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樹の散歩道
 
  レンギョウ5兄弟(レンギョウの仲間たち)
  一体何処が違うのか? 
            


 春に鮮やかな黄色の花を豊かに付けるレンギョウ類(モクセイ科レンギョウ属)には兄弟が大勢いて、図鑑を見ればその内の5種が採り上げられており、読めばなるほどそういうものかと頷くが、直ぐに識別点を忘れてしまう。
 ふつうに見かけるのはシナレンギョウが多いとされるが、5種のレンギョウが満遍なく植栽されていることはないため、比較が困難である。しかも、図鑑ではいずれも雌雄異株であるとしているものの、雄花と雌花の写真を樹種別に必ずしも掲載していない。
 花のない時期には誰も見向きもしない花木であるが、やはり、花と葉の両方から識別できるようになりたいものである。 【2009.4】
 【2020.5修正・追加】 【2020.10追記】


 名称からは、シナレンギョウチョウセンレンギョウの原産地は名前のとおりと理解し、一方、ヤマトレンギョウショウドシマレンギョウは当然日本の在来種であろうと理解するとともに、レンギョウも在来種かなと想像すると、そこにはワナがあった。何と、レンギョウも中国原産なのであった。シナレンギョウの名があるのに、あまりにもネーミングの構成がよろしくない。

 できれば5種類のレンギョウ類について、雄株の雄花雌株の雌花を写真で見られて、なおかつその詳しい説明書きがあると非常に有り難いのであるが、こうしたものには出会ったことがない。むしろないのが不思議に思える。特に雄花と雌花の違いに関しては、

①  (レンギョウ属では)雄花は雌しべが小さく、結実しない。(樹に咲く花) 
②  (レンギョウ属では)雄株では雄しべが大きくて雌しべが小さく、雌株では雄しべが小さく、花柱が長くて結実する。(日本の野生植物) 

とした記述例が見られる。

 これらの図鑑では、レンギョウ属の各樹種については、花は雌雄異株であり、「雄花では雌しべが(退化して?)小さく、一方、雌花では雌しべが大きく(長く)て結実する。」という説明である。

 つまり、レンギョウ属では花をのぞき込んで、雌しべの柱頭が見える花は雌花で、雄しべの葯が見える花は雄花であるとする内容である。

 ところがである。別の図鑑では全く違う見解が示されている。
  
 例えば、日本の樹木(山と渓谷社)には、以下のようにある。

レンギョウは雌雄異株で、雄しべは2個で花柱より短い。 
チョウセンレンギョウは雌雄異株で、雄しべは2個で花柱より長い。 
シナレンギョウは雌雄異株で、雄しべは2個で花柱より短い。 
ヤマトレンギョウは雌雄異株で、雄しべは花柱より短いシナレンギョウ型。 
ショウドシマレンギョウは雌雄異株で、雄しべは花柱より長いチョウセンレンギョウ型。 

 これらの記述については、大いに疑問がある。

 そこで、レンギョウ属の各樹種の花や葉などの特徴とされている点について、まずは手近な資料の範囲で以下に整理してみることにする。( ★ 明らかに誤りと思われる内容もその旨を付記して整理する。 )
 
     
 レンギョウいろいろ   
     
 レンギョウ Forsythia suspensa  
     
 
      レンギョウの雌花(→長花柱花       レンギョウの茎の随
 
     
 
 レンギョウの葉 レンギョウの3出状の葉 
 
     
 中国原産。中国名 连翘国内図鑑では一般に雌雄異株
 枝はよく伸びて下垂し、地面につくと発根する。【樹に咲く花】 (種小名は垂れるの意。)
 葉は長さ4~8センチの卵形でふちには鋸歯がある。【日本の樹木】
 若枝の葉はしばしば3出状に分裂する。【樹に咲く花】
 花冠裂片は倒卵状楕円形で円頭、幅7~10mm。【日本の野生植物】
 (葉の展開前に開花する。)
 山渓の「樹に咲く花」には雌花とする写真が掲載されている。
 雄しべは花柱より短い。【「日本の樹木」ほか】 ← 誤りと思われる
 髄は節を除いて中空。
 原産国の中国植物誌では雌雄異株としていない。(後述) 
   
