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樹の散歩道
 
  チョコレートで着色料のお勉強
             


 いつのことであったか、明治のマーブルチョコレートの鮮やかな色が、いつの間にか地味な色に変化したのに気づいていた。天然色素に切り替えられたことがすぐに理解できた。かつては、駄菓子に中には舌が真っ赤になったり、緑色になったりするものが珍しくなかったが、現在は食品一般では意識して天然色素も併用されている。チョコレートは決して嫌いではないので、似た製品を並べて着色料の勉強をしてみた。【2008.9】 




寿命の長い国民的チョコレートで、紙筒容器も昔のイメージのままである。


上段: 明治マーブルチョコレート。1961年(昭和36年)に発売。
中段: フルタわなげチョコレート。1968年(昭和43年)に発売。
下段: M&M'Sミルクチョコレート。1940年に誕生。


 サンプルは、明治マーブルチョコレートフルタわなげチョコレートM&M'Sミルクチョコレートの3品である。

 明治マーブルチョコレート
 
 全7色で、すべて天然色素で色づけしていることを謳っている。
クチナシ 黄色。 アカネ科クチナシの果実から得られる色素で、栗きんとんの着色で有名。
カロチノイド 黄橙色。ベニノキ科ベニノキの種子の被覆物から得られる。
フラボノイド 黄色。キク科ベニバナの花からは黄色と赤の色素が得られるが、これは黄色素。
ビートレッド ピンク色。赤ビート(サトウダイコン、甜菜(てんさい)とも)の根から得られる色素。
スピルリナ青 青色。ユレモ科のスピルリナから得られる色素(クロロフィル)。
イカ墨 黒褐色。コウイカ科モンゴウイカ等の墨袋の内容物から得られる色素。

 フルタわなげチョコレート
 
 基本的には天然色素を使用しているようである。
ビートレッド ピンク色。前出
クチナシ 青色。アカネ科クチナシの果実からは黄色と青色の色素が得られるが、こちらは青色色素が該当。
ベータカロチン 黄色~橙色。カロチンはニンジン等に含まれるが、ベータカロチンは工業的に生産されている。
カラメル 黒~褐色。 砂糖を加熱するなどして得られる。
フラボノイド 黄色。前出。

 M&M'Sミルクチョコレート

 思い切り合成着色料を使用しているから、発色はきれいである。たぶん、着色の下地として酸化チタンによって白色の塗装をしていることによって、さらに色が鮮やかになっているものと思われる。原産国は中国となっている。
酸化チタン
(二酸化チタン)
白色。白色の塗料の顔料として一般的。ホワイトチョコレートの白もこの着色料によるもの。白色以外の鮮やかな色づけをするための下地に使われることも多い。
黄5(黄色5号) タール系色素(アゾ色素とも)。独特の橙色がかった黄色を呈している。
赤40(赤色40号) タール系色素(アゾ色素とも)。米国で主に使われている。
黄4(黄色4号) タール系色素(アゾ色素とも)。基本的な黄色を呈し、輸入食品などの表示で見受けることも多い。
青1 タール系色素(トリフェニルメタン色素とも)。ブリリアントブルー。


 大体のイメージを持つことができたが、食品の化学物質にうるさい米国内のメーカーの製品(生産は中国)が合成着色料で、結構無頓着な日本で、世の母親を意識してか天然色素を使用している構図が奇妙であった。なお、チョコレートの色数より着色料の色数が少ないが、色は混ぜれば別の色になるから心配は無用である。例えば、黄色と青色を混ぜれば緑色となるといった具合である。
 M&Mを例にすると、それぞれの色の色素の内訳は以下のかっこ内のとおりとなる。

 赤色(赤色40号)、橙色(黄色6号)、黄色(黄色5号)、緑色(青色1号、黄色5号)、青色(青色1号)、濃茶(赤色40号、黄色6号、黄色5号、青色1号)
 
 食品用の着色料や化粧品の色素、さらには各種添加物に関してはいろいろ議論があるようである。タール系色素に関しても、歴史的には問題が認識されて次第に縮小されてきた経過があるようである。さらに、同じものがある国では禁止されていて、日本ではふつうに認められているなど、科学的知見に関しても何やら怪しいものを感じてしまう。また、天然色素であれば常に問題がないとも言いきれない実態もあるようである。

 なお、ガックリしたのは、大好きなホワイトチョコレートの色は白ペンキの顔料(金属酸化物である酸化チタン)と同じであることを知ったことである。

 つまり、カカオバターだけで作れば、自ずと白い色のチョコレート即ちホワイトチョコレートになるものと思っていたのに、完全に裏切られたという気持ちになったということである。要は白く着色したからホワイトチョコレートですと言っていることになる。仮に赤や緑の顔料を混ぜ込んで、はい!新発売のレッドチョコレートグリーンチョコレートです! と言っているのと同様の受け止めとなってしまった。消化・吸収しないのだから問題ないだろうでは心情的に悲しくなってくる。これはどう見ても健全な構図ではない。

 今や、口に入る化学物質は多種多様で、長期間の摂取による影響についてはわからないことが非常に多いものと考えられる。そもそも、長期にわたる影響調査のデータ自体がないのであるから。ということは、この時代は世界的な規模での人体実験が淡々と続けられているということになる。やはり、誠実な姿勢で抑制できるものは抑制する努力も必要なのではないだろうか。
【追記 2012.4】 
   
   身の回りは酸化チタンでいっぱいだ!! 
   
