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樹の散歩道
   頭にイヌを付けて命名した無礼者は誰だ!
               (誇り高き木々,そして犬)


 植物の名前には現物は知らなくても強烈な印象を与えるものがあって,名前だけを知っているというケースもあると思われる。例えば「ママコノシリヌグイ」(タデ科の一年草)はその厳しさと,命名のセンスの良さにに感動してしまうほどで,継母にいじめられている継子が目に浮かび,涙がでてくる。

 また,センスよりも駄洒落で受けようとする名前も親しみが持てる。「ウバザクラ」も「ウバユリ」も,花期に葉(歯)がないのを姥(うば)にたとえたものであることが知られている。

 さらに,共通する属性を表現するために,いろいろな動物の名前を冠したものも数多く,登場する動物を例示すれば,犬,猫,猿,熊,鼬(イタチ),狸(タヌキ),狐(きつね),鼠(ネズミ),馬,牛,烏(カラス),雀(スズメ),鶯(ウグイス)などがあり,なかなかにぎやで楽しいものである。
 ここでは,とりあえず,オーソドックスな「イヌ」の付く樹木名を採り上げてみる。

 植物名の「イヌ」は,「役に立つ植物の何かに形態上は似ているが,多くは人間生活に直接有用ではないものであることを表す。にせ。【新明解国語辞典】」,とか「ある語に冠して,似て非なるもの,劣るものの意を表す語【広辞苑】」と説明されており,あくまで人間様の価値観,都合によるものであることが明らかである。また,お犬様のイヌとは無関係とされているが,例えばイヌツゲは図鑑で黄楊と堂々と書いており,誇り高い大型犬からこれを突きつけられたら,ただもう,おろおろするばかりであろう。

イヌエンジュ エンジュはマメ科クララ属。イヌエンジュはマメ科イヌエンジュ属。
イヌエンジュは在来種で,中国伝来のものがエンジュという構図。イヌエンジュは材としての評価がエンジュに優るともいわれ,床柱としても賞用されるところであり,「エンジュに似ているが,エンジュに較べ品がないため」とする説があるが解せない。趣旨不明
元々,エンジュと呼ばれていたのはイヌエンジュの方であったともいわれ、そうであれば、外来種に名前を乗っ取られたことになる。
イヌガシ カシ類はブナ科コナラ属。イヌガシはクスノキ科シロダモ属。
葉はむしろヤブニッケイに似る。材質が劣るのでこの名が付いたとされるが・・・なぜ「カシ」の語が使われているのかは説得力がない。
イヌガヤ カヤはイチイ科カヤ属。イヌガヤはイチイ科イヌガヤ属。
カヤに似ているが,それほど有用でないことによる。また,カヤに似ているが,種子がまずいのでイヌと言われるとの説もある。
イヌコリヤナギ コリヤナギも本種もヤナギ科ヤナギ属。
コリヤナギに似ているが役に立たないという意味とされる。
イヌザクラ バラ科サクラ属ウワミズザクラ亜属。
イヌザクラはサクラに類するが花が見劣りすることによる。
イヌザンショウ サンショウも本種もミカン科サンショウ属。
葉はサンショウによく似ているが,匂いが芳香ではないことによる。
イヌシデ 本種を含むシデ類はすべてカバノキ科クマシデ属。
「シデ」は花穂の垂れるようすが玉串や注連縄に垂れ下げる紙(四手,紙垂)に似ると言うのが定説であるが,頭のイヌはなぜイヌなのかは不明
イヌツゲ ツゲはツゲ科ツゲ属。イヌツゲはモチノキ科モチノキ属。
ツゲに似ているが,材が下等でツゲのようには役に立たないことによる。
イヌビワ ビワはバラ科ビワ属。イヌビワはクワ科イチジク属。
果実がビワに似ているが,小さく食用にするほどのものではないことによる。
昔はイヌビワのことをイチジクと呼んだという。
【注】印象としてはビワというよりミニイチジクであり,「ヤマイチジク」の名前とした方がふさわしいような気がする。
イヌブナ ブナも本種もブナ科ブナ属。
葉はブナに似て,材もブナに似ているが,材質が劣ることによる。
イヌマキ コウヤマキはコウヤマキ科コウヤマキ属。イヌマキはマキ科マキ属。
この名前の由来には定説なし。本来,マキは「真木」で,コウヤマキ,イヌマキだけでなく,スギ,ヒノキなどの優れた樹木を指す美称として使われたという。コウヤマキをホンマキといい,正に「真木」であって,これに対して劣ると言う意味でイヌが付いたとの説もある。