 
 シナレンギョウ Forsythia viridissima  
     
シナレンギョウの雌花(→長花柱花  シナレンギョウの茎の随 
 
     
 
シナレンギョウの シナレンギョウの種子を放出した果実
 
     
 中国原産。中国名 金钟花迎春柳迎春条など。国内図鑑では一般に雌雄異株
 葉は長さ6~10センチの長楕円形上半部に鋸歯がある。幅はなかばよりやや上が最も広い。【日本の樹木】 (全縁の葉もある。)
 葉の脈は表面で凹む。【樹に咲く花】 
 花は下向きに咲き、花冠裂片はレンギョウより細く、長楕円形で幅約5mm。【日本の野生植物】
 (葉の展開と同時に開花する。)
 雄しべは花柱より短い。【「日本の樹木」ほか】  ← 誤りと思われる
 山渓の「樹に咲く花」には雌花とする写真が掲載されている。
 髄は薄い隔膜が階段状につく(チョウセンレンギョウと同様)が、節はつまらない。【日本の樹木】
 観察したものの中には細い茎には膜があっても、少し太い茎が中空のものが見られた。
 原産国の中国植物誌では雌雄異株としていない。(後述)
 枝が無節操に長くのびずに直立し、管理しやすいため、レンギョウ類では最も多く植えられているという。 
   
 
 チョウセンレンギョウ Forsythia viridissima var. koreana (シナレンギョウの変種)
                 Forsythia koreana
 
     
チョウセンレンギョウの雄花(→短花柱花  チョウセンレンギョウの茎の随 
 
     
 
   
 チョウセンレンギョウの雌花(→長花柱花 チョウセンレンギョウの葉 
 
     
 
   
チョウセンレンギョウの種子を放出した果実   
 
     
 朝鮮半島原産。国内図鑑では一般に雌雄異株
 枝が弓なりに長くのびる。【樹に咲く花】
 葉は長さ5~10センチの卵形~卵状披針形で、上半部に鋭い鋸歯がある。下半部の幅が広い。【日本の樹木】
 シナレンギョウより葉の幅が広く、鋸歯が鋭くて多い。【樹に咲く花】
 雄しべは花柱より長い。【「日本の樹木」ほか】  ← 誤りと思われる
 (葉の展開前に開花する。)
 雌花の方が裂片の幅がやや広い。【日本の樹木】
 山渓の「樹に咲く花」には雄花とする写真が掲載されている。
 節は詰まり、髄は薄い隔膜が階段状につく。【日本の樹木】
   
 
 ヤマトレンギョウ Forsythia japonica  
     
   (茎縦断面は未撮影)

 チョウセンレンギョウのような隔壁があるとされる。
ヤマトレンギョウの雌花(→長花柱花  
 
 日本特産で本州(中国地方)に分布。国内図鑑では一般に雌雄異株
 岩場に生え、細い枝を長く伸ばす。【樹に咲く花】
 葉は長さ7~12センチの卵形又は広卵形で縁に鋸歯がある。【日本の樹木】
 花冠裂片は狭楕円形(丸みがある)で長さ12mm、幅5~6mm。【日本の野生植物】
 (葉の展開と同時に開花する。)
 雄しべは花柱より短いシナレンギョウ型。【日本の樹木】  ← 誤りと思われる
山渓の「樹に咲く花」には雌花とする写真が掲載されている。
 節は詰まり、髄は薄い隔膜が階段状につく。(チョウセンレンギョウ型と同じ。)【日本の樹木】
   
 
 ショウドシマレンギョウ Forsythia togashii  
     
ショウドシマレンギョウの雌花(→長花柱花  ショウドシマレンギョウの茎の随
 
     
 
