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樹の散歩道
メグスリノキ その受難の歴史
受難といえばパッション・フルーツを連想するが、このパッション( the Passion :キリストの受難)は、その花の形態に由来する名称とされ、別に果実が受難に遭遇したというわけではない。しかし、メグスリノキの場合は、本当に受難を経験している。穏やかな日々を送っていたメグスリノキを突然襲った災いとは? 【2009.8】 |
メグスリノキ(目薬の木、眼薬の木)はカエデ科カエデ属の落葉高木(Acer nikoense)で、ミツデカエデとともに3出複葉のカエデとして知られている。メグスリノキは葉裏や葉柄の毛が多くふさふさとしていることからミツデカエデとは容易に区別できる。 | |||||||||||||
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この木が世間の注目を浴びたのは、樹皮を煎じて飲めば眼や特に肝臓に何かと効果があるとして報じられ、また出版物で紹介されたことによる。情報の出所が星薬科大学での研究成果であったことから、信頼性の高い情報として受け止められたものと思われる。 | |||||||||||||
1 | メグスリノキが注目され、そして受難に至った経過 | ||||||||||||
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こうした経過の中で、メグスリノキの効用が広く知れ渡るところとなり、関連商品も多数生まれている。しかし、その一方で、国有林でも自生するメグスリノキが次々と被害を受けるなど悪質な行為が続発するという残念な情報を以前に耳にした。また、鉢植えしたメグスリノキが盗難に遭う事件まで発生したという。 |
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2 | 製品の例 | ||||||||||||
以下は近所のドラッグストアで取り扱っていた製品である。いずれもメグスリノキ茶100%、焙煎処理したものとの説明書きがある。医薬品、漢方薬の取扱いではないため、効能・効果の説明は一切なく、あくまで健康茶(食品)として扱っている。煎じた茶の色は赤味があって、味も変なクセはなく飲みやすい。製品はこれ以外にも多数存在するようである。 |
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3 | 素朴な疑問 | ||||||||||||
以下の2点が従前からわからないままとなっていて、少々気になっていた。 |
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これらを確認したく、次に記述情報を整理してみた。 |
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4 | メグスリノキの効用等に関する記述情報 |
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(有効成分の所在部位) ほとんどの辞典、図鑑は、(民間療法として)樹皮を煎じて眼の洗浄に用いたとして、これが名前の由来としている。 比較的新しい図鑑である山と渓谷社の「樹に咲く花」では「樹皮や葉を煎じたものを飲むと、目の疲労回復や肝機能回復に効果があると言われている。」、「名前の由来は樹皮や葉を煎じて洗眼に用いたことによる。」としている。また、「朝日百科 植物の世界」でも、「メグスリノキの名は、樹皮や葉を煎じて洗眼に用いたことからきている。」としている。 これらは、いずれも星薬科大学関係者による近年の情報に基づいて、「葉」を加えた記述となっているものと思われる。 星薬科大学元教授の伊澤一男は次のように述べている。(前掲書) 薬用としてのメグスリノキの歴史は、江戸時代以前にさかのぼります。例えば、福島県相馬地方では、古くからメグスリノキの樹皮を煎じた汁で洗眼する方法があり、今日まで伝わっています。 薬用に使える部分は樹皮と小枝、葉ですが、メグスリノキの主要有効成分のロドデンドロールは樹皮に最も多く含まれています。 葉に関しては、紅葉したものより、青葉のときほうに有効成分は多く含まれています。青葉であれば、2〜3日、天日で乾燥させればよく、紅葉した葉であれば、乾燥させる必要はありません。葉は細かく刻んで用いて下さい。 |
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以下、星薬科大学元教授の伊澤一男の前掲書による。 (その効用等) 薬理作用で未だ解明されていない点がありますが、メグスリノキの煎じ汁を服用して、肝臓病を克服したり、目の病気・症状が改善したりという報告は、数多く寄せられています。 メグスリノキのどの成分がどういうメカニズムで肝臓に有益に作用するのか、未だ詳しくはわかっていませんが、有効成分は葉や樹皮に含まれるロドデンドロールであろうと考えられています。 肝臓の病気については、血清肝炎(B型肝炎)に特に効くようです。黄疸症状も取れて、肝機能が回復します。 メグスリノキは利尿作用が強く、樹皮や小枝、葉などを煎じて飲むと、排尿が進みトイレに行く回数が多くなります。排尿が促進されることで腎臓はもちろん、肝臓の機能もよくなるのではないかと思われます。 なぜ肝機能がよくなることで目の方もよくなるのかについては、中国医学の考え方で説明できます。肝と目が直結していることは、中国では「肝は目を穿つ」といって、古くから経験的に知られていた。中国医学の古典「傷寒論」「素問」「霊枢」などには、「肝気は目に通ず、肝和すれば、目よく五色を弁ず」という記述があります。 目に関しても目薬として、ただれ目(眼瞼縁炎)、はやり眼(流行性角結膜炎)、ものもらい(麦粒腫)、アレルギー性結膜炎などに特によく効きます。 メグスリノキに多く含まれるタンニンには、抗菌作用と収斂作用があり、(これが)目によい働きをすることが考えられます。 (飲用について) ・メグスリノキの用い方は、歴史的にみて、ほとんどが目薬としての外用法で、いつの時代からメグスリノキを煎じて飲用する方法が生まれたのかは正確なことはわからない。 (洗眼方法) 洗眼するには、煎じ汁を満たしたコップを目の下まぶたに直接当て、コップを少し傾けて目が液に浸った状態にして眼をまばたくようにすればよいとされる。 そこで、Q1について。 そもそも有効成分のひとつとされるロドデンドロールが葉に含まれているのか否かについての明確な記述を確認できない。井上隆夫ほかの報告(薬学雑誌98(1)1978)では樹皮と葉の成分検索をしていて、樹皮でロドデンドロールの存在を確認している。 また、民間療法としての葉の使用について普遍性を裏付けるデータを確認できない。 次に、Q2について。 伊沢は一部の飲用に関してはいつからのものかわからないとしている。こうしたことや、先程の葉の利用の歴史の有無等についても、詳細な報告書にとりまとめられているものではないため、広域に渡る足で稼いだ民俗学的事例の収集成果がない限りは一般化した記述は困難であろうと思われる。 |
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<参考メモ> 「チョウジャノキ」の別名について @ 蝶々の木(3枚の小葉を蝶の舞う姿にたとえた)がなまったもの。【植物和名の語源研究(深津正)、木の名前:婦人生活社】 A 若枝や葉に長白毛が多いことや、大型の果実にも粗い毛があることが、長者の風貌を思わせるためという説がある。【朝日百科植物の世界】 学名について カエデ科カエデ属 Acer nikoense この種小名“nikoense”は日光地方の意味。 【参考図書】 @ ビタミン文庫 薬木<メグスリノキ>目がよくなる!肝臓病が治る!:伊澤一男(平成7年2月22日 株式会社マキノ出版) A 薬草カラー図鑑A:伊沢一男(平成2年3月12日 株式会社主婦の友社) B 目に効く・肝臓に効くメグスリノキ(1996.8.25 ブティック社) |
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