樹の散歩道
草本でも「接ぎ木」とはこれいかに
接ぎ木の台木は縁の下の力持ち
詳細にわたる知識はなくても、野菜の苗、果樹・花木の苗木が多く接ぎ木(つぎ木)で養成されていることは広く知られている。たまに具体的な組み合わせを耳にすると、へーの声を上げてしまう。例えば、キュウリはほとんどがカボチャのお世話になっているそうである。カボチャに頭が上がらないから腰が曲がっているのだろうか。しかも、草本でも接ぎ木と呼び、もちろん草本でも下は台木で、上は穂木と呼ぶおもしろい世界である。このおもしろワールドを、ちょっとのぞいてみた。 |
接ぎ木は目的種の特性の維持、収穫までの期間の短縮、樹勢の回復、環境・病害虫抵抗性の向上等を期待して実施される。庭木の果樹、花木ではしばしば台木から枝が出て、上方のものと見かけが違うために、一体これはなんじゃと話題になることもある。 台木の知識を少し仕込むと、やたらと根元が気になってくる。 |
タイサンボクの台木のコブシからひこばえが生じた例 |
区分 | 穂 木 | 台 木 | 参 考 |
樹木 | マツ類 | クロマツが使われることが多い。 | マツ類の繁殖は実生によって行われるが、変種、品種では発芽しても親の特性を持ったものはわずかしか得られない。また、挿し木が困難であり、ほとんどが接ぎ木によって繁殖されている。 |
スギ | 実生苗又は挿し木苗を使用する。 | スギは実生や挿し木によって増殖されているが、種類によっては挿し木で20〜30パーセントしか活着しないのに対して、接ぎ木では80パーセント以上の成績が得られるので、近時、林木育種事業においては、専ら接ぎ木法によって増殖を行っている。 | |
花木 庭木 |
ソシンロウバイ | 実生苗 | ソシンロウバイはロウバイの実生変種から生まれたものだが、その確率は非常に低いため、ほとんど接ぎ木で殖やしている。 |
バラ | ノイバラ、ツクシノイバラ | ノイバラ、ツクシノイバラの種子を採取して実生できるが、生産者から購入するケースも多い。切り花本数が増加。 | |
サクラ | ヤマザクラ、オオシマザクラ等 | 変異が多いため、選抜目的で播種されることはあっても、増殖を目的とすることはできない。サトザクラは結実しないものが多く、これらの繁殖は接ぎ木によるのが普通である。台木は販売もされているが、実生か挿し木で養成できる。 | |
ハクモクレン | コブシの一年生苗木を用いるのが一般的 | ||
ハナミズキ | ヤマボウシ又はハナミズキの白花種実生の3年苗を使用する。 | ||
カイドウ | ミツバカイドウ、マルバカイドウが主として用いられている。 | ||
ボタン | ボタン、シャクヤク | 台木には単種の薬種ボタンとして利用されている品種の3〜4年生の株の木部、又はその根部、あるいはシャクヤクの根部の太いものを用いる。 【独り言】:ボタンは木本、シャクヤクは草本のはずであるが、何と「木に竹を接ぐ」ではないが、草に木を接ぐとは驚きである。 |
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モミジ | ヤマモミジの実生苗 | ||
ライラック | イボタノキ | ||
果樹 | カンキツ類 | カラタチ等 | カラタチ、コネジメ、タチバナなどがよく使われている。中でも最もよく使われているのがカラタチ。樹勢の低下した温州ミカンにユズの根系を根接ぎする例がある。 |
リンゴ | マルバカイドウ、ミツバカイドウ等 | 主体はマルバカイドウ、ミツバカイドウであったが、近年、省力栽培を目的として矮性台木が利用されるようになり、ヨーロッパで選抜・改良されてものから選んで利用している。(マルバカイドウに接いだM系中間台木) | |
ブドウ | フィロキセラ抵抗性をもつブドウ | フィロキセラなどによる害の回避 | |
サクランボ | アオバザクラ、コルト(英国で開発) | ||
野菜 | キュウリ | カボチャ | ブルームレス(果実表面の白い粉がない)キュウリを作る。 |
メロン | カボチャ | ||
スイカ | 台木は今までカボチャ、トウガンなども使われてきたが、今ではほとんどがユウガオ。 | つる枯れ病などの回避 *まれに、台木のユウガオがツルを伸ばして実をつけ、謎の果実としてニュースになっている例を目にした。ユウガオはカンピョウの原料。 |
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ナス | アカナス、ツノナス | *確たる自覚の無いままに自宅でチョウセンアサガオにナスを接ぎ木し、収穫したナスがチョウセンアサガオで見られる成分のスコポラミンが含まれていて、これにより食中毒が発生した事例(沖縄県 2006 年)が知られている。 | |
トマト | 病害抵抗性を持つトマト | 青枯れ病地帯では、接ぎ木を行ってきた。 |
【参考資料】 |
・接ぎ木のすべて:町田英夫編(昭和53年3月25日 誠文堂新光社) |
・失敗しないさし木、つぎ木、とり木:尾亦芳則(2001.2 西東社) |