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樹の散歩道
 
  マタタビとミヤママタタビ 効能に違いがあるのか
             


 多くの植物図鑑で、「マタタビ」の薬効成分や効能について引用情報を掲載しているが、「ミヤママタタビ」に関してはそのことには全く触れられていない。ということは、ミヤママタタビの果実に関しては特に注目すべき成分がないのであろうか。
【2008.9】  


    

マタタビ
     

マタタビの花時期の白い葉
 

マタタビの両性花


マタタビの若い果実
(熟果は橙黄色となる。)

 マタタビの虫えい果実(木天蓼)
薬効が認められているのはこの果実

マタタビ果実の縦断面
青い果実は非常に辛い。

マタタビ果実の横断面
やはり、キウイと仲間である。


   

ミヤママタタビ
     

  ミヤママタタビ
 花時期のピンク色の葉


 ミヤママタタビの雄花


ミヤママタタビの果実


 ミヤママタタビの果実
 マタタビとミヤママタタビは花時期の葉の色(白とピンク)、葉の形(ミヤママタタビは葉の基部がハート形のものが多い)、果実のかたちが異なっている。

 植物、薬用植物の利用に関しては、草本から木本に至るまで、長きにわたるそれぞれの地域の経験から多くのことが知られていて、成分の正体が分からなくても、その効能の情報については網羅的に近い集積があるように思われる。
 こうした知識の下にマタタビも古くから利用されてきたのであろう。それにもかかわらず、ミヤママタタビに関する情報がないというのは理解し難いことである。注目すべき効用が見られないということであろうか。
 既存の情報として、図鑑等の情報のポイントを抜粋・整理すると、以下のとおりである。(両者の形態的な相違点についてはここでは省略する。)
   
マタタビ
   
 北海道から九州、千島・樺太・朝鮮・中国に分布。
 この植物に接した猫は興奮のあまり半狂乱状ともなり、陶酔状ともなる。これはマタタビ酸という揮発性有機酸の作用によるもので猫の大脳を麻痺させ、次いで脊髄、延髄を麻痺させるからだという。マタタビに対して猫以外の猫族動物皆同じ反応がある。一時に多量を与えると呼吸系麻痺で死ぬことがある。【樹木大図説(上原敬二)】
 マタタビの効果はイエネコだけではなくライオン、トラ、ヒョウのようなネコ科の動物にも見られる。しかし、ネコ科の動物全部がマタタビを好むかどうかは確かめられていない。イリオモテヤマネコの成獣は反応しなかったという。【朝日百科 世界の植物】
 茎、葉、果実ともに辛味があり、果実は食用にもなる。果実にマタタビアブラムシが入ると虫えいができ塊状になる。これを熱湯で処理して乾燥したものを木天蓼もくてんりょう)と呼び、漢方で体を温めるとして仙気の鎮痛薬にする。またこれを浸けた酒が木天酒で体が暖まるといって飲用される。またネコの万病薬としてよく用いられる。ネコだけでなく、他のネコ科の動物もこれを好み、これを食べて一種の酩酊状態になる。成分は果実と葉に27種のイリドイド化合物などが知られている。【原色日本薬用植物図鑑(保育社)】
 虫こぶにならない正常な実は、塩漬けなどにして食用にするが、薬効はない。【薬草カラー図鑑:伊沢一男(主婦の友社)】
 ネコ及びネコ科の動物が好む。果実には辛味があり、塩漬けや果実酒にする。マタタビバエが果実に産卵してできた虫えいは木天寥もくてんりょう)と呼ばれ、体を温める効果があり、漢方薬にされる。【山渓ハンディ図鑑】
 ネコを恍惚状態にさせるのは、マタタビラクトンという混合成分を含むから。【湯浅】
 葉、茎、果実に含まれる精油は、ネコ科動物を特異的に興奮させる物資、イリドミルメシンほか、数種のイリドイド、および塩基性物質、アクチニディンを含む。従来、マタタビラクトンと称されていた成分は、イリドミルメシンとイソイリドミルメシンの混合物である。果実はまた、生食または塩蔵して食用とし、新芽は山菜とする。ネコ科の動物はこの植物をひじょうに好み、これをかじって酔ったようになる。漢方では体を温めたり、鎮痛薬とする。【世界有用植物事典(平凡社)】

