樹の散歩道 スギ花粉を食べる
近年、スギ花粉はすっかり悪者となってしまった。ヒトがあまりにも軟弱であることに起因しているのは間違いないが、植物が子孫を残すために一生懸命がんばっている姿を静かに見守ることができないのも悲しいことである。現実は多くのヒトがつらい思いをしているわけで、このための対策を講じなければならないのはもどかしいことである。 こうした中で、花粉に苦しんでいるヒトが居直って、花粉を食ってしまったら花粉症など克服できるのではないかとかつて感じるものがあった。しかし、調べてみると同様の趣旨で減感作療法の名の治療方法が既にあることを知った時には少々がっかりしてしまった。 ところで、このスギ花粉であるが、これ自体は一体どんな味がするのであろうか。そして、食品として商品化されているものがあるのか、あればそれはどんなものだろうか。 【2010.4】 |
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優良な栄養源(栄養食品)として花粉を食べること自体は決して奇異なことではないようである。植物の生殖を担う細胞であるから、各種の栄養がたっぷり含まれているであろうことは予想がつく。通信販売のキャッチコピー風に表現すれば、「花粉は生命のパワーが凝縮した正に究極の高栄養価カプセルであるといえます!!」となるのかもしれない。 しかし、容易に想像できるように、どのように食べるのかは別にして、なめるのではなく、食べるにふさわしい量を人の手で確保することは簡単ではない。このため、手っ取り早い方法として、ミツバチがせっせと集めたものをかすめ取ることがヨーロッパでは古くから行われている。具体的には、ミツバチが花粉を蜜で固めた自らの、そして幼虫の食料であるミツバチ花粉(花粉荷、ビーポーレン Bee pollen) を頂戴するのである。ミツバチは蜜も取られてしまうし実に気の毒であるが、人の庇護下にあることの代償である。 スギの場合はもちろん風媒花であるから、蜜の用意はないし、ミツバチが花粉を集めてくれるわけではない。したがって、きわめて実直な方法で花粉を集める必要がある。 つまり、ごく普通の方法として、花粉散布前のたっぷり雄花を付けた枝先を採取し、これに花粉がまとわりつかないパラフィン紙の袋をかけた状態で水に挿し、雄花の成熟を待って花粉を採取するする運びである。 |
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1 | スギ花粉試食体験 |
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(そのままなめる) 無味、無臭で、やや粉っぽいだけで、小麦粉や片栗粉をなめるのと変わりない。乳鉢でいくらか擂りつぶしても、食感に変わりはない。 |
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(加水してこねる) 見た目には先の写真のとおり、きめの細かいきれいな黄色いあんこといった風情であるが、全くの無味・ 無臭である。 |
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(スギ花粉クッキー) 薄力粉、バター、グラニュー糖、卵黄にスギ花粉を加えてスギ花粉入りクッキーを焼いて試食してみた。色合いは花粉に由来してやや黄色みが強くなる。やや粉っぽい食感があるが、特に違和感はない。つまり、花粉に由来すると思われるような味は特に感じない。 さらに花粉を増量して、スギ花粉と薄力粉を概ね半々の構成比としてクッキーを焼いて試食してみたが、かなり粉っぽくなって、歯に粉(花粉?)がまとわりつく印象で、食感はあまりよろしくない。花粉由来と思われるような味はやはり感じない。 |
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スギ花粉をそのまま、あるいはクッキーにして初めて試食してみたが、スギ花粉が味、食感の観点で貢献する要素は全く認められなかった。まあ、体験したということだけであった。自己責任で径口減感作療法をするのであれば、これもひとつの考え方かもしれないが、効果のほどはわからないし、責任は持てない。 実はこれよりも、乾燥した花粉(乾燥しても花粉の機能は失っていない。)のさらさらした動きは実に意外なものであった。透明容器入れて傾けると、驚くほど滑らかにさらさらと流動するのである。このさらさら感を利用して、砂時計ならぬスギ花粉時計を作ったら、非常に細い「蜂の腰」が可能で、すばらしい製品になるのではないかと思われた。もちろん、このためにはガラスの内面に花粉が付着しないような表面処理が必要である。 |
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2 | スギ花粉を利用した商品 花粉が栄養的に優れていても、栄養源としてスギ花粉を積極的に使用した例は皆無である。スギ花粉の使用はスギ花粉症の「減感作療法」を思わせる文脈で、いわゆる「経口減感作療法」的イメージで複数の商品が販売されていた経過がある。 しかしながら、2007年に花粉症患者がスギ花粉に由来するある商品を摂取して、重篤なアレルギー症状(アナフィラキシーショック症状)を引き起こしたことを契機とし、これら商品は医薬品としての要件を満たさないものは販売が禁じられ、健康食品として販売する場合も、必要な注意書きが義務づけられることとなった。つまり、スギ花粉を含んでいるだけで即花粉症に有効であるなどとは表記できないし、また、効能を謳うためには医薬品としての承認がなければ認められないことになったわけである。 この結果、2010年現在、スギ花粉症への有効性を謳った商品は姿を消し、スギ花粉を原料とした食品も大きく数を減らした模様である。ネット検索では次のような商品がまだ生存することを確認した。 (市販商品の例) @ スギ雄花を花粉ごと炭化した食品 A スギ花粉エキス入り健康ドリンク B 杉花粉飴 スギ花粉症に有効であるとは説明していないが、間違いなくそのように受け止めてもらうことを期待している商品である。 なお、ミツバチから頂戴した他の花粉の健康食品は国産、輸入とも多数存在していて、その形態も粉末、顆粒、錠剤、カプセル、液剤、各種加工食品と様々である。 |
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3 | 花粉症対策の事例(開発中のものを含む) 花粉症が既に国民病とも言える状況になっている中で、国の研究機関でも重要な課題になっているほか、民間企業、医療機関にとっても魅力ある巨大市場となっている。根本的な解決策、治療法がない中で、次々と新たな対応メニューが登場することであろう。 |
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<参考:花粉のメモ帳> 花粉はその形態の多様性も興味深いが、不思議もいっぱいである。 |
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