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樹の散歩道
 
  中国の謎の木の実
    
            


 中国帰りの土産物の中にあまり魅力的ではない袋入りの木の実があった。先端の尖った堅果で、コジイツブラジイ)よりもひとまわり大きいが、シイの実のイメージとは少し違うようであり、また平らな面がないからクリでもなさそうである。さて、このなぞ解きは面白そうである。【2009.8】 


 
包装袋には太字で「天然食品系列 真材実料 実在是好 黄山特産」とあり、何と、品名の表示欄も「黄山特産」とあるだけである。
 
 ということは、複数の製品に対して共用している包装袋の可能性がある。説明文の記述については黄山の景観、自然環境を蕩々と自慢していて、現地の風景が目に浮かぶが、製品に関しては何も説明していない。
   五円玉の右側は皮を剥いたもの。          アップ写真
 国内でもアク抜きしないで食べられるドングリとしてはマテバシイ(マテバシイ属)やイチイガシ(コナラ属)が知られているが、非常に限られているし、先端の毛もこれらの仲間でないことを主張しているため、まずは別物として進める。

 次にそのかたちからシイノキ(シイ属)を考える。国内ではスダジイコジイが知られている。高知市内では、八百屋さんでシイの実がパック入りで販売されていたのを見たことがある。ころころした感じは、コジイを一回り大きくした印象があるものの、シイの実にしてはやはり先端の毛に違和感がある。

 先端の毛となると、セイヨウハシバミの先端には短毛が見られたことを思い出した。しかし、ハシバミ類は皮が非常に厚いのに対して、この堅果の皮は薄いから、これも外れる。

 引き続き、先端部の短毛を考慮すると、クリ(クリ属)が考えられる。別項でも紹介した中国栗も随分毛深かった。さて、クリはふつう殻斗(いが)の中に堅果が3個行儀よく並んで入っているから、相互の接触面は扁平になっている。ところが、この堅果はすべて真ん丸である。これは困った。

 謎は深まるばかりである。中国は広いから、何があるかわからない。そこで考えた。ひょっとして、中国には殻斗に堅果が1個しか入っていない真ん丸のクリがあるかも知れない。

 ここまであれやこれや想像して十分楽しんだことから、おもむろに調べてみることにした。すると、何とそのとおりのものがあったのである!! その名は「錐栗」(すいりつ、スイリツ)である。
 手近な情報は多くはないが、要点のみ整理してみる。
学 名 Castanea henryi
中国名 【中国樹木誌】錐栗(浙江、湖北興山)、榛子(四川蛾眉山)、〔木偏+諸〕(浙江安吉、孝豊)
【湖北植物誌】錐栗のほかに尖栗(利川)を掲載
和 名 【木の大百科】シナヒョウヒョウグリシナササバグリヘンリーグリ
【樹木大図説】シナヒョウヒョウグリ
説 明 【中国樹木誌ほか】
 支那中部・南部産。樹高は20〜30メートルに達し、堅果は単生(殻斗に1個)で卵形、径は1.5〜2センチで、先端部に褐色の毛がある。
 木材は堅硬で、水湿に耐え、枕木、建築、造船、家具に良し。
 製品の味は岡山県の北部で「かちぐり」と呼んでいたシバグリの干果と同様の印象である。硬いから歯の悪い人には食べられない。皮に焦げ目はなかったが、虫対策の意味もあるから軽くローストしているものと思われる。

 以上が中国産の小粒真ん丸グリとの出会いであった。世界には色々あるものである。

<参考:その他の中国栗>

@ Castanea mollissima
中国名 板栗(江蘇、湖南、四川)、栗子、魁栗(河北)、毛板栗、瓦栗子樹(湖北)
和 名 シナグリ(注:天津甘栗と呼んでいる焼き栗はこれである。)
説 明 樹高15〜20メートルに達し、堅果は通常殻斗に2〜3個で、径は2〜3.5センチ。
A Castanea seguinii
中国名 茅栗(唐本草)、野栗子(江蘇、浙江)、毛栗(南京、湖南)、毛凹栗子(湖北、興山)
和 名 モーパングリ
説 明 支那中部・南部産。灌木又は喬木、堅果は殻斗に2〜3個で、径は1〜1.5センチ。
<参考:黄山名物 黄山毛峰>




 黄山の名産としては、この栗はたぶん番外編で、知名度ではこの地域名産の黄山毛峰が筆頭のようである。中国十大銘茶の一つに数えられる銘茶とか。