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樹の散歩道
 
  愛しの「ぽんせん」の研究
    
            


 かつてはだれもが駄菓子屋で親しんでいた愛しの「ぽんせん」が現在でも健在である。全盛期に比べれば、製造者は激減したはずであり、こうした中で一時期、姿を見失ってしまって寂しい思いをしていた。しかし、少し意識して周辺を見渡したところ、3系統のぽんせんを確認できて、再び仲良くすることができるようになった。そこで、これらのぽんせんに感謝の気持ちを込めるとともに、末永く提供されることを祈念して、簡単に紹介することとしたい。【2009.6】
(注) 我が幼少期、ふるさとでは「ぽんせんべい」と呼んでいたから、地域により、さらに異なる呼称があるかもしれない。


 昔を思い返すと、ぽんせんは子供の小遣いに対しては少々高めであった。また、現在では見られないが軽く青のりを振りかけたものもあったような気がする。ぽんせんは、原料が小麦粉らしからぬ仕上がりで、醤油に由来する香ばしさ、ぱりぱりとした食感が魅力で、喜びに満ちた中毒症状に浸ることができる。(米(玄米)を使用したつぶつぶタイプのせんべいも「ぽんせん」と呼んでいて、市場ではむしろこちらの方が多く目にするが、ここでは小麦をベースとした「ぽんせん」を対象とする。)
 兵庫県のぽんせん

 原料は小麦粉玄米が半々で、醤油の香ばしさと玄米の香ばしさのハーモニーが絶妙である。
 上の写真は中国自動車道の兵庫県内の加西サービスエリアで初めて出会った製品である。
 朝来市畑町産の玄米を使用しているとのことである。商品名は「畑町産玄米焼き」とある。醤油の香ばしさにうっとりで、さらに食感よし、味よしで、“極上のぽんせん”に出会った喜びを感じるとともに、これまでその存在を知らなかったことが悔やまれた。製造元を知りたかったが販売者の表示しかない。
 
 これの兄弟分と思われる製品を岡山県津山市久米町の道の駅「久米の里」で見かけた。町名から久米の仙人の伝説をいただいてしまった町である。製品名は「黒大豆ぽんせん」とあるが、やはり製造元の表示がない。(写真下左、中)

黒いポツポツは黒大豆に由来するものである。
 地域の物産館や道の駅では地域の産品だけで売り場を満たすことは困難であるから、販売者のみの表示の製品が多いことはふつうに見かける風景であるが、やはり気になる。ちなみに岡山県は黒大豆の生産で日本一であるから、こうした製品の存在自体に不自然さはない。そこでネットで下調べるうちに見当がついて、電話で確認したところ、先の製品も含めて“製造秘密基地”が判明した。兵庫県朝来市のマルサ製菓であった。写真上右は同製菓の “基本種” となる小麦粉が原料の「ぽんせん」である。追って、いろいろな “変種” が存在することがわかった。
 沖縄のぽんせん
 沖縄の場合は、決して「ぽんせん」とは呼ばずに、あくまで「塩せんべい」である。ベースはぽんせんと同じであるが、多くの製造所があるにもかかわらず全て塩味である。それに油で揚げたような印象で、少々油っぽい。肥満体の場合はこれがやや気になるであろう。しかし、なかなかいい味で、食べ始めると中毒症状に陥ること請け合いである。
 油の件は製造プロセスそのものとして関心があったため、ある製造所に聞くことで疑問が解消した。要は韓国海苔と同じで、塩を付着させるために型焼き後に油に通している場合と、軽く揚げている場合があるとのことであった。
 沖縄での塩せんべい生産の歴史は、本土からぽんせんを焼く器具を導入したことにより開始された模様である。
 なお、沖縄塩せんべいは都内では「銀座わしたショップ」に複数のメーカーの製品を常時置いている。


丸吉の定番の塩せんべいである。7枚入り。やや歯ごたえのある硬さになっている。

丸吉のやや小型タイプの塩せんべいで、15枚入り。定番の製品は小麦粉+馬鈴薯澱粉であるが、この製品は馬鈴薯澱粉に変えてタピオカ澱粉を使用している。焼き方を変えてサクサク感のある仕上げとしている。


 黒糖をまぶしたタイプもあって、このサクサクタイプがベースとなっている模様。


 丸吉のふつうの塩せんべいに七味唐辛子を加えたものである。激辛ではない。
 このメーカーでは、売れ行きの主力は既に「天使のはね」の名のふわふわスナックにシフトしてきたとのことである。
 大阪のぽんせん
 大手の菓子メーカーの製品は全国各地のスーパーに製品を置いているが、ぽんせんメーカーはそこまでの力はない。それでも、大阪に拠点を置く松岡製菓の製品はしばしばスーパーでも見ることができる。一口タイプの「満月ポン」と標準サイズ「ぽんせん」があるが、ふつうに見かけるのは一口タイプの製品である。オーソドックスな安心の味である。
 製造者の表示欄には、会社名と併せて松岡力王丸とする勇ましい氏名が記載されている。これは同社の元気な?会長さんのようである。
 マルサ製菓と松岡製菓の製品との大きな違いは甘味料の種類である。マルサ製菓は植物系の非砂糖系甘味料である甘草ステビアを使用し、結果として醤油の香ばしさを生かす演出に成功していて、さらに標準的な醤油味の製品では「砂糖不使用」を前面に打ち出している。これに対して、松岡製菓は砂糖を使用していて、これに由来するテリがあり、同時に砂糖に起因する吸湿性があってややベタ付く感がある。個人的には醤油の香ばしさにこだわりたく、マルサ製菓の製品が好みであるが、これは人それぞれの好みということであろう。

