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樹の散歩道
   ハイビャクシン(ソナレ)の素顔
     本物のハイビャクシンは何処に



 ハイビャクシンの名の低木は各地の樹木園等の樹名板でしばしば目にすることがあるが、実に地味な存在であるから、ミヤマビャクシンよりもさらに地を這う性質があるのかなという程度に受け止めていた。たまたま撮り貯めしたした写真を確認していると、ハイビャクシンとされるものに全く葉型が異なる写真があることに気がついた。そこで、図鑑で確認すると、ハイビャクシンは「葉はほとんどが針状葉である。」としている。となると、カイヅカイブキ風の鱗状葉を持った写真は一体何なのか。「ハイビャクシン」という樹名板を付けられた、ただの「匍匐性のビャクシン(イブキ)」、「這っているだけのビャクシン(イブキ)」なのか。【2011.7】  


   地を這う樹木は樹木園では目立たない存在であり、都市緑化でも高木の下のグランドカバーとして専ら利用されているために、それほど意識して見られることもない。しかも、都市部ではヒノキ科ビャクシン属の複数の園芸種も多用されている模様で、特に種名が明示されていなければ、ややあきらめ気味に一瞥するだけとなってしまう。 
   
 A  ハイビャクシンの樹名板を付して植栽されていた例 その1 (ある樹木園植栽樹) 
 
   
   葉はほとんどすべてが鱗状葉で、複数ある株のひとつで、一部の枝先にごくわずかな針状葉を確認できただけであったから、これがハイビャクシンとは思えない。ミヤマビャクシンであれば一部にいわゆる「先祖返り」の針状葉が出ることがあるとされるが、本種はまさにそれに該当するものと思われる。 
   
 B  ハイビャクシンの樹名板を付して植栽されていた例 その2 (ある樹木園の植栽樹)  
 
   
   葉はすべて針状葉で、ほぼ3輪生といった印象である。 葉先は硬く鋭く尖っていて、手で触れば非常に痛い。 どう見てもこちらが真正のハイビャクシンなのであろう。

 ハイビャクシンを画像検索すると多数の写真と出会える。しかし、葉のアップ写真は少ないため、個々に判別は出来ないが、怪しいものも随分あるようである。

 ヒノキ科のビャクシン属は外来のものや園芸種がげっぷが出るほど存在し、とても識別などできないが、せめて日本に自生してよく利用されるものや、グランドカバーとしてよく利用されるものくらいは承知したいのである。しかし、それも難しそうで、気持ちが萎えてしまう。

 まあ、別に悩む話ではないから、今回はこの程度にしておくこととしたい。ハイビャクシン、ミヤマビャクシンのいずれもヒノキ科ビャクシン属のビャクシン(イブキ)の変種として整理されている。要はミヤマビャクシンはビャクシンの匍匐生のものであり、ハイビャクシンはビャクシンの先祖返り現象でしばしば生じる針状葉が百パーセントのタイプといえなくもない。
   
  <参考1:ハイビャクシンとミヤマビャクシンのあらまし> 
 
@  ハイビャクシン  這柏槙 ヒノキ科ビャクシン属の常緑低木
 別名:ソナレイワダレネズハイビャクシ
 Juniperus chinensis var. procumbens Endlicher
 Juniperus procumbens Siebold
 Sabina pacifica Nakai
 庭園に植える地を這う常緑低木。幹は地をはい、広く地をおおう。葉はほとんど針状、まれに鱗片状。針状葉は長さ6−8mm、刺状に尖る。上面に2列の気孔線がある。分布は九州(対馬)といわれる。【保育社原色日本植物図鑑】  
 壱岐や対馬などの海岸に生える常緑樹。葉は普通三輪生、老木ではまれに鱗片葉になる。雌雄異株、まれに同株。【新版北海道樹木図鑑】
 灌木、匍匐性、通常雌雄異株、高0.6m、主幹を認めず枝は横走し枝端上向す。樹冠は帯白青緑色に見える。葉は大多数針葉であるが老成すると鱗葉を生じ枝は平行に斜上する。針葉は3片輪生、上面に2条の白色気孔線あり帯白青緑色、下面は帯青緑色、長0.5〜0.8mm。1862年アメリカに入る。同地では Sonare ソナレ と呼ばれ庭樹に重用されている。【樹木大図説】
 壱岐市勝本町の「勝本のハイビャクシン群落」は長崎県指定の天然記念物となっている。
 壱岐市勝本町辰の島の「辰の島海浜植物群落」は、特にハイビャクシンの群落として類例の少ないものとして、国指定の天然記念物となっている。なお、辰の島は国定公園の特別保護地区に指定されている。
 自生地では「イワダレ」とする表示があるようである。
 「ソナレ」磯馴れの意味で磯にはえて海風に従って丈低く育っていることを指す。【牧野新日本植物図鑑】
 「磯馴れ」の原型は「石馴れ」と思われ、とするとソナレとは必ずしも浜辺に限定されず、岩石の多い地に草や木が風になびいて傾いて生えている姿を表現していることになる。【中村浩: 植物名の由来】
A  ミヤマビャクシン  深山柏槙 ヒノキ科ビャクシン属の常緑低木。
 Juniperus chinensis var. sargentii Henry
 Sabina Sargentii Miyabe et Tatewaki
 灌木、高0.6m、枝張径3〜4m、幹枝は少しく匍匐し屈曲するがハイビャクシンのごとく平伏しない。枝は斜め上、上向して開張す。葉は両型あり、幼木は針葉、老木又は果枝上では鱗葉。【樹木大図説】
 北海道から九州ほか、高山や海岸の岸壁や礫地生える常緑低木。幹は地に伏して屈曲し、斜上するする多くの枝を分つが高さは50センチに達しない。葉に2型がある。若木や長く伸びる枝には針状葉がつき、針状葉は3輪生し、次の輪と互生し、6列、茎から離生する部分は長さ4−5mm、先は刺状に尖る。小枝には鱗片葉がつく。鱗片葉は十字対生し茎につき、菱形、鈍頭、無毛、外面中央に凹みがある。【保育社原色日本植物図鑑】
 若いうちは針葉をつけ、成木になると鱗片葉をつける。針葉は長さ4〜5ミリ。【樹に咲く花】 
 北海道では低地に生じ、千島の一部にも生ず。【樹木大図説】 
   
  <参考2:ビャクシン属の兄弟たちの例> 
 
    以下に掲げるものは、自生地で同定したものではなく、樹名板を付して植栽されていたものあるいは販売されていたものである。したがって、残念ながら識別点を説明する能力は持ち合わせていない。
 
       ハイネズ
     Juniperus conferta
        匍匐性 
     オキナワハイネズ
  Juniperus taxifolia var. lutchensis
      匍匐性
 ハイネズ・ブルーパシフィック
 Juniperus conferta ‘Blue Pacific’
 匍匐性品種
セイヨウネズ(低木)
Juniperus communis
セイヨウネズ・ゴールドコーン(低木) Juniperus communis ‘Gold Cone’