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樹の散歩道
   漢字の名前は難しい・・・


 中国名と和名

 古くに中国から漢字がもたらされ、また多くの植物も中国から渡来している。樹木の名前に着目すると、中国と日本の漢字名がかなり異なっていることが知られている。例えば似たものに名称を借用した場合や誤って使用したもの等があって、これ自体が歴史であり、日本語化へのプロセスを示すものともいえる。ここでは有名な例を紹介する。

 ①は国内の図書類における記述内容の備忘録で、定説に近いものと思われる。

 ②は中国の図鑑(中国樹木誌を主体)における記述からの抽出情報等である。


  中国と日本の呼称が別物となった例 
 日本ではアズサはヨグソミネバリ(ミズメ)の別名。中国ではキササゲを指す。出版することを「上梓する」というのは、中国で古く梓(キササゲを指す)を版木に利用したことに由来する中国の言葉から。
 ノウゼンカズラ科キササゲ属のキササゲは、中国では紫葳科 梓樹属 梓樹(梓、黄花楸)と呼ぶ。
 日本ではもちろん「カエデ」であるが、中国ではマンサク科のフウのことで、カエデ類は普通、槭(せき)の字を使う。カエデ科カエデ属は、中国語では槭樹科 槭属と呼ぶ。
 マンサク科フウ属のフウは、中国では 金縷梅科 楓香屬 楓香樹 と呼ぶ。
 日本では「カシワ」であるが、中国ではコノテガシワ又はヒノキ類の常緑樹の総称とされる。
 中国での「柏」はヒノキ科の樹木を指す。ヒノキ科は中国では柏科となる。 
  日本ではカツラ科カツラ属のカツラを指すが、中国では肉桂( ニッケイ)や木犀( モクセイ)を指す。中国南部の景勝地、桂林はカツラの木ではなく、モクセイ(中国名は木犀、桂花)で有名。キンモクセイが中国の桂林地方原産とするのは誤り。
 中国では、「桂」は伝説で月にあるという想像上の木の意味もある。
 木犀の栽培品種として、金桂、銀桂、丹桂、四季桂 等が知られている。 
  クスノキと読んで、名字となっている例がある。中国ではクスノキの意味はなく、同じクスノキ科のタブノキ属等の樹木名にこの文字が見られる。
 したがって,「楠さん,中国ではタブノキさん。」ということか。
我が国ではクスノキに対しとともにの字も当てている。
 クスノキ科 ニッケイ(クスノキ)属 クスノキは、中国では 樟科 樟属 樟樹
 クスノキ科 タブノキ属 タブノキは、 中国では 樟科 潤楠属 紅潤楠、紅楠
 次に掲げる「石楠」は、中国はもとより日本でも「クスノキ」とは無関係である。  
石楠
 中国ではバラ科のオオカナメモチを指すが、日本では誤ってツツジ科のシャクナゲにこの字を充ててしまった。
 バラ科カナメモチ属オオカナメモチは、中国では薔薇科 石楠属 石楠紅葉石楠、扇骨木)と呼ぶ。
辛夷
 日本ではコブシであるが、中国ではモクレンを指すという。
 モクレン科 モクレン属のコブシは、中国では木蘭科 木蘭属 日本辛夷と呼ぶ。
 モクレン科 モクレン属のモクレンは、中国では、木蘭科 木蘭属 紫玉蘭(河南)、辛夷(江蘇)と呼ぶ。
 モクレン科 モクレン属のハクモクレンは、中国では木蘭科 木蘭属 玉蘭(群芳譜)と呼ぶ。
 漢字の櫻はユスラウメの意で、日本固有の意味としてサクラを指している。
 