ショウドシマレンギョウの葉     ショウドシマレンギョウの果実 
 驚くほど結実が良好である。
 
     
 日本特産で四国(小豆島)に分布。国内図鑑では一般に雌雄異株
 葉は長さ4~8センチの卵型~長楕円状披針形で、ほぼ全縁。【日本の樹木】
 花は若葉が伸びた後に(又は同時に)開く。花弁は少し緑色を帯びた黄色。(花の色は黄色みが薄い。)
 (葉の展開と同時に開花する。)
 雄しべは花柱より長いチョウセンレンギョウ型(日本の樹木) ← 誤りと思われる
 (注)写真の個体では花柱が雄しべより長い。
 山渓の「樹に咲く花」には雌花とする写真が掲載されている。
 髄は薄い隔膜が階段状につくが、節はつまらない。(シナレンギョウと同じ。)【日本の樹木】
 かつての分類ではヤマトレンギョウに含めていた模様。
   
 
 
  <参考: 髄の膜に関する表現例>  
     
   髄に薄い隔膜が階段状にある場合の表現は、次のようにいろいろで、苦労が見られる。英語なら、Chambered pith で済んでいるようである。   
     
 
髄ははしご状(平凡社日本の野生植物:ヤマトレンギョウ、シナレンギョウ) 
  髄はひだ状で白色から淡褐色(平凡社日本の野生植物:サルナシ) 
髄はひだ状(原色日本樹木図鑑:ミヤママタタビ) 
  髄は薄板状(保育社原色日本植物図鑑:ヤマトレンギョウ、シナレンギョウ) 
枝の髄は薄板状(保育社原色日本樹木図鑑:ヤマトレンギョウ)  
髄は褐色で横に隙間がある(保育社原色日本植物図鑑:サルナシ) 
枝の髄は梯子状に中穴がある。(保育社原色日本植物図鑑:クルミ属) 
  枝の髄はやや淡褐色で充実することなく竹節状に断続している。(保育社色日本樹木図鑑:ミヤママタタビ) 
枝の縦断面の髄には横板がある。(北隆館原色樹木大図鑑:ヤマトレンギョウ、シナレンギョウ)
髄は階段状のすきまがある。小枝の髄は薄板を重ねた形。(保育社検索入門 樹木:サルナシ)
枝を縦に切ると薄い板を並べたような髄が見える。(保育社検索入門 樹木:ミミズバイ)  
有室髄ゆうしつずい Chambered pith )=髄がたくさんの空室に分割されたものをいう。
オニグルミ、サワグルミ、ハリギリ、サルナシ、チョウセンレンギョウなどがこの髄を持つ。
(共立出版 落葉広葉樹図譜) 
 
     
     
 レンギョウ属樹種は本当に雌雄異株なのか 【2015.10 追記】  
     
   中国原産のレンギョウシナレンギョウについて念のために中国植物誌で見てみると、前項で記したような雌雄異株とした説明は見られず、雄しべと雌しべのサイズが異なる2型の花について、具体的なサイズが淡々と記述されている。つまり、雌雄異株とは見なしていないといのである。 

 そこで、中国植物誌のレンギョウ属の説明を見ると、何とレンギョウ属の花は(雌雄異株ではなく)明確に「両性」であるとしているのである。 何としたことか!!

 本家中国の植物に関しては、国内の図鑑だけを見ていたら危ないということをしみじみ痛感した。
 
     
 
【中国植物誌レンギョウ属(连翘属 Forsythia Vahl)】
 
レンギョウ属では花は両性で、花柱は長さの違いがあって、長い花柱を持つ花(长花柱の花)は雄しべが雌しべより短く、短い花柱を持つ花(短花柱の花)は雄しべが雌しべより長い。

中国にはレンギョウ属樹種が最も多い7種1変種分布し、果実は薬用となり、解熱解毒、しこりをほぐし、消腫の薬効があり、中国では常用の中薬となっている。
 
     
   (中国植物誌より)  
 
レンギョウ(連翹)
中国名:连翘(連翹)
雌しべの長い花 雄しべ長 3~5ミリ、雌しべ長 5~7ミリ 
雄しべの長い花 雄しべ長 6~7ミリ、雌しべ長 約3ミリ 
シナレンギョウ
(支那連翹)

中国名:金钟花(金鍾花)、迎春柳、迎春条
雌しべの長い花 雄しべ長 3.5~5ミリ、雌しべ長 5.5~7ミリ 
雄しべの長い花 雄しべ長 6~7ミリ、雌しべ長 約3ミリ 
 
