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樹の散歩道
 
   ピスタチオはなぜ殻付きで売っているのか

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ピスタチオが頑なに殻をまとっている理由 −
             


  かなりの前のテレビ番組であるが、ピスタチオの生産国(多分イランであったと思う。)で、出荷前のピスタチオをお年寄りがけだるそうに一つひとつ手に取りコツン、コツンと叩いて割れ目を入れている風景を目にした。それ以来、ピスタチオとはそうした悲しいまでの忍耐強い手作業を経て流通しているものと思い込んでしまった。そのため、ピスタチオを手にすると、あのコツン、コツンの風景が思い出されて、何やら気の毒になってしまうのであった。
 しかし、最近ちょっとしたきっかけでこのナッツについて調べてみたところ、すべてがコツン、コツンではないことが明らかになった。全くの認識不足であった。また、殻付きの流通が多い理由について勝手に想像していたが、これも確認することができた。
【2008.3】   


 ピスタチオは英語の発音ではピスタシオ
(
pistachio)のようである。

 日本の気候には合わない模様で、国内での栽培例はなく、植物園でも見たことがない。

 これを食べ始めると、殻と薄皮で思い切り散らかるが、独特の味は魅力で、散らかることなどまったく気にならない。
   商品パッケージの絵。この製品の場合には、アメリカ産ピスタチオを「瀬戸内産の藻塩」で味付けし、ノンフライロースト製法で、仕上げたとしている。 

(販売者:共立食品(株))

               市販のピスタチオの様子
写真左
米国産殻付きの製品。世界的にはイランが最大の生産国とされているが、見かけるのは米国産が多い。

写真中
米国産の剥き実の製品。左のものと同じ国内企業が販売しているものであるが、殻付きよりも中の実も貧弱である。殻の開かなかったものかもしれない。

写真右
味で定評のあるイラン産殻付きの製品。たまたまなのか不明であるが、米国産より殻の色が濃く艶があり、実はよりコリコリしていた。


 ピスタチオはなぜ殻付きで売られているのか。

 このことについては、写真を見れば想像できる。剥き実のピスタチオはかたちは不整形でバラバラで、しなびたような印象がある上に、色ムラも激しくて美しくなく、あまりにも貧相であり、これだけでは食べる意欲がわいてこないのは普通の感覚である。したがって、商品としては殻付きが指向されることは自明の理であると勝手に結論付けていた。
 
 念のために、業界の団体である「日本ナッツ協会」に照会したところ、回答をいただき、新たな知識が得られた。ポイントは以下のとおりである。

@  ピスタチオの輸入は、生、加工品共に殻付き、殻なしの両方がある。
A  特におつまみとしては殻付きが多いのは事実で、市場では殻の表面がきれいで、口の開いたものの割合が多いことを要求される。
B  殻付きは、殻を手で割って食べる楽しさと、何よりも風味・味が変化しにくい利点がある。特にイラン産は美味しいことで定評がある。
 
ということであった。
 ピスタチオの殻は実が熟した時点でどんな状態となっているのか

 結論をいうと、多くは熟すと自然に裂開するということである。したがって、コツン、コツンとやっていたのは、自然に裂開しなかったものについて商品価値を高めるための根気強い作業風景であった。しかし、世界第2位の生産国である米国では、こんな手作業をすることなどあり得ないと考えられる。
 この点についても、日本ナッツ協会に照会したところ、次の回答をいただいた。

@  手作業での殻割り作業が存在するのは事実で、その理由は口の開いた品物は高く売れることによる。
A  イラン国内でどの程度手作業処理されているかはわからないが、中国に輸出され、そこでそうした処理をしていることは聞き及んでいる。
ということで、これまた有用な情報であった。

 さて、ついでなので、その他情報を以下に備忘録として整理した。
 情報源は以下のとおり。

・日本ナッツ協会HP(http://www.jna-nut.com/)及び同事務局からの回答
・Mark Rieger ジョージア大教授(http://www.uga.edu/fruit/pistacio.html)
・California Rare Fruit Growers, Inc.
 (http://www.crfg.org/pubs/ff/pistachio.html)
・平凡社世界大百科事典 ほか

 樹木としてのピスタチオ

 中央アジアから西アジア原産のウルシ科カイノキ属の落葉樹。学名は Pistacia vera
 英名は Pistachio で、発音は「ピスタシオ」である。平凡社の世界大百科事典は、発音に忠実で、「ピスタチオ」では該当がなく、「ピスタシオ」の名で掲上されている。
 雌雄異株で、樹高は10メートルに達する。日本では風土が適さず栽培がみられない。
 果実

