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ヤマザキのミニロールケーキの「ロールちゃん」をついつい深夜にパクついてしまって、僅かな食べ残しを袋の口を折って、テーブルに放置して、その翌朝・・・
袋の中に、何やら茶色い細いものが見えた。よく見ると、 ゲゲッ! 小さいながらもムカデである!何ということか! どこから侵入したものかと気持ちが落ち込む一方、なぜムカデがロールケーキに引き寄せられるのかと驚き、嘆き、さらには、ほかにも兄弟分がいるのではと、急に身の回りが心配になってしまった。
しかし、気持ちを落ち着かせ、折角の機会でもあり、少々小粒のムカデであるが、その毒牙を観察したい好奇心が頭をもたげてきた。ムカデに噛まれた体験はないが、話はよく耳にする。どんな口なのか、以前から気にはなっていた。そこで、プラスティック容器に捕捉してアルコールを垂らしおとなしくしてもらう≠アとにした。
種類はアオズムカデのチビの可能性があると思われるが、自信がないためここでは単にムカデの幼虫と呼ぶことにする。体長はまだ僅か33ミリ。頭幅も1.3ミリほどしかない。本当はもう少し大きめの迫力のある個体を採り上げたかったが、仕方がない。 |
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ムカデの幼虫 1 |
ムカデの幼虫 2 |
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頭部は上から見ると平らでツルッとしたのっぺらぼうで、2本の触覚が目立つだけであり、口は全く見えない。小さな単眼は確認できる。毒牙は裏側からでなければ見えない。そこで、でんぐり返すと・・・ |
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ムカデの幼虫 3 |
ムカデの幼虫 4 |
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ムカデの幼虫の頭部(腹側)
赤褐色の鋭く尖った牙がいわゆる毒牙(毒爪 ドクソウ とも)である。
この毒牙は捕食用で、胴部由来の歩脚が特殊化したものとされ、そのため専門用語としては「顎肢(がくし)」と呼んでいる。
写真の毒牙の外側に見える細い脚は最前方の脚で、第1歩肢と呼んでいる。 |
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頭の幅が1ミリちょっとのチビムカデにもかかわらず、基部ががっちり太く、強力なパワーを感じる毒牙を格納している。これを思い切り開いて、夾むようにしてグサリと食らいつくのであろう。あー怖い怖い! |
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ところで、ムカデがロールケーキを好むとは聞いたことがない。確か肉食のはずである。いい参考書に行き着かないが、荒俣宏の「世界大博物図鑑1」には「アリストレスの<動物誌>には、脂っこいにおいがするとそちらへ寄っていくという。」としている。このロールケーキは158円の安い製品で、植物性油脂を使用したホイップクリームを巻き込んでいる。ムカデは植物系の油でも特に好き嫌いはないようである。 |
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<ムカデに関するメモ> |
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動きが恐ろしく速い。一撃を加えて退治しようとしても、そのすばしこさから取り逃す場合がある。
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体が薄いため、特に小さい個体では僅かな隙間を出入りできそうである。屋内では襖(ふすま)と敷居の間の僅かな隙間に逃げ込まれることがある。
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しばしば耳にする被害談では、寝ていて噛まれることがあるそうである。布団の中に隠れているのであろうか。考えただけでもぞっとする。考え過ぎると、身の回りが全て心配になってしまう。
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世界に約3000種以上が知られている。日本産は約130種あり、最大は体長約15cmになるトビズムカデ。口器として2対の小あご、1対の大あごのほかに1対の強大な毒爪(どくそう)と呼ばれる顎肢(がくし)がある。【平凡社世界大百科事典】
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南米北部に生息するオオムカデ属のペルビアンジャイアントオオムカデ(Peruvian giant yellow-leg centipede ) Scolopendra gigantea は体長が30センチ余に達するといわれる。同属にはこれと競う大きさのガラパゴスオオムカデ(Scolopendra galapagoensis)も知られていて、いずれもマニア垂涎のムカデで、ペットとして販売されている。
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顎肢は大きく、濃黒褐色の牙(毒牙)があって、その末端の背側に毒孔が開く。(国内生息種では)トビズムカデとアカズムカデに咬まれる被害が多い。これらはしばしば人家内に侵入し、触れたもので動くものは餌の小昆虫と同様に反応して咬みつく。特に大型のトビズムカデでは毒も強いため痛みが甚大で、ついで発赤、腫脹、え死が起こる。重症のときには潰瘍や発熱、リンパ節炎などが起こる。激しい痛みはセロトニンによる。ムカデ咬傷は疼痛が激烈であるが、致命的となることはほとんどない。田舎では種油に浸けて傷薬とすることもある。【生活害虫の事典より抜粋編集】 |
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<参考:ムカデの話> |
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ムカデのみならず、身の毛もよだつ多数の毒虫に関する蘊蓄を傾けた良き参考書が存在する。
「毒虫の飼育・繁殖マニュアル」(秋山智隆著 2001.9、(株)データハウス)である。その一節を以下に紹介する。 |
