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樹の散歩道 きびだんごの研究
岡山と北海道のきびだんご
北海道のきびだんごはなぜ平たい四角形なのか
岡山の「きびだんご」はお手軽・低価格で、しかも食べやすくてパクパクと食べられるお茶菓子になることから、お土産の主役にはならないが、サブメニューとしては無難な選択肢となっている。このため、県内の多くのメーカーが多様な製品を販売している。一方、何と北海道にも複数のメーカーが販売する桃太郎の絵柄のある「きびだんご」が存在する。これを内地の人間、とりわけ岡山県人が初めて見れば、何で北海道にきびだんごがあるのかといぶかり、しかも平べったい短冊型(四角形)であるにもかかわらず、無神経にも「だんご」と呼んでいることにきっと強い文化的違和感を持つに違いない。これら隔離分布≠キる2グループのきびだんごを改めて見比べてみた。【2011.4】 |
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1 | きびだんごの由来 岡山県のきびだんご(吉備団子)は、元祖きびだんごの廣榮堂によれば「池田藩筆頭家老で大茶人伊木三猿斎の指導 で古くからあった黍団子をお茶席にも向く求肥(ぎゅうひ。)製にしたのが、きびだんごの始まり・・・岡山は「桃太郎伝説」発祥の地。そして「きびだんご」もこの地で連綿と作り継がれてきました。」とある。岡山県が桃太郎ゆかりの地であることは、官民挙げた取組?により、今や不動のもとなっているところである。 対して、北海道のきびだんごは、谷田製菓では「当社のきびだんごは大正12年に作り出したもので、関東大震災の復興を願い、さらに北海道開拓時の助け合う気持ちをこめ、「起備団合」という名前をつけ発売しました。そして、今でいうキャラクターに桃太郎をつかった訳です。」としていて、天狗堂宝船では「この名前は「事が起きる前に備え、団結して助け合う」から「起備団合」として発売されました。北海道開拓にあたった屯田兵の携帯食に由来したことから、北海道開拓時の助け合いの精神と、「きびだんご」が誕生した大正12年に起こった関東大震災復興の願いが込められています。」としていて、さらに、国産製菓では「北海道開拓時代に作られた昔なつかしい菓子で、当時の開拓魂は桃太郎の精神とも合致し・・・」としているなど、失礼ながら言っていることはよくわからない。 |
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(製品例) | ||||||||||||||||||||||||
岡山県の場合 | ||||||||||||||||||||||||
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北海道の場合 | ||||||||||||||||||||||||
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2 | 岡山と北海道のきびだんごの違い 以下に整理してみる。 |
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<サンプル品による比較> | ||||||||||||||||||||||||
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<複数商品の総合比較> | ||||||||||||||||||||||||
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以下に各項目について、気楽に考察してみる。 | ||||||||||||||||||||||||
@ | 名称について 名称については冒頭で引用したよくわからない講釈以上のものはない。なお、北海道のきびだんごに「日本一」の文字が付されているのは、桃太郎のおとぎ話の絵で、のぼりにこの文字がよく書かれているため、特に深く考えることもなく気楽に付しているものと思われる。したがって何が日本一なのかについての自覚はないと思われる。また、谷田製菓のきびだんごの表記は「きびだん」で、この「」はもちろん漢字の「古」の字に由来する変体仮名に濁点が付いたもので、こうしている理由は知らないが、セブン・イレブン(7 ELEVEn)の“n”のようなもので、特別のこだわりを背景にしたものではないと思われる。江戸時代であれば普通の表記であったのであろう。しかし、北海道では谷田の製品だけは「きびだんご」ではなく、「きびだんボ」であると、固く信じている子供が本当にいた。それも得意げに説明してくれたのである。駄菓子の名前に変体仮名などを使うのが子供たちのことを考えた場合に果たしてよいのか、大いに疑問のあるところである。 |
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A | 形態について 岡山県のきびだんごがすべて丸いのは日本人の文化、伝統、感性に基づくもので、安心できる普通の対応である。一方、北海道のきびだんごがすべて短冊形(四角形)であるのは問題がある。実態と名称に何の脈絡もないことは、不合理極まりないことで、形態だけについて言えば、製造上の効率性の観点だけでこの形態を選択しているに過ぎず、この点はメーカー自身が自社ホームページで白状している。結果として、北海道の子供たちは、この世のだんごには丸いものと四角いものの二とおりがあると信じているに違いない。いかにも無節操なことではあるが、そもそも「だんご」という意識がないのであるから、この形がおかしいなどと言われるのは筋違いだとすかさず反論があるであろう。すなわち、だんごであるがだんごではないのである・・・と。 |
