正体は、「寒天質」、「庭先」の2単語検索により、たちどころに知ることができた。念珠藻科(ネンジュモ科)念珠藻属(ネンジュモ属)の陸生藍藻類のイシクラゲ(石クラゲ)らしいことがわかった。
こんなものが古くから食用にされていたということを初めて知った。
かなり古い図鑑であるが、以下のように記述されている。
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石クラゲ(イシクラゲ)Nostoc commune:
体は寒天質にして固く幼時は球状、老成するに従い扁平となり終に波皺ある褶曲を有し肥大せる膜質となり、しばしば破れ、孔のある敷布状を呈し表面皮革状となる。青緑色又は橄欖色、褐色を呈す。糸状体は湾曲し互に相錯綜す。粘鞘は体の表面近き所は褐色を帯、内部のものはやや明瞭となり無色となる。糸状体は直径4.5〜6μm、長さ7μm、やや球状、しばしば3〜5箇に達する。湿地上、渓流、潴水、草地上。本邦各地−世界各地に産す。
【日本隠花植物図鑑:S14三省堂】 |
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1 雨後のイシクラゲ状態
地面を汚すこの原核生物は雨水を得ると待ってましたとばかりにブヨブヨと醜悪に膨潤する。
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2 半乾燥状態のイシクラゲ
水の供給が絶たれると再び黒色の生ごみ状物質と化す。ドブさらいをした際の汚物のようで、世の嫌われ者である。
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3 錯綜したイシクラゲの糸状体
ブヨブヨ君を顕微鏡で見ると、その構造が見える。ネンジュモの名前のとおり、数珠のように細胞が連なり、これが多数錯綜している。寒天質のブヨブヨの正体は細胞が分泌・形成した細胞外マトリックスであった。これが糸状体を保護していたのである。外見からは全く想像できない構造である。 |
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4 イシクラゲの糸状体の拡大写真
美しい数珠のようである。しかし、顕微鏡で見ているときに、紛れ込んでいた線虫(多分土壌線虫であろう。)がピコピコと元気に踊っている姿を見てしまった。まるで恐ろしいアニサキス、忌まわしき回虫、ギョウ虫と同類に見えてくる。ひょっとして線虫がこのブヨブヨ君の中に住んでいたのだろうか。そうであれが、餌となる糸状菌等がたっぷり存在するのであろうか。
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5 洗浄後の状態
ブヨブヨ君を洗ってゴミを取り、水を張った白い皿に投入したところ、海藻のアオサにも似た美しい姿に変身した。これを湯通ししてポン酢で食べることも可能なようである。しかし、先に顕微鏡で観察中に線虫を見てしまったため、試食をする気は失せてしまった。
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6 洗浄品の乾燥後
地面では汚いが、きれいに洗ったものを乾燥すれば、まるで板海苔のようである。 藍藻類のお仲間として
スイゼンジノリAphanothece sacrum があって、現在でも福岡県で食用として養殖されているという。こうして乾燥状態で出荷・販売されているそうである。
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自ら形成した寒天状物質の中で生息し、乾燥に対しては多分、保護機能のある乾燥寒天物質の中でじっと耐え、雨が降れば速やかに吸水・膨潤して生命活動を開始するようである。はたして、どの程度の乾燥期間に耐えうるのか、また、この耐乾燥性の秘密はどのように説明できるのか等々、大いに関心があるところで、その他知りたいことが色々ある。
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7 乾燥状態の採取品
露地で乾燥状態にあったものの採取品である。7の板海苔に比べると汚い。さらに乾燥の試練を与えるためベランダで数日間放置した。
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8 再び水を与えると・・・
十分乾燥した状態で再び水を与えると、カリカリ君は嬉々として一晩で元のブヨブヨ君の姿に変身した。しっかり光合成を再開しているのであろう。まるで高分子吸収剤のようである。しっかり研究すれば利用・応用の道がありそうである。
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<参考メモ1> |
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藍藻類について |
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藍藻類は細菌類と同じ原核生物で、細胞に核はなく、DNA分子がほとんど裸のまま細胞の中心部分に存在している生物である。 |
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約30億年前の先カンブリア時代に出現し、二酸化炭素を固定し、酸素を発生する最初の光合成生物であり、現在の大気を作った生物といわれている。(葉緑素を持たないが光合成色素を有して酸素発生型光合成を行う。) |
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食用とされる藍藻類としては、イシクラゲ Nostoc commune のほかに、自然食品として大量に消費されているスピルリナ・プラテンシス Spirulina platennsis 、中華料理で珍重されるハッサイ(髪菜)Nostoc commune var.flagelliformis 、スイゼンジノリ Aphanothece sacrum 、アシツキ(ノストック・ウェルコスム)Nostoc verrucosum 等がある。
【朝日百科植物の世界等】 |
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<参考メモ2> |
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イシクラゲの活用例 |
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健康食品にイシクラゲを配合したものが販売されている。 |
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イシクラゲの土壌改良効果に関する研究事例がみられる。 |
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【追記】2012
このイシクラゲが大阪朝日放送の「探偵ナイトスクープ」(2012.5.18 放送分)で採り上げられていた。単なる試食ではなく、料理人林 裕仁氏がイシクラゲづくしの5品に仕上げ、依頼人一家が大喜びといった展開であった。 |
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