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「ムカデはそのあまりにも毒々しい体つきと色彩、性格の荒さや興味深い生態などから一部マニアに人気のある生き物である。国内ではとりわけ巨大なものが好まれる傾向にあり、大型種もしくは大型個体であればあるほど、かなり高価で販売されている。
食性は、おもに昆虫や死肉等。夜行性で日中は主に土の中及び樹木や石の下など、湿ったところに潜み、夜間になるとエサを求めて活動を始める。エサを発見すると極めて俊敏に追う。頭部の巨大な大アゴで噛みつき、そこから毒を注入する。」 |
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上記書には、海外産の巨大なムカデがマウスをむさぼり食っている写真が掲載されている!!また、タランチュラをも食うという巨大ムカデ等が多数写真付きで紹介されている。こんなのが、顔にドサッと落ちてきたら、その毒牙にかかる前にショック死するであろう。 |
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【追記 2010.11】 |
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先に採り上げたサンプルがあまりにもチビ助で迫力に欠ける点に不満があったが、幸いにして比較的大きなサイズのムカデ(多分トビズムカデと思われる。)が手に入った。体長は約8センチで、いかにもムカデらしい色艶を備えているため、以下に記録としてとどめることとしたい。
(勇敢な捕獲者: 垂井 厚世さん) |
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トビズムカデ 1
この艶があって初めてムカデらしく見える。
歩肢は21対ある。最後尾の歩肢はほかの歩肢より長く、歩行に用いられず「曳航肢(えいこうし)」と呼んでいる。トビズムカデの名は頭部が赤褐色(鳶色)であることによる。 |
トビズムカデ 2
毒牙も硬さを増して、いい色艶となっている。
オオムカデ科オオムカデ属
Scolopendra subspinipes nutilans
Scolopendra mutilans
大きいものは15センチに達するという。 |
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トビズムカデの頭部 1(口器)
ムカデは憎らしくなるほどすばしこいが、寒い時期になると突然動きが緩慢になってしまう。
このムカデも簡単に捕獲されてしまった。 |
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トビズムカデの頭部 2(目)
目は頭部の両側にあって、それぞれ4個の単眼で構成されている。しかし、あまり見えないようで、もっぱら触角に頼っているとされる。 |
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トビズムカデの頭部 3(口器)
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ムカデの凶悪そうな口器の構造については興味を感じるが、イラスト又は写真に各部位の名称をキッチリ付した一般的な資料があまり得られないため、残念ながら第1小顎についてははっきりしたイメージがつかめないほか、大顎の存在についてはさっぱりわからない。
写真で見る限り、顎肢は獲物を捕縛して、毒を注入して弱らせ、ムシャムシャ食べる間はしっかり保持する機能を持つことはよくわかる。歯板は顎肢を補完して、獲物がジタバタするのを押さえる効果がありそうである。第2小顎は、ヒトの手食における指のような存在と思われる。
できれば口器の各部位の動きや機能について、専門的な講釈を楽しみたいところであるが、とりあえずは見送りである。
<参考メモ>
日本大百科全書には、トビズムカデの頭部及び口器のおおよそのイラストが掲載されている。
The Biology of Centipedes:J. G. E. Lewis (Cambridge University Press)は、「ムカデの生物学」と題しているだけあって、ムカデに関するとんでもなく詳しい書籍である。これをしっかり読めば、よい勉強になると思われる。
「多足類読本 ムカデとヤスデの生物学」(東海大学出版会)は、残念ながらムカデ口器の形態、機能に関する詳しい説明は見られないが、ムカデとヤスデの採集、飼育、標本作製等については詳しい。 |
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ムカデの頭部周辺の部位の呼称例 |
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触角 |
antenna |
目 |
eye |
顎肢の毒爪 |
poison fang, poison claw |
大顎 |
mandible |
第1小顎 |
first maxilla |
第2小顎 |
second maxilla + palp |
歯板 |
tooth plate, dental plate |
第1歩肢 |
first leg |
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イシムカデの頭部の腹面の様子 |
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The Biology of Centipedes より。第1小顎、第2小顎の表記はある一方で、大顎がこの図で表現されていないのは、分解しないと外からは確認しがたいのであろう。 |
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オオムカデ属の口器 |
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出典文献不明。部位として、顎肢、第1小顎、第2小顎、大顎が表現されている。フムフムであるが、大顎については引き続き位置がよくわからない。複雑な口器をわかりやすく表現するのは難しいようである。 |
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