの及び輸入されたもののいずれも販売を禁止することが決定され,2003年10月に発効している。
日本では話題になったような記憶は全くない。そこで、国内大手の蝋燭メーカーに照会したところ、欧米での動向を踏まえて、5年ほど前から鉛の使用を中止したとのことであった。以上は、もちろん和蝋燭には無鉛じゃなかった、無縁の話である。
なお、最近、西洋蝋燭製造の大手でも、植物油脂を原料とした製品をラインナップに加えており、また輸入されている中国製でも「植物性原料」であることをうたった製品が見られる。石油系の商品より植物系の商品の方が環境等にやさしい印象があるためである。このことは、クレヨンについても同様である。子供がなめても大丈夫として、従来のパラフィン蝋を主原料とした製品に替えて蜜蝋を原料とした製品が見られる。また、メーカーの宣伝によれば、植物系の蝋燭では「癒やしのマイナスイオンを森林並みに放出する。」としている。しかし、蝋燭の油煙(不完全燃焼に伴うスス)や放散する有機物の有害性に関して、植物系と石油系の製品の差異を説明した情報については一般に提供されていない。 |
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