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ミズキ(水木)は春期発芽前に幹枝を傷つけると多量の水分を滲出することからその名があるといわれ、これは広く知られているところであるが、試す機会はなかなかない。やはり、「・・・・
といわれている。」では面白くないから、話のついでに確認することとした。
本当に水がジャブジャブ滴り落ちるのか?
しばしば利用させてもらっている以心伝心の春先のフィールドで、努めて遠慮がちに小枝をチョッキンさせてもらった。
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試して一安心である。水道の蛇口のようにジャブジャブとはならないが、小枝でもポタポタと水(樹液)が滴り落ちる。
まだ冬芽状態で、葉からの蒸散が開始されていない状態であるが、大変な圧がかかっているということである。
こうして体験すれば、ものの言い方にも違いが生じる。 |
切断したミズキの小枝の樹液 |
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さて、安心したところで、次は主役のトサミズキである。「トサ」が土佐であることは、どの図鑑でも触れているが、その後ろの「ミズキ」については全く説明がない。念のために枝を切ってもミズキのように水が滴り落ちることがないことを確認した。ついでながら、「日向にはヒュウガミズキがほとんどない。」とも聞くなど謎がいろいろあるため、手近な参考資料を探索してみた。ざっと見た結果等を独断的に概括すれば、次のとおりである。
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① |
トサミズキ科の「ミズキ」の語については意味不明となっていて、春先に枝を切っても水が滴り落ちることはない。 |
② |
漢字表記の「水木」は、いつ頃からかミズキ科のミズキ(水木)と同じ漢字が当て字として慣用的に使用されて定着した可能性が高い。 |
③ |
「ヒュウガミズキ」の名は誤りが定着した呼称である可能性が高く、日向国には自生が確認されていない中で意味不明の呼称となっている。近年、宮崎県でも自生が確認されたとする記述も見られるが、誤りの経過に変わりはない。 |
④ |
ヒュウガミズキの別名として「イヨミズキ」があるが、伊予国には自生がなく誤りが暴走したものらしい。 |
⑤ |
「ヒュウガミズキの名前は、明智日向守光秀の所領だった丹波地方に多く自生していたことにより名付けられたとする説がある。」との記述が個人のホームページで広く拡散している。話としてはおもしろいが、出所は不明で、図鑑類では決して採用・紹介していない。 |
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以下は探索メモである。種間の細部の違いについてはわずかなもので、覚えようという気力はないため、形態的な特徴については多くは掲げない。学名と和名の整理が図鑑で異なる場合が見られたが、個々には触れない。写真はいずれも植栽樹で、看板表示を信頼して掲げたものである。 |
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トサミズキ属 Corylopsis 中国語で「蜡瓣花属」(日本の新体字で「蝋弁花属」) |
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学名は corylus (ハシバミ属)に似る (opsis)の意。【樹木大図説】 |
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(トサミズキ属の種の扱いにに関しては)研究者の見解に差がある。【朝日百科世界の植物】
注:図鑑によっては学名に対する和名が異なる部分が見られた。 |
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29種存在する。中国に20種6変種、日本に5種、朝鮮に1種、インドに3種ある。
【中国植物誌】 |
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① |
トサミズキ[土佐水木]
Corylopsis spicata 花序の軸には毛が密生。
四国(高知県)に分布する日本固有種。高知県の蛇紋岩地帯や石灰岩地などに自生。 |
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ひとつの花序に7~8個の花がつく。花軸は毛が密生。葯は帯紅色。【山渓日本の樹木】 |
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植栽されることが多い。自生地はきわめて限られる。穂状花序に黄色の花が7~10個つく。葯は暗赤色。【樹に咲く花】 |
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花はヒュウガミズキよりやや大きい。花軸は太く密毛。幹は株立ち状となる。【講談社 樹木の見分けポイント図鑑】 |
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和名は土佐水木の意にして此種固と土佐より出でしを以て名く。【増補版牧野日本植物図鑑】 |
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美豆木:
正字不詳 按ずるに美豆木高きもの2、3丈、葉はウメモドキの木の葉に似てかすかに厚く冬にしぼむ、花は藤の花に似て黄色なり
1種土佐の山中より出づ、高さ1、2丈葉はてまり花(オオデマリ)の葉に似て小さし正月黄花を開く、攅簇下り垂れ子(果実)を結ぶ赤色、呼んで土佐美豆木と名づく。【和漢三才図会】 |
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トサミズキの葉 |
トサミズキの花序 |
トサミズキの花序 |
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② |
ヒュウガミズキ[日向水木](イヨミズキ→ 誤用【樹木大図説】、ヒメミズキとも)
Corylopsis pauciflora 花軸は無毛。
石川・福井・京都・兵庫の各県の県の日本海側の岩地に分布。 |
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花序は短く、1~3個の花がつく。葯は黄赤色。【山渓日本の樹木】 |
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同属中で最も小型の花をつける。花序は短く、淡黄色の花が1~3個つく。葯は黄色。【樹に咲く花】 |
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和名に日向水木の名あれども日向国には未だ野生するを見ず。【増補版牧野日本植物図鑑】 |
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ヒュウガミズキというが日向国には自生なし。イヨミズキの別名を用いるとしても伊予国にも自生はない、牧野博士は日向に於ける自生は疑わしとし、トサミズキに比して花穂も樹振りも細小なので人によってヒメミズキいったことかそれが訛ってヒウガとなったのではなかろうかと述べている。一説には中国にも分布しているといわれる。【樹木大図説】
注:中国植物誌では台湾に産するとしている。 |
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名とは異なり九州には野生しない。【平凡社日本の野生植物】 |
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石川県から兵庫県(日本海側)、高知県、宮崎県の山地にとびとびに自生分布する。【講談社 樹木の見分けポイント図鑑】 |
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四国・九州の一部と台湾にもあるというが、はっきりしない。 【平凡社世界大百科】 |
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名前は原産地を宮崎県と誤認表記したことによる。【婦人生活社 木の名前】 |
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ヒュウガミズキの葉 |
ヒュウガミズキの花序 |
ヒュウガミズキの花序 |
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③ |