     
   そこで、安易なWEB検索をしてみると、中国の図鑑の記述と一致する情報が日本植物生理学会の「みんなのひろば (2014.4.17)」に掲載されているのを確認した。関係部分は以下のとおりである。   
     
 
 レンギョウの仲間ではどの種にも、雄しべが長くて雌しべが短い花と、雄しべが短くて雌しべが長い花が咲きます。それぞれのタイプの花を雄花、雌花と書いている図鑑もたくさんあります。しかし、この雄花にも子房を持つ雌しべがありますし、雌花の雄しべにも花粉ができます。このことから、これらは厳密な雄花、雌花ではなく、どちらも雌雄両方の性質を持つ花両性花と見るべきでしょう(雄しべが長い花と雌しべが長い花の2タイプがある)。このような花を異型花と呼び、雄しべが長い花(雌しべが短い花)を短花柱花雌しべが長い花を長花柱花と呼びます。 
 
     
   面白い展開となってきたことから、疑問点を含めて次に整理してみる。  
     
 Ⅲ  暫定的まとめ   
     
 1  レンギョウ属の識別について   
     
   ヤマトレンギョウショウドシマレンギョウは、通常見かけることはないから省略するとして、

 レンギョウは植栽例は多くないような印象だが、花冠裂片の幅が広く、葉が卵形の場合が多いらしく、さらに若い枝ではしばしば3出状に分裂した葉が見られるというのがポイントとなろうか。

 シナレンギョウチョウセンレンギョウは花冠裂片が細めであるが、チョウセンレンギョウはレンギョウと同様に葉の展開前に開花するのに対して、シナレンギョウは葉の展開と開花が同時である点がポイントとなろうか。

 また、シナレンギョウの葉は長楕円形で表面の脈が凹むのに対し、チョウセンレンギョウの葉は卵形であるという。しかし、小石川植物園のシナレンギョウとチョウセンレンギョウの葉を見比べると、違いが分かりにくく、同定がおかしいのではないかと疑いたくなるほどである。チョウセンレンギョウはシナレンギョウの変種として整理されているが、中国植物誌にあるように葉形に変異の幅があるようで、少々分かりにくい印象である。(交雑種が存在するとの見解もある。)

 さらに、伸びた枝の形状として、レンギョウでは伸びた枝が下垂し、シナレンギョウでは枝が直立し、チョウセンレンギョウでは枝が弓なりに長く伸びるというが、一般に刈り込みが強い例が多く、自然樹型が見られないことが多いため、必ずしも目安とならない。

 なお、2つの型の花で見られる雄しべと雌しべの形態については、各樹種ともほとんど違いがないと思われ、特にこだわる必要はなさそうである。

 特にレンギョウ類の葉に関して、後学のために以下に備忘録を残すこととする。 
 
     
   レンギョウ類の形態(特に葉について)  
 
レンギョウ  枝は開いて広がるか下垂する。葉は対生、通常単葉、あるいは3裂から3出複葉で、葉片は卵形、広卵形あるいは楕円状卵形、楕円形まである。長さは2~10センチ、幅1.5~5センチ、先端は鋭くとがり、基部は円形、広楔形、楔形まであり、葉縁は基部を除き鋭鋸歯があり、上面は深緑色、下面は短黄緑色、両面無毛。葉柄長は0.8~1.5センチで無毛。
(中国植物誌) 
シナレンギョウ  高さは3mに達し、枝は直立する。葉は対生、葉片は長楕円形から披針形、あるいは倒卵状長楕円形で、長さは3.5~15センチ、幅1~4センチ、先端は鋭くとがり、基部は楔形で、通常上半部に不規則な鋭鋸歯あるいは粗鋸歯があり、まれにほぼ全縁で、上面は深緑色、下面は淡緑色、両面無毛、中脈と側脈の上面が凹み、下面は凸起する。葉柄長は6~12ミリ。 
(中国植物誌)
チョウセンレンギョウ  枝は弓なりに長く伸びる。葉は対生、葉身は長さ5~10センチ、幅1.7~3センチの卵形~卵状披針形で、中央より下部が最も広い傾向がある。上半部には鋭い鋸歯がある。(樹に咲く花・日本の樹木) 
シナレンギョウに似ているが、葉は鋸歯がそれよりやや鋭くて多く、ふつう中央よりやや下部で幅が最も広い傾向があり、まれに若枝では3裂することがある。
 