   知り合いのやや頭の毛の本数が減少気味のおやじと雑談しているうちに、なぜか頭の話になって、本人曰く、洗髪には化学合成品のかたまりであるシャンプーなど絶対に使う気はなく、変な添加物(香り成分その他)なしの純粋石けんを愛用しているということであった。

 面白い話であったため、ドラッグストアで改めでシャンプーの成分を見ると、確かに何十種類ものカタカナ成分の羅列で、見事な化学合成品である。 次に自然系ではないが、普通に店頭に並んでいた固形石けんの成分を見ると、何と、すべての製品に酸化チタンを使っていたのである。石けんが白いのは自然の色と思い込んでいたのはまったくの認識不足であった。

 〝石けんが白いのはホワイトチョコレートと同様に酸化チタンのおかげである!!〟

 確かに、手づくり石けんをたまに目にすることがあるが、みんなくすんだ色であることを思い出した。

 そこで、ふと考えた。身の回りの白いものはほとんど酸化チタンの色ではないだろうか。少し調べて見えてきた。

 白い車や冷蔵庫、洗濯機等の白物家電は先の認識どおり酸化チタンの白色顔料によるものである。その他、白い合成樹脂(プラスティック)のほか、ゴム、ほうろう、化学繊維、化粧品(ファンデーション、日焼け止め)、紙(各種上質紙の不透明度の向上を図るための添加剤)、焼き物の釉薬(乳濁効果)等々利用分野はきりがない。何しろ白くないものにまで使用されているというから、大変な消費量であろう。酸化チタンは世界で生産されるすべての顔料の過半を占めているともいう。

 改めてビックリである。あ~・・・ 牛乳に入っていないのはせめてもの慰めである。(蛇足ながら、牛乳石けんにも、ごく普通に酸化チタンが使われている。

 ★★★ 何とコーヒーフレッシュにも?★★★

 一見すると、乳製品のように見えるコーヒー用のポーションクリームコーヒーフレッシュとも)は、そのほとんどが乳成分を含まない植物油脂と添加物の混合品であるが、ある大手の製品でも着色用として酸化チタンが使用されているのを確認した。
 常温で腐らないミルクもどきの液体(油)として、店舗等の都合だけで広く利用されているものである。コーヒーフレッシュの名は業界主導で勝手につけたものであるが、何がフレッシュなのかさっぱりわからない、たちの悪い和製英語である。

 業界の誘導により、多くの人が詳しいことを意識することなく、乳製品と思い込んでコーヒーに油を混ぜ込むことが当たり前になってしまったことは、非常に残念なことである。しかし、考えてみれば、クリープ以外のクリーミングパウダー(注:そもそも植物性のものはクリームと呼ぶ資格がない。)は粉末化した植物油脂であるし、バターもどきのマーガリンも植物油脂を界面活性剤で乳化したものであり、業界の謀略に乗せられてきた歴史は長いことになる。
   
【追記 2015.1】 
   
   教材その2 米国産のどぎつい色のポップコーン 
   
   日本人の感性では、少々躊躇する色使いの米国のポップコーンの例である。かの国ではどぎつい原色の食品に対して食欲が湧いてしまうようである。 
   
 
 
サッチャーズ・グルメポップコーン・フルーツメドレー
(THATCHER'S GOURMENT POPCORN FRUIT MEDLEY) 
   
   製品表示では、以下の着色料を使用しているとしている。
 FD&C赤色3号(エリスロシン)、 FD&C黄色5号(タートラジン)、FD&C黄色6号(サンセットイエロー)、FD&C青色1号(ブリリアントブルー)。
(注)FD&Cは、(米国)連邦食品・医薬品・化粧品法の略称で、この法の下に着色料が表示されている。

 なお、このポップコーンの味であるが、合成香料を含めて上手に調合・味付けされていて、身の毛もよだつ色使いながら、意外にも美味しい。 
   
【追記 2020.6】 
   
   日本貿易振興会(ジェトロ JETRO)のビジネス短信(2019.4.26)に以下のような記述が見られた。
  
   「フランス政府は(2019年)4月17日、フランス独自の規制として、2020年1月1日からナノマテリアルである二酸化チタン(TiO2/E171)を含む食品の市場投入を禁止すると発表した。  
   
   日本では酸化チタン(二酸化チタン)の食品への使用を制限するような話は聞かないが、政府が動く前に、業界がこうした状況を気にして、食品への使用をこっそり見合わせる動きが既に生じているかもしれない。