 中国で、ユスラウメ(中国原産)は 山豆子、山櫻桃、ソメイヨシノは日本櫻花、カンヒザクラは福建山櫻花、タカネザクラは日本櫻 等々、櫻の文字はサクラ類に対してふつうに使用されている。
椿
山茶花
 日本では椿はツバキ、山茶花はサザンカを指す。
 中国では「ツバキ属ヤブツバキ」は「山茶属山茶(紅山茶、山茶花)」、日本特産のサザンカの中国名は茶梅
 中国で杉といえばスギ科コウヨウザン属の「コウヨウザン」を指す。
 スギ科 コウヨウザン属の コウヨウザン Cunninghamia lanceolata は、中国では 杉科 杉木属 杉木 と呼ぶ。
 日本固有のスギ科 スギ属のスギは、中国では杉科 柳杉属 日本柳杉(孔雀松)と呼ぶ。
栴檀
  日本では(日本特有の意味で)センダン科のセンダンを指すが、ビャクダン科の香木の白檀(ビャクダン)の中国名の別名でもある。「栴檀は双葉(ふたば)より芳(かんば)し」 という場合の栴檀は、もちろん白檀を指す。
 センダン科センダン属のセンダンは、中国では楝科 楝属 楝樹(苦楝、楝、紫花樹、火棯樹)と呼ぶ。
 ビャクダン科ビャクダン属のビャクダンは、中国では壇香科 壇香属 壇香(白銀香、黄英香)と呼ぶ。
図鑑では「栴檀」の語は登場しない。
 中国で檜はイブキ(ビャクシン)を指すという。
 日本固有のヒノキ科 ヒノキ属のヒノキ)は、中国では柏科 扁柏木属 日本扁柏と呼ぶ。
 中国の樹種名では、以下のような「桧」の文字が使用されている例があるが、筆頭掲載ではなく別名扱いとなっている。(特定の文献由来の使用例が多い。)
 ネズミサシ属 Juniperus formosa 刺柏、台桧(中国裸子植物誌)
 ビャクシン属 Sabina recurva 垂枝柏、曲桧(中国裸子植物誌)
 ビャクシン属 Sabina squamata 高山柏、大香桧(中国樹木分類学)、隴桧(中国裸子植物誌)
 ビャクシン属 Sabina pingii 垂枝香柏、喬桧(経済植物手册)
楊柳
 中国ではヤナギ科ヤマナラシ属は「楊」(垂れない)、ヤナギ属は「柳」(垂れる)。
 アスペンは山楊、ギンヨウポプラは銀白楊、シダレヤナギは垂柳。
我が国オリジナルの国字・半国字の例
  樫(カシ)の字は日本で作られた国字。万葉集でも見られる古い国字。会意。「木+堅」で、材質が堅い木の意からの日本製の漢字。【学研漢和大辞典】
 クヌギには櫟・椚・橡・櫪 等の字があるが、「椚」は国字。会意。「木+門」。くぬぎは、古くは「くのき」ともいい、門が家のうちそとを区別することから、「区の木」に当てた日本製の漢字。【学研漢和大辞典】
 榊(サカキ)は国字。会意。「木+神」で、神にささげる木の意からの日本製の漢字。【学研漢和大辞典】
 シナの意であるが、国字か異体字か不明。
 椙は日本のスギを表すために日本で作られた国字。
 会意。「木+昌」で、盛んにさかえる、すくすくとのびる(昌)木の意からの日本製の漢字。【学研漢和大辞典】
 椨(タブ)は国字。
 ツガに対して、日本で勝手にこの既存の字を充てたもの。国字。
 マツ科ツガ属は、中国では 松科 鉄杉属。種名の「鉄杉」はツガ属の Tsuga chinensis を意味する。
椿    中国で椿はセンダン科のチャンチンを指す。ツバキとしての意味は日本固有。中国でツバキは「山茶」の字を充てている。ツバキ科ツバキ属は、中国では山茶科 山茶属と呼ぶ。
 栃の字は日本でつくられた純正の国字。「橡」とも書く。
 ヒイラギに対して、日本で勝手にこの既存の字を充てたもので、国字というわけではない。現代中国でもこれを取り入れていて、ヒイラギを「柊樹」としている。
 「柊葉」とは、中国南部産のしょうがの一種。葉が大きく、食物を包んでおくと長もちする。ちまきを包むのに用いる。