 マタタビの名は、アイヌ語のマタタムブから由来した名前で、マタは冬、タムブはカメの甲の意味である。果実を食べて元気を快復し、また旅をするという意味の語源は信用できない。漢名を「木天蓼」というがちがっている。【牧野新日本植物図鑑】
(注)漢字変換では「またたび」を変換すると「木天蓼」とでる。
虫えいの原因の昆虫として、上記ではマタタビアブラムシマタタビバエが掲げられているが、最近の出版の「虫こぶハンドブック」では「マタタビミタマバエ」の名を掲げている。これでは酩酊状態だ!!
   
ミヤママタタビ
   
 北海道、本州中部地方以北に分布。
 猫に対する反応はほとんど見られないという。【樹木大図説(上原敬二)】
 ネコはマタタビを好むが、ミヤママタタビは好まない。【山渓ハンディ図鑑】
 果実は甘味が強く、栽培されることがある。【世界有用植物事典(平凡社)】
 ミヤママタタビについてマタタビと同様の特性があるともないとも明確に言われているわけでもない中で、恐るべき情報格差である。ミヤママタタビは猫には効かないとされることから、科学的な関心が失せてしまっているのだろうか。その一方でいずれの苗木も広く販売されているということは、同様の効用があるとの思いこみがあってのことではないかとも思われる。真相は不明である。

 なお、知り合いからこんな話を聞いた。庭で育てているキウイの茎に近所の猫が体をすり寄せる風景が見られ、樹皮を見ると表面が剥げていたというのだ。確かにキウイはマタタビ科マタタビ属だから、マタタビと共通する猫の好きな成分があるのであろう。ただし、キウイの葉には全く興味を示さなかったとする報告もある

 自生する植物で、しかも全く手を加えない状態のもので陶酔状態になれるとは、何とも猫がうらやましいものである。酩酊状態なら簡単であるが、陶酔状態はふつうは言葉だけの世界である。是非とも同じような体験をしてみたいものである。
   
<参考メモ> 

以下に再整理してみる。
   
マタタビ

 マタタビの葉は猫が好む。(近所の猫で確認)
(注)成熟した猫の場合であって、未成熟の猫では興味を示さないといわれる。
 マタタビの青い果実(正常な若い果実)は非常に辛く、このことととの因果関係は不明であるが、猫はこれに全く興味を示さない。(近所の猫で確認)
 マタタビの青い果実は塩漬け、みそ漬けとして食べられてきた。
 マタタビの熟果は甘味があって、生食できる。
 (注)熟果に対する猫の嗜好は未確認。
 猫用の乾燥した木天蓼(虫こぶ、虫えい果)が、猫が好むものとして一般に販売されていて、原形をとどめたタイプと、粉末にしたタイプが見られる。
 漢方薬としての薬効は木天蓼についてのみ認知されている。一方、正常な果実に関する薬効の有無については一般に論じられていないが、一部でこれには薬効はないとして明示している。
 マタタビ酒は薬効を期待するものであることから、本来は木天蓼を焼酎漬けするものとされるが、正常な青い果実を混ぜた利用も見られる。
 マタタビ酒を作る場合は、木天蓼の生果、乾燥果のいずれも利用されている。
ミヤママタタビ
 ミヤママタタビは猫は好まないとされる。
 ミヤママタビにはマタタビで見られるような虫えい(虫こぶ)はできない模様。(できるとする情報はない。)
 ミヤママタタビで果実酒を作っている例が見られるが、効用の有無は明かでない。
   
なお、ミヤママタタビの苗木販売の説明文で、以下のような事例が見られたが、真相は明らかでない。
   

 ミヤママタタビの効能はマタタビと同じといわれています。
 ミヤママタタビの利用方法はマタタビと同じです。蔓・葉・実にネコ科の動物を惹きつける成分(マタタビラクトン・アクチニジン)が含まれています。子猫より成体、雌より雄がより強く引かれると言われていますが、全く興味を示さない個体もいます。