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樹の散歩道
  ふくろうも木から落ちる  
    森の知恵者に何があったのか


 本物のふくろうフクロウ)としては、釧路市動物園で巨大なシマフクロウを見たことはあるが、野生のふくろうを見る機会は多くない。木々の間にかろうじてふくろうの姿を見たことはあるが、クッキリというわけにはいかなかった。普段は滅多に見られないこのふくろうが、身近なあるところで、あろうことか樹から落下した状態で発見されたのである。これは一体どうしたのであろうか。【2010.6】


 大好きなことわざに「弘法も木から落ちる」がある。猿ではなく、弘法様であるところに値打ちがある。昔、ある英語の教師がさりげなく発したジョークで、冗談の少ない教師としては上出来で、大いに受けたものである。
 猿が木から落ちた様を想像してもおもしろくも何ともないし、「猿も筆の誤り」もあり得ないが、弘法様が木から落ちた様を想像すると思わず吹き出してしまう。

 さて、ふくろうの話である。このふくろうは随分体も大きいし、もちろんふくろうであるから頭、顔もしっかり大きい。そのふくろうがなぜ・・・ 実は体は大きいもの、巣立ち前のふくろうの赤ちゃんで、もちろんまだ飛翔能力もない状態で、何らかの原因で巣から落下してしまったもののようであった。

 かわいい動物をみるとヒトは限りなく愛しく感じてしまって、しかも、かわいそうな状態におかれていれば我が子のことより心配してしまう。しかし、どう扱ってよいのかわからないから、通報により駆けつけた動物の専門家の判断に委ねることになった。

 あたりを見ても巣の存在は確認できないなかで、負傷しているものでもなく、保護のための受け入れは、野生に戻すことを考慮すると適当でないとのことで、専門家の手で付近の枝の留まらせることになった。親がこの存在を承知していれば、巣の外であっても給餌するとの説明であった。そっとして置くのがよかろうということであった。


 夜目が利くだけあって、目玉が大きい。目が青いとは知らなかった。赤ちゃんのくせに口の周りにひげのような毛を蓄えている。勝手な感想を言えば、ひげはない方がさらにかわいい。
 その赤ちゃんふくろうを樹の枝に留まらせた直後のことである。それほど遠くないところから、「ホー、ホー」の鳴き声が聞こえたのである。そこに居合わせた一同、きっとお母さんに違いないと確信するとともに、安堵し、そっとその場を離れることとした。

 ふくろうは、頭でっかちでメガネをかけたような表情がかわいらしいため、ファンが多い。我が家にもかつては釧路市の「やまね工房」生まれの「えぞふくろう」が、仲間の「やまね」や「えぞももんが」とともに住んでいた。一方、かわいいだけでなく、知恵者の象徴ともされ、角帽を頭に載せたふくろうのキャラクターはしばしば見かける定番デザインである。

 実は、先ほどの赤ちゃんふくろうであるが、チャンスとばかりに、初めてその頭をなでなでしてしまった。ふかふかして、何ともかわいいものである。貴重な経験で、ますますふくろうに愛着がわいてしまった。
<街中のふくろうの仲間たち>

 身近なところで、ふくろうは格調高いモニュメントとして、かわいいキャラクター小物として、あるいは企業のシンボルマークとしても多用され、誰からも愛される存在として日常生活にすっかり定着している。
   北海道東川町生まれの
   ミズナラふくろう
 
   
     日比谷ダイビルの
     ブロンズふくろう

    
  南富良野町生まれの
  イヌエンジュのミミズク
     菊炭のふくろう       陶製のふくろう          Steiff のふくろう
<参考1:ふくろうのメモ>
@  フクロウ科の鳥のうち、一般に羽角(うかく。耳のように見える羽)のない種をフクロウ、羽角のある種をミミズクと呼ぶが、この区別は分類学的な根拠のあるものではなく、またアオバズクのように羽角がないのにズクの名をもつものや,反対に羽角があるのにフクロウの名があるシマフクロウのような例もある。【平凡社世界大百科】
A 一般の鳥は足指4本のうち、3本が前に、1本が後ろについているのに、フクロウは前に2本、後ろに2本で、前後に2本ずつ分かれている点、キツツキの足指に似ている。【フクロウ 私の探梟記:福本和夫】
注:この点は今回の写真でも確認できた。
<参考2:フクロウの文化> 「フクロウの文化誌」(飯野徹雄 1991.4.25 中央公論社)より
@  フクロウは古代ギリシャの時代には、アテナイ市の守護神アテネの従者と見なされ、守護神にあやかって知性と学芸とを象徴する鳥であった。
A  古代ローマ時代にはフクロウは不吉な鳥と見なされていた。
B  恐らく、フクロウを猛鳥とか凶鳥と見なす中国の風習が日本にもたらされてのは奈良時代の遣唐使の往還を介してだったのではないだろうか。
C  (フクロウについて)知性や学芸の象徴としてのイメージが現れるのは、比較的近年になってからである。
D  学芸の象徴としてのフクロウが日本で定着したのは、明治維新の後の、いわゆる文明開化の時代だったと推定できそうである。
<参考3:梟(フクロウ)の文字を含む熟語の例> 広辞苑第4版より
 中国文化が反映して、「梟」の文字を含む熟語等にはろくなものがない。
梟悪 きょうあく。非常に性質が悪く、人の道にそむくこと。また、その人。
梟罪 きょうざい。さらしくびの刑。また、その刑に処すること。
梟首 きょうしゅ。斬罪に処せられた人の首を木にかけてさらすこと。さらし首。竿首(カンシユ)。獄門。
梟将 きょうしょう。勇猛な武将。猛将。
梟す きょうす。首を獄門にかける。さらし首にする。
梟敵 きょうてき。わるづよい敵。
梟木 きょうぼく。さらし首をのせる木。獄門台。
梟猛 きょうもう。たけだけしく荒いこと。
梟雄 きょうゆう。残忍でたけだけしい人。
梟帥 たける。勇猛な異種族のかしら。
鴟梟 しきょう。@フクロウの漢名、A暴悪な奸雄の称。