     
 レンギョウ属の花は長花柱花と短花柱花を別株につける両性花(異型花)なのか、それとも雄花と雌花を別株につける雌雄異株なのか   
     
   両性花説長花柱花短花柱花のそれぞれに結実能力があって、2型あるのは自家受粉を避けるシステムであると解するものと思われる。つまり、異なる型の花を持った株が存在しなければ結実しないとする見解である。しかし、キッチリ検証されているのかは不明で、具体的にレンギョウ属の短花柱花が他の長花柱花の株の花粉をもらって子房がはたして成熟するのかは明確な情報を目にしない。

 雌雄異株説雄花雌花が別株で分化して、確実に自家受粉を避けるシステムとなっていると解するものと思われる。しかし、本当に雄花と雌花に完全に分化しているのかは不明で、具体的に雌しべの長い花の雄しべの花粉が完全に機能を失っているのか、雄しべの長い花の雌しべが完全に受粉・結実能力を失っているのかは明確な情報を目にしない。

 ということで、以上の疑問点が不明ではスッキリと頭の整理ができない。ひょっとすると、レンギョウ属の花は、雌雄異株を目指して変化しつつある過程(中途半端な状態)にあるのかもしれない。 
 
     
   
   (シナレンギョウの長花柱花と短花柱花の様子)  
     
 
 
  シナレンギョウの長花柱花(雌花?)
 長い雌しべと短い2個の雄しべからなる。
 雄しべは花冠管基部に着生する。
 シナレンギョウの短花柱花(雄花?)
 短い雌しべと長い2個の雄しべからなる。 子房は長花柱花と大差ないが、結実しないとみて雄花とする見解がある。
 
     
 
   長花柱花の雄しべ
  
    長花柱花の葯 
 葯は明らかに花粉を出している。
    長花柱花の柱頭
 柱頭は2裂する。 
 
     
 
   短花柱花の雄しべ 1 
 2個の雄しべの葯はぴったり接している。柱頭の大きさは長花柱花のものと大差ない。
   短花柱花の雄しべ 2
 相接した葯を引き離した状態である。 
     短花柱花の葯
  短花柱花の葯は長花柱花のものより大きく、豊かに花粉を出している。
 
     
 
 シナレンギョウの長花柱花(雌花?)の子房の断面
子房は2室で、各室ごとに下垂した胚珠が多数見られる。 
 シナレンギョウの短花柱花(雄花?)の子房の断面
子房内の胚珠の様子は、長花柱花と遜色なく、着実に受粉すれば成熟しそうな印象である。 
 
     
 Ⅳ  気づきの点   
     
  (植栽樹の事例チェック)

 レンギョウ属の2型の花について、従前それほど注意して見てきたわけではないが、改めて昔の写真を見てみると、各樹種について必ずしも2型の花が撮影されていないことに気づいた。また、果実を確認したことも少ないことに気づいた。

 そこで、改めて小石川植物園に植栽されたものを探索すると、チョウセンレンギョウシナレンギョウの樹名板を付した株が離れた箇所に多数植栽されているのを確認できたが、何と、すべてが雌しべの長い花(長花柱花)であった。

 小石川植物園のチョウセンレンギョウとシナレンギョウは、ひょっとすると、それぞれすべて特定の個体から挿し木増殖した単一のクローンである可能性を感じる。

 さらに、身近なビル周辺や公園の植栽株を確認してみると、シナレンギョウ雌しべの長い花(長花柱花)の株がほとんどであったが、わずかながらシナレンギョウの2型の花、長花柱花と短花柱花が満遍なく混在した状態で列植されていた箇所及び短花柱花が列植されていた箇所の存在を確認することができた。
 
 
格好の観察対象であるため、花後の結実の様子をチェックした。

(植栽樹の結実例)