コウヤミズキ[高野水木]、(ミヤマトサミズキ[深山土佐水木]とも)
Corylopsis gotoana
本州(中部地方以西)、四国、九州に分布。個体数は少ない。 |
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花序に7~8個の花がつく。葯は帯紫色。【山渓日本の樹木】 |
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自生が少ない。花序は3~4センチで黄色の花が4~5個つく。花軸は無毛。葯は暗赤色。【樹に咲く花】 |
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コウヤミズキの葉 |
コウヤミズキの花序 |
コウヤミズキの花序 |
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④ |
ヒゴミズキ[肥後水木]
Corylopsis gotoana var. pubescens
熊本県南部の岩地に分布。 |
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・ 若枝には長軟毛と星状毛が密生する。【平凡社日本の野生植物】 |
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⑤ |
ショウコウミズキ[松広水木](テッセントサミズキとも) |
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Corylopsis coreana , Corylopsis gotoana Makino var. coreana (Nakai) Yamazaki
朝鮮智異山、松広寺に自生。日本にも発見された。【樹木大図説】 |
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Corylopsis gotoana var. coreana (コウヤミズキの変種とする学名)
葉が大きくて厚い変種。【平凡社日本の野生植物】 |
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岡山県内の一部にあるショウコウミズキはコウヤミズキと同一種と見なされている。【岡山の樹木(山陽新聞社)】 |
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ショウコウミズキの葉 |
ショウコウミズキの花序 |
ショウコウミズキの花序 |
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⑥ |
キリシマミズキ[霧島水木]
Corylopsis glabrescens
四国(高知・愛媛県)、九州、(霧島山系)に分布。
小石川植物園に植栽あり。 |
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大体コウヤミズキに似る。【樹木大図説】 |
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花序は長さ3~4センチで黄色の花が5~9個つく。花軸は無毛。葯は黄色。【樹に咲く花】 |
(注)牧野植物図鑑では、本学名に対する和名をミヤマトサミズキとしている。 |
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⑦ |
シナミズキ[支那水木] 中国名は「蝋弁花」(日本の新体字に置換)
Corylopsis sinensis
中国中部及び西部の産。
湖北、安徽、浙江省、福建、江西、湖南、広東、広西、貴州等に分布。【中国樹木誌】
花序は長さ5センチで黄色の花が10~18個つく。
小石川植物園で大きな株が見られる。
根皮及葉薬用、治煩乱昏迷。【中国樹木誌】 |
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シナミズキの葉 |
花期のシナミズキ |
シナミズキの花序 |
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⑧ |
シマミズキ
Corylopsis Matsudai Kanehira et Sasaki
台湾産。 |
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⑨ |
タイワントサミズキ
Corylopsis stenopetala
台湾産。 |
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中国植物誌で、中国自生とされる20種6変種が掲載されている。
上記⑧、⑨は掲載されていない。詳細は不明。 |
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<中国植物誌掲載種> 注:漢字は日本の新体字に置換
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1 |
榿葉蝋弁花 |
Corylopsis alnifolia |
2 |
短柱蝋弁花 |
Corylopsis brevistyla |
3 |
腺蝋弁花 |
Corylopsis glandulifera |
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灰白蝋弁花 |
Corylopsis glandulifera var. hypoglauca |
4 |
怒江蝋弁花 |
Corylopsis glaucescens |
5 |
鄂西蝋弁花 |
Corylopsis henryi |
6 |
小果蝋弁花 |
Corylopsis microcarpa |
7 |
瑞木 、假榛 、大果蝋弁花 |
Corylopsis multiflora |
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心葉瑞木 |
Corylopsis multiflora var. cordata |
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小葉瑞木 |
Corylopsis multiflora var. parvifolia |
8 |
黔蝋弁花 、貴州蝋弁花 |
Corylopsis obovata |
9 |
峨眉蝋弁花 |
Corylopsis omeiensis |
10 |
少花蝋弁花 |
Corylopsis pauciflora |
11 |
濶蝋弁花 、闊弁蝋弁花 |
Corylopsis platypetala |
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川西濶蝋弁花 |
Corylopsis platypetala var. levis |
12 |
円葉蝋弁花 |
Corylopsis rotundifolia |
13 |
蝋弁花 (シナミズキ) |
Corylopsis sinensis |
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小蝋弁花 、小葉蝋弁花 |
Corylopsis sinensis var. parvifolia |
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禿蝋弁花 、光葉蝋弁花 |
Corylopsis sinensis var. calvescens |
14 |
黒毛蝋弁花 、星毛蝋弁花 |
Corylopsis stelligera |
15 |
禿江蝋弁花 |
Corylopsis trabeculosa |
16 |
紅葯蝋弁花 |
Corylopsis veitchiana |
17 |
絨毛蝋弁花 |
Corylopsis velutina |
18 |
四川蝋弁花 |
Corylopsis willmottiae |
19 |
長穂蝋弁花 |
Corylopsis yui |
20 |
滇蝋弁花 、雲南蝋弁花 |
Corylopsis yunnanensis、 |
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中国自生種の名を眺めてみると、水木ならぬ瑞木が存在することを知った。日本語読みなら「ミズキ」である。これが和名のミズキと関係があるのかは確認できないが、ヒントがあるような気もする。 |
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