 赤みがかったしわのある果実をブドウのようなかたちのどっしりした房状にして付ける。
 市場ではナッツとして知られているが、ピスタチオの果実は植物学的には核果で、食べられる部分は種子である。
 外皮は薄く肉質で色は薄い褐色で、成熟時には赤い班が生じる。
 楕円形の子葉(仁)は長さは約1インチ、直径は約1/2インチで、薄い象牙色の骨のような角張った殻に保護されている。
 ふつう、殻は実が熟すと縦に割れ目が入る。
 生長時に条件が悪いと殻は開かない場合がある。
 子葉の色は、黄色みがかったものから緑色の濃淡があるものまで一様ではない。
 一般に、緑色がより濃いものほど上等品とされる。
 ピスタチオナッツは油脂分に富み、平均的な成分比は55パーセントに及ぶ。
 樹木は5年から8年で実を付け始めるが、15年から20年経過しないと最大の結実には到らない。
 ピスタチオは隔年で多くの実をつけ、中間の年の結実は全くないか、非常に少ない。  

 ケルマン(Kerman)の名の品種を例にすると、

@  平均で20パーセントは子葉が空っぽとなる。
A  ピスタチオは成熟前に自然に殻に割れ目ができるという特徴を有するが、この品種の場合で、口を開く比率は50から75パーセントである。ただし、干ばつに見舞われると比率が低下する場合がある。口が閉じたものは除かれて機械的に割る処理(機械脱穀)とする。
 生産国シェア(2005年)

 イラン 37.9%
 米国  27.9%
 トルコ 12.0%
 シリア 12.0%
 中国   6.8%
 利用

 殻付き・ロースト(焙煎)塩味 → スナックフーズ(消費の大半を占める)
 剥き実・ロースト(焙煎)塩味 → 少数派
 殻付き・生、剥き実・生 → 製菓原料

【追記 2011.3】
 ピスタチオに関して、樹木大図説(上原啓二)に実に興味深いことが記述されていた。一部を紹介すると以下のとおりである。

 フスダシゥ Pistacia vera

 
フシダスフスダスピスタシオノキ阿月渾子(管理者注:中国での呼称(本草拾遺))
 地中海沿岸、小アジア、シリア、パレスチナの産、栽培は紀元一世紀頃からで歴史は古く、日本には乾果がフスダス(管理者注:生産国の発音にやや近いが、名称の確たる由来はわからない。)の名で文政年間に長崎に渡来した。
果実は古来婦人用催淫剤とする。(以下略)

 あっさりと書いているが、紹介した最後の文はただならぬ内容である。これだけ普及しているピスタチオに変な作用があるのでは、日本国の婦女子の貞操保持に著しい障害を引き起こしかねない。
 そこで、pistachio , aphrodisiac の語をキーワードに検索すると、海外情報は豊富で、例えば次のような記述が見られた。

 「シバの女王はピスタチオが強力な催淫剤(媚薬)であるとの確信を持っていて、アッシリアで育つ最良のピスタチオ樹の実は彼女自身及び王宮の客だけに供するように命じていた。」(vegparadise.com)

 ワクワクするような楽しい話であるが、やはりおとぎ話っぽい。カンタリスのようなものとは違うようで、栄養が豊富であることから発展したものなのかもしれない。
 ただ、うちのかあさんと娘が食べ過ぎないように注意しよう。 
 
【追記 2012.1】 
 青森県弘前市のせんべい屋さんが、ピスタチオをふんだんに使ったおいしいせんべいを焼いている。正月に帰省した知り合いに頼んで、やっと口にすることができた。 
ピスタチオたっぷりのせんべい  ピスタチオたっぷりのせんべい 
 
 一見すると、バリ付きの南部せんべい風である。しかし、弘前産であり、歴史的な沿革からも、自らは決して「南部せんべい」の呼称は使っていない。(注:これが同じ青森県の八戸産であれば、当然の如く南部せんべいを名乗ることになる。)
 
 大好きなピスタチオがたっぷり焼き込んであって、小麦せんべいの味とよくマッチしている。感動してピスタチオの数を数えたところ、1枚に何と12〜14個も使っていた。やや大胆、ワイルドな印象はあるが、おすすめの味である。

 包装袋には「名代 手焼津軽路せんべい」とあり、裏側のシールには「弘前城名物 元祖 手焼津軽路せんべい」、「手焼きピスタチオせんべい」とある。6枚入りで630円也。

 店ではこの製品のほかに、アーモンド、豆(落花生)、クルミ(ピーカンナッツ、ペカンナッツ)、ごま入りがある。

小山せんべい店 二代目 小山悟
   弘前市大浦町5-3