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樹の散歩道
   北向けー北!  (方向指標植物)


 方向指標植物とは

 単に指標植物といえば,環境の変化に敏感な植物として,ウメノキゴケが有名である。広く分布する地衣植物で,大気汚染の動向を知る指標となるため,よく調査対象とされている。(大気)環境指標植物ともいわれる。
 これとは別に,「方向指標植物」と呼ばれるものがある。「コンパスプラント」(注:「2」を参照)とも呼ばれている。

 例えば,モクレンの早春のつぼみを見ると,尖った先が一方向になびいているように見えることに気づいている人も多いと思われる。これは,つぼみが大きくなる過程で,よく光が当たる南側が特に生長してふくらむことから,結果として先端が北を向くというもので,このため北の方向を示す目印になっている。

 同様に,同じモクレン科のコブシシデコブシタムシバも早春のつぼみはほとんどが「北向けー北!」といった風景となる。また,ヤナギ科のネコヤナギも早春に急激に開花するため,花穂は光をたっぷりと受ける側が急にふくらむことから,先端が北を向くことが知られている。
 モクレンは植栽種であるが,自然の山に見られるコブシやタムシバは,早春の山の中では,ハイカーにとっては磁石の代わりになる木として知られている。
【注】通常,モクレンというと紫のシモクレンを指し,白色のものはハクモクレンと呼んでいるが,ここでは十把一絡げにモクレンと記した。

 コンパスプラントの語義 

 コンパスプラント(Compass plant)の名称を「方向指標植物」の英語としても扱っているが、海外の同類の情報を求めて英語名でネット検索すると,北米産のキク科の植物の普通名としてヒットするのみという展開になる。ということは,Compass plant の語義は少々違うようである。

 北米産の Compass plant は 学名は Silphium laciniatum (シルフィウム(属)ラキニアトゥム),キク科の夏咲きの多年草で,北米中西部に分布し,茎が分岐して多くの黄色の花を付けるとされている。 
 名前の由来は,植物体下部の深い切れ込みのある大きな葉の縁を常に南北に向けることによるとされ,どこに栽培してもこの反応は変わらないという。このようにして,日中の過度の高温を避ける一方で,朝晩の光を十分利用しているということである。
 かつて,アメリカ中央の平原を横断する旅行者は,この植物を方向を知るための助けとして利用したといわれている。

 岩波生物学辞典には「コンパス植物」(英語名はやはり compass plant)の項があって、説明は以下のとおりである。
 「自然の光条件下で,葉が南北の方向に出る植物。暖地では葉が強い日光で熱せられず光合成に対する水利用効率が高まること、高緯度の地では東西方向からの強い光をよく受けることなどの適応をもつとも言われる。」

 というわけで,これらの違いを広義・狭義と理解すればよいのか,そもそも世界共通の概念がないということなのか分からないが,いずれにしてもその概念には実態上幅があるようである。