 レンギョウ属では長花柱花と短花柱花の両方が混在することで結実が見られると考えられている模様であるが、そもそも結実を確認できる機会は多くない。こうしたなかで、以前に見た小石川植物園のチョウセンレンギョウの株では、すべてが長花柱花であったにもかかわらず、一定の結実をの痕跡(裂開した果実)確認できた。ひょっとすると、長花柱花ではある程度の同家受粉の可能性を感じたところである。

 さらに、今回観察対象としたシナレンギョウの植栽株の観察結果は以下のとおりであった。
 
     
 
長花柱花の株のみ 
 結実を確認することができなかった。 
短花柱花の株のみ
 場所を忘れてしまったため、確認できなかった。(先送り)
  長花柱花と短花柱花の株が混植 
 一定の結実を確認できた。しかしながら、庭先の植栽樹ではなく、長花柱花と短花柱花の株の区別のための目印をつけることができなかったため、残念ながら結実がいずれの株に由来するものかは不明である。 
 
     
   ということで、疑問点を解消できなかったため、花型と結実性の関係については先送りである。   
     
   目にできるレンギョウ類の植栽樹については、剪定が結構激しいため、自然状態での結実性について観察するには少々不向きな印象がある。一般に結実がよろしくないのは、2種2型の花を持つ株が混植されていることがまれであることに加えて、強度の剪定が影響しているように思われる。   
     
  (一部の図鑑で花に関して奇妙な記述となっている背景)

 身近に植栽されたシナレンギョウを先のとおり観察しただけであるが、ほとんどが長花柱花であることを確認できた。レンギョウ類は結実することに商品的な価値はないから、花の型は特に意識されることなく、延々と挿し木増殖が繰り返されてきたことが反映しているのであろう。

 その結果として、長花柱花と短花柱花の存在比率に著しい偏りが生じて、たぶん、図鑑の記述にまで影響してしまったものと思われる。つまり、一部の図鑑の誤りは、国内における花の型の存在確率が反映している可能性が高い。また、2型の花の写真が都合よく確保できないこともあって、図鑑で必ずしも2型の花が掲載されていないものと思われる。

 果実が重視されない外来の雌雄異株の植物でも、しばしばありうることである。

 なお、国内ではレンギョウ属樹種の果実に対しては全く目が向けられていないが、中国ではレンギョウ属の成熟前の果実を乾燥したものが生薬として生産されている。国内では生産がないものの、日本薬局方にはレンギョウの乾燥果実が「生薬「レンギョウ 連翹」として収載されていて、製品が中国から輸入され、販売されているのを確認した。 
 
     
【追記 2020.10】 シナレンギョウの果実と種子の様子  
     
   そこそこの結実が確認できたシナレンギョウを素材に、果実と種子の様子を観察してみた。   
     
 
  シナレンギョウの若い果実 1
 果実の大きさには幅が見られる。
 シナレンギョウの若い果実 2
 若い果実では4個の萼片しばらく残っている。 
 シナレンギョウの若い果実 3
 この果実はむっちり大きい。発育のよい種子の数に関係する。
 
     
 
     シナレンギョウの若い種子 1
 一面が平ら又はやや凹み、反対側は膨れている。
    シナレンギョウの若い種子 2
 種子の表面には微細な粒状模様が見られる。(後出)
   
   シナレンギョウの成熟途中の果実と種子
 採取後に先端が裂開した果皮を左右に開いたものである。蒴果は2室とされ、写真で中央の隔壁が確認できる。 
      シナレンギョウの成熟種子
 ほぼ成熟したと思われる種子で、色は褐色であるが、硬くならないため、本当の成熟時点の見極めができない。種子の長さは5~6ミリほどである。
 
     
 
              シナレンギョウの種子の翼(矢印部分)
 中国植物誌によれば、レンギョウ属の通性として、種子の片側には翼(原文では「翅」)があるとしている。
 ちなみに、「樹に咲く花」では、レンギョウでは種子のふちに狭い翼があり、ヤマトレンギョウでも種子に翼があり、ショウドシマレンギョウでは種子に稜があるとしている一方で、シナレンギョウでは種子に翼はないと主張している。認識の基準が異なるようである。
 
     
 
              シナレンギョウの種子表面の模様
 種子の表面は微小な粒状の突起で覆われていて、まるで爬虫類の皮膚のような印象である。