<参考>甘草とステビア

 甘草はマメ科カンゾウ属の多年草で、日本では自生はなく、ほぼ全量を輸入に依存している。甘味料として多くの食品に利用されているほか、生薬、医薬品としても広く利用されている。主成分はグリチルリチンで、砂糖の150〜250倍の甘さを感じるとされる。
 ステビア Stevia rebaudiana はパラグアイ原産のキク科ステビア属の多年草で、甘草と並び、食品に多用されている。利用成分はステビオシドほかで、日本で初めて商品化されたことで知られ、ステビオシドは砂糖の300倍も甘味を感じるとされる。ほとんどが中国から輸入されている。葉を噛むとサラッとした甘さを感じる。

  1:ウラルカンゾウ  2:スペインカンゾウ  3:カンゾウ(中国産)
写真1,3,4: 東京都薬用植物園
 
写真2,5: 星薬科大学
 
   4:ステビア   5:ステビアの花


 なお、ぽんせん作りを見学したことはないが、ふっくらと型焼きするには、ポン菓子の原理を使っていると思われる。つまり、水で練った小麦粉を型に入れ、密閉加熱し、高温・高圧にした状態から減圧・解放して膨らませる手法である。

 最後にメーカー別に情報を整理してみる。それぞれ末永く頑張ってほしいものである。
区 分 (株)マルサ製菓 (株)松岡製菓 丸吉塩せんべい屋
所在地 兵庫県朝来市石田1185
079-677-1602
大阪市住之江区東加賀屋2-13-9
06-6681-0780
沖縄県那覇市繁多川4丁目11-9
098-854-9017
標準製品
原材料
(醤油味の場合)
小麦粉、醤油
甘味料(甘草ステビア
(醤油味の場合)
小麦粉、醤油、砂糖
食塩、調味料(アミノ酸)
(塩味の場合)
小麦粉、植物油脂、塩
馬鈴薯澱粉
製品種類
確認したもの)
ぽんせん 醤油味
黒大豆 ぽんせん
ごまぽんせん
サラダ塩味ぽんせん
ピリ辛一味
玄米ぽん(玄米焼き)
満月ポン醤油味
満月ポンたこやき味
ぽんせん
塩ぽんせん(沖縄天然塩)
塩せんべい
とうがらし塩せんべい
黒糖せんべい
沖縄では塩味が好まれるようで、醤油味は需要がないようである。
備 考  販売拠点は地域的で少ない模様。従前は電話注文や小売り他社のネット通販にも依存していたが、いつの間にか自社ホームページでの通販を始めていた。
 上記製品のうち「サラダ塩味ぽんせん」はダラダラ食べていても飽きがこないおいしさがあって、結果としてこれが一番好きになってしまった。
 標準サイズより一口タイプの方がスーパーで見かける頻度が高い。
 沖縄にはこの他に丸眞製菓株式会社サンシオなど多数のメーカーがあるが、本土での販売量は多くはないと思われる。一方、ネット通販の扱いは非常に多い。スーパーでは見たことはない。
 
 
<追記 2014.8> ぽんせんの新種を発見!!
 浜松市内のスーパーで、うれしいことにぽんせんの新種を発見した。
 2製品が並んでいて、ひとつはどこかで見たような「ピリ辛一味ぽんせん」、もうひとつが新種の何と「うなぎボーン入りぽんせん(うなぎぽんせん)」である。(追って、これもどこかで見たような丹波黒大豆ぽんせん、ごまぽんせんが追加されていた。)
 
                         ぽんせん2品(左が新種)
 
 いずれの製品も製造者の表記はなく、販売者は次のとおりとなっていた。 
 販売者 (有)ヒコサカ企画MHS 浜松市中区葵西 5-15-2  
 
 さて、楽しみの検分である。
 写真右のピリ辛一味ぽんせんは、先に登場した製品のひとつと同一名であり、既に素性が見えてきてしまった。写真左のうなぎボーン入りぽんせん(うなぎぽんせん)は初対面で、明らかに浜松の地域版として企画・演出された製品と理解される。(2014年7月に登場した模様。)

 次に原材料名の表記を確認すると、いずれの製品も、甘味料として甘草ステビアを掲げている。
 これで原産地は判明である。答えは先に登場したマルサ製菓の製品である。念のために販売者に問い合わせたところ、間違いはなかった。ということで、ピリ辛一味は既製品の販売で、うなぎボーン入りは浜松の会社の企画・発注に基づきマルサ製菓が供給しているものであることが明らかになった。しかし、ぽんせんうなぎボーンの遭遇は全くの予想外であった。なお、この味については、ものがものだけに特段の個性は感じなかった。

 マルサ製菓が元気なことは当方としても実に喜ばしく、心の安らぎを覚える。   
 
(補説) 
 ピリ辛一味は基本種の原料である小麦粉、醤油、甘味料(甘草、ステビア)に一味だけがプラスされたものであるの対して、うなぎボーンの方は、小麦粉、醤油、甘味料(甘草、ステビア)に加えて、当然ながらの鰻の骨のほかに、何故かコーンスターチ、植物油、澱粉分解物、調味料(アミノ酸)、糊料(プルラン)が使用されている。
 これらの突然の添加物について、当初はその理由が理解できなかったが、少し調べることで合点した。これらの添加物は既に市販もされているおつまみとしての「うなぎボーン 醤油味」の原材料と一致することを確認した。

 マルサ製菓のホームページを改めて確認すると、会社では各地方からの要請に応えて「ご当地ぽんせん」の製造を請け負っていることを紹介していた。ということは、限りなく多様な “派生品”、“変種” が存在するということである。