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B | 原材料について 主要原料はいずれも餅粉(餅米の粉)がベースである。広く一般的に見られる決して固くならない餅菓子をイメージすれば理解できる。岡山県の製品の小麦粉、上用粉(米粉のこと)はもち粉の単なる増量剤なのか、別の効果があるのかはわからない。北海道の製品の特徴は「あんこ」である。何しろ十勝小豆の本場であるから納得である。 岡山の製品にきび粉を少々使っているものが多いのは、やはり本場を自任するプライドと意地であろう。きび粉を少量使っていることで、これが食味として自覚できるのかはわからない。ちなみに、100%きび粉使用とする製品を食すると、ほんのりとわずかな苦みを確認できる。 一方、北海道の製品では、名前は単に借用しているだけであるから、きび粉の使用などただの一度も考えたことはないと思われる。現に、わらび粉を使っていない「わらび餅」や葛粉を使っていない「くず餅」が普通になっているから、駄菓子を非難しても仕方がない。 |
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C | 添加物等について 餅菓子の柔らかさを長く保つには、普通は業務用の酵素(餅菓子用酵素剤製剤)やトレハロースが使用されていて、乳化剤や砂糖、水飴にもその機能があるという。例えば、低価格てよくお世話になっている山崎製パンの「串だんご」も、ごく普通に酵素とトレハロースを使用している。岡山県のきびだんごでは、さすがに林原のお膝元だけあって、トレハロースを使用している製品が多い。北海道の製品では、製品の形態、包装方法に由来する管理上の理由から、たぶんあまり柔らかいのは具合が悪いと思われ、谷田の製品を見ると酵素もトレハロースも使用していない。結果として、自然にさらに固くなることがある模様で、包装紙には「固くなりましたらあたためてお召上り下さい。」と表記している。 餅菓子用の酵素剤製剤は業務用の多くの製品があって、成分としてβ−アミラーゼのほか、ショ糖脂肪酸エステル(乳化剤)、クエン酸ナトリウム等の成分の名を見る。これら組成によって、商品の原材料表示に「酵素」あるいは「酵素、乳化剤」とした表示がなされている。乳化剤は界面活性剤とほぼ同義とされるが、食品に使用される場合は、決して「界面活性剤」の語を使用していない。 |
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改めて、北海道のきびだんごを見ると、細かいことには全くこだわらない、実におおらか、おおざっぱでたくましい生き様を感じ、全く以て恐れ入谷の鬼子母神であり、日本民族の活力の源泉ともなる生物学的な多様性の一角をしっかり担っていることを強く感じる次第である。そして、北海道産のきびだんごは間違いなくため息が出るほど個性的であり、岡山のきびだんごが不滅であるのと同様に、これからも力強く生存し続けるものと思われる。 | ||||||||||||||||||||||||
☆ | <追加的メモ 〜 若干の確認事項> 白玉粉(餅米の粉)とトレハロースだけで、求肥(ぎゅうひ。求肥飴の略。本当は蒸した白玉粉に白砂糖と晒水飴とを加えて練り固めた柔らかくて弾力のある菓子。大福餅の皮にも。)もどきが出来るのか、また、柔らかさがどの程度維持できるのかを試してみた。 |
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@ | 白玉粉のみの場合 白玉粉に水を加え、電子レンジで熱したものである。 1週間放置したところ、さすがに、かちかちではないがかなり硬くなってきた。 |
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A | 白玉粉とトレハロースの場合 白玉粉にトレハロースのみを適当に混ぜ、水を加えて電子レンジで熱したものである。 |
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☆ | <桃太郎像の例 クジラに乗った桃太郎!> | |||||||||||||||||||||||
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<2011.12 追記> 北海道で奇妙なきびだんごを製造する会社は先に登場した谷田製菓株式会社に加えて、国産製菓株式会社(函館市大縄町)と株式会社天狗堂宝船(北海道亀田郡七飯町中島)の計3社が知られていたところであるが、このうち国産製菓が12月20日に菓子製造部門を天狗堂宝船に譲渡することになったという。【2011.12.2北海道新聞】 |
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<2016.5 追記> すし新聞号外(日本食料新聞社編集・製作)に、「写真で見るトレハの実力」と題して、トレハロースの恐るべき(恐怖の)効用が複数の事例を掲げて特集されていた。要約すると以下のとおりである。(太字、傍線は管理者による。)
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さらに、紙面では寿司店4店の店主等の、トレハはもう手放せない!!とする喜びの声を紹介しているのである。 以上を平たく言うと、寿司ネタ、シャリ、肉、野菜、果物について、古くなっても鮮度がよく見え、時によりきれいに見え、時によりよい食感を生み出すという魔法の粉として重宝されているという実態が明らかとなっている。つまり、全くナチュラルではない、事業者にとって誠に都合のよい状態を人為的に作り出すことができるというこわーく、がっかりする話である。 |
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